表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第一部
33/85

29 ニャンコとダンスと手の平と【 前編 】


トリューとのひと騒動の後もう一度庭園を散策し花を眺め堪能した。



「リラは花が好きなのですか?」

庭園の中には幾つもベンチが置かれ休める様になっている。

私達は庭園の端にあるベンチに座り庭園を眺めていた。


「私はよく祖母に預けられていました。祖母は花が好きで庭は花が咲き、家の中も花が飾られていました。祖母はもう亡くなりましたが花の香りで久し振りに思い出したんです。そんな余裕は今まで無かったので懐かしかったんです」

だから大切な事を思い出させてくれてありがとう。と微笑みシャルトに感謝を伝えた。

シャルトはいつもの様に微笑むと私の手を取り唇を落とした。


目を伏せ憂い顔だったシャルトが何時もの表情に戻った事が私には嬉しかった。手を取られるのは恥ずかしいですが……。

私は余り故郷の事は話したくなかったが、申し訳なさそうにしているシャルトの気を紛らわせる為にと祖母の思い出を話した甲斐があった。





遅いお昼を食べに一旦シャルトの屋敷に戻る事になった。


トリュー公爵のお誘いは想定外でシャルトも自分の父親に振り回された様だ。馬車の中でもトリューの真意について話したり、話した内容を精査したり話は尽きなかった。



公爵邸の食事は凄く美味しかった。

ランチとはいえ、それなりの量で半分くらい残してしまったのが心残りだ。テーブルマナーはこちらと変わらなくて良かった。


高校の授業でマナー授業がありテーブルマナーから歩き方や社交ダンスまで習ったのが役に立った。一応三流とはいえお嬢様な女子高だったので他にも生け花や茶道までやらされて足が痺れた思い出の方が強い。



お昼を食べてのんびりするのかと思えばまた着替えるらしいです。カクテルドレスみたいなドレスに着替えさせられるそうで……また全身洗われて疲労困憊疲労蓄積。しかもコルセットを着けるらしく………………。

( やっぱり帰りたいーーーー!! )



ドレスは赤紫のサテン生地でホルターネック。腰回りは胸下からハイウエストで絞られてウエストと胸元を誇張し下はドレープの効いた裾が広がっている。クリーム色で金糸の刺繍のオーガンジーのショールを肩に掛け背中の露出を隠したが髪を結い上げている為首から肩の露出が恥ずかしい。足回りは動きやすいがやはりコルセットはキツイ。


シャルトも服を着替えていた。

昼間は白を基調とした服装だったが今は黒に金糸の刺繍を施したジュストコールに黒のジレ、白のシャツに銀糸の刺繍のクラヴァットだ。

昼間と違い黒を基調として男の色気が増した様な気がする。

思わず色気に飲み込まれそうになり目を伏せ逸らせばやはり手を取られ唇を落とされる。恥ずかしさに抗えばくつくつ笑われる。居た堪れなくなり後ろを向くとシャルトは後ろから手を回し私を腕の中に抱え込み耳元に口を寄せた。

「どの花より貴女が一番魅力的だ。誘惑に誘わた蝶の様に貴女という花に寄り添いたい」

「…………っ」

耳元に掛る熱い吐息と囁きにぞわりと肌が泡立ち全ての意識が耳元に集中する。緩く抱き締められているのに身動き出来ない感覚に捕らえられた。背中にシャルトの体温を感じ更に思考は混乱をきたす。

「は、っなし、て、」

混乱する思考で途切れ途切れにしか言葉を発する事しか出来ない。身動き出来ない私にはシャルトの顔を伺う事も出来ない。

ふっと溜め息の様な笑いの様な吐息が耳元に掛るとシャルトはゆるりと腕と身体を離した。

身体を離され動ける様になった私は恐る恐る後ろを伺えばすかさずシャルトに手を取られ手の平に唇を落とされた。シャルトの赤紫の瞳が潤み揺れ熱い視線に射抜かれた様に動けない。


何故手の平に唇を落としたのか意味が分からず目を見開き思わず首を傾げればシャルトは双眸を細め妖美に微笑する。

シャルトはスルリと身体を正し礼をとり紳士然とした様子となると何時もの表情に戻っていた。




お祭りの為出店もあり人混みも多い為馬車を途中で下車する。

路に出れば祭りの喧騒と熱気に包まれ花の香りに包まれる。道の其処此処に花が飾られ馬車の停車場は小さな広場になっている為そこでは人々がステップを踏み手を合わせ腕を組み自由に舞い踊る。道すがら停車場は其処此処にある為それぞれの場所で楽器が奏でられ人々が踊っている。

いつもは騎士団に近い街外れの商店街しか行かない為中心街の賑わいは分からない。況してやお祭りで皆華やかな出で立ちに身を装う沢山の人々の賑わいに圧倒される。


「凄い賑やかでビックリしました」

「騎士団の近場の街並みや商店街とは雰囲気が違いますからね」

シャルトの腕に手を添え街の中を縫う様に散策する。路を進め中央広場に向かうと出店が立ち並ぶ通りに行き着く。

中央広場の大道芸を見に行くのだが道すがら屋台の匂いが魅力的だがコルセットがキツイ。絶対に買い食い出来ない。お祭りの出店で食べれないなんて、どんな罰ゲームですか?



美味しそうな香りに後ろ髪を引かれながら中央広場に向かうと歓声が上がるのが聞こえる。中央広場は噴水を中央に幾つか人混みが分かれている。その内のひとつに置かれた舞台の上で口から火を噴いている男性が見える。

「おお〜!!」

思わず歓声を上げるとシャルトが嬉しそうにこちらを向き視線を合わせた。

「楽しんで貰えるなら嬉しいです」

微笑んで返したが、私の歓声は他の人とは本当は違う。こちらでも同じ様な芸がある事に感動したのだ。次の芸はジャグリングだ。但しナイフだ。失敗したら痛いじゃ済まない技だが見た事のある芸に近親感が湧く。他にも玉乗りや犬の火の輪くぐり等を観て楽しんだ。




だいぶ陽も傾き影が長く引く暮色の頃だが祭りはまだ始まったばかりだ。


広場の違う所では楽団が曲を奏で人々は花を着け軽やかに踊る。

「一緒に踊って貰えますか?」

シャルトは私に手を差し出し微笑むがダンス文化の無い人間には拷問だ。


いくら学校で習ったとは言え所詮付け焼き刃。たいして踊れ無いのは分かっている。ましてや曲も違えばステップも違う。人前でなど無理も当然だ。


「ダンスは踊った事無いの。ごめん。だから無理」

手を振り断るも、無礼講ですから自由に踊って大丈夫ですよ。と和かに誘われるが、ダンス文化は無いの。と言うも断るのが難しそうな雰囲気に困りチクリと一言付け加えてみた。

「足を踏まれる覚悟はあるのかしら?」

「そうならない様にリードするのが私の役目です」

私の反論は物ともされず返され、シャルトは自信たっぷりな笑みを浮かべ私の手を引き踊りの輪に向かった。


腰に手を回され思わず、ひゃっ!と小さく身体をビクつかせシャルトに、お嫌でしたか?と眉を顰められ、気を悪くさせない様に、違うの擽ったいからちょっとビックリしたの。と言い訳すれば、良かった。と安心し踊りを始めた。

「顔は上げて私を見つめて下さいね。下を向くとリードが伝わり難いので」

そう言われてもこんな近距離でシャルトの顔と見合わせるなんて心臓に悪すぎて顔だけで無く耳まで赤くなるのが分かる。視線が彷徨い顔を向ける所ではない私にシャルトは嬉しそうに、仕方が無いですね。と言うと腰に回した手に力を入れ身体を密着させた。

ひゃあ!と悲鳴を上げるも楽器の音と祭りの喧騒の音で周りには聞こえていなさそうだ。

シャルトは楽しげに、これでリードし易くなります。と妖艶に微笑む。

男性とこんな密着するなど初めての事で頭が真っ白になりシャルトにリードされるままステップを踏む。恥ずかしくてシャルトの肩口に顔を逸らしていれば耳元で囁かれる。

「そのまま私に合わせ下さいね。上手ですよ」

熱い吐息も耳に掛かりその度にピクリと身体が反応してしまう。シャルトは舞う様に足取り軽くステップをリードし一曲踊り切ると輪から離れたくれた。


「お疲れ様です。初めてのダンスはどうでしたか?」

シャルトはまだ腰から手を離さず身体を密着させたまま話し掛けるので考えてなどいられない。

「色々、テンパって、真っ白で考え…られません」

クスクスと笑うシャルトは楽しげだが頭を上げれば近距離過ぎて赤面物なので顔は逸らしたままだ。緊張で身動きしない私にシャルトはワザと手に力を入れグッと更に引き寄せた。その圧迫感と擽ったさに、キャッ!と漏れた声と共に身体をピクリと仰け反らせればシャルトと視線が合ってしまった。

「逸らさないで下さい。貴女の顔を見せてください」

甘い声に正面から囁かれたらお手上げです。いっぱいイッパイの私は俯き手でシャルトから離れようと胸元を押した。

「ダンスは終わりました!離れて下さい!」

「おや。残念ですね。このままもう一曲踊りませんか?」

凄く悪戯な笑みを浮かべ双眸を細めるシャルトにムカッと腹が立ち真っ白になっていた頭に思考が戻ってきた。

「離れないと足踏みますよ?」

半目でジロリと睨めばシャルトは肩を竦めパッと手を離しお手上げポーズを取る。

「嫌われる前に辞めておきます。残念ですが」

私は油断も隙も無いと困った顔で溜め息をついた。


路の其処此処で音楽が奏でられ人々が踊り賑わいを眺める。

その中を漂う良い匂い。ついその方向に目を向けているとシャルトに可笑しそうに笑いながら視線を向けられる。

「何か食べますか?」

「うっ」

食べたいけど苦しいし、一口くらいなら?と自問自答して誘惑と戦うが、それでも…と、葛藤する私を横目にシャルトが串揚げのスイーツとクレープを買っている。

「ああぁ。コルセットキツいのに!ヒドイ〜!」

「食べれる分だけでいいですよ」

シャルトのニコやかな悪魔の囁きを恨めしい顔で見るも視線は持っているスイーツに釘付けだ。

はい。と口元に持ってこられ、あーん。とばかりに差し出されれば陥落されるのは当然だ。

……パクリ。

クレープを一口食べればイチゴとクリームの甘さがちょうど良いバランスだ。

ん〜。

モグモグと目を瞑り味を堪能すればシャルトのくつくつ笑う声が聞こえ目を開ければ呆れた様な顔をしている。

「甘い誘惑には弱い様ですね」

「甘い物は別腹です」

「その割りには悩んでいた様ですが?」

「コルセットのせいです」

もう意見は聞かないとばかりに手渡されたスイーツを結局全部食べてしまった。ちょっと苦しいけど……動いて消化すれば大丈夫!と自己弁護にシャルトにまた笑われた。

「なら消化の為に散歩しますか?」

「そうですね」

私は苦笑いして肩を竦めるとシャルトは腕を出してきたので手を添えてゆっくりと夕闇の中を歩く事にした。




のんびり街の中を散歩をしてそろそろ夕飯に屋敷に戻る事になった。


戻ると速攻入浴させられ着替えもさせられた。

一日に何回着替えさせられるんだか。面倒臭ささにウンザリしている間に着替えが終わる。

夕飯を食べるからかコルセットは無しになったのは助かる。


今回のドレスはマキシ丈のキャミソールドレスだ。薄い藤紫色のシフォン布で柔らかく胸元のプリーツに刺繍とビジューが飾られ胸下をリボンで結ぶ為身体のラインが強調される。


私を夕食の迎えに来たシャルトは銀糸の刺繍をした藍色のジュストコールに白地に銀糸刺繍のジレ、白のボウタイシャツだ。シンプルだが生地質の良さが見て分かる。


昼に続き夕食まで公爵邸で食べるとは思わなかった。完全フルコースは緊張するがテーブルマナーを高校の授業で習っていたから社会人になって仕事の接待でも戸惑う事なく食事が出来た事に感謝した物だ。



そう、親が頑張って仕事して授業料を払い知識を身に付けさせて貰ったのだ。小さい頃は仕事より稼ぐより親の愛情を求め心を痛めたが……

形は違えど親の想いが私の為になっている事実に今更ながら気が付き感謝をした。


脳裏にふとよぎる親の思いに顔が翳るのが自分でも分かりシャルトに心配を掛けたくないので笑っておく。


豪華絢爛なダイニングに見事な食事が並ぶ。昼を残してしまったのを配慮してかシャルトに比べて量が控え目になっている心くばりに関心する。


食事中シャルトにはテーブルマナーの事を聞かれた。

「マナーを知っている事に驚きました。そちらにも作法が共通しているのに驚きました」

「そうですね。マナーの共通性には驚きますね。マナーについては学校で習っていたから身に付きました」

ゆっくり食べながらも会話は進む。

「勉強だけでは無いのですね」

「社会に出て不自由しない教育と教養を身に付けられるのは良い事ですからね」

「女性の社会進出は考えられないですが」

シャルトは肩を竦めさせ苦笑いしている。

「そう言うのを男女差別と言われて裁判にかけられるんですよ」

「それは凄い」

目を見開いて驚いているが、何に対して凄いのか。男女差別が無いのが凄いのか、差別して裁判されるのが凄いのか。たぶん両方か。

教養の話しや裁判の話しをして食事は終わった。


「量もちょうど良くて美味しくいただきました」

ご馳走様でした。と笑みで感謝を伝えると、ふわりと笑い、それは良かったです。と手を取られそのまま手繋ぎでダイニングを後にした。

相変わらずスマートにそう言う事をされると馴れないので顔が赤くなるのが困る。


況してや侍女やメイドさんが居る所で恥ずかし過ぎる!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ