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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第二部
50/85

7 ニャンコと藁と食事と


毒に侵され熱に魘されたディルムンは意識を取り戻し、動けるまでに回復すると仕事に戻った。




俺は療養室で寝ていても仕事で座っていても変わらないとばかりに職場に戻った。

こんな毒で寝てなどいられないからな。と俺は一人ごちると毒を受けた傷を服の上から手で撫でた。


毒には幼い頃から慣らされている。

食事に毒を仕込まれ何度も危ない目にあった。

だが母は毒に倒れ亡くなった。

リラがこの刃を受けていたら母と同じ末路だろう。


ディルムンは撫でた腕を握ると奥歯をギリリと切歯した。



俺は一人部屋を見渡した。

ブランブルからリラは別件の仕事を頼み居ない事を告げられた。怪訝に感じたが溜まった書類を片付けるのが先だ。



医師からは一日一回診察に来る様に言われている為、仕事の落ち着く合間に医務室に向かった。



俺は医務室に向かう途中でシャルトに行き合った。

こんな所で会うのは珍しく思わず視線を向ければピシッとシャルトの顔が氷付く様に冷たい表情になるのが見てとれた。

俺が訝しんで見ていればシャルトが口を開いた。


「無事の生還に安堵致しました。経過も良好で仕事復帰喜ばし限りですね」


俺はシャルトの不遜な態度に表情を険しくした。謂れ無い態度に理解出来ず剣呑な視線になるもシャルトは構わず俺に、知っていますか?と発言を続けた。


「溺れる者は藁をも掴む、と。

貴方は何を掴み毒に溺れずに済みましたか?

………では、失礼します」


俺の返答も待たず慇懃無礼に去って行くシャルトに憤慨するも、違和感が引っかかる。だが今は頭の片隅に置き俺は医務室へ向かった。



俺は医師から経過良好。異常無しを貰う。

俺はすぐに仕事に戻るつもりでいたが、暫し考えを巡らした。



ーー先程のシャルト……。


あの時のシャルトは、療養室から来た。

しかも食事のトレイを持っていた…………。


あのシャルトが ”誰に” そんな事をするか?

思い当たるのは、ただ一人………



「リラは、どうした!?」


俺は医師に怒気を含む様な視線を向け口強に詰め寄る。

医師は目を据え一息付くと、落ち着け。と俺を諌め一瞥する。


騎士団など躯体の良い荒くれも多い中で、怪我や病気で暴れる者もいる。猛者相手に医師は慣れたものだが、流石にディルムンの怒気には冷や汗が出る様だ。


視線を逸らせ医師は深く溜め息を吐く。

「あの子は無事怪我無く保護された」

医師として嘘は言って無い。と医師は断言するが言い包める事は出来なそうな雰囲気に医師は息を飲んだ 。


シャルトが居る。誤魔化されるつもりは無い。と俺は詰め寄った。


「部屋は、何処だ?」

低く唸る様な声で医師に問えば、お手上げだ。とばかりに両手を上げ部屋を伝えた。


俺が踵を返しドアに向かい部屋から出る前に医師は声を掛けた。


「本人から口止めされてたんだ」

その言葉を背中で受け俺はドアを閉めた。



俺は部屋の前に着き息を吐くとドアにノックをするのを一瞬躊躇した。間を置いてドアをノックし返答は無いが部屋の中へ足を進めた。





寝台に横たわるリラ。

近寄ればその腕には添木と術式を施された包帯。





ーー貴方は何を掴み毒に溺れずに済みましたか?ーー




シャルトの不遜な態度の理由を理解して愕然とする。




……………………俺の手で


自身の手を見つめ慄然とした……………………。





寝台の傍らの椅子に腰掛け思い見る。




毒に魘され苦しいその中で誰かが居た。

思い巡らせば微かに声を聞いた気もする。


名を呼ばれ負けるなと声を掛けていた声が甦る。

そう看病していたのは……



リラだ。




その事実に寝台に両手を付き頭が寝台に付きそうな程こうべを垂れ深い溜め息を吐き固く目を瞑る。




寝台の傍らで膝を付き眠るリラの手の甲に俺は額を合わせ瞑目した。



俺はそっと手を元に戻しリラの顔を暫し見つめ踵を返し退室をした。




**********



ブランブルは机に向かい書類を認める。


宛先は、公爵トリュー・メイフェイア



リラの怪我を理由に欠席の手紙を認め速攻送り届けた。


ブランブルは招待の対応に幾つか対策を立てていたが、今回の怪我を利用しない手は無い。と言うより、本当に怪我で無理なのだが。これぞ怪我の功名と笑えない所だがブランブルは安堵した。



ディルムンも回復し、リラへの公爵からの搦め手を躱せれば御の字だ。


将軍が公爵家寄りになった事で、大魔術師リアン・シュベーフェルの事はメイフェイア家にも筒抜けだと思った方がいいだろう。


ブランブルはリラ誘拐で露見した彼女の秘密を団長権限で止めている。

将軍にも異世界人である事と異界の知識については報告はしておらず露呈していないはずだ。


それでも公爵はシャルトを通じて興味を示し騎士団直接では無く、王宮でリラに接触を計った。


リラの存在を公にして手を出させない様にするべきか、このまま秘するべきか…………。




他にも、リラ強襲の裏が取れていない。

ドウェルの報告待ちだ。



公爵の動きを気にしつつ、リラをどう護るか思案のしどころだ、とブランブルは頭を悩ました。




**********



今日も今日とて見舞いがやって来る。


一昨日はシーニア、昨日はシャルト。


この間バッタリ行き合い二人して睨み合っていたので帰って貰った。


(怪我人疲れさせてどうするのよーー!)



「リラー!お昼ご飯持って来たよー!」

今日はシーニアが来た……。

毎日誰か、いや、二人が交互で来るのは困ります。


私の回復は大分早く、普通なら腫れは二、三週間位掛かるのに半分位で引き、骨折自体も回復が早い。

シャルトの治癒術式のおかげだろう。


本来、治癒師は魔術の知識と人体の構造を把握しなければ術式が作れない。二種類の知識を必要とする為、会得が難しい。更に体得にも素質が必要で、治癒師自体が少ないのも致し方ない状態だ。

それをシャルトはリラの為に治癒術を書き上げ効果を出しているのは流石実力者だ。



「大分、回復したから、自分で、食べる、ね?」

キッチリ、ハッキリ言ってシーニアに意思を持って伝える。

「だーーめーー。はい。あーーーん」

私がいくら言ってもシーニアは構わず食事をあーんしてくる。


本来なら、腕の骨折なんて療養室でお世話にならなくても大丈夫なのに、ブランブルからも療養室で休むように言われ軟禁状態だ。



シーニアにも、あーん。をされながら食事をされる私の食欲は減退する一方だ。おかげでダイエット出来ていいのか、悪いのか微妙な所だ。罰ゲームな食事は回復まで続くのかと思うと私は頭を悩ました。



羞恥で赤面しながら私は食べさせて貰い、食べた気がしない食事を済ませる。

終始シーニアは嬉しそうに双眸を細め頬を緩めて見つめられ私としては視線を合わせずらい。


「シーニア仕事は?」

「大丈夫!任せてきた」

シーニアの元気な他力本願の答えを聞きガックリ項垂れる。

「駄目でしょ?仕事サボっちゃ」

「リラの方が大事だから」

手を握り顔を寄せて来るが立ち上がり身を躱す。

「もう私は大丈夫だから、心配しないで」

「駄目。ごめんね。警護も兼ねているから無理。俺としては警護は関係無いんだけどね」

お茶目にウインクして笑っているシーニアに、正直に話して貰え少し気が紛れた。


「犯人捕まらないの?」

「うーん。それはドウェルやセレン担当だから分からないけど……リラは怖い?」

「え……と。皆んなが居るから怖くはないよ?ただ理由が分からないから、ね」


理由が分からない。何故私なのか。

獣化術を知りたいなら毒の短剣は用意しないはず。

確実に私を殺したかった訳だ。

それは何故?

それが分からない。


本気の殺気。


思い出しただけでも、初めて体感する恐怖に身震いする。


日本では、死にそー!死ねるわ!死ぬー!と死の軽口を叩くのは当たり前だった。


それは本当の死を知らないから。

改めて思い、死の恐怖に襲われた。



「リラ、大丈夫?」

心配顔でシーニアに顔を覗き込まれ慌てて、ちょっと思い出してただけで大丈夫。と言うも私の顔色が悪い様で寝台に休まされた。

「本当に大丈夫だよ?」

シーニアに笑って言うもシーニアの目は真剣で鋭い。


「リラ、怖くて当然なんだよ?殺されかけたんだから。リラの平和な世界と違うんだから」

私の動揺はシーニアに見破られていたようで作り笑いも無意味なようだ。


「…………本当の、本気の殺意なんて……初めてで…………」

寝台の上で膝を抱え、膝に額を当て俯くとシーニアに頭を撫でられた。


「大丈夫。護るから。ずっといるから大丈夫」

呪文の様にシーニアの大丈夫を耳にすると何だか心が落ち着いていく。


シーニアは部下に呼ばれるまで私を撫でてくれた。



部下に引き摺られシーニアが出て行くと静寂の中で一人溜め息をついた。








医療知識皆無です。

回復期間とかよく知りません。

ゆるくお考え頂けると助かります(^^;;

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