26 ニャンコと思索と
私は解った事を整理した。
ーー石碑は転生者の遺物。
読めない石碑もあったが。
知らない文字の方が多い訳だから、知らない国からの転生者かもしれない。読めないその文字は気にはなるけど。
だが、地球産伝来の言語があっても、元の言語を知らなければ意味が分からない事に気づいて凹んだ。
(リアンの記憶にも無いし、行き詰まったなぁ。でもレンブラントのおかげで言語共通に気が付けたのは助かった)
紙とペンを取り出し、分かった事を書き出した。
石碑と文明を遺した転生者。
それは1000年前からある。
境界は魂しか通過出来ない。
地球から異世界………。
宙を見つめ思案に暮れてペンをフリフリ手持ち無沙汰に弄り、ペン先をトントンと突くように紙に付く。
音だけが部屋の中に響く。
異世界から…………異世界………?
ああ!?
もしかして、読めない石碑は異世界転生者?
文化や文明の一旦を握る転生者。
地球人ばかりでは無く、他にも異世界があってもおかしくは無い。もしかしたら魔術は異世界転生者からもたらされたのかもしれない。
私は思索を辞め、パタっとペンを置いた。
(……で?……帰れないって事しか答えが出ないか……)
深い溜め息と共に机に突っ伏した。
異世界で異分子な自分の身の置き場は未だ不安定なままだ。
現時点で、元の世界に帰れない事も理解はしている。
騎士団に世話になったままで、仕事をしているとはいえ、好意で置かせて貰っているだけだ。
せめて何か自分で掴める物でもなければ足元がおぼつかない感覚に苛まれる事は無くなるのか。
今の自分に出来る事。
読み書き計算、後は、魔術………か。
机に突っ伏し沈む気分のまま目を瞑った。
*
日々は巡る。
何があっても。
今日は魔術師団でシャルトと魔術練習。
だいぶコントロールと威力が出てきたから王都から離れた外の練習場を借りている。
見渡す限りの荒れた平原に所々に林があり風が吹くと土煙りが立ち昇る。
背後に防御結界をサポートするシャルトが立っているが落ち着かず私はチラチラと背後に視線を向けた。
施設使うと視線が気になるから、離れた場所なら安心。と、思ったのに………。
周りからの視線に振り向けば………。
レンブラントと愉快な臣下たち。
(いや、愉快じゃないけどねーー)
騎士団見学以降、暇なレンブラントが無断で騎士団に押しかけてきた。
辟易したブランブルは、レンブラントと私をひとまとめにして、シャルトに押し付け、今に至る。
「賑やかで困りますねぇ。リラ、ちゃんと集中出来ますか?」
「………頑張ります」
練習を始めた頃、集中を切らし暴発させた事がある。威力が上がった今、また暴発させたら被害は桁違いになる。ましてやレンブラントも居る以上失敗は出来ない。
緊張と不安で固まる私に、シャルトは私の不安を拭う様に優しく見つめた。
「結界は任せてください。安心して練習してくださいね」
「はい」
私は目を瞑り集中する。
脳裏に浮かぶリボンから赤く光るリボンを手に捉えるようにする。
目を開き両手を上に挙げ掌に集中すると熱くなってくる。
「ー火炎弾ー」
無数の炎の弾を宙に浮かべ、勢い良く手を振り下げる。
空を切り炎の線を書いて前方へ着弾すると爆炎をあげ燃え広がり、爆風と爆煙をシャルトが遮る。
「上達しましたね、リラ。制御も威力も申し分ないです」
「シャルトのおかげです。ありがとう」
「後は素早く発動出来るといいですね」
「頑張って精進します」
まだ、集中して発動までの時間がかかる。
イメージまで思考を持って行くのが難しいので、咄嗟に術を使うことは出来ない。
「咄嗟の際にはリボンを使用した方がいいのでは?リラの魔力量は申し分ありませんが」
護身術は速さが一番ですよ?とシャルトに勧められ、次回はリボン自作の授業が決まった。
**********
練習が終わり、レンブラントとシャルトと騎士団に戻り、休憩室で一息つく事になった。
休憩室には、セレンとシーニアが先に休憩していた。
「王子様、王宮に戻られたら如何かな?」
お茶を飲みながら呆れ顔のブランブルが視線を運ぶが、レンブラントは知らぬ顔だ。
セレンはブランブルとレンブラント交互に見た後私に向いて、困ったわねー。と笑っている。
「リラは魔術師になるのか?」
レンブラントはブランブルの難色を無視して私に話しかける。
「え、……魔術師にはならない、かな」
「それだけ素質あるのに?」
「自衛に習っただけだから」
「それ、自衛以上の威力だよ……」
どんな強力な敵だよ。とレンブラントに呆れ顔で言われたが、私には自衛以外の理由が無い。
「魔術を習ったのは自衛の為だけ?」
レンブラントの声色がいつもより低くなり、顔付きも厳しく感じた。
私はその変貌に戸惑い口籠ると、レンブラントは言いづらそうに口にした。
「帰る為に、ではなくて?」
「!!」
「リラの帰りたい所はどこ?」
ーー私はその言葉に答えられなかった。
答えられ無くて、言葉が詰まった。
顔色を無くした私にレンブラントが慌てて、いや?気にしないで?何となく思って!と、言い直してくれていたが。
ーー私は、考えを止められなかった。
私は帰りたかった。
“ 何処に” 帰りたかった?
“ 本当に” 帰りたかった、場所。
それを意識した瞬間。
気持ちが、落ちて来た。
理解、と言うより、納得か。
自分の気持ちが、やっと飲み込めたような感覚に眩暈を覚えた。
「リラ??」
フラついた私はシーニアに支えられ、譫言のように呟いていた。
ーー帰りたかった場所は、もう無かった。
その言葉の先を聞かれ、私は吐き出す様に口にした。
私が帰りたかった場所は、祖母の家。
暖かった祖母の家での生活。
自分の本当の未練が露見して、気持ちがハッキリした事に感情が収まった。と伝えた。
「帰りたかったのも確かだけど、気持ちに踏ん切りがつかなかったの。自分が不確かで、どっち付かずで……。でも、やっと判ったから」
へらりと笑って見せたが、私の作り笑いなんて見え見えで、皆が困惑しているのも分かっている。
でも今は、皆が分かってても何も言わない事に甘える事にした。




