22ニャンコと調べ物と
翌日私はシーニアから聞いた情報を早く調べたくて早々に6番隊の部屋へ赴いた。
「……ディルムンさん、お、お願いがあるのですが…」
尻すぼみに語尾が小声になり身を縮めてディルムンを見上げれば目を細めて微笑している。
頼りにしろ。と言われた手前、ディルムンに頼み事をするが、なんだか気が引ける。
それを分かってか、ちゃんと言えたな。とディルムンに言われ、私は子供扱いされた様で口を尖らせて、ふいっと横を向いた。
ディルムンはいつも通りの無表情に戻り私のお願いを聞いた。
「で、お願いとは?」
「資料を調べたいので宮廷魔術師団に渡りをお願いをしたいのですが………」
「宮廷魔術師団にか?」
「石碑の資料なら宮廷魔術師団が持っているかも、とシーニアから教えて貰って……」
私の知っている人で、宮廷魔術師団に渡りを付けれるのはディルムンかシャルトくらいだ。シャルトの父が宰相になった今、頼めば即叶うだろうが貸しを作る恐ろしさにブルリと震えた。
私の様子を怪訝に見たディルムンから、どうした?と聞かれ、無理なら宰相に頼むしか無いですけど……。と言い澱んでいるとディルムンにギロリと睨まれた。
「リラの事は俺が任されている」
頼るのは俺にしろ。と低い声で眼光鋭く睨まれれば、うんうん。と首を縦に振るしかなかった。
時間を作り渡りをつける。とディルムンに言われ安堵に肩を落とした私に容赦無い言葉が耳に入った。
「山を片付けたらな」
**********
宮廷魔術師団への渡りまでは時間がかかり、その間は、いつもの計算仕事をして、シャルトと魔術練習をし、日々を過ごした。
暫くするとディルムンから明日宮廷魔術師団に行くと言われた。
服は事務服でいいと言われ戸惑うも言われた通りにし、ディルムンと共に宮廷魔術師団に向かった。
守衛から待つように言われ暫くすると現れたのは何時ぞやの治療師カール・アトモス師団長だった。ディルムンが渡りを付けたのだから当然と言えば当然なのだが師団長直々とは恐縮してしまう。
「お待たせして申し訳ございません。挨拶は後で、まずはこちらにどうぞ」
カールは優雅に現れ洗練された身のこなしで私達を迎えた。ケープを身に付け礼をとる姿は流石宮廷に仕える所作だ。
まずは部屋へ案内された。
ディルムンは無口無表情のままで、私だけが落ち着き無く視線を彷徨わせていた。
部屋に入るとこじんまりとした会議室の様な所で机の上に書類が置いてあった。
「では、改めて、本日は起こしくださりありがとうございます」
ディルムンは無口無表情なままで反応がない。
私の要望でここへ来たのだから。とカールに向き合った。
「先日は治療をありがとうございました。この度は私の無理な要望を聞き届けて頂き誠に感謝致します。カール師団長様のご厚意により采配頂きました事心より御礼申し上げます」
深々と頭を下げて礼をすると、ふふふふ。と笑われた。
何故!!?と驚愕の表情を浮かべる私を他所に二人が話し始めた。
「カール、人が悪いな」
「ディルが何も言わないからだろ?リラちゃん困ってるだろ?」
「とっとと書類出せ」
「せっかちだなぁ。ちょっと彼女と話してもいいだろ?」
二人の軽い会話を横で聞き、ディルムンをディルと呼ぶカールは近しい人なのだと改めて思い、私不敬してないよね?と悩んでしまった。
「ねぇ。リラちゃん、どうしてコノ資料なの?」
突然話しを振られても困ります!しかも、ちゃん。って言われるには恥ずかしい年齢です。とも言えず。
カールの質問にテンパって動揺しているとディルムンに資料を渡された。
「見たかった資料だろ」
「……これ?」
ディルムンに資料を渡され、私とカールの会話は強制終了された。
カールは不満気にディルムンに視線を送る。
「酷いなぁ。話しの途中なのに」
「用はもう無い」
「ディル酷いなぁ。資料探すの大変だったんだぞ。この資料はだいふ前から倉庫深くに放置されたままで」
調べる者も興味を示す者も居らず研究が進まない為捨て置かれた状態だったのをカールが倉庫から引っ張り出してくれたようだ。
酷い扱いをされているカールがディルムンに不満を漏らすのを聞いて私はカールに、お手数をおかけして申し訳ございません。と頭を下げた。カールは、いいのいいの。リラちゃんに会いたかったから。と柔和に言われ私は困惑するしかなかった。
古めかしく色褪せた紙の束を、私は一枚一枚捲り確認をしていった。
石碑を遺した、かの者の功績や実力、様々書かれていたが中々目的のものには辿り付かない。
「石碑そのものの資料はありませんか?」
「あ、それなら石碑をそのまま書き写したのがあるよ」
カールは別の資料の束から紙を出してくれた。
30cm四方程の紙に描かれた石碑のイラスト。
文字も描き込まれ部分部分欠けて読めなくても分かるその文字は……。
「アルファベット……」
私は食い入る様に文字を見て分かる文字を書き出した。
ジュ…、フークワ?、チュ……スィルプブレ!
私は分かる文字がある事に興奮し、見ながらぶつぶつと呟き書き写した。
石碑を書き写し机に両手を置き項垂れる様に紙を見下ろしているとディルムンが話しかけてきた。
「何か分かったか?」
私は言葉無く項垂れたまま頷いた。
「聞いていいか?」
「……はい……単語は少ししか知らないので何て書いてあるかは分からないです」
けど、この人は転生者だわ……と小さく呟き溜め息をついた。
友人が仏語専攻で、少し教えて貰った位の知識しか無い。旅行に行ったら便利よ。と言われ簡単な単語だけ覚えたが旅行の予定も無く、結局大半忘れていた。
……覚えていたら読めたのだろうか。
「リラの国の言葉では無いのか?」
「私の世界には200ヶ国近くあって、言語も5000言語以上あるの。この文字は主要国の言語の一つだから少し知ってただけで読めないの」
スィルプブレがあったからフランス語だと断定できた訳で、それ以外はサッパリ分からない。ディルムンに聞かれて答えたがフランス語ではまったく理解できず落胆に項垂れていた。
その時後ろから声がした。
「リラちゃん、君は何者のだい?」
ビクリと飛び跳ねる様に振り向き見上げれば机に腰掛け腕を組んで首を傾げて見つめるカールがいた。その顔は怪訝な顔とも憂う顔とも言えない複雑な表情でカールの整った顔を曇らせていた。ただ鈍い光を宿した鋭い瞳を向けられ、流石ディルムンの知己。と妙に納得してまった。
(居るの忘れてた………)
カールの存在を忘れてディルムンと会話をしてしまった。話した内容は聞かれている以上誤魔化せない。蒼白な顔でディルムンを見上げればディルムンは平然としている。
「リラは陛下より任されている。カールに話す事じゃない」
「リラちゃん単語だけでも読んでたよね?しかも私の世界って言っていたけど?」
ディルムンは冷たく言い放つがカールは不満気で追求を辞めない
カールは、ディル?とディルムンを呼び視線を逸らさず見据えていた。ディルムンは溜め息をついて私に伺う様に視線を落とした。
「カールは信用に足る人物ではあるが、どうする?」
リラはどうしたい?とディルムンは私に聞いてきた。
「陛下と宰相にバレている以上隠しても無駄かもしれないですね……」
私は力無く呟き溜め息混じりで言うも、気持ち的には人に知られる怖さに身を竦ませていた。
「私は異世界から来ました……」
流石に三度目の説明にウンザリしつつも淡々と経緯説明をした。
カールは驚愕の表情で腕を組んでいた。
聞いた反応は皆同じ、と私は心の中でげんなりした。ただカールは魔術師故にどう反応するか怖かった。魔術師のシャルトの探究心を身近に感じていると懸念が拭えなかった。
深く息を吐きカールは私に微笑すると爆弾を落とした。
「リラちゃんウチに来ない?」
「やらん」
「あら。ディルが即答?」
「リラは騎士団で見る」
「えー。独占反対」
「鬱陶しいのはトリューだけで充分だ」
二人のやり取りをただ眺めていた私にカールが顔を向けた。
「リラちゃん宮廷魔術師にならない?」
「はあ?」
突然の提案に唖然と返すがカールは微笑のまま動かない。私は目を瞬かせ思考停止のままでいるとディルムンがカールをギロリと睨めばカールは肩を竦ませていた。
「え、っと。私なんか宮廷魔術師なんて無理ですよ。なる気無いので」
「リラちゃん即決否定」
「経理の仕事があるので無理です」
「それだけの魔力があるのに?」
「自衛だけできればいいです」
カールの追求に居た堪れない私はディルムンを見上げれば相変わらずの無表情だ。
カールも探究心旺盛魔術師の様でこれからの追求を考えると私はげんなりした。
*カールの覚え書き追加
◉カール・アトモス
宮廷魔術師団長で、治療師。30歳。
緑の髪
薄茶色の瞳
*侯爵家嫡男。父も宮廷魔術師の魔術師家系。父に付いて王宮に出入りしていて幼い頃ディルムンと顔見知りになり、幼馴染となる。




