5 ニャンコと吐露と招待と
体調不良で今回はちょっとです(´Д` )
「どう?一緒に飲まない?」
珍しいお酒あるのよー。とセレンに誘われ一緒に部屋で飲む事になった。
珍しいお酒に釣られた訳じゃない。ただ久し振りにセレンの部屋に行くのが嬉しかったからで、断じてお酒に釣られた訳じゃないです。
「久し振りよねー。同室だった頃が懐かしいわね」
「……そうですね。色々ありましたね………」
ローズピンクの液体は色々な果実を使った果実酒であまり造れないらしい。フルーティな香りが鼻に抜け甘く濃厚な味が口の中に広がる。
短期間に色々な事があり、話すネタは付きない。
来た頃の事、猫の時の事、騎士団で仕事する事になりそれについて聞かれたりする。
「そうよね。仕事があるのは大事よね」
「はい。それについては助かってます。おかげで居場所がありますから……」
仕事がある事は大事。
でもいつまで居られる?私の居場所って…………。
「その顔。悩み事あるんでしょ?話してみない?」
憂い顔になり浮かない私はセレンに心配をされた。
「溜め込んじゃ駄目よ。聞く事しか出来ないけど、吐き出さないとね」
ウインクをしてお茶目に顔を緩ませるセレン。そして優しく悟す様にセレンに言われ心の壁が崩れかかる。
「いえ……大した事では無いので……」
「なら話せるわよね?大した事じゃ無いなら」
笑みを浮かべて迫られセレンからの追求に上手く躱す事が出来ず詰め寄られしどろもどろになる。
泳ぐ視線にセレンは更に詰め寄り核心を付く。
「シャルトと何があったの?」
泳いでいた視線が止まり、私の動きも息も止まり思考が停止する。
「花祭りのあとからシャルトもシーニアも変だし、リラも変だからバレバレよ?」
あのシャルトが変なんて相当よ?と肩を上げ驚き顔だ。
どう変なのか気になるが聞くのもどうかと思っていると、それを読んでかセレンが続けた。
「妙に和かで仕事も積極的で気持ち悪いって向こうの隊長さんが訝しんでたわ」
…………ああ。もう。理由が理由なだけに、なんとも言えない顔をしているとセレンに覗き込まれ動悸が激しくなる。
「何があったの?」
言うまで終わらなそうで私は抱えたクッションに顔を半分埋めながらシャルトとの事の顛末を話した。
「…………………気持ちを…………伝えられて…………………告白、されて……………………でも……………」
私はしどろもどろに小声になりつつ説明をするが恥ずかしくて顔は赤くなり最後はクッションに顔を埋めて隠した。
「リラはどう思ったの?気持ちを聞いて」
「………分からない。…………今はここの生活に慣れるのが精一杯だし、恋愛してられないっていうか………」
目を伏せ俯き、自分の気持ちが良く分からない。と言うしか無かった。
セレンは聞いている間私に寄り添い黙って聞いていてくれた。
「そうよね。まだ半年だものね。記憶なくしたり、猫になったり、誘拐されたり、気持ちが落ち着かないわよねー」
セレンは遠い目をして溜め息をついた。
「ちょっと気早過ぎるわよねー。シャルトもシャルトらしく無いけど……女性相手なんて慣れてるだろうに、いい歳して焦るなんて駄目ねー」
三十近いおっさんがねー。と笑っている。あのシャルトをおっさん呼ばわりするセレンに釣られて私も少しクスリと笑えばセレンに頭を撫でられた。
「気持ちなんてゆっくりでいいんだからリラは気にしないでいいのよ」
セレンのおかげで心の澱が少し軽くなった様な気がした。お酒を勧められ口にするとホンワリと暖かくなった。
セレンもお酒に口を付けるとポツリと呟く。
リラはモテるから大変ねー。と悪戯な顔でチラリと見られ慌てて咽せた。
「ケホッケホッ!!……はい?モテてないですよ?」
「えー?シャルトにシーニアに、他は……………内緒」
セレンは、うふふふふ。と笑い悪戯な顔のまま言われ私はまたクッションに顔を埋める。
「シーニアはどうだったの?」
私は目を翳らせ俯くと、考えに沈む。
シーニアの気持ちは、今まで気が付かない振りをして誤魔化してきた。気が付いたら、“いつも” が壊れてしまう恐怖に逃げたのだ。
「ぅ………告白…されたけど………分からないの………いつもの様に出来なくなるのは怖いし…………」
私の纏まらない思考に答えの出ないこの状況はどうにもならない。
セレンは優しく包む様に頭に手を置き寄せてくれた。
「リラはリラらしく、ゆっくりでいいの。焦らなくて」
どうして良いか分からず出口の見え無いこの状況をセレンに話す内に少し楽になった様な気がした。頭を撫でられ優しく包まれると何だか涙腺まで緩くなる様でクッションに顔を埋めて誤魔化した。
「ちなみに、好きなタイプってどんなタイプ?」
セレンは興味津々に目を輝かせ楽しそうだ。
「……いや、そう言うのは……良く分からないです。……好きになった人がタイプって事で……」
「何、模範的回答してるのよー。細いのが好きとか、筋肉ムキムキが好きとか、無いのー!?」
「……セレンさん酔ってないですか?」
「酔って無いわよー。好みくらい聞かせなさいよー」
セレンに肩を掴まれ揺らされるのは酔いそうなので辞めて欲しいです。
「じゃあ、セレンさんの好みはどうなんですか?」
質問されて困ったら質問返しで誤魔化すしか無い。
「私は私より強い男じゃ無いと駄目ねー」
「じゃあ団長みたいな?」
うふふ。そうねー。と楽しそうに笑っているセレンの顔は読めない。
「両思いって難しいわねぇー」
セレンのその呟きは私には重かった……。
両思いどころか、人を好きになる余裕も無いのに無理な話だ。
「困ったら相談に来なさいよ?でないと心配するでしょ?隠してもバレバレよ?無駄だからねー」
騎士は気配読むの得意なのよ?とフンワリと優しい笑みで見つめられ頭を撫でられた。
私の悩み事は筒抜けの様で心配をかけていた様だ。
「…………………………はい」
どんな顔をしていいか分からずクッションに顔を埋め小声で返事をした。
セレンのおかげで心の曇りが少し晴れた様な気がした。
**********
「で、どうだった?」
「あら?さあ?どうだったかしら?」
リラと部屋飲みした次の日セレンはシーニアに捕まり詰問されている。
シーニアはセレンに詰め寄り批難の目を向けた。
「せっかく珍しい酒渡したのに情報無しは無いだろう?」
「あら。リラと美味しく頂いたわよー」
うふふ。と楽しそうに笑っているセレンをシーニアは半目で睨む。
セレンは、あら怖いわぁ。と笑い話にならない。
シーニアはセレンの顔色を伺いながら質問する。
「リラはどうだった?」
「悩みの原因の一人が何を言っているのかねえ?」
セレンはチラリとシーニアに瞥見する。
「……………………それ以外だよ」
「あら?分かっているのでは無くて?」
その言葉にシーニアは舌打ちをして、あの野郎。と低く唸る。
「あら?お互い様でしょ?」
怖い顔してると嫌われるわよー。とセレンはしたり顔でシーニアを揶揄う。
図星を突かれたシーニアはバツの悪そうな顔をしている。
「この貸しは高く付くわよー」
うふふ。と笑いながらセレンはその場を去った。
「何が、お互い様だ………………一緒にするな」
シーニアは頭をガシガシ掻き毟りながら俯いて大きな溜め息を付くと空を見上げた。
**********
告白され気持ちも落ち着かない毎日に、ある配達物がさらなる問題を私に届けた。
何時もの様に仕事に行くと、上質紙に丁寧な筆跡の宛名書きに蝋で封をした手紙が机に鎮座していた。
ディルムンが、困ったら団長に聞け。と言っているが何の事か分からず差し出し人を見る。
ーー 公爵 トリュー・メイフェイア
うわー……。
手紙を開けて読んでみればメイフェイア邸でのお茶会のお誘いの招待状だった。
困惑してディルムンを見るもディルムンは団長の部屋方向に指を差し、行ってこい。と呟いた。
私はガックリと肩を落とし、行ってきます。と口にするのが精々だった。
団長室のドアを叩き声をかけて入室を促されブランブルの所へ行く。
「どうした嬢ちゃん、浮かない顔してんな?」
「こんな物が届きました……」
ブランブルに手紙を差し出すと、受け取り、差し出し人を見ると眉間の皺が深くなり目付きも三割増し増しで悪くなった。
「嬢ちゃん、公爵と何かあったんか?」
ブランブルの訝しむ視線を逸らし気まずい空気の中ポツリと呟く。
「………王宮で…少し、話を……」
「はあ?王宮でか?」
花祭りでの経緯を話せばブランブルは、その手できたか……。と唸る様に呟いたのが耳に入った。
ブランブルが私に伺う様に、嬢ちゃんどうするんだい?と顔を向けられるも動揺して返事は返せない。首を傾げ思案顔で考え込むも名案は浮かば無い。
「拒否は出来ないですか?」
ブランブルに聞いてみたがいい顔はしない。
公爵、況してや宰相の招待を拒否してどうなるかを考えると難しい。と言われてしまえば欠席する訳にはいかない様だ。
「でも行きたく無いのに……。参加したく無いです」
不満顔で訴えるとブランブルは唸り、仕方ねえ。と呟くと
「暫くこっちで預かる。待ってろ」
ブランブルに面倒事を押し付けた様で気乗りしないが他に手段が無い以上任せるしか無い。ブランブルには考えがある様でお願いする事にした。
ブランブルに手紙を預け部屋に戻る。
部屋に入るとディルムンと目が合い先程の事が気になるだろうと思い、ブランブル団長に任せて来ました。と肩を竦めバツの悪そうな顔で報告すれば、そうか。と短い返事が返ってくる。
席に座り仕事に戻ると計算に集中して気をそらした。
ーー平穏な時間が欲しいなぁ………。




