表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第二部
45/85

3 ニャンコと残業と仮説と修正と


木々は青々と緑濃く茂り日差しは輝きを増し清々しい朝を迎える。

清々しい空の下には連なる山々。



相変わらず書類の山々が築かれている机の上を溜め息をついて眺めた。



「今日は残業ですね」

苦笑しながらディルムンに振り向き肩を落とした。

「今日中分はあげなきゃ帰れんからな」

幾分かディルムンも辟易した顔で肩を落としている様子だ。


決算、経費、様々な経理の計算をこなし山々を切り崩す。




今日中分が終わったのは、夜分過ぎ。

「はーー終わった……」

グッタリと机に突っ伏して疲れた身体を預け目を瞑ればこのまま寝てしまいそうだ。

ヤバい。寝てしまう。と独語しながら帰り仕度をする。

ディルムンも帰り仕度をして隊長室を後にした。


宿舎に一緒に向かい女性宿舎の前でディルムンと別れる。

「お疲れ様でした。おやすみなさい」

「……ああ」

そう言うとディルムンは男性宿舎とは違う方向へ向かう。

「あれ?ディルムンさんは宿舎じゃ無いんですか?」

「……上官は専用官舎を与えられている。近いからここの宿舎も借りているヤツもいるがな」

「じゃあ、わざわざここまで送ってくれたんですか?……ありがとうございました」

同じ方向だと思っていた私は送ってくれていた事も気が付かなかった。お辞儀をして感謝を伝えれば、……ああ。と短く答え帰って行った。

朴訥で分かりにくいけど気が付かない所で気配りをするディルムンに何だか頬が緩んだ。



ディルムンは無表情だが気配りをする。それを気付かせないのもディルムンらしい。


周りから紡がれる甘い賛辞と褒め称やす言葉は私には不相応で面映ゆい。

なにより気恥ずかしい。

ディルムンには賛辞も慕情も最初からない。

あるのは疑わしきは斬り捨てなのだ。


それが私には心地いい。

今の私はただ計算してやれる事をする。


ーー頼りにしている。


ディルムンの一言。

私の不安を払拭してくれたその一言。



無口無表情で眉間の皺が通常使用の仏頂面を見ると安心するとは自分でも可笑しかった。




**********



ある日ブランブルに話しがあると会議室に呼ばれた。


いつになく神妙な面持ちでブランブルは話しを始めた。


「嬢ちゃんはここでは稀有な存在だ。嬢ちゃんを護る意味でも情報公開するつもりないか?出しちまった方が楽じゃないかい?」


いきなりの申し出に面食らい言葉を無くす私にブランブルは、知識を武器にこの世界で生きてもいいんじゃないか?と提案してきた。


「そうして嬢ちゃん専用の護衛組織を作った方がいい。その為にも公開して保身するべきだ。公になればおいそれと狙えなくなるだろ」

本来なら国を挙げて護るべきなんだが。とブランブルは微妙な顔をした。

そんな扱いはゴメンだわ。と私は肩を竦めて困惑顔をすればブランブルが諦め顔で溜め息をついた。


「それに、何が起きるか分からないから辞めておきます」

「何が起きるとは?」

ブランブルの疑問に私は溜め息を付き目を伏せ視線を逸らした。


「世界の歴史修正が起きるかもしれないので辞めておきます」

「歴史修正?」

ブランブルは怪訝な顔で私を伺いながら見つめた。私は聞きかじりの知識を総動員する。


「仮説ですがあるんです。空想科学と言うか、空想?想像?妄想?どれにしても諸説ありますが、仮説では歴史介入の異端は消されると言う可能性です。歴史の修正の力なので異端者は排除されないと世界が歪む可能性があるとか?」


何かの話しか映画かで見知ったバタフライ効果?蝶の羽ばたき。とかだったか、知識でうろ覚えだけどそんな感じだった気がする。それがここに適応するか知らないが知識がある以上無視出来ない。

それよりも、自分の知識でこの世界が変革をもたらしてしまったら……と思うと恐ろしい。

生活の知識も兵器転用されれば終わりだ。


剣と魔術の戦争に、例えば火薬が加われば戦局が変わる。

ダイナマイトを発明して発展しても戦争拡大が付いて回る事を知っていれば教える事など出来ない。

一対一の剣での戦いと、剣と火薬では戦争で死ぬ人間が桁違いに増えるのが想像に難く無い。

知識がどう変化するか分からない私にはその覚悟は無い。



ああ、だからリアンは猫のままで歴史修正を逃れたのかな?なら私も猫のままがいいかもしれませんね?とつい口にするとブランブルは、それは流石に……と口篭る。



「私はこの世界の異端者だもの。居るべきではない者……」

目を伏せ抑揚なく答える私にブランブルはそれを打ち消す様に力強く否定する。

「でもそれは仮説だろ?」

「仮説でも可能性があるならこの世界を危険にさらします……」

それでも私は肯定する。

ブランブルは立て続けに質問を並べ私を責め立てる様に言う。

「死の可能性に対して、よく自分の事を冷静に客観視できるな?それで嬢ちゃんはいいのか?」

「別に?死ぬ時は死ぬし、……迷惑かけない方がいいもの」

無表情な私にブランブルは悲哀の眼差しを向け呟く様に言う。

「死が怖くないのか?」

「……怖いですよ」

「なら何故平然としていられる?」

「それは……」

言い淀み止まる思考。



ここで生きる意味がない。

ここで生きる覚悟がない。

ここで帰れる場所がない。


どこに生きる意味がある?

どこに帰れる場所がある?


身の置き所の無い孤独と虚無感に血の気が下がる。


どこにも帰る場所がない……。


死は怖い。

だが死より絶望が辛い事を知っている。

絶望の痛みから逃れるため、死を選ぶ事を知っている。


知りたくなかったのに、諦めるしかない。

リアンの気持ちが今になって分かる。

あの時の鳴き声の意味も想いも…………。





虚ろな目の私にブランブルは強く言い放つ。


「嬢ちゃん、変えない覚悟と助ける覚悟どちらも同じだと思うが?」

「?」


言っている意味が分からず首を傾げる私にブランブルは熱く鋭い眼光で見つめる。


「助けることで相手の未来を変える覚悟あるのかい?変えるの怖くて見殺しかい?」

見なかった事にできるのか?と私に問い掛けるブランブルの鋭い瞳に視線が逸らせない。


「み、見てしまったら、見なかった事にはできません……」

私は掠れる様に言うとニヤリと口元の端を上げた。


「なら同じだろ?早いか遅いか。今か後か。歴史修正とやらの死なんざ俺ら騎士団が跳ね除けるさ」

ま、二度も攫われてりゃ信用はないか?と続けブランブルは肩を落とすと面相を崩した。


「い、いえ!そんな事ないです騎士団にはお世話になって頼りにしっ放しで…

「なら護らせちゃくれないかい?」

私が言い終る前に言葉を被せられブランブルは自信ありげに不敵な笑みを浮かべている。


「…………ブランブル団長は男前ですね」

「当たり前だ、伊達に団長やってねえよ」

私は眉を下げ半分呆れ顔で呟けばブランブルは腕を組み胸を反らした。

「惚れるなよ?」

「ふふふ」





「そろそろウチの計算担当を返して貰って良いですかね?」


思わずブランブルと笑っていると部屋の後ろから声がして振り返った。

ディルムンがドア近くの壁に凭れ掛かり腕を組んで立っていた。ブランブルはニヤリと人の悪そうな顔で笑う。


「おう、出迎えるとは熱烈だな?」

「………仕事が進みません」


ディルムンは露骨に不機嫌な顔をするとブランブルを一睨みした。


私はブランブルに、これで失礼します。と席を立ちディルムンと退室した。

ディルムンがいつから聞いていたのか分からないが気まずい私は俯き部屋へ急いだ。




ディルムンの表情は変わらない、何時もと同じ無表情。

変わらないなら変わらないで良いか……と私は割り切り仕事に向かった。



私は追求せず変わらない態度で距離を詰めないディルムンに無関心でいられ助かっている。シーニアやシャルトの様に詰め寄られてしまうと、どう対応して良いか戸惑ってしまう。

好意は嬉しいが受け止め切れない自分を持て余してしまう。放任主義で育てられた私には変に干渉されると困ってしまう。


恋愛を意識できる状況では無い以前に、私は恋愛が怖いのだ。

誰かに頼り依存する事が。

自分で立てなくなり歩けなくなりそうで独りを選んでしまう。

恋愛と依存は違うと思うけど、二人は私を甘やかす。

それに縋ってしまいそうで、それが怖い。

それを失う怖さに、最初から手にしない事を選んでいる自分。


身寄りの無いこの世界で私の居場所など何処にも無い。


独りで身軽が一番気楽なのに…………。


二人の気持ちに答えを出せぬままで憂鬱が溜まる。それを吐き出す様に大きな溜め息を吐き机に向き直しペンを走らせた。



空想科学の知識は映画の戦国◯衛隊とか色々なタイムトラベル的な映画や小説からのリラの勝手な解釈だと思って下さい。SF知識皆無なので、リラの適当な知識。としてスルーして貰えると助かります。

科学的にSFを考えられる方は尊敬します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ