16.5 ニャンコと叙事と叙情と《シャルト視点》
知らぬ者は居ない、容姿端麗、眉目秀麗の美丈夫のシャルト・メイフェイア公爵。
胸元まである翡翠色の髪、すっきりとした目元、通った鼻筋、薄く形の良い唇、磁器の様に白い肌、赤紫の瞳がよく映える美丈夫。イシェルワ国で1、2 位を誇る魔力を持つ魔術師。公爵家4男で嫡男ではないが婿狙いの御令嬢に鵜の目鷹の目の的。顔、実力、地位、三拍子揃いで日々浮名を流し、4男故に責任なく遊べる立場を存分に謳歌する。魔術研究に明け暮れ、飽きたら夜会に参加し御令嬢との艶やかな夜を楽しむ。
単純な女心理。
攻略の甲斐すらない。
研究は求めても思い通りにならない歯痒さをくれる。それが私の欲を満たす。
いや満たさないから求め続けるのか。
そんな恵まれて満たされ優遇されるのに慣れ、意味を無くしながらも怠惰に納得し惰性の日々をシャルトは送っていた。
( 爵位と力が目的な訳ですから必死ですね。下心が透けすぎて愉しみも無いですね )
割り切った関係だけの付き合いで日々を過ごす。
公爵という爵位に惹かれる物は多い。
況してや将軍派でも宰相派でも無い。
優れた人材を一族から輩出し、王宮、騎士、魔術士、其々に人脈を持つ公爵。
王族に連なる血脈と婚姻で盤石な地位を維持し、中立派の代表でもあるため引き入れたい者が躍起になる。
そのため娘の婿にと独身のメイフェイア子息達には日々釣書が送られてくる。
シャルトも例外ではない。
その日も婚姻関係でメイフェイア家を引き入れたい上司が釣書を持ってきたので、事務所の書類を代理で持って魔術師団を抜け出し逃げた。
「魔術師シャルトと申します。補給部隊の書類が此方に紛れていたので届けに来ました」
騎士団員に案内され担当の人物に書類を渡した。
ふと、違和感を感じたシャルトが周りを見渡せば女性騎士が猫と戯れている。ただ猫と戯れているだけなら違和感は無い。だがその猫から高い魔力を感じたのは勘違いではなさそうだ。
「アレはなんです!?」
思わず猫を指を指し驚愕を抑えられなかった。
「猫が魔力持っているなんてありえないですよ!?」
回りが驚いているのが驚いた。魔力に気が付かないのか……
( こんな魔力、私と同等かそれ以上か……… )
補給部隊の担当者はシーニアと言った。
その彼から不思議で信じられない様な話を聞いた。
流石に、月明かりで猫から人へ。などと妄想を聞かされるとは思わなかったが…………………
だが…………無くは無いのだ、
人から獣化する術は……。
一通り説明すれば、猫かどうかハッキリさせたい。と言われ術を試す事になった。
私としても魔力を持った猫など初めての事、試してみれるとは研究者冥利につきる。
猫を眠らせ術を発動させる。
魔力が満ち溢れ猫から光が溢れる。
猫の四肢や身体が膨らみ伸びてゆき、毛皮に覆われた身体が肌になり………………
カバーを掛けられたが黒髪の若い女性だと分かった。
彼女の獣化を知るために騎士団との条件に不満はあるが研究者として断る訳にはいかない。
不承不承制約を飲み騎士団で彼女を観察する機会を得た、が。
彼女は記憶を失っていた。
ただの研究対象。
ただ術のため。
ただそれだけだった。
彼女にピアスを渡し魔力を調べ位置すら把握する。
それを疑いなく彼女は受け取り身に付ける。
疑う事を知らない彼女。
記憶が無いのだから当たり前。
だが貴女は記憶が戻っても、変わらなかった。
日々楽しそうに過ごし目新しい物に瞳を輝かせて表情がよく変わる。笑い、怒り、拗ねて、感心するほどよく変わる。手に唇を落としただけで赤くなり純真な反応に楽しくなる自分自身に驚いた。
奇異の目で接しないのも貴女だけだった。
「女性と居るのに払わぬ男はないでしょう?」
私が居るのに支払いを任せない上に、私に、矜持は休み。と彼女は言う。
そんな事、公爵家の人間が出来る筈も無いのに。
私からの食事の誘いを自分が払う。と言い出したり、普通の女性相手とは違う事にこちらが戸惑う程だ。
公爵の地位などに興味も示さず意にも介さず、媚びずなびかない。欲目も欲心も無く謙虚で控え目だ。変わらない貴女に変わらない私で居られる事にどれ程心を満たされたか分からない。
おまけに貴女の持ち得る知識の広い事に私は感嘆し頷くしかなかった。女性との欲を隠した取り引きの様な上部だけの薄い会話と違う。知識のやり取り、対等な会話がどれ程私の心を踊らせたか貴女は知らない。
魅惑的で魅力的な女性は今まで沢山居た。
だが今はそれ達に価値が無い。
貴女の隣の居心地の良さは格別だ。
貴女に私が染み込む様に想いを囁く。
いつか私に堕ちてくる様に貴女を染める。
そして私は今日も貴女の手を取り唇を落とす。
12/20加筆




