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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第一部
37/85

32 ニャンコと私と日常と



世間は花祭りが終わり静けさを取り戻し何時もの街に戻っている。


私には怒涛の花祭りが過ぎ自分の思考が落ち着き冷静に理解してくると頭を抱えていた。


( 単純に考えて、二人から告白された訳だよね…………。こ、……告、白…………。告白…………………。………………どうしよう………………)


獣化研究で騎士団に来ているだけのシャルトが私に告白などあり得ない。況してや、美貌の公爵が平凡な日本人顔に興味を持つなど思いもよらない。

揶揄われているだけだと思っていただけにあの告白を受け止められる心境になれない。

おまけにシーニアにも告白され精神攻撃に追い討ちをかけられて悩みが増えた。


( 好きとか、付き合いとか…………考えられないよ…………無理過ぎる………… )


女子校女子短で男性との付き合いは無く、仕事の同僚は40代前後の男性と言うよりオッサンばかりか、年下の後輩位でトキメク事など皆無だった。


今まで恋愛に興味を持っていない、と言うより多分私は、自分を信用していない私が誰かと付き合うとか考えられないのだ。

共働きの両親は私に関心が無い様で、具合が悪くてもランドセルを背負い医者行ってから小学校に行ってた。風邪引いていても何時も一人で病院に通う。家で寝込むと迷惑になるから風邪でも小学校行ってた。

高校短大は私立に入れさせて貰ったのは感謝している。社会に出て身に付けた教養に助けられた。バイトもして頑張ったけど親の負担になりたく無くて無理していたのだろうなぁと、今なら思う。



二人には、頼って欲しい。甘えて欲しい。と言われたけど…………。


人に頼る?

親にも頼らないのに?

そう生きて来たのに…………今更、難しいわ………。


親から愛情を学ばなかった私に愛の返し方が分からない。二人の想いが重くのし掛かる……。


私は項垂れ溜め息をついた。



昼間は計算で頭を悩まし思い出す事は無いが一人になると数々の事が頭を過ぎり気を重くする。


まんじりともしないで寝台に身を預け日夜頭を悩ます。






何時もの様に、何時もが過ぎる。


ただ違うのがシーニアとシャルトの態度だ。

花祭りから二人の態度が加速した。


会えば手を取り唇を落とし想いを囁かれ接触が増えて赤面物のアプローチにこちらは逃げ腰になる。思わず会わない様に避ければ食堂で待ち伏せされる。



(もーーー!部屋で一人で食べるーーーーーー!!)



**********



私は二人のアプローチから逃げる為、街に行く事にした。

いつも通りにドウェルに警護を頼み玄関で待っていた。





それが何故、警護がシャルトなのか分からない。


「貴女に会えて嬉しいです」

手に唇を落とし握ったまま離さないシャルトに頬を赤らめて抗議しても微笑まれて埒があかない。

回避するつもりで街に出たのにピッタリくっ付かれ計画倒れも甚だしい。


「…………離れて下さい」

「離れたら護れないじゃないですか」

私はシャルトに腕を組まれ手は指を絡ませ繋がれて逃げる事も叶わない。

思わず、猫になってでも逃げたい…………など思ってしまった。

( ……ん?猫?……いいかも? )



「今日は何を買いに来たのですか?」


シャルトと顔を合わせない為に街に逃げて来た。とは言えず、…………散歩です。としか答えられなかった。


ふらふらお店を見てもシャルトに、これが似合いますね?コレも良いですね。と言われ、気がつくと支払っていてアレコレ買われてしまう。拒否するも、男の矜持です。と躱されしまう。

息抜きに来たのに息抜が抜けないなら帰ろうかとしていたら、騒がしそうにしている所に出会した。



野次馬で近づくと10才位の女の子が泣いていた。

周りの話を聞いていると、お忍びで来た貴族の娘が女の子とぶつかり謝罪を要求し、女の子が持っていた物を謝罪として取り上げたらしい。

ただ、女の子が持っていた物は亡くなった祖母の形見らしく少し高価だった様だ。

女の子は今日は自分の誕生日でそれを身に付けていた様だ。

泣いている女の子に母親らしき人が、リニー諦めなさい。仕方ないでしょ?と宥めて家に入って行った。


居た堪れ無くてその場を離れればシャルトは、

話を聞くとストラ子爵の様ですね。横柄で有名です。と辟易した顔で呟いた。


「何処に住んでいるんですか?」

シャルトは騎士団と反対側の王城の向こうを指差すと、王城の西の外れにある森に別邸を持っていますよ。と教えてくれた。


私は気分を削がれたので早々に部屋に帰る事にして騎士団に向かった。

道中シャルトに、もう帰るのですか?もう少し一緒に散歩しませんか?と言われたが丁重にお断りをした。

(息抜きに来たのにーー………………)



宿舎に帰り部屋で寝台に横になり一息付くと先程の情景が頭をよぎる。


……祖母の形見。

もう会えない祖母を思い出し胸が痛む。



うたた寝の様に何となく微睡んでいると、なんだかフワフワしている様な気がする。





この感覚…………あの時と同じだ………………






その感覚に身を委ね、頭の中に浮かぶリボンを掴んで…………………………唱えた…………。











塀を乗り越え屋根に登って降りて、街の中をぬって走り抜ける。


身軽にまた塀を登りその上をバランス良く歩き、屋根の上で周りを見回した。


( 見晴らしいい〜。身軽っていいわね〜 )


警護も無く街を歩くのは初めてだ。

今の私に付いてくる者は居ない。




………………何故なら猫だからだ。




獣化のシステムは私には分からない。


シャルトに研究の一環として聞かれたが全然分からず答えられず役に立たなかったのだが、先程の感覚で思い出した。

術その物は理解していないが、頭の中でリボンを思い浮かべると自分で獣化が出来たのだ。



街の中を抜け、街道に入り道なりに進んだ。

猫の脚ではだいぶ掛かりそうなので通りすがりの馬車の荷台に飛び乗って荷物のてっぺんに登り周りを見回した。

( 楽〜。でもちゃんと場所聞けば良かったかな?無鉄砲すぎたかな…………)

とは言え、来ちゃったので私は道なりに考える事にした。



目指すは王城の西の外れにある森。

ストラ子爵の別邸だ。



道を眺めていると少し狭い道と枝分かれしている。その道は馬車の轍の跡しか無い。人が歩かない道に見える。

私は馬車の荷台から飛び降りその道へ向かった。


貴族の屋敷に徒歩で向かう人は少ない。馬車が主に使われるなら轍が多くなるだろう、と思い脚を進めた。脚を進めれば道は森の中に入っていく。



( うん。ビンゴ!)

屋敷の屋根が木々の間から見え隠れし駆け足で向かった。


屋敷の柵をすり抜け庭を抜け周りを見回して確認する。



人の話し声に耳を傾け集中し辺りを窺うと女の子の声が聞こえる。聞こえた方の部屋に近づき耳をすます。



『ぶつかってきたのは向こうよ!だから庶民は!』

『怪我が無くて良かったな』

『勝手に抜け出すのは駄目ですよ』

『勉強飽きたんだもの!』


色々まだ会話は続いているが聞きたい事は聞けた。

( この娘か…………)


彼女の動きに集中する。

親に叱られ部屋に戻る様だ。

耳を澄まして足音を聞き取り方向を定める。

屋敷を周り廊下側の側面から伺えば二階に上がっているのが見えた。

廊下の突き当たりの部屋に入っていくのが見え屋敷の中に忍び込めそうか周りを見渡した。屋敷の外壁には飾りや溝があり何とか縁を伝って行けそうだ。

一階のバルコニーから外壁の飾りに脚を掛け縁に沿って部屋に近づくと窓から彼女が見えた。

その手には翡翠の彫細工の髪留めだ。


彼女の横柄な呟きが聞こえた。


『庶民のクセに生意気よ!こんなの!』


彼女はそれを投げ捨てた。


( ……………………)



私は縁を歩き開いている窓を探したが見当たらず途方にくれた。が、暮れている場合では無い。


『ニャアァ』


ひと鳴きすると窓をカリカリと掻いた。

彼女は驚いた様で窓を見て開けてくれた。


「どうしてこんな所に猫が?」


訝しむ彼女の気を逸らす為鳴いて中に入った。

『ニャアー』

鳴いて擦り寄れば、可愛い。と撫で彼女も満足そうにしているのを横目に、私は部屋の中で色々身体を擦り寄らせ、猫っぽく動く様に努力した。

偶然を装ってゴミ箱にも擦り寄りワザと倒す。

彼女は慌てるが、私はその前に素早くゴミ箱の中に頭を突っ込み中の髪留めを咥え窓に全力疾走する。

ひょいと窓の桟に乗り、呆気に取られている彼女を尻目に外に出ると来た道を急いで戻った。



後ろも振り返らず道を走り抜ける。

枝分かれした所まで戻ると道ではなく、道沿いに森の中を進んだ。

咥えているのは高価な翡翠だ。人に見つかったら取り上げられる。慎重に森の中を進んだが、ずっと咥えているのは疲れる。置いて休む、を繰り返してゆっくり進んだ。


日はいつの間にか傾き、森の中は暗くなってきたが猫は夜行性。夜目が効いて楽だ。






日は傾き夕暮れとなり帰路につく人々が路に溢れる。


来た道を戻りまた街の中を屋根伝いに歩き、人目を避けて抜けて行く。



昼間騒動のあった所の近くの家に入って行く女の子の後姿を思い出し、その家に近づくと向いの屋根からその子の家の様子を伺った。


まだ女の子の泣き声が聞こえる。

それ程、祖母の形見は大切だったのだろうと思うと胸が痛み私はドアの前に降りた。


カリカリカリカリカリカリカリ………。


ドアの音に気が付いたのか人がドアに近づく足音が聞こえ、私は髪留めをドアの前に置いて物陰に隠れた。

開かれたドアから母親が顔を出し、カリカリ掻く音に、下か?と視線を落とすと髪留めに気が付いた。

「まあ!?なんて事!??」

髪留めを手にしてドアを閉めると女の子の名を呼んでいた。


女の子の驚く声を耳にしながら私はドアを後にして路地に入り帰路に着く。



つもりだった。







「リラ、満足しましたか?」



不意の声に身動き取れずにいると抱き上げられた。驚きの余り微動だに出来ずにいるとシャルトにガッシリと捕獲され抱き締められ身動きが出来ない。


苦しさに前脚でシャルトの顔をタシタシ叩けば少し緩めてくれたがその表情は怒っているのが良く分かる。

それが、心配から来る物だと気がつき申し訳ない気持ちになる。

耳もペタリと下がりショボンと目を伏せて謝罪の姿勢を取ればシャルトは困った顔で私を優しく抱き抱えた。

「無事で良かった」




騎士団に戻ると団長と隊長達のお出迎えで、事の大きさに血の気が引いた。




ニャンコでチョット外出のつもりが…………

………………このまま逃げたい……………………。




会議机の上に乗せられ項垂れるニャンコな私。


ブランブルの人相は三割り増しで怖いし、シーニアには、心配した。と撫で回され、セレンには呆れられ、ドウェルとディルムンには静かに睨まれていた。


耳をペタリと下げ尻尾で身体を巻き項垂れ身を縮めていたが、ブランブルに戻す様にシャルトに言っているのが分かり私はシャルトに訴えた。


『ウニャニャニャニャウニャウニャウニャ!』

( 自分で戻れるからシャルトはやらないで!)


……伝わらないのがモドカシイデス!!


セレンが、リラ何か言いたいの?と聞いてくれる。流石素敵女子。

私は、ウンウン!と力強く首を縦に振り意思を伝える。


「でも困ったわねー。分からないのは……」


それを聞いて私は爪を出し空中に文字を書くジェスチャーをする。


セレンはそれを見て、インクと紙持ってくるわね。と席を離れた。

「リラ、筆談?」

シーニアが私を覗き込んで聞いて来たので、大きく頷くと、成る程。と納得していた。


セレンがインクと紙を持って来たので爪にインクを付け、掠れ掠れに文字を書く。


[自分で戻れる]


それを見たシャルトが驚いている。

「リラ術具持って無いですよね?何故出来るのですか?」

詰め寄られても、ニャー。としか返せずシャルトも困った顔をしている。


「まずは人に戻るのが先決だ」

ブランブルの言葉に皆が頷き私はセレンに抱かれ部屋に戻った。

…………ここじゃ服が無いからね………………。


シャルトが私の術解除を観察したくて詰め寄ったがセレンに睨まれ諦めた様だ。




部屋に入り布団に潜り目を瞑る。


思い浮かべるのは、あの感覚。


魔力の熱を感じそれを増幅させると………………



前に感じた、自分の身体が内側から膨れる様な、突っ張りながら広がっていく様な、妙な感覚に支配される。少し怠い気がするが前と違ってすぐ動けるのはリアンの魔力が私に馴染んだ証拠だろうか。



人に戻り服を着てセレンに向き合うとまず謝罪した。

「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「流石に驚いたわ。また誘拐されたかと思って、大捜索が始まる所だったわよ?」

セレンは苦笑いをしながらも諌める様に私に言った。

その言葉に自分の迂闊な行動でかなりの迷惑をかけた責任に胃が痛くなりそうだった。



会議室に戻るとブランブルにジロリと睨まれ血の気が下がった。


「ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした」

私は深々と頭を下げ謝罪をした。


ブランブルは腕を組み凝視すると私は詰め寄らられ詰問された。

「どう言うつもりだ?」

「す、すみませんでした…………」

余りの迫力に圧倒され身を竦め謝罪する私にブランブルは深く溜め息を落とす。

「何故獣化したか聞いているんだが?」

「そ、それは、…………」


街であった事、試したら獣化出来てしまい、チョット冒険してしまった。と説明してまた謝罪した。


ブランブルの極悪人相三割り増しはそのままで詰問が続く。

「嬢ちゃん何故相談しない」


その言葉に私は項垂れた。

人に頼るのが苦手。

一人が楽なのだ。


「……一人で動ける事が嬉しくて調子に乗りました」

訝しむブランブルに、外出が護衛付きなのは分かりますがやはり息が詰まります。と愚痴の様な返答を伝えれば、ブランブルの三割り増しが元の顰めっ面に戻った。

「嬢ちゃんを護る為だから仕方ない事なんだがなあ」

ガシガシと頭を掻き考え込むブランブル。


「シャルトから話しは聞いてる。ま、大事に成らず良かったが、せめて一言くれ」

報告くらいは出来るだろ?そう言われてしまえば私は申し訳無さにまた謝罪した。





この後、シャルトに獣化の経緯を求められ遅くまで付き合わされた。

微睡みながらで、何と無くできた。何と無く頭に浮かんで良く分からない、良く覚えてない。と私は上手く説明出来ず、その間中シャルトに手を握られ見つめられ羞恥心とも格闘しながらに精神を削られた。



一人でノンビリ出来るのはいつの日か…………。




**********





私の希望を聞いてからブランブルから妥協案が提示された。


それからと言うもの、ブランブルに散歩報告をして散歩する事になった。




もちろんニャンコでだ。




街への買い物は相変わらず護衛付きだから変わらない。

護衛なしで大事になるのは御免なので諦める事にした。




その代わり、ニャンコでは自由に動ける様になった。




ノンビリ散歩して街の中を駆ける。

街を駆ける馬車。行き交う人々。

監視のいない自由な時間。



リアンの記憶なのだろう、リボンを脳裏に浮かべると術具無しで術が使える。まだ獣化術しか使用した事が無いからそのうち他の術もシャルトに教えて貰おう。



シャルトが付き纏ってくるので屋根伝いに歩いて逃げる。

シーニアに見つかると、エレの時みたいで懐かしい。と撫で回されるのでやっぱり逃げる。


( のんびり一人になりたいのよー!)




私のニャンとも異世界な日々はこうして過ぎていった。




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