6 ニャンコと強襲と療養と
なんちゃって似非殺陣。流血注意。
今日は買い物に街に来ている。
今日の護衛は5番隊の人でガルさんと言う50代くらいのオジ様だ。鍛錬を重ねた躯体と身のこなしは頼りになりそうです。
私は消耗品を買いにお店に向かう。
護衛のガルは私の前を歩いている。
シャルトの警護とは違いがあり過ぎる。周りに視線を配らせ警護らしい警護に何だか可笑しくなる。
道すがら他のお店を見たりウインドショッピングを楽しんで見て回る。
昼食を済ませてから買い物に来ている為日は少し傾いている。
消耗品の買い物を済ませると何時もの様にクレープ屋に寄り買い食いをする。
護衛がいるので買い食いは気後れするが、クレープ好きが寄らずに帰る事は出来ない。ガルに悪い気がするが誘惑には負ける。
夕暮れ前の買い出しに人の流れはそれなりにある。
行儀が悪いが歩き食べしている為、道を外れ人混みを避ける様に歩く。夕暮れの小道をクレープ食べ食べ帰路に向かった。
その時、ガルが剣を抜いた。
私が唖然とする間に剣を抜いた黒尽くめの男三人に囲まれる。
突然の事に私は身が竦み動けずにいた。
男達は各々剣を振り突き撫で上げガルに斬りかかる。ガルは私を背中に庇い剣を構え三人の動きに合わせ身を翻し剣を交わす。
ガルが私に、逃げろ!と言っているのが聞こえているのに脚が動かない。
耳に響く打ち合う鉄の音が恐怖を煽り、呼吸がうまく吸えない。ハクハクと口が震慄、身体が言う事を利かない。
ガルは一人を斬り捨て、一人は傷を負わせ剣を落とさせ、残りの一人と対峙している。
道に舞った血飛沫を視界に捉え、ジリジリと後ずさる事しか出来ない私に肩から血を流した男が懐から短剣を出し襲い掛かった。
殺気、と言う物を始めて知る私には恐怖しか無かった。
振り上げる短剣を視界に捉え、恐怖から目を瞑り身を縮めた。
その時
「リラ!!」
怒号と共に鉄の打ち合う音が聞こえてくる。
目を開ければ見知った背中。
ディルムンが短剣を持つ男と剣を芹合わせている。
「顔を上げろ!前を見ろ!」
その時背後から男が現れ私に剣を振り上げて来た。
とっさに身を翻したが間に合わない。
ディルムンは剣を芹合わせていた男を突き飛ばし私に振り掛かる刃を剣で防ぎ相手を撫で斬りにする。飛び散る血飛沫を目にして私は意識を離し掛けた。
その隙に私は短剣で斬られかかる所をディルムンに庇われた。すぐさまディルムンは短剣ごと叩き斬る勢いで剣を振り降ろし男は袈裟懸けに血飛沫を上げもんどりを打った。
ガルは残りの一人が手練れのようで梃子摺っていたが斬り捨て剣を鞘に戻していた。
騒ぎに警備の兵士が駆け付けて来た。
血で濡れた路地を放心して見つめる私にディルムンは肩を掴み、怪我はないか?と聞いてくる。頷くのが精々の私を引っ張り、歩けるか?騎士団に戻るぞ。と言われた。
ディルムンはガルに指示を出して私はふらふらとガルと騎士団に戻った。
医務室に連れて行かれ異常無しの医師の判断を貰うまで私は寝台から降ろして貰えなかった。
私はその後が気になりガルやディルムンに話しを聞きたくて探しているとブランブルに行き会った。
「嬢ちゃん大丈夫か!?」
「はい。ガルさんとディルムンさんのお陰で大丈夫です」
私の顔色はまだ悪い様で、休んで無くて良いのか?と心配されたが、大丈夫です。と答えるとブランブルはホッとしたのも束の間険しい顔をしている。
「ガルさんとディルムンさんは大丈夫ですか?」
その質問にブランブルが眉間の皺を更に深め深妙な顔で溜め息を付いた。
「………嬢ちゃんのせいじゃ無いんだからな?」
そう言うとブランブルは、こっちだ。と言われ付いて来った。
道すがらブランブルは話し始めた。
「嬢ちゃんを襲ったヤツの背後はまだ掴めてはいない。問題は………」
珍しくブランブルが言い澱み険しい顔をしている。
着いた先は医務室に隣接する療養室だ。
私もお世話になった事のある所だが……。
嫌な予感にブランブルの顔を見上げ伺う。
「………誰が?」
その言葉にブランブルはとある部屋の前に行きドアを開けた。
「………ディルムンさん」
寝台に横たわり意識はなく熱がある様で顔が赤く汗も酷い。
状況が飲めずブランブルを振り返れば視線を逸らされた。
「……かすり傷だったんだが短剣に毒が仕込まれていた」
息を呑み言葉を失う私にブランブルは言葉を続ける。
「強い毒でな……今夜が峠だ」
その言葉に私は立ち尽くすしかなかった。
*
パシャパシャ。
水音が部屋の響く。
桶に手拭きを浸して絞り額に置く。
毒による発熱は治まる気配も無く、意識が戻る兆しも見られない。
私を庇い傷を負ったディルムンの看病をブランブルに申し出た。
ブランブルには、無理はするな。と言われたが私は首を振るとブランブルは諦めた様子で溜め息を着いた。
ブランブルは再び、無理はするな。と私の頭を撫で部屋を後にした。
時折毒のせいか熱のせいか魘され呻くディルムンの汗を拭い手拭きを替える。
魘されるディルムンの名を呼び毒に負けないでと懇願の様に声をかける。
何も出来ない自分に腹が立ち憤った所でディルムンの容態は変わらない。ディルムンの手を握り祈る様に項垂れた。
時折医師が様子を診に来るが首を振る。改善の見通しが付かないようだ。
夜も更け、時だけが過ぎていく。
時折、唸る様な呻きと苦しさから敷布を握り歯を食いしばり苦しそうにする。
「…………ゔっ……………ぐっ」
「ディルムンさん大丈夫ですか!」
熱も上がった様で発汗も増え手拭きをまめに替える。
敷布を破りそうな勢いで握り締め苦しそうに身動ぎしている。苦しげに歪め歯を食いしばり固く瞑る瞼を手拭きで拭き額を冷やす。
「ゔぁあ゛ぁっ!」
ひと際苦しそうに呻くと腕を振り敷布を握り締めて苦しみを振り払う様に唸る。
汗を拭く為手を伸ばすとディルムンの彷徨っていた手が私の前腕を掴んだ。
「痛っ!」
無意識で掴まれた腕は容赦なくディルムンの握力で握り締められた。
「いっ……!!」
痛みで声も出ない。
緩められる事は無く、掴まれたまま私は身動ぎも出来ず激しい痛みを堪えるのに歯を食いしばり頭が朦朧として意識が遠のいていくのが分かった……。
どれ程時が過ぎたが分からないが私は腕の痛みで意識が戻り激痛で涙が出る。脈の振動で痛みが増していき、熱を持ち始めているのが分かった。
外は闇夜から未明が薄っすらと白み始めていた。
ディルムンはまだ、赤味が残るものの熱は少し下がり寝息も顔も幾許か落ち着きを取り戻した様子だ。
「………よか、った」
私は椅子に座り腕の痛みで寝台の縁に頭を項垂れて落とした所に医師が様子を観にきた。
「熱は落ち着いたな?脈も…大丈夫そうだ。あんたの看病のおかげだな」
徹夜で眠いか?と言っていたが医師は蹲り動かない私に訝しむと慌てて近寄った。
「あんた!どうした!?」
その後は痛みで私はあまり覚えていない。
私は治療され療養室に寝かされ薬を飲んで眠った。
意識が戻った時に私は医師にディルムンの容態を聞いた。
「大分落ち着いた。峠は越えたからそのうち起きるだろう。今はあんたの方が重症だ」
「では、…この事ディルムンさんに言わないでください。お願いします」
私のお願いに、分かった分かった。と返答すると医師は薬を置いて退室した。
薬を飲んで眠る間に誰かが腕や頭を冷やしてくれているのを私は微かに感じた。
私は眠気に負けて瞼を開ける事が出来なかったが優しく頭を撫でられ深い眠りに落ちた。
「指示通り、あの子には眠ってて貰ってますが……いいんですかい?痛み止めに睡眠薬なんて」
「痛みで苦しむより寝てた方がいいですからね」
「はぁ。そうですが………。まぁ、痛みや腫れが引くのに大体二週間は掛かります」
それを聞いたシャルトは、後はよろしくお願いします。と医師に言うと立ち去った。
*
私は熱に魘され意識は途切れ途切れだが、ふと目が覚め傍らに人がいるのが分かった。
虚ろな意識で、誰?と掠れ声で問い掛ければ、手を取り唇を落とすのはシャルトだった。
身動ぎで痛みの走る腕に目を向ければ、腕に巻かれているであろう何mもある包帯にビッシリと術式が書かれている。
その苦労はシャルトの目の下の隈を見れば分かる。
私は動く左手を伸ばし目の下の隈をなぞった。
その手をシャルトは握り、大した事無いですよ貴女の怪我よりはね。と握った手に唇を落とす。
「早く良くなって下さいね」
シャルトの声がぼんやり耳に落ちる。
私は再び眠気に襲われ眠りに落ち瞼を閉じた。
**********
私が起きて動ける様になるのに一週間以上掛かった。発熱で寝込んだようで痛みはまだあるが最初よりは引いているから動ける。
その頃にはもうディルムンも回復したようだ。
峠を越えて二日程は少し起きて眠るを繰り返し、一週間以上たった今は仕事に戻ったと聞いた。
私が起きていられる様になりブランブルが見舞いに来た。
「嬢ちゃん災難だったな……」
ブランブルは申し訳ないような顔をしている。
「別に。看病を申し出たのは私です。コレは私が迂闊な所為なので………ディルムンさんに言わないでください」
ブランブルは顔を顰めて溜め息をつくと、仕方ない。と肩を落とした。
ディルムンの様子を聞き普通に仕事に戻っていると聞いて安心した。
「ま、アイツだったから大丈夫だったが他のヤツなら死んでたな……」
そう聞かされ血の気が下がる。顔色の悪くなった私にブランブルは焦ったようで、アイツは毒耐性あるから大丈夫だ!と慌てて付け加えていた。
「全治一ヶ月半から二ヶ月か……」
その内バレるぞ?とブランブルに言われたが、それでもギリギリ内緒でお願いします。と私が拝む様に動く左手でお願いすると、仕方ない。とブランブルは不機嫌そうに頭を掻いた。大事にしろよ。と言うと退室をした。
前腕圧迫による尺骨骨折は内出血により大分腫れ痛みも続いたが、骨折による発熱で眠っていた為あまり覚えていない。
それよりも何よりも、私の骨折は残念な事に右手だ。
おかげで色々不自由なのだが、一番困る事が別にあった。
「リラ、食事を持って来ましたよ」
……困る原因が食事を持って来た。
シャルトは微笑むと寝台横の椅子に座った。
食事のトレイを寝台の端に置くと、どれから食べます?とフォークを持っている。
「自分で食べます。フォーク貸してください」
「リラは利き手を骨折したんですよ?それに無理はいけません。はい。あーん」
起きてからと言うものの食事はシャルトから、あーん。と差し出され羞恥に食べた気がしない。
差し出すたび蕩ける様な瞳に見つめられながら口を開けるのは恥ずかしく罰ゲームの気分だ。
毎回食事で疲労困憊の私に休息が欲しいです。
何かのTVで意識混濁時のこういう時は近づいてはいけない。みたいな話があった様な無かった様な、朧げな記憶です。




