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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第一部
32/85

28 ニャンコと花と意見と


街の装いが何時もと違い街灯は花飾りをされ家々の窓や玄関、屋根の上にまで鉢を置き咲き誇る花々で飾り立てている。街の人々の装いも色取り取りで華やかなドレスを身に纏う女性達にお洒落に決めた紳士達が付き添っている。


馬車は軽快に進み城壁の堀に沿って進み門扉に停まった。シャルトに手を引かれて城壁を見あげた。

「凄い……人力でここまで作るの大変だよね…」

軽く三階建くらいの高さの城壁に思わずおのぼりさんの様に口を開けて見回していた。シャルトに可笑しそうに見つめられチョット恥ずかしかった。


ここの門扉は馬車専用なのか開放している門扉とは違う様で人が歩いていない。


「王宮の庭園が一部開放されるのはこの花祭りの時だけです。ですが他に観たければ案内しますので言って下さいね」

暗に公爵だから一部とか関係無いって事ですか?とは言いません。

庶民ですから公開範囲内で充分です。と答えれば、欲が無いですね。と微笑まれた。


「では参りましょう」

シャルトは私の隣に立ち左肘を出すと妖艶な笑みで、どうぞ。と差し出した。

紳士のエスコートですね…外で腕組みは恥ずかしいのですが、紳士に恥をかかせる訳にはいかないのでオズオズと肘の内側に右手を伸ばした。

ふわりと笑みを零すシャルトに私は耳まで赤くなるのが分かった。

たまにあるシャルトの本気の笑みは自然で感情が伝わる様で抗えない破壊力に困惑してしまう。


衛兵が立つ門扉を潜り城内に足を進めればそこは広場の様で殺風景だ。見上げれは王城が見える。城へはまだ距離があるのにそびえ立つ姿は迫力がある。キョロキョロと見回しているとシャルトが申し訳ない様な表情を浮かべている。


「すみません。実はここは本来開放している門扉とは違います。私が開放用の門に行くと少々面倒事になるので違う門扉から入りました。少し歩きますが大丈夫ですか?」

「気にしないでください。大丈夫ですよ。珍しい所を歩いて見れる訳ですから好機でしょ?」

笑って周りを見回している私にシャルトは王城の説明をしてくれた。広場から林の中を進み話をしている内に庭園に近付いたのか人々の騒めきが耳に入ってきた。


林の中の道を抜けて出ると広大な敷地に綺麗に刈られた植木に囲まれた色取り取りの花壇と木々のアーチに噴水が目に飛び込んできた。

この林の中は開放されていない所だったらしく衛兵が等間隔で配置されていたがシャルトが通っても反応が無いのは顔パスの様だ。


庭園の中は人々で賑わい花の香りに包まれ思わず顔が綻ぶ。


私の祖母は花が好きで何時も庭に花が咲き綻び、家の中にも花を飾っていたのを思い出した。花の香りが祖母の家にいる様な感覚に浸っていた。


「なにかお気に召さない事でもありましたか?」

シャルトは私の顔を伺い心配してくれた様だ。


懐かしい香りに、悲しい様な嬉しい様な感覚に包まれていたのだが、浮かない顔に見えた様だ。


「大丈夫だよ。ちょっと懐かしい香りに癒されてただけだから」


忙しい共働きの親に代わり良く祖母の家に預けられていた為私はおばあちゃん子だ。私は花の香りに包まれた祖母の家も庭も大好きだった。成人式が過ぎ、就職して仕事が落ち着いた頃に眠る様に逝ってしまった祖母を思い出したのは本当に久し振りだった。


「ありがとうね。シャルト」

庭園を眺め呟く様に口にするとシャルトは目を細め柔らかな笑みを浮かべていた。


広い庭園を様々な人々が散策している。貴族も庶民も沢山の人がそれぞれの装いで花々と同じく華やかに着飾っている。一際人が集まっている所があり行って見ると植木がアーチでは無く丸い輪の状態に造られ綺麗に刈りこまれている。その輪を人々が潜っているのが見えた。


神社の茅の輪くぐりの様だと思いながら見ているとシャルトに、行きましょう。と手を引かれ順番を待った。

二人で一緒に入り出る。ただそれだけ。

なのだが回りの様子がおかしい。行く先々でベタベタくっ付くカップルに行き合う。私が思わず訝しんでいるとシャルトが耳元に口を寄せた。

「愛し合う二人が輪を潜ると結ばれる。と言われているんですよ」

小声で言うと組んでいた手を取りワザとリップ音を立てる様に唇を落とした。

それを聞いて顔と耳を赤くして口をパクパク開閉させる私を楽しそうに眺めるシャルトはやっぱり悪戯顔だ。揶揄われているのが分かっていても顔の熱はなかなか引かず振り回されてばかりで困る。


「少し休みましょう」

休憩用にサロンが用意してあるらしく庭園の奥に進むと別区画に繋がる小道があり衛兵が立ち並んでいた。そこは貴族専用らしく皆装いが豪華な人々の集い場所だった。

シャルトが給仕に案内され席に近付くと騒めきが止まり、座るとまた騒めきが湧いた。波の様な騒めきに戸惑う私に苦笑いしてお茶とお菓子を進めるシャルト。

「貴族は色々あるので気にしないでくださいね」

「ははは。無理かな。こんな視線を浴びるのは普通ないし」

力無く笑い、乾いた喉を潤すためお茶を飲んだが緊張して味が分からなかった。


「いつもこんな感じなの?」

「ええ。いつもの事です」

やれやれとシャルトが珍しく疲れ顔している所に一人の割腹の良い中年男性が近付いてきた。

「これはお久し振りです。シャルト様。この様な所でお会い出来るとは嬉しいかぎりです」

恭しく腰を低くしシャルトに近付くと顔色を伺う様にチラチラ見ている。

シャルトはさっきまでとは違い無表情で男性に向いた。

「申し訳ないが今は個人として来ています。メイフェイア家に御用でしたら他を当たって下さい。今は大切な時間を過ごしていますので遠慮してもらえますか?」

慇懃無礼を形にした様な無表情顔で相手をすれば男性は焦り顔になり、失礼しました。とそそくさと席を離れた。

「シャルトも大変だね」

同情を寄せているとシャルトが溜め息をついていた。


ここに居ても逆に疲れそうなため早々に移動する事になり庭園に戻ろうと進んでいると給仕が追いかけてシャルトに手紙を渡していた。


渡された手紙を読んだシャルトが眉間に皺を寄せあからさまに不快な表情を浮かべていた。あまりにも珍しい表情にビックリしているとシャルトは顔に手を当て天を仰いだ。

シャルトの様子についていかず困惑しているとシャルトは私以上に困惑した表情を浮かべている。


「どうしたの?何か困り事?」

「……すみません。巻き込みました。王宮内に一緒に来て貰えますか?」

一緒思考が停止する。


「………………ナゼ?」

申し訳なさそうに眉を下げ浮かない表情のままのシャルトに、ヤダ。とは言えず

「向かいながらでいいので説明して貰えますか?」

肩を落とし溜め息混じりの私の答えを聞いてシャルトは王宮内に向かった。




流石王宮。シャルトの別邸宅よりも絢爛豪華で豪奢な装飾の内装に目を奪われながら進むと部屋に案内された。

メイドが、お付きになりました。と伝え入室すると、やはり絢爛豪華な装飾の部屋に目を奪われる。落ち着いた色合いで趣きがあり重厚感のある内装になっている。


「やあ。よく来てくれました。初めまして。メイフェイア家当主、トリュー・メイフェイアと申します。貴女がリラ・トゥーノさんでよろしいかな?」


紳士然とした態度で挨拶されて慌てて居住まいを正し返事をする。


「リラ・トゥーノと申します。宰相様にはお初にお目にかかります。礼儀に疎い庶民な為不愉快にさせてしまいましたら申し訳ありません。先に謝罪させていただきます」

深々とお辞儀をしてナントカ噛まずに挨拶を返した。

「いえ。急な呼び立てに答えて下さりありがとうございます。先ずはこちらにお掛け下さい」

勧められたソファーにシャルトと座るとお茶をお菓子を出された。

また緊張で味が分からない状態で高級品を口にする残念感にガッカリする。


「息子から貴女の話を聞いてお話してみたくなりまして無理を言いました。暫しお時間を頂きますね」

優雅にソファーに腰掛け微笑む顔はやはり親子、良く似てる。髪色は違うけどシャルトの将来の顔を予測できるダンディなお父様だ。

チラリとシャルトを見れば無表情なままだが不機嫌なのが良く分かる。

「そう不機嫌になるな。話をするだけだろう?」

トリューは諌める様に言うがシャルトには貴重な二人の時間を邪魔をされ納得できない様だ。


「時間がもったいない様だから単刀直入に質問させて頂くかな?」


……尋問の時間か。ブランブルとは違った威圧感に私は居住まいを正した。


「君はどこで知識を学んだのかな?」

「は、はい。……故郷、です」

「貴女は貴族ではない様だが学ぶ機会があったと?」

「ええ、貴族ではないですが、学ぶ機会がありました」


日本を語る訳にもいかず曖昧に躱すのは難しいうえ、観察される様な視線に変に緊張するのは目の前の紳士が猫を何枚も被っていそうな笑みで佇んでいるからだと思う。


「身分無く学ぶ機会ですか……」

トリューはふと呟く様に口にすると視線を遠くにし思案気な顔をしたがすぐに私に視線を戻しトリューは会話を続けた。


「貴女は貴族についてどう思う?」

「それは客観的にですか?個人的にですか?」

「出来たら両方聞かせて貰えるかな?」

トリューは穏やかな顔で、忌憚なく聞かせて貰いたい。と言うと優雅にティーカップに手を伸ばし口にする。


暫し考え、教科書の歴史を思い出そうと頭の動かした。一息つき考えを纏め言葉を慎重に選びながら口にした。

「国民全体に教育が行き届いていない以上、教育を受けた貴族が政治に携わるのは当然かと思います。世襲制で仕事も引継ぎを無駄なくこなせれば効率良く運ぶでしょう。ただ弊害は癒着と怠惰。人が変わらなければ癒着が発生しやすく、変化が無ければ改善も進歩も無いと思います。身分に保証され向上心が働かない。

個人的な意見としては……

良いも悪いも微妙ですね。貴族文化は芸術面や文化様式など後世に伝えるべき物が多くあり、それを継続して伝えるには貴族は必要だと思います。ただやはり、政治に介入するのは如何かと思います。政局と地方分権、権力と地位は別にしなければ平等な法にならず、結果不満を溜めて反乱が起きます。実力主義にするにも教育の裾野が広がってからとなるので時間も掛かりますが、国の革新には手を抜かず時間を掛けるべきだと思います。要は、貴族も政治も使いかた次第だと思います。

以上が、客観的な意見と個人的な意見となります。不遜な意見で不愉快にさせてしまいまして申し訳ありません」

私は頭を下げ謝罪の形を取った。息つく暇なく一気に話した。この茶番を早く終わりにさせたかったからだ。

一頻り聞いていたトリューは首を傾け私を見ると微笑した。が、その瞳の奥に見えない何かを感じて背筋がヒヤリとした気がした。


「貴女は貴族に興味は無いのかな?」

「ありません」

即答で答える。

トリューは微笑を崩し驚いているのが分かる。

「ほう。何故?公爵とも成れば豊かな暮らしが保証されているが?」

「興味が無いです。保証には義務が付きます。責務を全うする力が無い者が手にして良い物ではありません」

「公爵の地位は興味が無い?」

「はい。私には不必要です」

ほほう。とトリューは面白い物でも見る様に双眸を細めた。

不必要、公爵が不必要か。と呟く様に口元を緩めた。


「身を弁え無ければ破滅します。堅苦しい生活は肩が凝ります。身分で生かされるのでは無く自身で生きたいのです。意味を持って」

言葉の応酬にいささか疲れてくる。


「公爵は意味が無い?」

「私にはありません」

「シャルトには意味が無い?」

「へ!?…はあ?………えっと……シャルトはシャルトですが?意味があるとか無いとか関係無いと思いますが?一人の人としてのシャルトに公爵有る無しは私には意味がありません」

「……成る程」


時間にしたらどれ位の会話時間だかは分からないが疲労困憊だ。隣に座ったシャルトは微動だにしていない。

( 喉が渇いたけどこんな緊張感の中で飲めないよー!もう帰りたいー!)


トリューは視線を落とし組んでいた手を顎に運び撫でるとまたこちらに視線を向けた。

「ふむ。貴女の正直な忌憚の無い意見を聞かせて貰って楽しかったよ」

「はあ…」

どうやら押し問答はこれで納得してくれたらしい。

「今日は貴重な時間を頂いた。また貴女の意見を聞かせて欲しい」


それを聞いたシャルトは私に返答も言わせず、

そうですか。では父上これで失礼します。と挨拶もそこそこに席を立ってしまう。慌ててお辞儀をするとシャルトに付いて退室をした。





「すみません。あれ以上あの場に居たくなかったもので貴女に失礼しました」

「…いえ。私も流石に疲れたので切り上げて貰えて助かりました」

お互い疲れた顔で見合わせると何だか可笑しくてクスッと笑えばシャルトも眉を下げ表情が和らいだ。



「折角のお祭りを台無しにしてしまいすみません」

「いえ。庭園を見る事が出来てとても素敵な時間を過ごせました。ありがとうございます」

素直な感想に顔を綻ばせばシャルトも穏やかに笑う。



「もう一度庭園を見てもいいですか?」

私の言葉に、ええ、参りましょう。と微笑むとシャルトは肘を曲げて差し出し私は手を添えゆっくりと花香る小道を進んだ。


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