8 ニャンコと治療と復帰と裏と
怪我から二週間程経った頃に医師から話しがあると言われた。
「これから宮廷魔術師が来る」
粗相がない様に気を付ける様に。と医師から言われた。
宮廷? かなり偉い人が来るのが分かったが、何故に???私が考える間も無くドアが叩かれ当人がやって来た。
「宮廷魔術師の治癒師カール・アトモスと申します。依頼により治療の為こちらに参りました」
洗練された身のこなしで一礼し私を向いた。
「は、初めましてリラ・トゥーノと申します。御足労を頂き感謝したします。治療の程よろしくお願い致します」
私は腕が痛いので深々とはお辞儀が出来なかったが頭を下げて挨拶すると目が合った。
シャルトより歳上な感じで整った顔立ちに緑の髪に薄茶色の瞳、魔術師団より刺繍が豪華で粧飾が多いジュストコールの上にケープを羽織っている。宮廷魔術師の証かな?等と思いながら眺めていた。
「では治療しますので寝台に横になってもらえますか?」
急な話しで戸惑うも私は言われた通りにするとカールは魔具を色々出し術式リボンを並べた。
カールは私に近づき腕に術式が書かれた包帯を見ると驚いた風だった。
「これは誰が用意した物ですか?」
「これは……シャルトが用意してくれました」
へぇ…あのシャルト様が…。とカールは思案顔をしていた。
カールが包帯を取ると私の腕には内出血の痕が痣となり残っていた。それはハッキリと指の痕が分かる程で私は思わず目を逸らした。
カールはそれを気にも止めず作業を始める。
腕を中心にサークル状にリボンを置くと魔石も置いて術を解放して治療を始めた。
ブツブツと呪文らしきものを唱えると魔石とリボンに書かれた文字が光り私の腕は暖かい光りに包まれた。ホンノリ暖かくなり腕を見ると痣が消え痛みも無い。
手を握ったり開いたりを繰り返し違和感の無さに驚く。
骨だけじゃ無くて筋肉や筋まで元通りなんて……。と私は呟きながら腕を撫でればカールの視線に気が付いた。
「はっ!すみません。治療ありがとうございました」
寝台から起き上がり深々と私はお礼をした。
「いえ。貴女の魔力を利用させて貰ったので大して魔力も使わずに術を使えました」
「私の魔力ですか?」
「もの凄い魔力をお持ちですよ?」
「あ…シャルトに言われてますがよく分からないもので……そのうち魔術についてシャルトに教えて貰う予定です」
それを聞いたカールが、それは素晴らしいですね。と微笑した。
「素質のある者が増える事は喜ばしい事です」
カールは魔具を片付けながら私を横目で見ると、魔術師団に入るのですか?と聞いて来た。
「え?それは考えて無いです」
「勿体無いですね?入団をお勧めしますよ」
カールは帰り支度をしながら言う。
「カールさんは誰の依頼で来られたのですか?」
私は聞きたかった事を口にした。
「言わぬ様に厳命されていますのでお教え出来ません」
カールは爽やかに笑い顔色は読めない。
「そうですか。分かりました」
私は苦笑いをした。
「そのお方にお礼をお伝え下さい」
ありがとうございました。とカールにもお礼を言った。それに対しカールは怪訝な顔をして、おや?何故?と聞かれた。
「宮廷魔術師に厳命出来る地位の方が依頼したと言う事ですよね?」
「……鋭いですね。ですが答えられませんよ?」
鋭い瞳の光を柔和な微笑で隠しカールは一礼すると帰って行った。
部屋の隅で終始無言で一連を観ていた医師は、凄い術だなぁ。と感心していた。
医師と治癒師は “治す” と言う行為は同じだが行程が違い得意不得意がある。
怪我を治すのは治癒師が得意だが病気などは医師の処方薬になる。
医師は滅多に観られない治癒術を観て興奮しているようだった。
私は医師に顔を向け手を出し見せると、完治しましたので退室しますね。と伝え部屋を片付け始めた。
医師は、ああ、そうだな。見事に完治だな。と笑っていた。
私は一旦片付けをしてからブランブルの所に行くとシャルトと話をしている様だった。
「嬢ちゃんどうした?腕の包帯取れてるが?」
「リラ?包帯はどうしました?」
驚いた二人が同時に質問し私は苦笑いで答える。
「宮廷魔術師の治癒師の方が来て治療して貰いました」
二人はそれを聞いて驚愕している。
「誰が来たんだ?」
「カールさんと言う方です」
「……カール・アトモス師団長ですね」
師団長とは聞いていなかったので私も驚いた。
三者三様に驚き入ると怪訝な顔になる。
「ブランブル団長の依頼では無いのですね?シャルトも違いそうだし?」
「俺じゃ無理だ」
「私は知りませんよ?」
「じゃあ誰の依頼だろ?」
この二人が有力候補だったのに当てが外れた。
私は立て続けに二人に質問をした。
「宮廷魔術師に依頼出来る地位は?」
「俺は無理だ」
「近衛師団と宮廷魔術師団が同格ですが師団長となると難しいですよ?」
「近衛師団と騎士団じゃ権限が違うからなあ」
ブランブルは難しい顔をして眉間に皺を寄せた。
答えにたどり着きそうもない答えに私は質問を続けた。
「じゃあ宰相は?」
「上だな」
「将軍も?」
「ええ、そうですね」
話をしていくうちにブランブルとシャルトの表情が変わってきた。
ブランブルは難しい顔で唸り、シャルトは鉄面皮で作り笑いのまま様子が変だ。
この二人から何かを掴むのは難しいと私は判断して話を切り上げた。
「完治したので療養室から宿舎に戻りますね。それの報告に来ました」
「おう、そうか。ならディルムンの所にも報告しとけ」
「あ、はい。山が増えていそうで見たく無いですが……」
ゲンナリとした顔で言うと退室をすると私は6番隊の部屋へ向かった。
「失礼します。リラです。怪我が完治しましたので報告に来ました」
ディルムンに会うのは看病以来だ。何となく気不味くて俯く。
「……そうか、完治したか」
……普通もっと驚きそうなんだけど?と疑問に思うもディルムンの無愛想は何時もの事かと気に止めずにいた。
「ご迷惑おかけしました」
一礼して向かい合えばディルムンは珍しく顔の表情を崩し困り顔をしていた気がする。
ディルムンはおもむろに机から何かを取り出し私に差し出した。
訝しむ私にディルムンは、身分証代わりだ。と言われ手渡されたのは紋章の入った短剣だった。紋章が身分証代わりになるらしい。短剣と言うより手の平サイズの小型ナイフに近いサイズだ。刃物を持ち歩くのは少し怖い気がする。私はディルムンにお礼を言いジャケットの内ポケットに仕舞った。
ディルムンは私が短剣を仕舞ったのを見ると書類に目を落としポツリと呟いた。
「明日から来るのか?」
「はい。そのつもりです」
ディルムンは私の答えに顔を逸らした。
その逸らした先は………見たくなかった…………。
*
次の日から仕事に復帰した。
見たくなかった書類の山。
目の前に鎮座し圧迫感に溜め息が漏れる。
一枚計算して記入し、また一枚。
私は繰り返し繰り返し書き込み、時折手を眺める。
握って開いて握って開いてを繰り返し、違和感の無さに感心する。
「手がまだ痛むのか?」
私の動作を怪訝に思ったのかディルムンが珍しく眉間を曇らせて表情を崩した。
「あ、違います。違和感無くて感心してただけです」
私が手を振りながらグーパーを繰り返すのを確認すると、そうか。とまた何時もの無表情に戻り書類にペンを走らせた。
私も机に向き計算を始めた。
**********
「じゃあ今回の騒動はそっち絡みなんだな?」
ブランブルはシャルトに一瞥すると溜め息をついた。
まだ残党が残っていましたね。とシャルトは憤慨し慷慨すると視線をブランブルに向ける。
「目的はメイフェイア家、犯人は前宰相の同調者」
頑迷固陋で困ります。と侮蔑するように吐き出すとシャルトは鋭い眼光と氷の様な無表情で意思を伝える。
「この件はメイフェイア家が処理します。騎士団は手を引いて下さい」
「了解した。………やり過ぎんなよ?」
ブランブルの一言にシャルトの瞳が一瞬剣呑さを含むが押し殺すように冷笑する。
そこへ包帯を外したリラが現れた。
リラが完治した。と報告しにきた。
話を聞けば宮廷魔術師が治したと聞かされた。
驚愕しリラの話を聞くと、ブランブルとシャルト二人は思案に暮れた。
リラは仕事の事で6番隊に向かった。
その背中をブランブルとシャルトは複雑な気分で見送っていた。
「まったく、やってくれたな……」
「ええ、宮廷師団長を引っ張り出すなんて……」
「異例だな」
二人はリラが消えたドアに目を向けたままブランブルは腕組み肩を落として息を吐き出し、シャルトも腰に手を当て肩を落とした。




