5 ニャンコと喪失と相談と
人称変更しました。
人称って難しいですね(^^;;
ーーバタン。
私はドアの音に気が付き目が覚めた。
ぼんやりと周りが見える。
「ここは…どこ?」
私は身体を起こし周りを見れば人が居るが分かった。
厳しい顔で視線を投げる男が剣を抜くと私に向けた。
「お前は何者だ」
お互いの視線が交差する。
あぁ、その質問は私もしたいです。
「私を知っていますか?」
幾つも質問されるが、私の答えは同じだ。
「分からないです」
私は項垂れて首を振る。
状況も分からず、剣を向けられ、心が竦む。
私は泣きそうになるのを堪え答えるが、分からないとしか答えられない。
怯える私を女の人が慰めてくれるが、震えは止まらない。もう一人の男性は心配そうに私を見つめていた。
どうやら本当に記憶が無いようです。とシャルトが判断すると他の3人は溜め息をついた。
「元に戻ると獣化中の記憶って無くなるの?」
セレンは疑問をシャルトに投げる。
「記憶が無くなるなんてありえ無いですね」
「では、故意に情報漏れを防ぐため記憶をなくす事は?」
ディルムンは剣を納めたものの警戒は解かない。
シャルトはこの状態を推測して口にした。
「記憶を無くす位ならここから逃げていると思いますよ?この術を使える上位術師はそう居ませんから。それに術師なら他の術を使って楽々と脱出しているでしょう」
「だから不思議よね?獣化以外の術を使わずに、ましてや記憶喪失なんて」
セレンの言う通り確かにそうだ。
機密を知っても記憶喪失では使えない。ましてや超上級術。無闇に使える術でも無いなら、何故?という疑問しか残らない。
「そもそも獣化は他人に掛けられ無いのです。本人が自分にしか掛けれない術である以上、彼女が魔術師である事は確かでしょう」
シャルトの説明に皆は何度目かの溜め息を吐く。
「彼女は何者なんでしょうね。獣化術初の成功者となるのですが、存在そのものが謎ですね」
シャルトは稀有な存在として訝しんで見つめていた。
「ブランブル団長に報告するか」
ディルムンは団長を呼びに部屋を出た。
もう仕事どころでは無い。
魔術士との合同練習後の残務処理が山程あった隊長達にとっては眉を顰めるしかなかった。
残業確定に皆がまた溜め息をついた。
*
医務室に団長、隊長達が揃い状況確認をする。
獣化解除の時のことをシーニアが説明した。
シャルトが猫のエレを眠らせリボンで結界を敷き防御陣を張った。
魔石を四方に置き魔力回復をかけた。
本来は魔力切れの人に魔力を渡す術だが、エレへ魔力過剰させるために施行する。どれ程の魔力を注いだか分からないが、エレの身体が光始めて変化していった。
その説明中、ブランブルがニヤリとして聞いてきた。
「術解けたらスッポンポンだよな?お前見たの?彼女の裸?」
「なっ!?みっ見てません!見せません!その前にカバーかけましたぁ!!」
慌てて自己弁護と状況報告するも赤い顔でワタワタしてればブランブルのいいオモチャだ。
「ヘェー見せないんだぁネェ」
ブランブルのツッコミにシーニアは顔を逸らし無言で抵抗していた。
猫の毛が肌に戻り始めた時休憩室のソファーのカバーを引っ張りかけて、術後そのまま包んで医務室まで速攻移動した。と説明するもシーニアの顔は赤いままだ。
誰にもすれ違わなくて良かった。と思うシーニアをやはりニヤニヤ眺めるブランブルだった。
ベッドの縁に座っていた私にブランブルが近づいた。
ブランブルは膝を折り目線を合わせて私を見つめた。
「見慣れない顔付きだな。彫りが浅いのは人種的なものか?幼いからか?肌もこの大陸では居ない色だなぁ。何より黒目黒髪は初めて見るな」
髪型は前髪が顎より長くウェーブが掛かり、後ろ髪は腰に近い長さだ。
「外見で出身地を推測できない事にも悩むが、彼女の扱いをどうするかが一番の問題だ」
それならと、シャルトが申し出る。
「私が身柄を預かっても良いでしょうか?」
獣化が関わっている以上魔術師が預かるのが一番だとシャルトが申し出たのだ。
「だがお前の一存では無理だろう?事が事だけに、コレを知る人間は少ないに越した事は無い。逆にコッチに魔術師派遣を要請するからお前がココで様子を観ろ。機密事項の制約も付くがな」
ブランブルからの提案と言う名の制約付き決定事項にシャルトは憮然とするが仕方ない。
主導権が騎士団にある以上、コレに関われるなら納得するしか無いとシャルトは小さく溜め息をついた。
「申請書はそちらで用意して下さいね」
シャルトの反撃に今度はブランブルが顔をしかめる番だった。
合同訓練において意思の疎通のため。等の建前でブランブルは申請書を作成する事になった。
**********
彼女は2番隊のセレン預かりになった。
人に戻った彼女に服を着させたのもセレンだ。身長体型が違うため、だいぶ服がダブついている。
女性同士なのもあり、その方が気を回しやすいだろうとの配慮だが真相は別だ。
本来なら不審人物は拘置所入り、もしくは女性なため個室でも良いのだがまた獣化して脱走されては困るというブランブルからの指示でセレンと同室となった。
セレンの部屋に簡易ベッドを設置し、彼女を監視下に置く事となった。
*
シーニアは彼女とセレンが居る部屋に食事を持って行った。
「シーニアありがとうねー」
「………あ、ありがとうございます」
シーニアは3人分持って行ったが騎士は体力仕事だ、彼女は凄い量を見てビックリしている。
「食べれる分だけでいいからね?」
「は、はい。ありがとうございます」
彼女は半分位しか食べられなくて申し訳なさそうな顔をしていた。
シーニアは食事中は彼女に好き嫌いを聞いたり、味付け大丈夫?量は平気?と聞いてみた。
「美味しいですよ。量は……かなり多いですね」
彼女は困り顔で笑うと、シーニアさんは気配りさんで優しいですね。と微笑みながら言う。
シーニアは嬉しそうに目を細めて照れていた。
食後、お茶を飲みながら改めて彼女に説明をした。
彼女は猫に変身?していた。
術を解いたら人に戻った。
しかし記憶を無くしていた。
彼女は驚いて理解しきれてい様子だ。
ひと息つくと彼女から相談を受けた。
「私には獣化の事は良く分から無いですが、一番困るのは記憶が無くて動けない事です。そして動けない私の世話で迷惑掛けるのが申し訳ないです」
彼女は申し訳なさそうな顔をしている。
「お世話になってばかりは申し訳ないので私に何かお手伝いできませんか?」
彼女の提案にセレンとシーニアは顔を見合わせた。
考え込んだセレンとシーニアはブランブル団長に聞くから待って欲しいと彼女に答えた。
「記憶を戻す為にもじっとしてたら思い出せないと思って。何か思い出せる切っ掛けを探したいんです」
お願いします。と彼女は頭を下げてお願いをした。
(本当に何か思い出せたら良いんだけど……私としては何でも構わない。全てが分からない………)
(何かしていないと不安になる……)
彼女は孤独に押し潰されそうで辛くてたまらないでいた。
夜も更けセレンは、もう休みましょう。と彼女を促しベッドに向かった。
彼女はベッドに横になり頭の中で今日一日の事が色々と巡っていたが身体の疲れには逆らえずいつの間にか眠っていた。
**********
次の日セレンは臨時休日となった。
彼女の洋服や小物を買いに街に行く為だ。
「すみませんセレンさん。お仕事休ませてしまって、買い物も付き合わせてしまって」
「いいのよ。おかげで休めたわ。貴女のついでに私の買い物もしちゃえるし 」
悪戯っ子ぽい顔して、うふふ。と笑うセレンの心遣いに彼女は感謝した。
まずは彼女の服と下着を見る。
コレ可愛い。アレ似合う?と、きゃあきゃあ女子トークに花が咲く。服は何着か購入したが彼女は申し訳ない。と恐縮していた。
彼女はセレンに逆らえず服を剥がされ下着のサイズ合わせをされた。
( 恥ずかしいです……… )
萎縮する彼女を余所に、セレンは、胸意外にあるのね〜。など言い、更に彼女は恥ずかしさに身を縮ませていた。
賑やかに買い物を楽しみお喋りやお洒落に心弾ませ、彼女の心細くて悲しかった気持ちが少し紛れた。
後は靴や鞄や櫛、歯ブラシ、石鹸、爪切りなど日常の消耗品などを買った。
昼はそのまま外で食べる事になりメニューを見て頼んだ。読めても内容が分からないので彼女はセレンに聞きながらメニューを決めた。
それを見たセレンは思案に沈む。
( 文字を読めるってことはやっぱり知識があるわけよね )
平民の識字率は低くいため読解力があると言う事は教育を受けた証拠だ。
( 発育良好、栄養不良な環境で育ってない。虫歯も無く、筋肉の付き方も平民とは違う。やはり貴族以上な育ちに感じるのよね。手の平は皮膚が柔らかくて力仕事はしてなさそうだし、爪も綺麗に手入れされてるし、足の裏も柔らか過ぎなのよね。あまり歩かない生活だったのかしら? )
会話しながらセレンは彼女の観察を続ける。
まだまだ正体不明な彼女の言動チェックは外せないのだ。
「そう言えば、貴女の名前が無いと不便よね?ずっと貴女と言う訳にはいかないから。猫の時の名前で悪いけど、よかったらエレのままでも良い?」
「そうですね。私も名無しでは困るのでそのまま使わせて下さい」
「なら、よろしくね。エレ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
彼女の名前も確定しエレとセレンはのんびり食事を済ませ、宿舎に向かった。
途中デザートを食べ歩きして、お菓子屋さんに寄ってセレンが買い出しした事は秘密だ。
人称を変更しました。
視点の人称に悩みに悩み、猫だったり記憶無かったりで表現の難しさに苦しみました。未熟者の初心者には特に難しいです(^^;;
2016.12.4人称変更