19 ニャンコと夢の中の真実と
暗い闇の中
眠っているのか、
微睡んでいるのか、
自分の意識が分からない………
闇の中を……………フワフワと揺れる光
闇の中に浮かぶ光に近づくと何かに触れる
柔らかく滑らかに…………………
この感触を知っている………………………
…………………………この手触り?
ん?…………モフモフ?
良く見ると光ではなくつぶらな瞳が光っていた。
「あぁ、あの時の猫ね…」
そう言うと、猫は頷いた。
猫は自分をリアン・シュベーフェルと名乗った。
『私は元はこの世界にいました。術式が失敗して暴走し、貴女の世界に飛ばされました』
金色の瞳を光らせて私の目の前に座っている黒猫。
木に登り助けた猫が目の前に座っているのを不思議な気分で眺めながら、私は自分の中の疑問をぶつけていった。
「貴女は私が助けた猫で、リアンというのね……」
『はい』
「私がここに来たのはリアンと一緒に木から落ちたから?」
『そうですね』
「ここはリアンの世界なのね?」
『はい』
リアンは答えていくうちに、大きな目を翳らせ伏せ目がちになると小さな声で懺悔の様に吐き出した。
『……私はあの時死のうとしていました』
私は項垂れ視線の合わなくなったリアンを見つめて息を飲んだ。
リアンの言っている意味が分からない私は言葉に詰まり暫し瞑目するも質問を続けた。
「じゃ、……私がした事は余計なお世話だったかな?」
『……いいえ。貴女のおかげで異界を抜けこの世界に戻り還る事が出来ました』
「一応、私がやった事は無駄じゃなかったのね?」
『はい』
「経緯を聞きたいんだけど良い?」
『…はい』
リアンの“ 死 ”という答えに焦燥感のような物に駆られるも、私は疑問をリアンに聞いた。
リアンはバツが悪そうに視線を彷徨わせながらも私に説明をしてくれた。
生物転移術を作る為にまず転移に耐えられるにはどうしたら良いか考えた。それの為に考えついたのは霊獣召喚し憑依させ、自身を変化させて獣化した。それが猫化だった。解除は自身の魔力を高め憑依を剥がす事で出来る。
その獣化中なら霊獣加護で生物転移が出来ると思い実験をした。
『で………………術が暴走しました』
「それであっちの世界に飛ばされて来たの?」
『はい。恥ずかしながら。
予期せぬ事態でしたので、あちらの世界を目指した訳では無く、波動の近い世界に引き寄せられた感覚ですね』
「物とか同じだし、生物の差異がないのは近い感覚の世界に飛ばされたからだと思うけど。……なぜ私も猫に?」
『あの世界では私の力を充分に発揮できず魔力不足で帰還する事は叶いませんでした。私は帰れない事に狂いそうな日々に絶望し、とうとう耐え切れず死を望みました。そこへ貴女が来ました。木から落ちる貴女を助けたくて転移を発動させました。
あの世界の住人も魔力を持っています。貴女も然り。しかも貴女は強力な魔力持っていました。貴女の魔力も使い異界を渡りましたが境は生身では通過出来ません。私の魂を貴方に転移させて境で傷ついた貴女を私の力で補修し、霊獣加護と獣化で貴方を猫化させました。貴女に魔力があるのもその為です』
「私の言葉や文字が読めるのもリアンのおかげ?」
『そうですね。獣化の副産物ですが…』
リアンは大きな目を細め困った様に眉間に皺を寄せていた。
私は胸の中に残る疑問を吐き出す様にリアンに答えを求めた。
「なぜ私が記憶喪失になったのかわかる?」
『他人の魔力で強制的に獣化を解いた弊害で記憶喪失になったと思われます。後は貴女に私の魔力が安定してきて少しで済むようになり記憶喪失しなくなったのだと思います』
「なるほど。じゃあ、この広い世界で何故騎士団の所に転移したの?」
『それは騎士団内部の者が私の遺品に関与しているからだと思います。転移術をするに当たり、転移先の術式も必要となります。転移先に友人や仲間に手紙で術式を送りました。多分それを所持しているのではないかと思います』
「じゃぁ、私は元の世界に帰れる?」
『…………………………』
「………そう。助けてもらった事にはお礼を言っておいた方が良いのかな」
『……自分の世界から離れる辛さ、寂しさ、苦しみを知っているのに、同じ想いを貴女に背負わせてしまい……すみません。私は貴女の魔力を利用する事によって還る事が出来たのに、私は貴女に何も出来ない……』
「……知る事が出来て良かったよ。知るのも必要だから。……帰れない覚悟が必要なのね」
『私は魂だけでも還りたいと死を望みました。もっと早く死の覚悟を決め行動しておけば貴女を巻き込まずに済んだのに……』
「これが運命なんでしょ?……今をどうするかを考えるわ」
『すみません。貴女に出来る事は私の全てを渡す事くらいです。私をここに還してくれてありがとうございました。そしてすみません…………』
ごめんなさい………
そう言うと光が消えて辺りは闇となった。
あぁ、帰れないのか…………………
知りたくなかった真実に目を背けるように私は目を瞑り意識を手放した。
このまま闇の中に沈んでいたい…………………




