14 ニャンコと邂逅と
フォルニアス国のレンブラント王子との邂逅は驚きと驚愕と共に新たな事実をもたらした。
ーー転生者の存在。
これが世界にどう影響をもたらしているのか私はは頭を悩ませた。
婚約発表から日を跨ぎレンブラントとの邂逅を懐かしむ間も無く再会となった。
「はい?今から王宮に??」
もう一度会いたい。とレンブラントの要望を伝えに側近がやって来た。
「隣国王子からの求愛かい?嬢ちゃんモテるなぁ」
ブランブルは冷やかし目線で私をチラリと見た後ディルムンにニヤリと笑う。
側近の来訪を仕事中に受け、ディルムンと一緒にブランブルに相談に向かい、側近には別室で待機して貰った。
ブランブルはシャルトが私を拉致って王宮主催舞踏会に参加した事を聞き口強に言うもディルムンのシャルトへの対抗手段に感心しつつも面白がっている。
「シャルトもやってくれたなあ……だがお前が打ち消したんだろ?よくそんな強硬手段に出たなあ」
私はディルムンとのダンスを思い出し頬が熱くなるのが分かり思わず俯いて顔を伏せた。
だが何故王子が嬢ちゃんに興味を示したか分からねぇなぁ。と、ブランブルは首を傾げている。
レンブラントが転生者なのは話せない。
詳しく話す訳にもいかないのだ。
「フォルニアス相手に下手は打てないからな。機嫌を損ねるわけにもいかないだろ?嬢ちゃんは王宮行ってこい」
「レンブラント王子がどう出るか分からない以上俺が付いていれば無理は出来ないだろう」
私は状況に付いていかず戸惑うもディルムンが同行を申し出てくれた。
私とディルムンは側近に伴われ王宮に向かい、豪奢な部屋に通される。
ドアを開ければ破顔したレンブラントに出迎えられた。
「リラ!会いたかった!!」
両手を広げ私に近づく前にディルムンが間に割り込みレンブラントに睨まれた。
「……邪魔をするな」
「レンブラント王子、立場を考えて行動されてはいかがかな?」
レンブラントはディルムンの凍てつく視線を正面から受け二人の間からは闘気ならぬ凍気が漂う。
私はディルムンの大きな背中からソロリと顔を出し二人を伺い様子を見るとレンブラントと視線が重なる。
「リラ!会いたかった!!」
再びレンブラントが私に近づくのをディルムンが顰め面になるのを目の端に捉えなが前に出ると手を取られ唇を落された。
優雅に上品な所作は王族の気品からか漂う雰囲気が違う。私は顔を赤らめながら手を引くも離して貰えずそのままレンブラントに手を繋がれ並んでソファーに座らされた。
「昨日は時間が足らず残念だったがまだ話し足らない。リラの話が聞きたいんだ」
私はディルムンに助けを求める様に視線を投げたが、レンブラントに遮られた。
レンブラントはディルムンを一瞥すると私に向き直る。
「俺の事はレンブラントでいいから。ね?リラ」
レンブラントはディルムンが居る事などおかまい無しに私に話しかけた。
「リラは向こうでは何をしてた?大学生?社会人かな?俺は大学までの記憶しかないから多分大学生で死んだのかもね?」
死んだ。と言う言葉で私の顔色が変わるのを見てレンブラントは眉を曇らせた。
「日本じゃ生死の感覚違うよねー。俺はこの歳までここで育った訳だからベースがこっち寄りなんだ。ま、死にかけて向こうの記憶が出てきてたんだけどな」
私の驚嘆を微笑みながら眺めるレンブラントを言葉なく見つめ返した。
「リラも木から落ちて死にかけてこっち来たから死にかけ同士だな」
レンブラントは軽く笑っているが私は笑えない。
「死にかけたって……大変な事じゃない!」
「視察中に刺殺されかけた」
オヤジギャグじゃないよ?と付け加えるレンブラントを私は呆れ顔で眺めた。
内容は殺伐なのにレンブラントは楽しげだ。
「笑えないから!それ!」
「あははは!それ!そのツッコミ!懐かしいカンジ!」
「何!?私のツッコミ待ち???」
そうそう!とレンブラントは目じりを光らせながら楽しそうに笑う。
そしていきなり私の肩を抱き寄せ首筋に顔を埋めた。
「レッ、レンブラント王子!!?」
驚いて声が裏返り慌てる中レンブラントは低く呟く。
「本当に……日本人に、会えるなんて」
レンブラントは私の肩を抱きしめ縋り付く様に身を寄せる。
さっきまで話しで盛り上がり笑っていたのに?とレンブラントの様子の豹変に動揺する。
「ランドセルも……バイトも車も、……やっと話せる」
「…………レンブラント…王子?」
私が怪訝に声を掛けるもレンブラントは聞いていないようだ。
「……誰に言っても信じない……怪我の熱で気が触れたと言われ、言わない様にしていたんだ」
レンブラントの髪が頬と首筋で揺れて擽ったい。
縋り付く様に抱きしめられ私はレンブラントの胸中を察しレンブラントの背中に手を回すと優しく撫でた。
それは、そうだ。この世界で生きてきて、突然日本の記憶を持っていてもただの夢物語として一笑に付されて終わるだろう。ましてや王子。変な事言い始めた、と周りも驚き気が触れたと思われるだろう。
「そうよね。話しても信じて貰えないよねー。こんな事。異世界の記憶なんて」
気が触れたなんて失礼ね?と私が苦笑するとレンブラントは腕の力が緩んだ。
私は撫でていた手で背中をポンポンと叩き、離す様に促すとレンブラントは頭を首筋に擦り付ける様に振る。
「ちょ、ちょっと?くすぐったい!!」
私は身を捩り腕の中を抜け出そうとするも鍛えられた躯体は押してもびくともしない。
「このまま持って帰る」
「駄々っ子か!!」
私のツッコミに首筋でレンブラントがくつくつ笑う。
笑う振動も擽ったくて困っていると助け舟がきた。
「いつ迄そうしているつもりで?」
ディルムンは抑揚なく冷めた目でレンブラントを眺めている。
レンブラントはむくりと私の首筋から起き上がるとディルムンを一瞥する。
「気を配って退席する事も出来ないとは、配慮に欠けているのでは?」
「離す気配も無いレンブラント王子も配慮に欠けているのでは?」
私の肩を抱き寄せたままで離れる気配のないレンブラントに私が言い返せばレンブラントはバツが悪そうに私から離れた。
ディルムンは人相悪く冷笑している。
「残念だ……」
レンブラントはがっくりと項垂れた。
それから私はレンブラントから質問攻めを受けた。
高校短大で合唱してて短大卒でOLしてて、トレッキングとボルダリングしてて木に登れちゃうと言う所で、だから会えたんだね。とレンブラントに言われ私は眉を下げて笑った。
他にもレンブラントはその時の流行りの歌を聴きたい様で色々歌を歌わされた。
レンブラントとは10年程タイムラグがあるのが分かり実際向こうに居たら私が小学生でレンブラントは大学生位だろう。
「だとしたら絶対に出会わなかったね?」
「その状態じゃ変態扱いだな」
レンブラントは渋い顔で肩を落とし、今リラと出会えて良かった。と表情を崩した。
私は時間までレンブラントと話すと名残惜しそうに抱き寄せられた。私は背中に手を回しポンポンと叩き、元気でね。と声を掛けた。
レンブラントは深く溜め息をつき首筋に顔を埋め耳元で囁く。
「必ず会いに行く」
レンブラントと別れを惜しみながら私とディルムンは馬車で騎士団に戻った。
帰路の馬車の中ディルムンが聞いてきた。
「レンブラントとは同郷なのか?」
「うん。そうだね。私の世界にもたくさん国があるけど、レンブラントとは国も同じだね」
「ならお前はレンブラントといた方が良いのでは無いか?」
「えっ?何故?」
前を向いていたディルムンは私を一瞥し、また前を向いた。私はディルムンに視線を向け動悸が早くなるような気がした。
私が居ると……………………迷惑?
口籠る私にディルムンの言葉は止まらない。
「同郷なら気安いだろ?」
「……そんな事は」
「フォルニアスに行くなら話を付けるが?」
「そ、……それは………」
「リラにとって何処が過ごしやすいんだ?」
「私は………今は……………………まだ、…………今のままが………………」
俯き小声で呟けばディルムンは私に顔を向けた。
「レンブラントに抱き付かれて嫌がってなかったが?」
「え?あ、あれは励ましてただけだし、寂しそうに見えたから!」
私は慌てて身振り手振りで説明するもディルムンの視線が刺さる。
「なんか心配っていうか、困っている子をほっとけない感じというか……」
「困っている、子か?」
「うーん。王子様には悪いけどね?」
口調が若者口調になってからレンブラントが幼く見えて弟のような感じがする。とディルムンに言うと何とも言えない顔をした。
「まあ、レンブラント王子は今年で20歳だからな。リラよりは歳下だな」
「20歳!成人かぁー。若いーー」
どうりで言葉端が若く感じると思った。と言えば更にディルムンに憐みの目で見られた。
私とディルムンは騎士団に戻るとブランブルに報告すると仕事に戻った。
ブランブルは色々と胸中に去来する想いに目を伏せ馳せていた。




