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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第一部
4/85

4 ニャンコと出会いと発覚と

やっと少し話しが進んだ。


猫を拾った。



拾ったのは偶然だった。



シーニアはいつも通り訓練所で訓練をし、水を飲みに水場に向かった。


シーニアの置いた手拭きが風で飛ばされ木陰に落ちた。

目を向けると木陰に横たわる黒い塊り。

シーニアは手を伸ばし撫でると微かに呼吸を感じられた。

「生きてるか…」


外はまだ冬で寒い。元気になるまでは。と思いシーニアは部屋に連れていき面倒を見た。


騎士団敷地内にも何匹か猫はいるが、それらとは違う猫のようだ。新参で来て縄張りに負けたのかな?などと思い身体を診るが怪我は無いみたいだった。


補給隊の自分にとって物資を守る猫は同士なのだ。

ネズミや鳥が物資を荒らすがそれを排除する猫はやはり仲間扱いなのだ。




『ウ二゛ャァァァーーーーーー!! 』


元気な雄叫びで猫が起きたのが分かったが、酷い鳴き声にシーニアは笑いがこみ上げた。


「お?気が付いたか?早く元気になれよ」

撫でていると猫はまた眠った様だ。




シーニアは元気になった猫にエレと名を付けた。


毛も目も黒いエレ。

真っ黒い猫はなかなか居ないので良く目に付く。

部下の所に行きオヤツやツマミをもらってるのを良く見る。


シーニアはある日、エレが何かを運んでいるのを見かけた。

お気に入りの敷布でも運んでいるのかと思っていたがどうやら違ったようだ。

部下から渡された書類に小さい噛み跡と可愛い肉球の跡が残っているので分かった。


またある日にはケンカを始めた仲間の間を歩き仲裁のような事までしていた。


「うーん。君は不思議な猫だねぇ」


寝る時たまにシーニアの部屋に来て眠るエレを撫でながら呟いた。






**********







空は雲に覆われ寒い冬を更に寒くさせる。


猫はコタツで丸くなる寒さに外に居るなど出来るはずも無い。

私がセレンに騎士団休憩室で甘いお菓子に誘われれば簡単に捕まるのも仕方が無いと言うものだ。

だが、セレンに全身くまなくモフられる。モフるのは好きだがモフられるのは好きじゃない。



『フギャーーー!フニャーーー!ウニャーーーーー!!』

( くっ!くすぐったい!イヤーー!横腹ダメーーーー! )



『ニャーーーーー!!』

( 離してーーーー!! )


私はくすぐったくて身を捩り逃げようとするが難しい。流石騎士。手中に収めたら脱出は無理そうです。はい。

セレンは楽しそうに撫でているし。

隣のシーニアは眉間に皺を寄せ微妙な視線を送っていた。

そんな所に来客が来た。


「シーニア客だぞ」

滅多に喋らないディルムンが客を連れてきた。

「魔術師シャルトと申します。補給部隊の書類が此方に紛れていたので届けに来ました」


「あ!悪い。わざわざ申し訳ない。合同訓練で紛れてたか」


月に何度かある騎士団と魔術師団の合同訓練。共有する物質が多い分、やり取りも増えよく書類が紛れる。


シーニアは近づき書類を貰おうとして、ふとシャルトの顔を見ると驚愕した表情を浮かべていた。

シーニアは、俺?変な顔してるか?イヤ、目線の先は…猫か?と、怪訝な顔でシャルトを見つめた。


「アレはなんです!?」

シャルトは驚愕に震えながら猫を指している。

セレンは猫の脇を両手で挟み猫の私をブラーンと伸ばしながらシャルトに向く。

見たとおり猫だよ。とばかりにセレンが見せればシャルトは首を振る。


「猫が魔力を持っているなどありえないですよ!?」


その言葉にシーニアが微かにピクリと反応した。

それをディルムンは見逃さなかった。

「シーニア何か知っているのか?」


ディルムンの鋭い視線の追求にシーニアも背筋がヒヤリとする。殺気では無いのに血が凍る気分だ。流石、氷の番犬と呼ばれるだけはある。





シーニアは数週間前にあった事を話し始めた。



猫を拾って看病し、エレと名前を付けたのはシーニアだ。

エレは元気になり敷地内を散歩したり獲物を運んだり、自由にさせていた。



その日は朝から雨で、止んだのは夜中。


満月の夜も厚い雲に覆われれば闇夜となる。

エレは雨の日や寒い日などはシーニアの部屋で寝る事がある。その日もいつもの様に窓際のソファーで寝ていた。

厚い雲が一瞬切れ、月明かりが差し込んだ。

満月の月の光はエレを強く照らした。

その時エレに変化があった。

猫の四肢や身体が膨らみ、伸びてゆき、毛皮に覆われた身体が肌になり、気がつけば一人の女性が横たわり眠っていた。

それは一瞬の事。

雲が流れ光が遮られ視界が闇に呑まれた。闇に目が慣れた時には、また猫のまま眠っているエレがいた。


「あ、あまりにも一瞬で、ありえない事だからっ。寝ぼけてたと思うようにしてたんだっ」


女性が横たわり寝ていた。発言以降からシーニアを見るセレンの目線が剣呑に変わり、焦ったシーニアがアタフタしている。


( うん。欲求不満に見える。って思われるよねー、って!月明かりで猫化解除出来たの知らないんだけど!? 満月って言ってた?猫助けたのも満月だし、関係あるのかな? ってか、人前で裸じゃん!一瞬でも裸じゃん!!ありえない!!!まだ誰も見せて無いのにーー! )


私は恥ずかしくて脚をジタジタするがこちらの心境なんて誰にも分からない。



( はぁ… 公開処刑だ…… )







話しを聞いてひとしきり考えていたシャルトはある仮説を話す。



獣になる術は存在する、と。



獣化術は超上級呪文で術式も複雑なため一般には知られていない。

しかも成功者は開発者のみ、という難しい術。過去に何人もの魔術師達が試してきたが誰一人成功した者は居ない。


簡単に出来る術では無い。未だに開発者しか成功していない術。

シャルトにそう聞かされた三人も複雑な顔をして猫を見つめる。私としても獣化など初耳だし、訳が分からずコテンと首を傾げるが、私は四人からの視線を浴びて居た堪れない気分になる。


「じゃあ、コッチの会話は理解してた訳よね?それなら色々な行動してたのが頷けるわよねぇ?」


ドキりとした。


目覚まし代わりも、探し物も、ケンカの仲裁も出来る筈よね?とセレンは付け加え、両手でぶら下げられている私を覗き込んで呟く。


私は何とも言えず目を反らした。


( 書類運び見られてたか )

心の中で独言る。


「中身は人ですからね」

シャルトの一言に事の重大さに改めて気が付き一同が黙ってしまった。



最初に口を利いたのは意外にもディルムンだった。

「その猫が獣化した人間ならば間諜の疑いがあるわけだな。情報を吐かせられるか、出来なくば殺すかだな」

ディルムンの厳しい視線に私も固まる。

頭をよぎるのは、拷問?尋問?もしくは殺処分!?

私はつい焦りジタバタし、目線が泳ぐ。

その様を見たディルムンは薄ら寒い笑みを口に浮かべ眼光鋭く視線を私に向けた。


「どうやら会話を理解しているようだが?」


ディルムンは口元を薄笑いでニヤリとすると、今度は殺気を乗せた鋭い視線に私は身じろぎすら許されなかった……


( 動いたら殺られる…… )

血の気が引く様な気がした。






シャルトは月の光で変化した事が不思議だった。


私を調べるためシャルトにコねくり回されたが大人しくする。

避けれない、逃げれない、隠れられない。の無い無い尽くし。逃げたら殺すゾ的なディルムンの殺気に晒されて逃げれる訳がない。

まあ私も調べて貰って、人に戻れるなら戻りたい。

……殺されたくないけど。


シャルトはひとしきり私を撫で回し気が付いた事を話す。

「魔力は高いですが安定していないですね。かなり不安で変動しています。それが満月の光で影響を受けたのかもしれないですね」


魔力は満月時に能力が跳ね上がる。体質で差はあるが、それが影響したのではないかと。


獣化の力と人に戻る力なら、本来の人に戻る力の方が強いから、獣化が解けたのではないか?


その説明を聞いてシーニアはエレを人に戻す方法を尋ねた。

「エレに魔力を足せば戻ると言うことかな?」

「たぶんですが……」

シャルトにも、こんな事初めてだ。

ましてや超上級術。獣化した者自体見た事も無いのだ。術を理解している訳でも無い、状況判断の憶測ではあるが、試してみたいのだ。術師として。


「魔力を注ぎ、魔力回復では無く魔力過剰に持っていけば良いかと思いますね」

端的な説明で3人は理解した。



( だが断る! )


( 私は理解したくない! )


( だって気が付いたんだもん!! )


( 術解けたらマッパだぁぁぁーーーー!!! )


突きつけられた現実に私は羞恥心でジタバタする。

「今更抵抗か?面倒なら殺るぞ?」

ディルムンが双眸を細め鋭い視線を私に向けた。


( ディルムンの凍てつく視線なんか知るかーーーー! )

今の私は恐怖心より羞恥心が勝った。


「ディルムンが怖いからだよ。脅すなよ」

シーニアは、怖くないから、と私を安心させるため撫でてくれた。


「大丈夫。ちゃんと話しをしよう。ね、悪いようにはしないから、大丈夫」

シーニアは優しいく私に話しかける。が…………



( 怖いんじゃなくて恥ずかしいんだってばーー! )


誰も私の心は分からない。伝わらない。




「魔力回復の術と同じなので今からからでも簡単に出来ますがどうしますか?」

シャルトに聞かれ、本当に獣化なのか、ただの猫なのかハッキリさせるためにもとシーニアはシャルトにお願いした。



シャルトは術の準備を始め、ケースに入った巻かれたリボンを何本か出して並べた。前に垂らしていた翡翠色の髪を後ろに流し身を整えた。



この世界の魔術には術具が必要だ。


術具はリボンのような紐に術式呪文を書く。術の種類毎に何個も持ち歩くのが一般的だ。

すぐに使う術はリボンを紐状にし、ミサンガの様に編みブレスレットの様にして腕に付けたり、髪に巻いたり身に付けていたりする。後は包帯の様に巻きロール状にしケースに入れて持ち歩くのが一般的だ。上級呪文程にもなると何メートルも必要になったりする。丸くサークルの術式は四角い紙か布に描く。嵩張るので魔術師はポーチやカバンを肌身放さず持ち歩く。

シャルトはガンマンが弾をベルトに刺す様に弾帯に術式のケースを刺している。


術を使用し効力が無くなると文字が消えたりリボンが切れたりする。

魔具を使わなくても術は使えるが魔力を大量に消費するため魔具推奨になっている。



「暴れて逃げらても困りますから、眠りの術を掛けておきますね」

シャルトは青いリボンを取り出し術を発動させる。

「ー開封ー かの者に眠りをー」



( !!?ナンデストーーーーー!!! )

抵抗虚しく私は眠りにつかされた。


◉登場人物覚え書き◉


◉シャルト・メイフェイア 181cm 29歳

魔術師団第1部隊副隊長

エメラルドグリーンの髪(翡翠)、赤紫の瞳

胸元位の髪の長さ

すっきりとした目元、通った鼻筋、薄く形の良い唇、磁器の様に白い肌、赤紫の瞳がよく映える美丈夫。

イシェルワ国で1、2 位を誇る魔力を持つ魔術師。公爵家4男。顔、実力、地位、三拍子揃いで日々浮名を流す。

2016.1127上記追加


誤字脱字、矛盾ツッコミありましたら、よろしくお願いします。ヘタレなのでお手柔らかにお願いしますm(_ _)m

2016.12.4改稿

誤字脱字、人称修正

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