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ニャンコと私と異世界と  作者: たちばな樹
第一部
25/85

22 ニャンコと捜査と哀咽と


騒動は終わらず喧騒に包まれたままの騎士団内部では事後処理で昼夜を問わず皆が動き回っていた。


現地に残っていた隊員達が現地の後始末をし現状確保に数名残し、確保した犯人を騎士団に搬送し5番隊に引き渡した。


程なく情報が集まる。

ドウェルからキムリに繋がる仲介業者の潜伏先や裏の捜査、国境警備部隊隊長ラグドから国境付近の動きに異変有りと伝えられた。辺境にレイニアンの兵の動向が伝えらた。

ディルムンからは王宮内の情報を報告された。

後宮、皇太后の動きの異変。

離宮にはレイニアン国から嫁いで来た皇太后が幅を利かせている。

昔から皇太后の黒い噂は絶えないが立場上弾糾は出来ずにいる。政局が揺らぐともレイニアンの皇太后が居ればレイニアンの侵略の防波堤になる為諌める事も出来ない。後宮を支配し今なお影響を及ぼす皇太后に息子である現国王も抑止力にはならない。

皇太后は逆らう重臣を斬り、側室を排除するために殺めたともある。その皇太后が支配する後宮と宰相の繋がり。引き続きブランブルはディルムンに捜査を頼んだ。


ブランブルに王宮で探りを入れていたディルムンから報告があがる。


“ 宰相に黒幕有り ”


その報告に溜め息をついたブランブルは腕を組んで眉間を寄せた。

「やっとデカイのが釣れそうだな……」

「釣れて貰わなければ困ります」

「エサの方も疲れるか?」

「……失礼かと?」

ディルムンがじろりとねめる視線でブランブルを睨めば肩を竦めている。

珍しくディルムンがブランブルを諌め、諌められたブランブルは苦笑いをしていた。




部下から状況報告があがる。

「キムリは動かず屋敷内に潜伏。宰相も同じく」


「動き無しか。だが今回ばかりはシッポは切らせねぇぜ」


ブランブルは不敵にニヤリと笑った。





捕らえた者達は5番隊の尋問により情報が提示された。


報告で分かったのはリラの誘拐方法、リラに自白剤を飲ませた事、無精髭の男が勝手にリラを襲った事くらいだった。

まだ黒幕の事は口にしていないが時間の問題だろう。との報告がブランブルに入った。


ブランブルは書類に目を通し分けていく。

「シャルトを呼んでくれ」

部下に命じると退がらせた。


捕らえた二人の生存者。

フードの男は元魔術師団員だった。素行の悪さに退団を余儀なくされた。見張りの者は傭兵出身。金払いの良さに引き受けた様だ。

物質転移陣は破棄されている様で起動しないが術式を解析すれば行き先が分かるだろう。



「シャルトです」

ブランブルはノック音に入室を促した。

「ご用件は?」

ブランブルは暫し黙ると書類を渡した。

「結界の抜け方を吐いた。魔術師でなくても出来る方法だ。ある意味お前ら魔術師には盲点かもな」

シャルトは書類を読み眉を寄せ目を瞑った。


彼女に薬を飲ませ仮死状態にする。そして強力な魔力遮断を書いた術式布陣の袋に詰めて窓から降ろし結界を通過した。


「魔術師でなくても誘拐できるわけだ」

宰相の息がかかっている疑いのある人物は魔術師団団長、副団長、1、2、3部隊隊長あたりだった。宮廷魔術師など他にもいるが、シャルトの結界を知り、抜けれる実力者はそういない。


ブランブルは訓練中は動けないと踏んでいたのだが読みが外れた。

こちらにも警戒に不備があった訳だ。

「宰相が違う動きをしていてな手薄になった」

そっちに人員を割いていたが囮だった様だ。


「仮死状態って一歩間違えば死んでますよ!?」

「遮断の裏に治療術式組み込んである手の込んだ仕様だ。並みの者じゃないわけだ」

シャルトは書類をブランブルに戻した。

「犯人が吐いたのですか?」

「吐かせてみた所、掴めるのは仲介者までだが残された物質転移陣の術式で追えるだろう」


ブランブルはひと息つくとシャルトに目線を向けた。

「証拠が集まり次第、最終的にはお前の上司のトコに踏み込むんだが一緒に来ちゃあくれねえか?」

シャルトの上司、すなわち魔術師団第1部隊隊長キムリだ。

踏み込むにも相手が魔術師団第1部隊隊長では対応が難しい。まして魔術師の所に踏み込むから強力な魔術師を貸してくれと魔術師団に言えるわけが無い。

シャルトなら適任なのだ。


騎士団内にも魔術士は少なからず居る。

各部署に手紙や物資などを物質転移する為に配置されている。他には治癒師も居るが治癒師は希少なため数が少ない。宰相が魔術師団に関与する限り摩擦が生じ騎士団と魔術師団の連携が取れにくいままなのだ。



「踏み込むにも先ずは証拠も必要なんだがな。破棄された術式を解析する魔術師の身分も必要でな?」

話の先が読めたシャルトは腕を組み息をつく。

「成る程、そのために術者を紹介しろ。という事ですか?」

「話が早いな」

「協力するメリットがこちらにあるのでしょうか?」

シャルトは主導権はこちらにある、と何時ぞやの派遣契約の仕返しとばかりに憮然とした態度だ。


「嬢ちゃんの身の安全が確保されれば獣化研究に没頭できるぞ」

ブランブルのその言葉に、ふむ。とシャルトはため息と共に肩を落とし双眸を細めた。やっと獣化研究に望めるならば仕方ないかと思い悩む。


「相手が相手です。術者を探すのは至難の業でしょうね。宰相の息がかかっていない者を紹介しますよ」

「助かる」

「貸しにしておきます」


高く付きそうだ。とブランブルは顰め面でごちった。


公爵の身分を疎んじていたシャルトだが今となっては利用出来る者は利用する。踵を返し退室するとすぐさまシャルトは公爵の地位を使い行動に移した。







リラが目覚めたのはあれから2日目の朝だった。


医師が容態を診断し、短時間なら。と面談を許可された。


シーニアは寝台の上で身体を起こし、ぼんやりしているリラをしばらく見つめていた。

近くに行ってもリラは気が付かない。

「リラ大丈夫?」

シーニアはリラに声をかけ手を取ると唇を落とした。

リラはゆっくり瞬きを繰り返すとシーニアに向いた。

「…………シー……ニア…」

シーニアは手を握り黙ったままリラを優しい瞳で見つめた。

リラの瞳が揺らめき眦からホロリホロリと大粒の涙が溢れていく。

シーニアは寝台の縁にリラに寄り添う様に腰かけるとリラの肩を抱き寄せた。

「大丈夫、もう大丈夫だから」

「ふっ……っ、ぇっ……っ…………」

嗚咽を漏らしながら肩を震わし泣くリラをただ静かに撫でていた。

「大丈夫、大丈夫だから、ね」

優しく、優しく繰り返す。




嗚咽が小さくなり震えが収まるのを待ってシーニアはリラを身体から離し、両手をリラの頬へ伸ばした。

リラの頬を両手で包み親指の腹で涙を拭うとそのまま顔を近づけリラの額に口付けを落とす。

リラは涙で潤んだ瞳を見開きシーニアに顔を向け不意を突かれた行動に驚き止まっている。

シーニアは、ふっ。と笑い次に両頬に口付けをすればリラはハッとした様に、シーニア。と小声で呟き焦った手がシーニアの胸を押す。

シーニアはリラの儚い抵抗をそのまま受け入れ身を離すと困った様な笑い顔を浮かべた。

どうして良いか分からないリラは視線を彷徨わせ俯くと顔が赤くなるのが良く分かった。


シーニアはリラの手を握り再び唇を落とす。

「いつものリラが一番だから。早く元気になってね」

また遠乗りに行こうね。と耳元で囁けば更に赤くなった頬を俯いて隠すようにしていた。


シーニアは、時間だから。と名残惜しそうにリラの手を握り唇を落とし部屋を後にした。








私は何度も唇を落とされた手を反対の手で撫で呟くと目を伏せた。


「シーニア…………………………ごめん」



ごめん。

ずるい私でごめん。


シーニアの優しさに縋った自分が情けなくて、悲しくて、遣る瀬無かった。


誰も頼る者も居ない自分、心許ない気持ちをシーニアに縋った。


拒まないのを分かってシーニアの気持ちを利用した自分が一番嫌い。



護ってもえる甘えに縋る私はいつか自分を失くす。








私の回復を待ち、隊長達が勢揃い寝台の近くに並んで立っている。シャルトも列に並び皆神妙な面持ちだ。

隊長勢揃いで横一列に慇懃に並ばれると迫力がある。



ブランブルは寝台に近寄ると右膝を床に着き私に傅いた。

「今回の不始末、騎士団に有るまじき失態だ。代表して謝罪させてくれ」

ブランブルの畏まった態度にこちらが慌てる。

「かっ、顔を上げてください。ブランブル団長。騎士団のせいではありませんっ」

ブランブルは、それは違う。とばかりに首を横に振る。

「騎士は護るのが仕事。それを二度も反故にするとは騎士として矜持に欠けるんだ」

「では、もう大丈夫です。私は今ここにいます。助けて頂きました」


「………嬢ちゃんは甘いなぁ」

ブランブルも困まり顔で苦笑いをする。

「お世話になっている分、今回と差し引き無しです」

私も困り顔で笑えばニヤリと笑い返された。

「皆さんにも色々ご迷惑かけてすみませんでした。御尽力を頂きありがとうございました」

後ろで控える隊長達に頭を下げ礼を取る。

こんな神妙な空気は早く終わらせて欲しい。



シャルトが列から一歩前に出て私に礼を取った。

「私の不徳の致すところで貴女を危険に晒しました。謝罪しても謝罪しきれません」

シャルトは悲愴な顔をし下を向いたまま微動だにしない。

「シャルトのせいじゃないよ。私はもう大丈夫だから」

シャルトは眉間に皺を寄せ苦しげに首を振った。

「術に不備があったのです。虚を突かれたとはいえ過信し傲った結果で貴女を傷つけた」

苦しげに目を伏せ手を堅く握りしめた。

「じゃ、対処出来る様に魔術を教えてね。魔術講師の約束忘れてない?次が無いのが一番だけど迷惑かけない様に私も頑張るから」

シャルトを見つめ微笑み、ね?と首を傾げる。

居心地の悪い場を和らげ様と努めて会話を軽くしようとするが中々終わりそうにない。



ブランブルは眉を寄せ憐憫の様な視線を向け口を開いた。

「嬢ちゃんは責めないんだな」

「なにを?」

「色んな意味で巻き込まれただけの被害者なのに」

「何故?」


私にとってこの未知の状態を誰かに責任転換した所で解決しない事を理解している。打ち拉がれても意味がないのだ。


「今をどうするか考える方が大事でしょ?私は迷惑かけてばかりだから……」

身を竦ませ眉を下げ困り顔で笑えばブランブルに溜め息をつかれた。


無理はするな。とブランブルは大きくて骨太な掌でワシワシと私の頭を撫で退室して行った。





窓の外は春の長雨か新緑の緑を水滴で濡らし青々と茂る木々が雨風に揺れている。



リアンの夢を見てからはこの世界の知識がリアンから得られたらしく、地理や魔術の知識などを少し理解出来る様になってきた。ただし、リアンは100年前の人なので情報としては古く差異があるのが難点だ。

リアンの記憶の情報整理を脳内で整理していた。



静かな医療室。


一人になれば雨音が響くと共に焦燥が訪れる。


ため息をついて寝台に身を預け仰向きになり天井を見つめ目を閉じた。



身元不明でお世話になって、仕事貰って給金を受け、衣食住面倒見て貰ったのだから……



救出と同等、差し引き無し。


私の切り札は、切り終わり。


次はどうするか、途方に暮れた。





私には何も無い……………………






政局のゴタゴタを数話で説明するのは難しいです(^^;; 伏線すら貼りにくい。


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