15 ニャンコと散歩と馬上でと
ーーカッパコッポパッカポッコーー
私は只今、馬の上から景色を眺めています。
揺れがちょっと怖いけど高いから眺めが良いです。
今日の私は1日休み。
ディルムンが訓練で一日居ないので私はお休みです。
事前にそれを知っているシーニアに、約束覚えてる?明日何処に行こうか?と私の返事も聞かず決定事項で話を進められた。
私は街散策でもするのかな?と思っていたら、シーニアが、行った事のない所にしよう。と言う事になった。
私が馬に乗れないのでそんなに遠くに行けない為近場にするらしい。
馬ならパンツ履いて行かないとダメだよね?と私が聞いたら、シーニアに、大丈夫だからワンピースが良い!と強く言われ着ていく服を指定された。
朝私は起きると身支度を整えクローゼットを開け服を選ぶ。何着かある中から薄紫色に襟元が少し開き同色のレースが飾りに付いたワンピースを着ることにした。靴はいつも履いているハーフブーツ。髪を上下に分け上を緩く結い上げ髪飾りを付けた。
記憶の無い時にシーニアに買って貰ったとセレンから聞いた髪飾りだ。
「貰った物を付けるのも何だか恥ずかしいわね」
私は気恥ずかしさに身悶えたが、買ってくれたのに付けないのも悪いから。と良く分からない自己弁護に納得をして付けた。
「シーニア。今日はよろしくね」
私は迎えに来たシーニアに近づき挨拶をすればシーニアに頭の先から爪先まで見られ、うん!と頷かれると私はシーニアに手を握られた。
「うん。似合うね。可愛い。髪飾り付けてくれたんだ!似合うよ!」
シーニアは髪飾りに目を向け瞳を輝かせ優しく笑った。
いつもの様にシーニアの褒め言葉で顔を赤くする私を横目にシーニアは私を連れ馬の所に向かった。
シーニアは食堂で昼食用のバスケットも用意済みで準備万端だ。
馬で遠乗りする訳だが、もちろん馬に乗れない私はシーニアに腰を抱え上げられ馬に乗せられた。抱き抱えられる事に慣れていない私は思わず、きゃぁ!!っと悲鳴をあげてしまった。
私の悲鳴にシーニアに意外そうな顔で、怖かった?ごめんね?と謝られた。
いきなり抱き抱えられ驚いたのもあるが本当は違う。触られるのが苦手なのだ。くすぐったいのがダメなのでつい声が出てしまう。
「猫のリラを知ってると高い所とか大丈夫そうに思ってた」
「好きで猫になった訳ではありませんよー」
私が拗ねて口を尖らせていれば、シーニアは、ごめんごめん。と笑っていた。
私を馬上に横座りさせるとシーニアは軽々と馬に跨った。揺れる馬上に心許ない私は所在無さげに何処を掴もうかとワタワタしてるとシーニアに腰を引かれて寄せられた。やはり、ひゃぁっ。と声が出てシーニアにクスクス笑われた。
「歩くから揺れるよ。怖かったら掴まっててね?」
歩き始めるとゆっくりだけれど揺れ幅が大きくバランスを保つのが難しい。
シーニアは右手で手綱を持ち左手で私の腰を固定した。シーニアの左の二の腕が背中も支えてくれるので安定してはいるものの、何か掴んでないと不安で上半身を捻りシーニアの胸元の服を両手で掴んで身体を寄せていた。
私は慣れない馬上に視線が定まらず馬を見たり下を見たりキョロキョロする。馬の動きが大きいと、わっ!ひゃっ!と声が漏れシーニアは眉を下げ困り顔で笑っていた。
しばらく歩き足場の安定した町中に差し掛かった。
「少しなれた?道が落ち着いたからあまり揺れないと思うけど大丈夫?」
緊張して全身に力が入っていた私も少し周りが見れる様になり、周囲を見回した。高い視線にいつも見ている景色が違って見える。馬車が通り過ぎたり歩く人を見たり、馬上から見ているだけでも楽しい。
町を抜け街道沿いに歩くとまた少し揺れてきた。
私を心配して、大丈夫?と聞いてくるシーニアに私は、大丈夫。と返すと目を瞬かれ、シーニアはすぐ前を向き馬を操る。
私は不思議に思うも、乗馬に慣れていない者と同乗するのは気を使うんだろうなぁ。と思い視線を景色に戻した。
道を進んで行くと開けた所に差し掛かりシーニアは、この先だよ。と道を外れ草原の中を進んだ。
草原は若草が丘を覆い風にたなびき春めいている。所々に花が咲きほころび華やかに彩る。
草原は小高い丘になっており丘を緩やかに上がって行くと景色が開ける。
頂に立つと眼下には草原と流れる河、河の対岸も丘になっており、その周りは畑が広がっている。遠くに林があり更に遠くに小さく山々が連なっている。
「良い景色でしょ?たまには開放的な所が良いかと思って連れた来たかったんだ」
シーニアの言葉に私は馬上から雄大な景色を眺めていた。
あぁ…似ている。
地元の景色が重なる。
私は思い出さない様に心に蓋をした。
「素敵な眺めだね」
私がそう答えるとシーニアは、良かった。と嬉しそうに目を細め木陰に馬を進めた。
木陰に着くと私はシーニアにまた抱えて降ろされた。私は声が出るのを飲み込み耐えたがシーニアにクスリと笑われた。
私が恥ずかしさに半目で見るもシーニアは気にせず笑い馬を木に繋ぎ荷物を降ろした。シーニアは敷物を広げクッションまで用意してくれる。
「お座りくださいませ。お嬢様」
シーニアが悪戯顔で言ってきたので私はありがとう。と困った笑い顔で返した。
「飲み物どう?果実水と水どっちが良い?」
「飲み物選べるなんて凄い。準備大変だったんじゃないの?」
「補給部隊だよ?これくらい軽い」
得意げに言うシーニアに、頼りになるね。と褒めれば嬉しそうに照れて鼻の頭を指で撫でる様にしていた。
( 照れている時の癖なのかな?なんか可愛い )
思わず、私はクスリと笑った。
シーニアは、まだあるよ。と荷物入れから出してきた。
「料理長新作お菓子。木の実とドライフルーツの入った焼き菓子」
一緒に敷物の上に座ると私はお菓子を摘む。
お菓子が甘いので私は水をもらい口に付けながら景色を眺め、ほぅ。と一息つくとシーニアは、疲れた?と身を乗り出し聞いてきた。
「大丈夫だよ」
「それなら良いんだ」
「素敵な景色に見惚れてただけ」
シーニアに向き私は笑って答えると微笑で返され、私はまた景色に視線を戻し眺めていた。
風が心地よく吹き目を細め風を感じていた。
「水が光って綺麗だね」
「近くに行く?」
「うん」
シーニアの提案に私は快く答え丘に向かうと、足元気を付けて。とシーニアは手を取って引いてくれる。
( これくらいの斜面駆け降りれるんだけど…… )
トレッキングで野山を駆け回っていた私には平気なのだが大人しくしておく。
私は河原に降りると川辺に近づき水面に手を入れた。
「ちょっと冷たい」
濡れた手を水を切る様に振るとシーニアは手拭きを出し私の手を拭いてくれる。
「ありがとう」
「まだ春先だから冷たいでしょ?」
春もあと少しだね。と言いながら、すかさず手拭きを用意するシーニアは私の事をよく見ていてくれる。それが擽ったいような面映ゆい様な気持ちに私は胸の中が暖かくなった。
私は用意のいいシーニアに感心してお礼を言い水面をみれば魚が泳いでいるのが見えた。私は思わず破顔して魚がいた所を指差した。
「魚!いたの見えた?」
「いたね。見えた」
「子供の頃良く川で魚獲ったりしてたから懐かしい」
思わず私はシーニアの服の裾を掴み引いて川に向いた。
「リラの子供の頃?可愛いかったんだろうね?」
「もー!魚の話し」
シーニアはクスクス笑って答えにならない。
「小さい頃はおてんばさんだったんだね?」
「シーニアは川で魚獲ったりした事ないの?」
私は質問を質問で返した。
「小さい頃も獲ったりしたけど、野外訓練で獲ったりもするかな」
私が、そうなんだ。凄いね!と言えば、シーニアに、獲ろうか?と言われ、濡れちゃうからいい!と断った。シーニアの行動力の高さに頬を緩ませてお互い笑った。
私はシーニアと川辺を散歩をした。
「景色が良いね」
「いつも騎士団の中ばかりじゃつまらないでしょ?」
「そうだね。外をのんびり歩くのも久し振りだね」
私はのんびりと日差しに光る水面を眺めたり久し振りに開放的な風を感じて心が解れるような気がした。
シーニアに、昼食にしよう。と声を掛けられた。
私が丘を登り戻る時も手を引いてくれるシーニア。
「いつもありがとう」
「足元気を付けて」
シーニアは私に微笑で答えてくれる。
私には、その優しさが暖かくて胸が詰まった。
シーニアはバスケットからサンドウィッチを出して昼食の準備をしてくれる。シートに並べられる大量のサンドウィッチに私は目を見開いた。
「……凄い量だね?」
「リラの好みを用意してみたけど、好きなの食べてね」
シーニアは私の好きな味付けのチキンソテーのサンドやハムサラダサンドなど色々用意してくれている。
「リラ、好きなだけ食べてね」
「好きなサンドウィッチばかりで食べ過ぎそう」
困り顔で笑えばシーニアは、リラは少食過ぎだよ。いっぱい食べてね。と勧められる。
私がお腹いっぱい食べてもシーニアから、それで足りる?と心配される。
焼き菓子も食べたから充分だよ。と言うと、少食だね。とやはり心配された。
筋肉ガチムチな騎士と食べる量が違うのは当然だと思うのだが。
「シーニアは足りる?」
「自分の量は分かってるから大丈夫な量を持ってきた」
「……シーニア良く食べるね」
パクパク食べるシーニアを私は呆気に取られて見ていた。
昼食も食べ終わり、まったりとした時間が流れる。
私は果実水をもらいのんびりと景色を眺めた。
風に吹かれ流れる雲を見つめていた。
「少しは息抜きになった?」
「凄く。ありがとうねシーニア」
私がシーニアに向くと熱を潜めた瞳で見つめられその距離が近付き、また誘って良い?と真剣な眼差しで見つめられた。
私はその熱い瞳に射抜かれ返事に詰まり視線が揺れる。
シーニアは眉を下げて微笑すると前と同じく、考えておいてね。と言い意味ありげな微笑を口元に浮かべた。
シーニアが、そろそろ戻ろうか。と私に声を掛けた。
近場とはいえ乗馬に慣れない私の為にゆっくり馬を進めた為に来るのに時間がかかった。
昼もだいぶ過ぎ、帰り道にも時間がかかるので早目に帰りに向かう様だ。
シーニアは手早く荷物を片付け馬に括り付けると私を抱え馬に乗せた。やっぱり、ひゃぁ!と声が出てシーニアにクスクス笑われた。
私は歩き出した馬の揺れに、行きと同じくシーニアの服を掴み揺れと戦っていた。
「楽しんで貰えたかな?」
「ここに来てからこんな時間は初めてだから凄くのんびりできた」
笑って答えればシーニアは腰に当てた手にグッと力を入れ私を強く引き寄せ顔を耳元に近づけ囁いた。
「もっとこうしていたい」
私はどうして良いか分からず恥ずかしさに視線が彷徨いシーニア服を握りしめた胸元に顔を付けて隠した。
行きは馬に乗る事に必死で意識する余裕もなかったが今は違う。
衣服の上からでも分かる厚い胸板。
力強く逞しい二の腕。
シーニアの腕の中に包まれている事を再認識して、恥ずかしくても私は動く事が出来ず、顔を上げる事も身体をシーニアから離す事も出来なかった。
顔を上げない私の頭頂にシーニアがキスをしたのを私は気が付かない振りをした。
騎士団に着きシーニアに馬から降ろさせて貰い私はお礼を言った。
「シーニア今日はありがとう。とても楽しかった」
「俺も楽しかった」
シーニアは私の手を取り甲に唇を付けた。
「……また」
シーニアはそう言うとクルリと後ろを向き馬を引いて去って行った。
私は熱い顔を両手で押さえ身動きが出来なかった……。




