16 ニャンコと酣酔と欷泣と
風邪ひいた(TT)15日過ぎちゃったorz
今日も午後は休みになった。
訓練は午後からが多い様だ。
私はこれからの予定を思索してニヤリとした。
( うん。行動に起こすか )
部屋に戻り必要な物を出すと、部屋を見渡してセッティング場所を考える。
私は場所を整え、セッティングを完了すると浴場に向かった。
のんびり入りゆっくり浸かった。
( 早い時間だと人が少ないから気が楽だわ )
一旦新しい作業着に着替えたら次は食堂に向かう。給仕の人から食事を受け取るとトレイに乗せたまま私は部屋に戻った。
私は着ていた作業着を脱ぎ片付け、夜着に着替えセッティングした場所に座る。
「あーーーー!やっと部屋飲み出来るーーーー!!」
開放感と共に身体をぐぐーっと伸ばし思わず声が出る。
元々、独身一人暮らし。
社会人になり一人暮らししてから独り言が増えた。
「のんびり気兼ねなく飲んで食べれるのサイコーー!しかも、夕日が綺麗ーーーー!」
そう。今日は午後から時間が空くので食事をしつつ飲む事にしたのだ。
掃き出し用の窓にはベランダが付いている。
部屋は2階の外れ。
私は騎士とは違うため他の人と部屋を離しているらしい。逆に私にとっては隣を気にしないでいられるので気楽だ。
「アパートじゃお隣さんとの騒音問題が大変だもんねぇ」
窓を開け、少しベランダに出る様にクッションを並べ毛布も用意した。
セッティングは完璧!
行儀は悪いが床のクッションにパフんと座り窓の桟に凭れかかり食事をしながらお酒を口にする。
窓から見えるのは洋風の建物に林の木々。
遠くに山々が連なり夕日でシルエットに浮かびあがる。林を抜ける風が心地よく吹き夜着の裾を揺らす。
夕日が山々に沈み空は朱から藍のグラデーションに彩られ一番星が輝いている。春風は酔った肌には心地良い。
怒涛の如く過ぎた4ヵ月。
気を休める日も無く過ぎた日々を私はぼんやり思い出していた。
「色々あり過ぎ。猫を助けて異世界へ。ってマジですか!?いや、猫を助けて猫になり。か?誘拐されてるし!記憶無くすってドラマか!?」
猫を助けて木が折れて落ちたと思ったら猫になっているなんて、何の冗談だか。笑えない。
魔術だの騎士だのとそれだけでも許容範囲外な出来事に頭がついて行かない。一人になる時間も中々なくて気を張ってばかりで、私はやっと息抜きができた。
酔いに任せて一人独言る。独言らないと違う事を思い出してしまう。
私は思い出さないよう頭から振り払うため、食べ終わったトレイをテーブルに置きカーディガンを羽織りトイレに行った。
ただのんびりと月を眺めお酒を口にする。
闇夜に浮かぶ弓張り月。
流れる雲が時より掛かる。
同じ月でも、違う月。
同じ空でも、違う空。
ただ月を眺め、お酒の酔いに身をまかせる。
( 実家に帰った時もこんなだなぁ )
里帰りして飲んで食べて顔見て帰る。
ただそれだけ、が今は遠い。
溢れ出してしまった望郷の想い。
塞き止める事はもう出来ない。
次から次へと脳裏に流れる普通の日々。
「…………っ」
月が揺れて歪んで滲む。
こぼれない様に月を見上げるも溢れる涙は止まらない。
静かな風に吹かれ涙で頬を濡らす。
溢れる涙と想いに身を委ね声もなく泣いていた。
帰りたい……
帰りたい……
ただ帰りたい
自分の世界に
声にする事のない想い。
その想いを涙が代わりに流していく。
*
コンコン。
コンコンコン。
ドンドンドン。
ふとドアを叩く音に顔を上げる。
少し荒くドアを叩く音に私は眉を顰め毛布を被ったままノロノロとドアに向かう。
「…………誰?」
「シャルトです。リラどうしましたか?」
「……なんでシャルト来たの?」
「魔力の変動があまりにも激しくて心配になり来てしまいました」
「…………そんなんで来ないでよ」
「いざという時駆け付けられないじゃないですか」
シャルトは焦った声をしていた。
私は渋々ドアを開けるとシャルトは心配顔で私を見つめている。
私の魔力変動を察知して部屋まで来たシャルト。私にはこんな時に来られても迷惑以外何者でも無い、と溜め息をつく。シャルトは私の胸中など知らず気遣ってくれるが今の私には煩わしかった。
「飲んでいたのですか?飲み過ぎでは?」
「ほっといてよ」
宿舎の守衛をシャルトがどう抜けたのか気になるが毛布を被って隠しても私のお酒で赤い顔は誤魔化せない。毛布で目元まで隠しているがバレてる様だ。私は気不味くて空いた手で覗き込むシャルトを遮ろうとするが向こうの方が背が高い。無駄な努力とばかりにシャルトにドアから覗き込み入られ、2本も飲んだんですか?飲み過ぎですよ。と呆れられてしまった。
「女子の部屋覗くな〜!勝手に入り込むな〜!」
私はシャルトを手で押し侵入を阻むも部屋から出ない。
「入られるのが悪いんですよ。反省して下さい」
「反省はそっち〜」
服を引っ張るも退室しないシャルト。
「のんびりしてるんだから出て〜」
「どうぞ気にせず」
「気にする〜」
「気にしてくれるのですか?嬉しいですね」
服を掴んでいた私の手をシャルトに掴まれ引かれると向き合わされた。そのまま近寄られシャルトを制するため私は思わず手を出すと押さえていた毛布がパサリと落ちた。隠していた顔も露わになり月明かりに照らされる。
シャルトは掴んだ手で私を引き寄せると両手で私の頬に手を添えた。
「熱いですよ?」
「お酒のせい」
「目が赤いですよ?」
「……お酒のせい」
「頬が濡れてますよ?」
「…………ほっといて」
「泣いていたのですか?」
「……………………ほっといて」
シャルトが頰に添えた手で私の顔を上げようとするのを手で抗うも微動だにしない。身動ぎして抵抗するも動けず、顔を上に向けさせられた。
「お酒で何を紛らわせたかったのですか?」
「………………………………ほっといて」
シャルトの瞳が私の視界に入ってきたが気まずい私は両手で固定され反らせない顔の代わりに視線を逸らした。
「ほっておけませんよ?」
「ほっといて!」
「分かりました。ほっておきます」
シャルトは手を解きそのまま背に手を回すと私を抱き寄せ耳元に顔を寄せた。
「貴女が泣いてもほっておきますよ。このままね」
そう言うとシャルトは私の頭を優しく撫でた。
「…………………離してっ」
一人で飲むのが好き。
気を使わないから。
誰もいない所なら感情が吐露できる。
いつもそう。
いつもなら。
「っ…離し……て…………」
抗うも腕は緩む事なく手も止まらず頭を撫でている。
でも。
いつも、じゃない、ここは
「………………っ……」
触れる手が心地よくて。
寄せられた体温が暖かくて。
止まったと思った想いがまた溢れて頬を伝う。
月明かりの中私はシャルトの肩口に顔を埋めていた。
* * *
シャルトは肩を震わす彼女を抱き締めていた。
彼女は声も無く泣く。
ただ静かに声を洩らさず。
秘めて出さぬ声。
何を声にしたくないのか。
言わずとも分かる。
彼女が一度も言葉にしない。
帰りたい。
ニホンと言う海を越えた先の島国。
祖国への帰路も分からないままの彼女。
理不尽な環境に甘んじて本心は語らず笑っていた。泣き言も不平不満を洩らさずそのままを受け入れていた。見知らぬ土地で唯一人。心細くて当然だろうに。
受け入れていた訳では無い。
諦めて、内に秘めた。
泣く彼女を抱き上げ寝台に向かう。
シャルトはそのまま寝台の縁に深くに腰を下ろし彼女を横抱きに抱え直し膝の上で抱き寄せた。肩口に顔を伏せたまま静かに肩を震わせている彼女の背中を摩る。
しばらくすると震えは止まり身体の緊張が解け彼女の体重が腕に掛かった。
聞こえてきたのは小さい寝息。
シャルトは彼女を抱え直し寝台に横たえた。
寝台の縁に座り彼女の顔を覗き込み頰に手を当て涙に濡れた睫毛を親指の腹で拭う。
額に張り付いた黒髪を払い額に唇を落とし、瞼、頬へと唇を落とす。
「まったく。こんな無防備では食べてしまいますよ。平和な国育ちで警戒心が無さすぎにも困りモノですね」
シャルトは髪を撫で一房手に取り唇を落とすと
次は無いですよ。と囁き部屋を後にした。




