31 ニャンコと告白と打ち明けと
春の花祭りは一週間催される。
花祭りも佳境に入り人々の熱気は冷めやらない。
今日も街中は祭りの賑やかな音楽と喧騒に包まれ人々が踊り明かす。
今日も晴れて祭り日和だ。
私は起きて食事を済ませ身支度をする。
胸元を着物の様に打ち合わせているワインレッドのカシュクールドレスを着てウエストを結わき、化粧をして緩く髪を編んで結い上げ整える。シーニアに貰った髪飾りを着けて完成すると宿舎を出た。
シーニアが宿舎前でもう待っており待たせるのは好きでは無いので小走りで向かった。
「シーニアおはよ」
「リラ!コケたら大変だから走らないで!」
「待たせるの悪いから」
大した距離でも無いのにシーニアは心配性だ。
「リラ素敵だ。凄く魅力的で独り占めしたい!」
「シーニア!」
恥ずかしさで口強くシーニアな名を呼び睨み上げても私に微笑んだままで効いていない。私はいつもの事とは言え羞恥に熱くなる。
「今日も晴れて良かったね」
日頃の行いが良いからね?とお茶目にウインクするシーニアに、誰の?と悪戯顔で聞けば、俺!と胸を張っている。
私が可笑しくてクスクス笑えばシーニアは何時もの照れ隠しに鼻の頭を掻いている。
厩舎に向かうと乗馬が出来る様に馬が出されている。
「馬で行くの?」
「うん。中央広場までは結構步くからね。近場の詰所に馬を置かせて貰うんだ」
今の詰所はお祭りの警備で大勢勤務している状態だ。
シーニアから馬のお世話を押し付けられる担当さんごめんなさい。と私は心の中で謝っておく。
相変わらず私は腰を抱えて上げられるのは苦手で声を上げない様に耐えるのが大変だ。今度はシーニアにクスクス笑われて部が悪い。
「擽ったくて苦手なんだもん」
私は照れ隠しに口を尖らせて不満を態度に表せばやっぱりシーニアにクスクス笑われた。
出発すると私はシーニアに掴まり馬の揺れに耐える。
街を歩く人々は艶やかに着飾り花飾りをした馬車が通過してゆく。賑やかな音楽に乗り踊る人々を眺め詰所で馬から降りる。
「よっ!馬を宜しくな!」
「「はっ!」」
背筋正しく手綱を受け取る警備の兵士さん達に私は、すみません。と頭を下げてシーニアと詰所を後にした。
「まず何処に行きたい?」
「うーん。分からないからシーニアのオススメは?」
「広場で大道芸を観て人気の出店を食べ歩きして後は適当?」
「人気の出店!?」
前回大して食べれなかったのが未練だったので私の目は輝いていたに違いない。シーニアに、プッ!っと吹き出されたくらいキラキラだった様だ。
「出店の食い付きに嫉妬しそうだな」
含み笑いを噛み殺し切れていない顔でチラリと見られバツが悪くて私は視線を逸らした。
広場に向かうとファイヤージャグリングをしていた。某スパリゾートの様で思わず、おぉ!と反応してしまう。次はナイフ投げでコレは心臓に悪い。ヒヤヒヤして観ているとシーニアに、大丈夫?と心配されてしまう。ナイフはチョット怖いね。と肩を竦ませれば手を繋がれ、大丈夫。と何時ものシーニアの大丈夫を口にする。
シーニアに手を繋がれ頬が染まるのが分かり大丈夫の言葉に私は苦笑で答えた。
他には大玉乗りしてジャグリングしたり、椅子を積み上げバランスを取ったり火の輪くぐりをしたり色々な大道芸を観覧した。
時間も昼頃になり出店に赴く事になった。
「リラのお待ちかねの出店だね?」
期待を込めた瞳をしていたのがバレて気恥ずかしい所にお腹も正直に、くぅ〜。と音を立てた。
「さて、リラのお腹が返事をしてるから早く行こうか」
笑うシーニアを視界の端で捉えながら自分のお腹に追い討ちをかけられ項垂れた。
一口大のミートパイやミックスベリーのクレープ、ポテトフライに牛串、クッキーの詰め合わせ。
ミートパイのトマトの味は酸味が絶妙でミックスベリーは甘酸っぱくて美味だし、ポテトフライの塩加減は馴染みの味で涙が出そうだし、牛串は屋台クオリティに頬が緩み、クッキーは色々な味を楽しんだ。
シーニアは呆気にとられて見ている。
「…………何時もより食べてるね」
シーニアも一緒にパクパク食べていたが私の勢いに驚いていた。
「お祭り効果です。デザートは別腹です」
キリリ!と断言する私に驚愕の視線を投げるシーニアを無視して次に向かう。
メイプルシロップの掛かった丸い揚げドーナツを頬張り懐かしい味を堪能した。
「出店巡りはどうだった?」
呆れ笑いをしながらシーニアは果実水を渡してくれた。
「ありがとう。凄く美味しかったよ!懐かしい味もあって嬉しかったし」
私の言葉にシーニアは双眸を細め微笑した。
「喜んで貰えて良かった。リラの思い出の味があったなら尚更だ」
「……うん。ありがとう……」
私の“懐かしい” と言う言葉にシーニアが慈愛の眼差しをしている。
私の故郷は異世界だから話せずにいた。知られてからは少し話せる様になったが、それでも望郷の想いに押し潰されそうになるので思い出さない様にしている。シーニアはそれに気が付いている様で追求をしないのがシーニアの優しさなのだろうと触れずにした。
食後はのんびりと街の中を散策した。
「よく食べたね?」
「あはは。何だか久し振りで暴走しました」
恥ずかしくて俯くとシーニアは愉快そうに笑っている。
「何時もより食べているから驚いたよ」
「い、言わないで。食べ過ぎて気にしているんだから」
太ったらどうしよう……。と呟くとシーニアは悪戯顔でニヤリと笑うと音楽の鳴る方を指した。
「一緒に動こうか」
シーニアはそう言うと私の手を引いて音の方に足を進めた。
そう、前回に続きダンスだ。揉み解しを忘れ全身筋肉痛になったのを思い出しシーニアにダンス拒否を伝える。
「ごめんシーニア。私踊れない。ダンスの文化は無いの。だから無理」
手を振り謝罪しながら断るもシーニアは穏やかに、大丈夫だから。ね?と手を引く。
( シーニア!その大丈夫は、大丈夫じゃ無い大丈夫だから無理!!)
逃げ腰になる私の手を引くシーニアは力を緩める事は無く踊りの輪に連れて行かれた。
ごめんリードするから。そう言うと腰に手を回し身体を密着させた。
多分に漏れず、ひゃっ!と声を上げればシーニアに困り顔で笑われた。
軽快なステップでリードをし上手に踊りに乗せるシーニアはリードが上手い。
「そうそう。上手。大丈夫だよ。踊れてるよ」
シーニアはリード上手で褒め上手だ。
私は合わせるのに精一杯だがステップを踏み踵を鳴らしドレスを掴み裾を上げクルリと回り手を合わせ身体を寄せて回って踊りあっと言う間に一曲踊り切った。
「リラ上手に踊れていたね!」
「シーニアのリードが上手だからだよ」
「嬉しい事言ってくれるね」
「おかげで楽しかった」
「良かった。楽しんで貰えて」
お互い笑顔で視線を交わしクスリと笑い合うとシーニアは広場の端で一休みを提案する。設置されている椅子に腰掛けるとシーニアは果実水を買ってきてくれた。よく見ればシーニアは汗一つかいていない。
「シーニアはダンス慣れてるね」
「一応貴族だからやらされるんだ」
肩を竦ませ果実水の口にするシーニアを横目で見れば貴族っぽいのは……うん、分かる。
茶色の髪に瑠璃色の瞳で整った顔立ちに少し垂れ目が甘さを醸し出す。品のある雰囲気に目を惹かれ見つめているとシーニアと視線が合い、疲れた?と気を使われてしまい、大丈夫。と返した。
その後は異国の名産品とか伝統品を観たりウインドショッピングを楽しんだ。
シーニアは時折空を見上げ遠くを見る様にしていた。私はそれを疑問に思うも口にするのが憚られて話し掛けられなかった。
そしてシーニアは何度目か空を見上げ私を見た。
「行きたい所があるんだけどいいかな?」
「ん?別にいいよ?」
シーニアは詰所に戻り馬を受け取ると私を乗せた。
口にしなくても分かるシーニアの雰囲気の違い。それを感じて声を出すのを堪えた。
馬を街と反対の方向へ走らせるシーニアの顔を寄せた身体からこっそり伺うと何処と無く緊張を感じる。
馬上でシーニアの腕に囲まれシーニアの体温を感じ私も緊張が移るようだった。
暫く進むと街を抜け街道を走り空は陽が傾き陽光は暮色となる。開けた草原に馬を進め馬上から昏れなずむ空に瞳を奪われていた。
眼前に広がる大草原。
風に撫でられ揺らめく緑の海原と広大な空に言葉無く引き込まれているとシーニアが馬を止めて降り私も降ろして貰った。
「………雄大な景色で凄いね」
見渡す限りの草原と夕陽を見回し感想を述べてシーニアに目を向ければ息を飲んだ。
シーニアが俯き膝を折り跪くと私の手を取った。
私は見上げた視線をシーニアに向けて落とし驚きで動けなかった。
私はやっとの事で、……シーニア?と言うと俯いていたシーニアが顔をあげた。
「リラが好きだ」
…………私は、息を飲んだ。
「初めてリラを見た時から心から離れない。リラの全てを護るから俺の心を受け取って欲しい」
シーニアの瑠璃色の瞳は空より蒼く深く揺めき吸い込まれる様で逸らす事は出来ない。
シーニアの真っ直ぐな瞳と言葉は熱く鋭く私に突き刺さる。瞬きも忘れ息も止まる様な衝撃に私は微動だに出来ない。
シーニアは、ふと笑い立ち上がると私をふわりと腕に包み込み、私が見上げると視線が交わった。
驚愕の表情のままの私を見つめ優美に微笑む。
「リラが好きだ」
私にはどう答えて良いか分からなかった。
まだここに来て半年。
恋愛に身を委ねられる状況では無い。
……でもシーニアの真剣な想いには応えなければ駄目だと私は言葉を口にした。
手を固く握り締め感情を堪える様に力を入れた。
「…………まだ生活にも、ここの…世界にも慣れて無いから……恋愛とか、かっ、考えられ無くて……」
色々な感情が迫り上がり上手く言葉が告げられない。
それでもシーニアに一生懸命伝えた。
抑え切れない感情に涙が溢れてもシーニアは何時もの瞳で見守ってくれた。
涙が溢れ頬を伝い、視界が揺れる。
視線が辛くて逸らすとシーニアに抱き寄せられ胸元に顔を埋めた。
涙と嗚咽で途切れ途切れの私の背をシーニアは優しく撫でる。
「まだ、…………私っ……元の世界に、……か、帰りたい、から……気持ちは、受け取れ無い、の…………だっ、から、………」
帰れないのは分かっている。それでも帰りたいと思う想いの方が強い私に言える事は一つしかない。
「ごめん、ね。………私は、…………っ
、」
溢れる涙で言葉が続かない私をシーニアはぎゅっと抱き締めた。
「………やっと言ったね。帰りたいって」
その言葉に私は息を飲んでシーニアを見上げた。
「リラは何時も諦めて何も言わない。それが心配だったんだ。微笑みながら壊れそうで……」
シーニアは憐憫の目で私を見つめ両手で頬を包み指の腹で私の涙を拭う。
「俺の言葉に偽りは無い。リラが帰るとか関係無い。その時が来てもその時まで護るから、リラを護らせて欲しい」
甘えて頼ってよ?と耳元で囁かれ擽ったさに身を捩るも頬を両手で捕らえられて逸らせない。
混乱している私を他所にシーニアは額と瞼、頬と唇を落とし甘く囁く。
「甘えも我儘も俺だけに言って?リラに頼られたいんだ」
シーニアの耳触りのいい声が更に甘さを増して思考を奪う。
涙の跡に唇を落とし、俺の事好きになって?と吐息が肌に熱を落とす。
甘々のシーニアに言葉攻めで思考ごとくったりにさせられて帰りの馬上で私の意識は半分飛んでいた。




