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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第一部
31/85

27 ニャンコと祭りとお着替えと


今日もいい天気で穏やかに太陽が輝いている。


私がこの世界に来た時は冬の始めの頃だったが半年も経つと季節は春真っ盛りだ。




仕事も終わり食堂で夕飯をセレンと向かい合わせて食べているとシャルトがやって来て右隣に同席してきた。


「リラお仕事お疲れ様です。お仕事は一段落しましたか?」

「お疲れです。はい、量が少し減りました。シャルトも魔術師団の方は落ち着きましたか?」

「ええ。なのでまたこちらに派遣続行出来ます」

シャルトはニコリと笑ってこちらを向く。


「シャルトのお父様が宰相になったのでしょ?お家、大変じゃないの?」

「私が宰相になった訳では無いですからね。父は父でやりますよ。兄も居りますし」

4男は気楽なものです。と爽やかに笑っている。


セレンはシャルトに向かい目を細め微笑する。

「新隊長に負担をかけない様にね」

「準備万端で大丈夫です」

シャルトには嫌味は効かないのは分かっているがチクリと釘を刺す。



「リラ、城下町で春の訪れを祭る催しがあり大道芸の一団が幾つも来るのを知っていますか?街が賑わい店が軒を連ねて楽しいですよ?」

「大道芸ってどんな事するのですか?」

「的に人を立たせナイフを人に当てずに投げたり、珍しい動物が芸を披露したり様々な芸を開催期間中、色々観る事ができますよ」

サーカスや雑技団みたいなのかな?と思いながら話しを聞く。



毎年、春の種蒔きが終わると城下町に大道芸の一団が幾つも集まる。豊作祈願のお祭りと一緒に花祭りが催され街の中を花で飾り連日街の中で踊り子が舞い、街の人達も共に踊り夜を明かし不夜城の装いとなる。


「良かったらご一緒してくれませんか?」

セレンは、ははん。誘いにきたわけね。とチラリとシャルトを見ている。

食べながら聞いていた私は口の中が落ち着くまで返事ができず、モグモグと慌てて飲み込んでいた。


「抜け駆けすんな!」

「女性への約束の取付けなど早い者勝ちでしょう?」

声に驚き振り向けばシーニアが駆け足で席に来くるとシャルトに食ってかかった。シャルトは何を言っているんだか。とばかりにシーニアに厳しい目を向けている。


「リラ俺と一緒に行こう」

両手を握られ言い寄られるが食事中は辞めて欲しい飲み込むのも大変です。手にスプーン持ったままで握られるのも困ります。困惑する私にセレンが助け船を出してくれた。


「貴方達、食事後にしなさい」

ピシャリとセレンに諌められ二人は静かになり私は両手を解放され食事を続けた。


( 落ち着いて食事したいのに……トレイ持って部屋で食べるのが一番かなぁ…… )

遠い目をして思案に暮れている私を他所にセレンに諌められ二人は不承不承に食事を済ませた。



食べ終わると私はシャルトとシーニアに先ほどの誘いの返事をする。

「先にシャルトが声を掛けてくれたので最初はシャルトと行って、次にシーニアと行く、でいいですか?」

毎日催しが変わるのなら色々観れるのでしょ?と聞けば二人は不承不承としながら納得している。先手を取られた。独占できないですね。と二人から呟きが聞こえるがスルーします。


「楽しみですね」

私は笑っていない目で笑みを向け二人を宥めた。


最近やっと二人の扱いに慣れてきて、スルースキルが身に付いてきた気がする。が、所詮気がするだけなのだが。


「貴女と花の中を歩くのがとても楽しみです」

シャルトに右手を握られ唇を落とされる。

不意に手に唇を落とされるのは心臓に悪いです。不意じゃ無くても心臓に悪いので辞めて欲しいのですが。


顔を赤く染め恥ずかしさに身を縮めれば左隣に座ったシーニアが同じく左手に唇を落とす。

「リラと花舞う中で踊り明かしたいな」

満面の笑みで蕩ける様な瞳を向けられ更に顔が茹で上がる。

右手にシャルト左手にシーニア。両手に花と言う勿れ。心臓に悪いし恥ずかし過ぎて羞恥死にしそうです。


私には二人の扱いにまだまだ精進が必要の様でした。




今日はシャルトと約束のお祭り日。

朝一でシャルトが迎えに来た。


「……シャルト、早過ぎない?朝食食べて直ぐなんて……」

「いえ、一日は早いですよ。時間が足りないくらいです」

シャルトは満面の笑みで馬車の前に立っていた。




昨日は食堂でシャルトに明日の約束の話しをした。

「明日、約束のお祭り楽しみにしています。迎えに行きますので朝食食べたら門にお願いしますね」

「……朝一ですか?」

「ええ」

遠足前の子供か?とツッコミたい気分だが、爽やかな笑顔で嬉しそうにされるとこちらが困惑する。


昨日言われた様に早起きして朝食を済ませ身支度すると早々に迎えに来て馬車に案内された。

「足元気をつけてくださいね」

手を差し出され乗り込むと馬車は走り出す。


イシェルワ国の王都は王宮を中心にUの字状に城下町が広がっている。

騎士団は中心街とは城を挟んで反対側にあるため会場となる中央大広場にはだいぶ距離がある。

馬車の中で二人だけな密室は何だか気不味い。


「何でこんなに早いの?中央大広場はそんなに時間掛からないよね?」

朝一の理由が分からないのもあるが、密室の居た堪れなさに会話で誤魔化そうと口を開いた。


「一旦私の屋敷に行きますね」

「はい!?何故っ???」

予想外の答えに疑問符だらけだ。思わず目を見開き驚愕の顔で驚いているとシャルトにクスリと笑われた。

「ドレスを用意してます」

「えええ!?悪いよ!駄目だよ、そんな事!!」

シャルトは愉快だと言わんばかりな笑みを浮かべたまま楽しそうだ。

「私のお願いを聞いては貰えないでしょうか?」


他の貴族なら喜んで聞いてるだろう。公爵のお願いなど、貸しを作る機会など垂涎の好機。

だが私には関係無い!


悪いですから。と言うも、用意したドレスが無駄になります。と困り顔で返されれば仕方がないと承諾するしかない。私が素直に承諾しないのを分かっていて、そう言う手段を取っている気がする。手の平で転がされている様で居心地が悪い気分だ。


「分かりました」

不承不承に返事をした。



程なく、そう返事をした事を後悔した。


馬車が大きな門扉を潜り、玄関前に横付けされ馬車を降りると豪邸を見上げた。三階建に屋根裏、部屋数はよく分からないが窓の数が物凄いとしか分からない。他にも建物が幾つか並んでいる。

玄関前にはメイドや執事が立ち並び出迎えているのを見て私は帰りたくなった。


( 貴族メンドくさい!こんな出迎え緊張するし!嫌すぎる!!)

人の胸中御構い無しに手を引かれ玄関に向かう。

( 視線がイタイ……場違い過ぎて居た堪れなさ過ぎる………… )


玄関を潜れば金と白を基調に絢爛豪華に装飾されたホールに呆気に取られた。その豪奢振りに昔、迎賓館を見学したのを思い出していた。


茫然としているとシャルトに執事が近づき恭しく礼をする。

「お帰りなさいませ、シャルト様」

「前に話をした彼女がリラです。大切な方ですので丁重におもてなしをする様にして下さいね」

私にはこの状況について行かず放心したままだがシャルトにまたも手を引かれ応接室らしき所へ案内されソファーに座らされた。

お茶やお菓子など出されたが緊張し過ぎて今の私には身動きすら冷や汗が出そうだった。


「そんなに緊張しないでください」

「無理です。シャルトには当たり前でも一般人の庶民には心臓に悪い状況ですが?ましてや、いきなり連れて来られて落ち着くわけ無いじゃ無いですか」

緊張で顰め面なままの私には優雅にお茶を飲むシャルトが恨めしく映る。

「準備が整ったら着替えをお願いしますね。貴女と花の中を歩くのが楽しみです」

「私にはお祭り前なのに気が重いですよ……」

シャルトは浮かない私を他所に侍女に指示をしている。


「準備が整った様なので移動しますね」


連れて行かれシャルトとドアの前で別れると部屋の中に案内された。




「これからドレスのサイズ微調整をしますので着替えをさせて頂きます」


そう言うと数人に囲まれ呆気に取られているうちに脱がされてしまった。そして用意してあるドレスを着させられお針子さんがサイズを合わせている。

サイズの目安が付いたら脱がされ、元のワンピースを着るのかと思えばガウンを羽織らされた。

状況が分からずドギマギしていると、こちらで御座います。と部屋の奥に案内された。


「ドレスが仕上がる間に湯浴みを致します」


問答無用で数人掛りで脱がされ思わず悲鳴が出る。

「ひゃあ!自分で出来ます。しますから、一人でさせて下さい!」

「いいえ。シャルト様より承っておりますので全身磨き上げさせて頂きます」


メイドさんはメイドさんの仕事を全うする事が仕事な訳で私の話しは聞いてくれない様で諦めてされるがままになっていた。


頭も身体もくまなく洗われ精神疲労でグッタリな所に入浴の間にサイズ調節したであろうドレスに着替え化粧して髪を結わかれ、終わる頃には疲労で帰りたい気分だった。

( もう疲れた……帰りたいよう…………)


普通の女性なら着飾って舞い上がる気分になるのだろうけど今の私には拷問の気分だ。

グッタリで疲労な顔が憂い顔に見えたのかメイドさんに、とても素敵ですからシャルト様もお喜びになられますよ。自信を持って大丈夫です。とズレた応援をされる。帰って寝たい気分だとは言いたい所にシャルトがやって来た。



私が着たドレスは、上は薄桃色のサテン生地に白の刺繍が施された胸元の開いたノースリーブ、下はチュールを二枚重ねてその上にオーガンジー生地で幾重にも重ねフンワリと仕上げてある。変にボリュームが無く動きやすいのが助かる。オーガンジーが藤色と薄桃色の重ねになっていて絶妙な色合いを醸し出している。白い総レースのショールを肩に掛け私は疲労と気疲れで所在無さげに佇んでいた。



シャルトは優雅な足取りで近づくとすかさず手を取り唇を落とすとそのまま手を握り極上の微笑みで双眸を緩める。

「とても素敵です。ああ、このまま攫ってしまいたい」


充分攫ってると思うんだけど……。と心の中でツッコむも侍女やメイドに囲まれシャルトに手を握られ近距離に居られるのは羞恥心は頂点だ。恥ずかしさに俯き視線を逸らせばシャルトは握った手を自身の口元に上げ触れる様に囁く。

「顔を見せてくれませんか?貴女を何時迄も見つめていたい」

手にかかるシャルトの吐息と唇の感触。

シャルトの様な美貌の持ち主に言われれば喜ばない女性は居ないのだろうけど慣れない私にはもうイッパイいっぱいだ。

俯いたまま溜め息をつくと困り顔で顔を上げてシャルトに向いた。

「もう疲れた。帰っていい?」


ピタリと行動が止まったシャルト。

何だかそれが可笑しくて笑ってしまう。シャルトは何度か瞬きをすると何時もの様に困り顔で笑った。


「ねぇシャルト、サイズがほとんどピタリだったんだけど……」

いつの間にサイズを把握していたのかが疑問で聞けばしたり顔で言うシャルトは心成しかに悪戯な瞳をしている。

「解除した時に抱き上げましたからね」

やはり悪戯顔だ。悪戯な笑みで楽しそうなシャルトに私は半目で睨む。

「へぇ…。あれで分かるとは手慣れてますね?」

私の反論にシャルトは珍しく困惑顔で焦っていた。



疲れて平常心を保てなかった私もシャルトとの雑談で少しは復活したらしく周りが見える様になってきた。改めてシャルトを落ち着いて見ると迎えに来た時と服装が違う。


魔術師団の制服は、黒の立ち襟のジュストコールに同じく黒のジレとレースが施された白いボウタイシャツだ。


今は白い詰襟で金と群青色の刺繍が装飾されたジュストコールに瑠璃色に白と銀糸の刺繍のジレと胸元に銀糸レースのクラヴァットをあしらい翡翠色の髪がよく映える装いだ。何時もは緩く纏めた髪も今は銀糸の施されたシルクの光沢がよく分かるリボンでキッチリと結いあげている。

よく見たくてシャルトから一歩下がりつい眺めれば、どうです?見惚れてくれますか?と言い、肩を竦め首を傾げれば艶麗さが増してくる。


「目的地忘れているなら帰りますよ?」

私はシャルトの色気に耐えきれず逃げの手に出るしかなく困った風を装えばシャルトは、口説けないとは残念です。と肩を下げた。


「では姫参りますか」

シャルトは愉しそうに目を細めて悪戯顔を浮かべている。わざと揶揄っているのがありありと分かるも姫発言に私は頬も赤くなり俯いたまま手を引かれ再び馬車へと向かった。


( 姫じゃ無いし。それ恥ずかしさで死ねるから辞めて………… )


移動中、私はシャルトの悪戯顔に腹が立って赤い顔で膨れていた。


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