19 ニャンコと会談と
トリューの画策により陛下とご対面した私はこれで話は終わったと気を抜き小さな溜め息を吐いていた。
「ディルムンとリラにはまだ我が用がある。付いて参れ」
陛下の言葉に私は、ぅぐっ。と吐いた息を吸い損ね喉に詰まるのを飲み込み、まだ続くこの状況に胃が痛くなりそうだった。
陛下に引き連れられ進んだ先は観葉植物が茂る温室のテラスだった。ガラス張りの高い天井から柔らかな光が差し込み木々を照らしている。
席を進められ座ると陛下が口を開いた。
「リラ、お主に宰相はご執心の様だが?どうなのだ?」
陛下から視線を向けら私は焦りと畏怖で萎縮していた。
「……私はただ普通に暮らしていたいだけです。貴族に興味もありません。国賓扱いも困ります」
今まで通りがいいです。と尻すぼみに呟き私は俯いた。
「そなたの存在を他国に渡すのは我も良しとしない。扱いをどうするかは弟に任せる事にする」
今の所は。と付け加え陛下はディルムンに意味ありげに視線を向けた。
ディルムンはその視線を受け無表情のままで顔を逸らした。
顔は厳しいままなのに、砕けた雰囲気の陛下と並ぶディルムンはやはり兄弟だと思える様子に頬が緩む。
「何が面白い?」
陛下に緩んだ顔を見咎められ、私はピシりと居住まいを正したが慌てて吃る。
「さ、流石兄弟似ているなぁと、思いまして、」
「我はこんな険しい顔はしておらんが?」
陛下はさも心外だとばかりにディルムンを指差しした。
「飾らない陛下とは雰囲気が同じに感じます」
「ほう。飾らないときたか」
陛下は肩を竦めディルムンを一瞥するもディルムンは無表情のままで陛下を見返していた。
「自分はリラの希望通りにするつもりですがよろしいですか?兄上」
ディルムンが改まって陛下を伺う様に視線を探っていた。
「我はお前に任せると言ったが?お前ならメイフェイア家に牽制になるだろう?」
「ではリラの意思を尊重する方向で進めます。リラには6番隊を使用します。もし強行な手段を取りリラに危険が及ぶ場合にはまた別に考えます」
ディルムンの強い発言に陛下は目を細めた。6番隊は国の影を司る。国王の許可を必要とし、それをリラにつけるというのだ。更に別ともなれば陛下も予想が付かなかった。
「その考えとは?」
「リラをフォルニアスに託します」
陛下は“ 渡す” では無く“ 託す” に怪訝に眉を顰めた。
「フォルニアスは知っているのか」
「レンブラント王子が知っております」
ディルムンのその言葉に陛下は顔を曇らせた。
「お前、奸計を計ったな?」
「いえ。レンブラント王子とは偶然です」
陛下は娘をフォルニアスに嫁がせる。
それはフォルニアスの威光を使いレイニアンを牽制する為だった。皇太后の企みを阻止する為にも秘密裏に推めていた婚姻。
それが、リラに何かあればフォルニアスが動き、娘だけでなくイシェルワにも影響が出る可能性に陛下は眉間の皺を増やした。
「レンブラント王子とリラは?」
陛下のその質問には、色々な意味が含まれている。
「リラに何かあればレンブラント王子が確実に動くと思われます」
ディルムンは陛下の含みも理解した上で答えるがその表情は苦々しい。レンブラントにとってリラが特別な存在だと知っているディルムンはわざわざそれを口にするつもりはない。
何より一番困る事は、陛下が直にリラに関与する場合、自分では阻止できない。その場合の抑止力が必要となり、レンブラントは適材となる。
レンブラントを関わらせるつもりは無い。だが護りに使える物は使っておく。
実際レンブラントの所にリラを託す積もりなど毛頭無いが陛下への牽制は今のうちにしておくべきだとディルムンは思案した。
陛下は溜め息をつき暫し思案すると私に向いた。
「リラ、お主が懸念する事はなんだ?」
陛下から突然質問を振られ私は困惑した。
私の懸念は…………。
「私の知識で死人が出る事、です」
「それはどの様なだ?」
想像もつかない答えに陛下は思案顔だ。
「え…と。では、例え話しとしてお聞き下さい。
ある知識で発展し、騎士の立場が変わったとします。
重要視される知識に騎士の扱い疎かになれば、騎士が不満を持ち忠誠心が揺れます。それは変革であり反乱をもたらします。
重用されない事に騎士の在り方が問われ、失業者が増え、犯罪も増える。戦争拡大にも影響し、いい事など無いのです」
一息つき目を据え陛下を見つめた。
「それはお主の世界の歴史からか?」
「ご随意にご推察下さい」
断言は避ける。詳しくは話せないのだから推測して貰わないと私も困るのだ。
戦国時代は火縄銃で変わった。
火縄銃はネジ一つで発達した。
火薬で文明は発達し、
戦争は規模拡大となった。
知識一つで明暗が分かれる。
「だが悪影響ばかりではあるまい?結果を知るお主ならいい方向に知識を持っていけるのでは無いのか?」
私は困惑し口籠もり思案に暮れた。
陛下の言葉も分かる。
「お主の懸念は分かった。今の所はディルムンにまかす」
事態が変わるまでだかな?と付け加え陛下は席を立った。
「ディルムン、また改めて詳しく聞く。今日はもう時間が無い」
陛下が席を立つのを私も立ち上がり見送った。
「リラの懸念は分かった。不本意な事はさせないから安心しろ」
ディルムンは陛下を見送り茫然と立ち尽くしていた私に近づいた。
「リラはリラの思う通りにすればいい」
ネジ一つで発展した。とは。
火縄銃のネジが作れず量産出来なくて、ある娘さんが伝来者?に嫁いでネジの作り方を伝承された?みたいなドキュメンタリーを観た気がする。ので、あやふやな記憶です(^^;




