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第6話 正妃の暴走

「ーーあら?どうしましたの?東方の州より取り寄せた、最高級の茶葉で入れた物ですわ。先程のとは味が違いますけれど、とても美味しい」

「これに何を入れたんですか?」


 果竪が茶器をテーブルの上に降ろす。


「はい?」

「違う匂いがしますけれど」

「……」

「正妃様に無礼です」


 お茶を入れた侍女がきつく問うが、果竪は明燐からを話さなかった。


「一杯目は違う茶葉でしたけれど、香りの強いお茶でした。それこそ、少々鼻が麻痺する程の。確か、時間が経つに連れて少しずつ匂いを増していく物があるのは知っていますけれど、普通そういうのは最下位の妾妃と飲むのには使用しませんね。いえ、むしろ別の意味で使用するかもしれませんけど」


 果竪の指摘に、明燐は相変わらず微笑んでいた。


「それに二杯目のお茶。これはさっきとは違う系統の匂いです。ええ、こんなに強い匂いを立て続けに嗅がせられたら、そりゃあ鼻も馬鹿になりますよ。そうまでして、隠す物が独特の匂いをしていなければ」

「……」

「無味無臭の毒自体は、実は意外と手に入りやすいんですよ。でも、後遺症や副作用、依存性が殆どない代物っていうのは、それなりに高くて精製が難しい。こちらの無味無臭の物は、それこそ王侯貴族ですらなかなか手に入らないし、そういうのはまともな国なら徹底的に管理される。ああ、わざと味と臭いを付けている場合もありますね。隠して入れられる等の犯罪行為に使用されないように。特にそういう事に関してはこの国は徹底している、それこそ正妃様でもそう簡単には手に出来ないでしょうね、無味無臭は」


 こちらの忠望が果竪の知る忠望と同じ信念の持ち主ならば、無味無臭の毒が軽々しく使われる事態など彼が絶対に許さない。


「……」

「たぶんこれは睡眠薬ですか。どうして、これを」


 果竪は言葉を止めた。


 目の前に、白いほっそりとした二本の腕が迫っていたからだ。



「っーー!」

「待ちなさい!逃がしませんわっ」


 美しく麗しい、けれど今まで以上に壮絶な美と色香を漂わせた華麗なる花は、果竪を捕え損ねると、そのままテーブルを乗り越えてこようとする。


 なんてお転婆行為。

 しかし、それすらも酷く可憐だった。

 美神ってずるいーー。


 なんて思いつつ、それを果竪は椅子から立ち上がって避けるが、背後から新たな手が伸びてくる。


「うわっ!」


 侍女が、果竪の体を捕えようとしたのだ。

 他の侍女達も集まってくる。


 その手を潜り抜け、果竪は部屋の窓から外へと飛び出した。


「お待ちなさい!」


 明燐の強い声が背にかかったかと思うと、外に着地し膝を付いた果竪の横の地面を鞭が抉った。


「ひっーー」


 思わず振り返った果竪は、窓から今にも飛び出してきそうな明燐の手に鞭が握られている事に気づいた。


 まずい、このままでは確実に殺られる。


 元の世界に帰る前にーーいやいや、向こうの世界に居るこの体の持ち主が戻ってくる前に、その持ち主の許可無くこの体を死なせたらとんでもない事になる。


 果竪はすぐさま立ち上がって走り出す。


「逃がさないわっ」


 再び飛んでくる鞭を、果竪は着地した時に転がっていた木の枝で払いのけた。


「なっーー」


 まさか払いのけられるとは思っていなかったのだろう。しかし、鞭の軌道が予測出来れば、それ程難しい事ではない。


 だが、それに満足を覚えている暇はなく、むしろ着実に追い詰められている現実に冷や汗をかいた。


 正妃と言う地位は伊達ではない。いや、たとえ正妃であろうとなかろうと、明燐の魅力は一つも損なわれない。純粋に、明燐という個神の魅力に対して心酔している者達の手が、果竪へと迫ってくる。


「っーー!」


 正妃を守る国王直属の影ーー【海影】の一神が、果竪を追ってくるのが分かった。彼女もまた、果竪はよく知っていた。しかし、今の彼女は明燐の命令を実行する忠実な存在だ。


 果竪の進路を塞ぐようにして現れた彼女の手には、数本の針が握られている。それを、果竪に向かって投げつける。足元に刺さったそれは、確実に果竪の足を止めにかかっていた。ただ、足が止まれば後ろに迫る侍女の一神に捕えられる。


 流石は正妃付きの侍女。

 美しく清楚に正妃の傍に楚々として付き従うだけでなく、こういった荒仕事までこなすとはーー。まあ、向こうでも正妃付きの侍女は武芸にも通じているのが選考基準ではあったが。


 そう考えてみると、彼女――向こうの世界で昔王妃付き侍女をしてくれていた涼雪は、武芸の腕では他の侍女達に劣っていた。しかし、熊を倒す事に関しては誰にも負けなかった涼雪。


 ……この世界でも、涼雪は熊を狩っているのだろうか?


 会ってみたい気もするが、それは難しいかもしれない。

 この世界に来て、向こうで知る全ての者達に会ったわけではない。

 その中に、涼雪は含まれていた。

 他にも、葵花や小梅こと梅香、その他にもーー。


 彼女達はこの世界ではどのようにして生活しているのだろうか?


 元寵姫達もそうだ。

 こちらの世界で【本物の果竪】が死んでいるとなれば、この体の持ち主が煉国にーーいや、もしかしたら朱詩と他の者達で何とかしてしまったのかもしれない。そもそも、向こうの世界でも果竪などはおまけにすぎなかった。むしろ、色々と事態をややこしくして、皆に迷惑をかけてしまった。

 玲珠にも、結構酷い事を言ってしまった。いくら死んで欲しくなかったとしても、追い詰める様な事を言ってしまった。


 こちらでは、朱詩や他の上層部達に優しく助け出されたのだろうか?そうならば良いのだが。


「待て!」


 すぐ背後で声が聞こえる。これは、あの【海影】の彼女のものだ。


 伸ばされた手が、果竪の腕を捕える。そのまま、一気に引き寄せられそうになる。


 振り解こうにも、捕えられた腕を後ろに捻り上げられて上手くいかない。


「っーー」


 痛みに顔を顰めた瞬間、後ろから声が飛んだ。


「何をしているの!無傷で捕えなさいと言って」

「怪我はさせていません」


 冷静な声で果竪を捕えている彼女が答えたその時。


「痛みを感じさせた時点でアウトだよ」


 君もまだまだだねーー


 そんな揶揄する様な声と共に、果竪の体は【海影】の手から奪い取られた。


「ーーっ!朱詩様っ」


 果竪の顔が、何か硬いものに当たる。思わず鼻を手で押さえた果竪が顔を上げれば、恐ろしく艶と色に溢れた美貌が不機嫌そうに歪められていた。


「……」


 これは怒ってる。

 とんでもなく怒ってる。


 なんというかーー怒っている顔は、向こうの朱詩と一緒だ。


 いつも飄々として少年っぽい子供のような無邪気さを称えている朱詩だが、怒れば怒る程ーーこんな風になるのだ。静かに怒る朱詩に、果竪は冷汗を流した。


「お前は本当にトラブルメイカーだね。少し目を離しただけで、なんだい?この有様は」

「う……いや、これは私のせいじゃ」

「言ったでしょう?」


 朱詩は相変わらず不機嫌な顔で果竪を見下ろす。


「あんまり好き勝手するなって。……早速、手酷い目にあっていたみたいだけどさ」

「い、いや、ってかただ普通に正妃様とお茶を飲んでいただけです!なのに、いきなり飛びかかられそうになって」


 確かに武芸は危険だからやめろと言われ、それを拒みはした。だが、所詮最下位の妾妃なのだ。底辺で何かをやろうとも、誰からも愛され、大切にされ、国の宝とされる明燐を、その正妃の地位に傷をつけるどころか揺るがす事すらないだろう。


 それに、そもそも迷惑がかからない様にしていたし。


「だから、私は何も」


 果竪はこれまでの経緯を必死で伝えた。

 本当に、何も、なかった、筈だ。

 だが、朱詩はゆっくりと首を横に振った。


「お前にとっては何でも無くても」

「ひ、筆頭書記官様?」


 自分を抱える朱詩の手に力が入り、果竪は痛みを覚えた。けれど、向けられた真剣な眼差しに視線をそらせない。


「それがこちらにとっては、心の琴線に触れる事だってあるんだ。ーーいくら仕方が無かったとはいえ、お前はその琴線に触れすぎた、しかも」


 土を踏みつける音に、朱詩は顔を上げる。一定の距離を取って近づけないで居る【海影】の構成員や、正妃付き侍女達とは違い、一歩ずつ、着実に歩み寄ってくる相手に。


「とんでもない奴のテリトリーに土足でズカズカ踏み込んだんだよっ!お前はっ」


 果竪は「え?」と思わず声を漏らした瞬間、朱詩は自分に向かって放たれた鞭を弾いた。その手には、刀ではなく、美しい扇が握られていた。その扇の握り手の先から、本来は扇の飾りとなっている数珠繋ぎの宝珠とそれに繋がる細い鋼糸が美しい軌道を描き、空を舞っている。

 いや、それはただ舞っているのではない。

 それが、鞭を弾いたのだ。


 程なく、鋼糸は扇へと素早く自動で収納されていき、扇の握り手の先に数珠つなぎの宝珠がぶらさがり、鋼糸は見えなくなる。


 暗器ーー


 向こうの世界でも、朱詩が好んで使用していたものだ。向こうでは、朱詩の他に、元寵姫の一神が使用している。そうーー凪国王都の花街で、【華蜜館】と呼ばれる国お抱えの男娼館の頂点に立つ三神の【華蜜姫】の一神、が。


 茨戯も扇を好んで使用するが、茨戯のが鉄扇のそれであるのと違い、朱詩の持つ扇は持ち手が長く先が美しい羽で出来ている。たぶん、あれは神獣ーー鳳凰の翼を構成する羽から作られたものだろう。


 一目見て最高級品と分かるそれは、鳳凰の羽から作られた事もあって、強い炎の力を宿す。単純に【炎の神具】としても強力な代物だ。だが、朱詩はそれで暗器を作り、柄の部分に鋼糸を仕込み、自在に鋼糸を操る。


 茨戯の鉄扇には、そういった仕込みはない。いや、あるのかもしれないが、たいてい舞うような美しい扇舞だけで敵を倒していく。

 それに対して、朱詩は鋼糸で敵を仕留めていくのだ。


 因みに、扇に鋼糸を仕込んでいるのは、単純に入れ物でたまたま気に入ったのが扇だっただけで、茨戯の様に扇を武器として使用するのが得意だから、というわけではない。

 そう、朱詩の得意なのは鋼糸などの糸を操作するもので、扇ではないのだ。


 そして今、朱詩はその鋼糸を巧みに操り、迫り来る鞭を弾き続けている。片手に果竪を抱えているとは思えない余裕のある動きは、実際に息一つ乱す事なく鞭を退けていた。


 だが、その鞭の動きも学校であれだけ鍛えられた果竪にとっては、それこそ芸術と言うまでに極められたーーまるで美しい舞のようだった。

 と同時に、その腕前がもはやその道を究めし者ですら溜息をつきかねない代物である事も分かった。


 これ程の鞭の使い手はなかなか居ない。


 実際、向こうの世界でも明燐は炎水界でも五指に入る鞭の使い手とされていた。それは、決して女王様としての鞭の使い方の方ではなくーーいや、むしろそちらは炎水界一だったけどーー単純に戦力として、だ。


 一方、朱詩の鋼糸の腕前も、炎水界では五指に入る。


 互いに上位者に名を連ねながら、得手とする獲物でもって戦う姿は、武を志す者達ならば、それこそ全財産をつぎ込んででもみたい絶景だろう。実際、【海影】の彼女も、侍女達も思わずその戦いに見惚れている。


 だが、果竪はそんな所では無かった。


「ひ、筆頭書記官様!相手は正妃様ですっ」

「分かってるよ、そんな事」


 果竪を抱き抱えながら、朱詩はやはり息一つ乱さずに答えた。一方相手ーーそう、相手は明燐、この国の、こちらの世界では凪国王妃。一応じゃなくても、朱詩は王の配下だ。上層部で王の側近中の側近と言われるぐらいの高位な存在だけれど、それだと言っても王妃に、王の寵妃にこんな事をすればただではすまされない。


 実際、向こうの世界では果竪は朱詩とこんな風に戦ったりはしないーー何かない限りは。いや、今は何かあるのだろう。いやいや、そもそも戦っている原因は、まず間違いなく果竪にあるだろう。


 たかが最下位の、とるにたらない妾妃が原因で上層部の中の上層部たる朱詩と、王の寵愛深い正妃である明燐が戦っている。いや、下手すれば殺し合っている様なこの光景を作りだしてしまっているのだ。


 下手すれば処刑物だ


「と、とにかく、正妃様に傷付けたら」

「大丈夫、ボクはそんなヘマはしない」


 言ってる事が、向こうの世界の朱詩と同じだった。


「このボクを誰だと思ってんの?それに、向こうもそれ程どんくさくはないよ」

「いや、それ半分は他力本願」

「ん?じゃあ、明燐に捕まってもいいの?色々ととんでもない事されちゃうよ?」

「え?!鞭打ち?!ピンヒールで踏まれちゃう?!」

「ちょっと待って。うちの正妃は妃であって女王様じゃないんだよ?」


 その言葉に、果竪は目を見開いた。


「嘘おぉぉぉぉお?!」

「って、お前は何考えてんだよっ」


 なんて事だ!

 こっちの明燐は女王様じゃないなんて!!

 てっきり鞭を持ちだしてきたので、そろそろ服を脱ぎ捨てボンデージドレス姿を露わにするかと思っていたのに!!

 いやいや、そんな事より女王様じゃない?!

 って事は、こっちの明燐には奴隷志願者も奴隷達も居なくて。

 ピンヒールで相手を踏まなくて。

 鞭でバシバシ叩かなくて。

 お仕置きって言って、イヤンな事をしなくて。


「天使?!」

「いや、王妃だって言ってんだろ!王の正妃だよ、正妃!あと神だから」


 なんか違うらしい。


「ってか、君の世界の明燐は一体どうなってんのさ」

「え?」


 ごく普通に聞いてくる朱詩に、果竪がギョッとした。


「向こうにも、ボクが居るんだろう?まあ、向こうのボクはこっちのボクとは違うらしいけどーーなら、他の奴等が至って不思議じゃないでしょう?あ、もしかして何神かは死んでる?ああでも、明燐の場合はそれはないよね。あの超シスコン兄が死んでも守るだろうし」

「うん、向こうの世界でも明睡は超絶スーパーシスコンだよ!明睡以上のシスコン居ないしっ」

「言い切られるとなんか切ないけど、だよね!」


 なんだろう?今初めて心が一つに通じ合った気がするーーこの世界の朱詩と。


「で、明燐は」

「女王様だよ」

「へ~~」

「世界中に奴隷が居て、奴隷志願者も沢山居るの!ピンヒールで踏まれたい志願者さん達がいつも列を成してるんだよ!」

「とりあえず、向こうの世界に戻ったらそこの明燐から離れなよ」

「え?なんで」

「凄くよく分かったよ。お前のそのずれた所はそいつのせいだ。あと他に、何神おかしなのが居るの?」

「なんでおかしい神ありきで考えるの?明燐はちょっと女王様なだけでおかしくなんてないよ」

「おかしいだろ!!はぁ、間違ってもお前の世界には行きたくないね」


 朱詩は溜息をつきつつ、それでも手は巧みに鋼糸を操り明燐の放つ鞭を裁き続けた。因みに、これまでの朱詩と果竪の会話は全てひそひそ声で行なわれている。なので、明燐はその会話を聞き取る事は出来なかった。それに、朱詩は聞かれない様に、明燐がかろうじてこちらの会話を聞き取れる距離には決して明燐を近づけさせなかった。


 一方、明燐は仲よさそうに端からは見える二神に、唇を噛み締めた。


「どうして」

「……」


 明燐からの攻撃を弾きながら、朱詩は注意深くこの国の王妃を見る。彼女が纏う空気が、黒ずんでいくのが分かった。


「どうして、どうして、どうして」


 明燐の、心のバランスが崩れていく。

 久しくその様な事は無かったがーーまあ最近は、この考え無しのすっとこどっこい娘のせいで引きこもったりとかしていたから、ある程度は揺らいでいた。だから、それが今回の件で一気に崩れてもある意味仕方が無かった。


 そもそも、自分達の中で一番不安定になっていたのは、この明燐だ。


 と、明燐の纏う黒い靄が触手の様に伸びて、朱詩の腕に絡みつく。しまった、と思った時には、黒いものが朱詩の中に流れ込んでいた。



 封印した、奥底の記憶が引きずり出されていく。





 小さな小さなカジュ。

 少し大きくなったカジュ。

 もっと大きくなったカジュ。


 明燐はいつだって、一番最初に駆けつけた。

 他の上層部の誰よりも、真っ先に。


 そして、動かなくなったカジュに縋り付き、喉が涸れる様な悲鳴を上げ続けるのだ。



 それが、例え他の相手のせいで引き起こされた悲劇の結果だとしても




『……私、は……偽物、なの?』



 違う、いや、確かに本物ではない。

 けれど、もう偽物とか本物とか関係なくーー。



『私、は……』



 それでも愛していると告げた。

 大事なのだと、大切なのだと。


 本物も偽物もない。


 君は、かけがえのない存在なのだと。



 皆で告げたのに。



『……なん、で……』



 告げたのに。

 告げ、たのに。



 振り子の様に揺れる、細い体。

 どんなに栄養のある物を食べさせても、ちっとも女らしい体付きにならない。


 それでも、その温かな体が抱きついてくると癒された。



『どう、して……』



 ゆらゆらと揺れる体の下で、明燐が絶叫している。


 今度こそ、今度こそ、今度こそーー。


 今度こそ、間違えない。

 幸せになれる。

 幸せに出来る筈だった。



 なのに、結局。




『……まだだよ』


『まだだよ、今度こそ!!』



 腕の中の赤子を、誰もが悲しみの目で見つめていた。



『後で偽物だと分かって駄目だったのなら、今度は最初から偽物だと知らせれば良いんだよ!』


 本物ではない。偽物として創り出された。


 それでも、愛しているのだとーー。



『泣くな茨戯!』



 自分が偽物だとカジュが知ってしまった時、そこに居たのは茨戯だった。誰よりもそれを阻止できる場所にいながら、結局何も出来なくてカジュを死なせてしまったあの男は、いつもの彼とは思えない程憔悴していた。萎れかけた花の様に溢れる色香を放ちながらも、完全に隙だらけの姿に茨戯を狙う奴等を仕留めるだけでも大変だった。


 それ程、憔悴したのだーーあの男は。

 麗しい美貌の男の娘。

 女の装いに身を包んだ姿は、誰がどう見ても絶世の美姫だった。

 それでも、中身は苛烈過ぎる程の『男』な彼。


 そんな茨戯が、両手で顔を覆って泣く姿はーー。


『もう一度立てよ!泣いてる暇なんてないんだよっ』


 その腕で、すやすやと眠る小さな赤子が命の鼓動を刻む限り。


 今度こそ、今度こそ、今度こそーー




 間違えない




 最初から自分の素性を知らせる。

 偽物なのだと。

 作られた存在なのだと。



 その上で




 愛しているのだと伝える




 そうすれば、今度こそ




 自分が何者かを知っている上で、大切に育てて愛せば




 今度こそ







 それでも死なせたくせにーー






 耳元で、嘲る声が囁く。



 死なせたくせに


 偉そうな事を言って


 馬鹿みたい


 死なせたくせに


 幸せにする?


 愛する?


 死なせたくせに


 結局、死なせたくせに



 朱詩の心を抉るように、それは囁き続ける。足元から、黒い靄が朱詩に絡みついてくる。それを必死に振り払おうとするが、耳元で囁かれる言葉に力を奪われていく。



 どんなに見ないようにしても

 どんなに気づかないようにしても



 朱詩がその罪から逃れられる事は無い



 そもそも、朱詩達が創ったのだ。

 最初は萩波の為だとしても、その後は自分達の為に。


 最初のカジュを喪って、次に、次に、次にーー。

 例え同じ姿形でも、それは前のとは違うと分かっていたのに。


 何度も、何度も、喪った。


 もう、沢山だ。


 いや、本当に辛いのは自分達ではない。



 何度も創られ、そして喪われていくーー





 それでも、ボク達は……




「朱詩!」



 もう、呼ばれる事のない名。



 カジュは、今は此処には居ない遠い世界に行ってしまったカジュは、朱詩を『筆頭書記官様』と呼んだ。朱詩だけではない。カジュは他の誰も名前で呼ばなかった。呼ぶ事を許さなかった。


 期待などさせてはいけない。

 愛情など注いではいけない。


 今まで間違い続けたから、自分達は喪ったのだ。


 ならば、今度こそ。


 今度こそ。



「よ、ぶな」



 名前で呼ぶな。

 名前で呼ぶことなんて許していない。


 お願いだから、もうーー。


「朱詩!」


 もう一度呼ばれ、朱詩は叫ぶ。


「期待させないで!」


 その時、強い力で朱詩は体を抱きしめられた。と同時に、地面に強かに背を打ち付ける。


「いっつぅ~~」


 全くの無防備で背中を打ち付けた朱詩は、痛みに目がチカチカとした。けれど、その衝撃に、朱詩は自分のそれまでの状況を思い出した。


 そうーー明燐と戦っていた。

 そして、明燐が生み出す黒い靄に。


 朱詩はハッとして、自分の状況を確認し、自分を抱きしめているが果竪である事に気づいた。


「お、前」


 その時、凄まじい悲鳴が響いた。



 ハッとしてそちらを向くと、明燐が絶叫しており、【海影】の構成員と侍女達が狂乱すら明燐を宥めようとしている。


「正妃様、落ち着いて下さいませっ」

「どうかお気を確かにっ」

「ああ、すぐにお部屋に運ばないとっ」

「正妃様、正妃様!すぐに部屋に参りますので」


 どうしてそこまで絶叫を……そこで、朱詩は血の臭いを感じた。

 まさか、明燐を傷付けーーいや、その臭いはごく近くから感じられた。


 朱詩の背中にヒヤリとしたものが流れる。


 朱詩はまるで操り神形のようにゆっくりと体を起こし、それを見た。


 自分を抱きしめる果竪の背中。

 その背中の服が裂け、露わとなった素肌に走る赤い痕を。

 それは、まるで鎌鼬で出来た切り傷のようにすっぱりとした傷で……血が流れていた。


「……う……そ」


 そう言った所で、朱詩は気づいてしまった。

 黒い靄に取り憑かれた朱詩は、どの位の時間かは分からないが、それでも無防備になった時間があっただろう。そんな自分に明燐は鞭を振るった。けれど、それをこの娘が庇って。


 朱詩の体には傷は無い。

 少なくとも、痛むのは背中を地面に打ち付けたものだけだ。


 朱詩は、乾いた笑い声を上げた。



 ああ、死ぬ。

 この娘も、死ぬ。



 自分の、せいで。

 また。


 再び、意識が闇に囚われようとした時。


「しゅ、し」

「か、果竪?!」


 小さな声が朱詩の名を呼ぶ。その呼び方に、思い出す。

 この娘はカジュではない。本物の果竪だ。


 なのに、どうしてこんなーーああ、もしや体が死ねば、魂が向こうの世界に戻れるかもしれないと思って?


 ふとそんな事を考えてしまった朱詩は、程なく死ぬほど後悔した。


「……無事で、良かった」

「……え?」

「怪我……ない、よね」

「け、怪我?」

「ぼ~と……してたら危ないよ……でも、もう、大丈夫」


 果竪は、苦しそうな息を吐きながらも、嬉しそうに笑っていた。


「良かった……もう、悲しそうな顔を、してない」

「果竪」

「もし朱詩が怪我したら……わた、し……カジュもきっと……」



 泣いちゃうからーー




 ああ、果竪は本心から朱詩を心配して、庇ったのだ。


 意識を失う果竪を腕に、朱詩は泣きたくなった。


 カジュはおろか、この果竪にも、朱詩は優しくなんてなかった。むしろ酷い事ばかりして、殺しかけた。そして自分の都合で協力までさせようとした。


 なのに、なのにーー。






「これは何の騒ぎだ!」


 騒ぎを聞きつけて、配下の者達を引き連れて宰相がやってくる。

 そして、狂乱し【海影】の構成員や侍女達に宥められる自分の愛しい妹と、呆然と座り込む友神、そしてその友神の腕に抱かれ背中から血を流す最下位の妾妃の姿に、言葉を無くした。


「お願いです、どうかその方を渡して下さい!治療をっ」


 正妃付き侍女の中で、一番治癒の術に優れている侍女が朱詩の腕から最下位の妾妃の身柄を引き取ろうとしている。けれど、朱詩は最下位の妾妃を離さない。


 それどころか


「五月蠅い!触るな!とっととどこかに行け!近づかないでよっ」


 朱詩は侍女を手で払い、激しく拒絶する。だが、どう見ても最下位の妾妃の傷はすぐに治療しなければ危ないものであるのは一目瞭然だった。


「朱詩、その娘を渡せ」

「嫌だ」

「死なせるつもりか!!」


 明睡が怒鳴りつければ、朱詩がビクリと体を震わせる。その美しい瞳に涙を滲ませ、それでも最下位の妾妃の体を抱きしめる友神に、明睡は配下の者達に視線を向ける。彼らはすぐに、動き出した。


 朱詩は最下位の妾妃を離さないだろう。

 幸いな事に、他の妾妃達の住まう場所からここは離れているし、すぐに情報規制が行なわれている。でなければ、王の側近が王の最下位の妾妃を抱いて離さないなど、とんだ醜聞である。

 いや、狂乱する正妃の姿もそこに加われば、一体どんな噂を流されるものやら。


 指示を出す明睡の傍に、侍女が一神駆け寄る。そして今までの事をわかりやすく丁寧に報告してきた。


「……馬鹿か」


 それは、誰に向けての言葉か。


 ただ、明睡は手厚く妹を保護し、未だ動こうとしない朱詩を押しのけて治癒を得意とする正妃付きの侍女に術を使わせる。その後、何とか一命を取り留めた最下位の妾妃は、本来の自分の住まいとは違う場所へと収容されたのだった。




 それからも、正にジェットコースターばりの展開だった。

 目を覚ました果竪は、室内に薬を持ってきた女官に騙されて連れて出された。けれど、野生動物並みの勘でもって寸での所で逃げ出した果竪は、当然ながら追っ手に追いかけられた。

 そうして、数神の男女に追いかけ回された果竪は、傷の痛みに涙目になりながらも宮殿内を逃げ回り、そしてーー。




「そこを動くな!」


 逃げ回ってシャンデリアの上に着地した果竪は、今までの経緯を思い出しながら、下から叫ぶ明睡の声に溜息をついた。


 長い回想を終えた所で、今の状況が良くなるわけでもない。ただ、現実逃避したかったのだ。


「……ってか、なんで追いかけ回されるの?」


 果竪を部屋から連れ出したのは、明燐の手の物だ。そして、シャンデリアに飛び移るまで追い詰め、今も離れたテラスで右往左往しているのも、明燐の手の者達である。


 というか、ここは【後宮】の外だ。政治を司る建物の一つに逃げ込んだにも関わらず、追いかけ回される。果竪が目覚めた部屋は、政治を司る区域にある建物の一つだった。ただし、上層部が寝泊まりするのに使用される離宮の一つで、そこから果竪は連れ出された。


 しかし、素直に連れ出される果竪ではなく、こうして隙を見て逃げ出したがーーまあなんというか、袋の鼠である。

 しかも、背中の傷は治療はされたが、痛みが完全に引いたわけではない。まだ痛む体で全力疾走した挙げ句、シャンデリアに乗り移った反動は大きかった。


 そこから降りてこいという声が聞こえる。

 だが、断る。

 いや、無理だ。


 果竪はシャンデリアの上で座り込んだまま、大きく溜息をついた。


「降りないんじゃない……降りれないのよ!」


 完全に体に限界が来た今、果竪は二進も三進も行かなくなってしまった。





「ちっ!宰相閣下の手の物がくるぞっ」

「その前に捕獲しろ!」

「何とか、正妃様の宮殿に連れて行けば」


 どうあっても、明燐は果竪をーーいや、この体の持ち主を捕えたいらしい。一体何なんだ?


 だが、悠長に考えている暇は無い。


 果竪はこの体の持ち主ではないと言っても、向こうには通用しないだろう。


 磨かれたシャンデリアの金属部分に映る自分の姿に、その本来の自分とは違う瞳の色を果竪は見つめた。


 本来の世界の果竪と萩波の瞳を混ぜた様な美しい菫色の瞳。

 二神の子供が産まれたらこんな感じかーーいや、親の瞳の色を受け継いだとしても、瞳の色が混ざり合う事は無いだろう。


 ただ、本物の果竪の瞳は勿忘草色だったといい、その細胞を元に創り出されたクローンは決してその色を持つ事は出来なかった。


 まるで、偽物と本物を区別しているかの様な


 お前は所詮偽物だと言われているかの様な、違う瞳の色


 それでもーーこの世界において、彼らが、上層部が、明燐が知るのはこの瞳なのだ。この体の持ち主の瞳は菫色なのだ。


 偽物だろうとなんだろうと。


 本物の果竪なんて関係ない。


 今、この世界で生きているのは、この体の持ち主なのだ。




 あの美しい花畑の中で、必死に果竪に語りかけてくれたこの体の持ち主を思い出す。



 本来の果竪の体を動かす、この体の魂の持ち主の穏やかな瞳。




 その少女はまた、果竪を助けてくれた。




 そっちに行っては駄目ーー



 傷の痛みに悩まされながら、ただひたすら闇の中を歩く果竪の腕を取った少女。果竪を連れ戻そうとして伸ばされる闇の中から伸びた手を振り払い、ただひたすら来た道を戻る。


 そうして遂に、辺り一面を覆った光に目を瞬かせた果竪は、目を覚ましたのだ。



 目覚めれば、元の世界に戻っているかもしれないーーという淡い期待はなかった。光に包まれる前に、彼女が言っていたのだ。



 必ず、元に戻れるからーー



 それがいつとは言わなかった。

 けれど、果竪の腕をそっと両手で掴み微笑む彼女の笑みに嘘は感じられなかった。


 きっと、彼女の言うとおりになるだろう。

 それが、どんな方法であれ。



 考え込んでいた果竪は、その時反応が遅れた。果竪を捕えようとした明燐の手の物が、シャンデリアへと飛び移ってくるのが視界に映った。


 いつか来るとは思ってはいたが、やはり実際に来られると逃げたくなるものらしい。


 果竪は無理だと分かっていながらも、距離を取ろうとして。


「あ」


 シャンデリアから落ちた。



 下から悲鳴が上がる。上からも悲鳴が上がっていた。

 シャンデリアに飛び移った青年の顔が真っ青になる。


 ああ、彼は確か向こうの世界でも、明燐の配下でーー美しく麗しい美貌は青ざめても美しいなぁ~、なんて悠長な事を思っているが、このままでは確実に潰れたトマトである。

 潰れた大根ならばまだしもーーいや、大根は潰れない。



 というか、大根畑は無事だろうか?



 落下しながらも、果竪の脳内は意外に余裕だった。いや、現実逃避していたのかもしれない。


 足掻こうにも、体が動かない。

 まだ回復しきっていない体を酷使しすぎたせいだ。


 これは完全に果竪の不手際である。



 ならば、こうなる前に別の方法はーーと思うが、それを考える間もなく連れ出されそうになったのだ。助けを求めようにも、神気のない場所に追い込まれそうになり、必死にそれに抗ってなんとかここまで来た。

 では、素直に連れ出されればーーと言う事になるが、どう考えても連れ出された先で待っているのが良い結果とは思えなかった。



 明燐に襲われかけたしね!!



 いきなり掴みかかられ、強制鬼ごっこをさせられ。

 朱詩と明燐は武器を用いて戦ったし、明燐の一撃で果竪は背中に深手を負った。まあ、明燐は果竪を、この体を傷付けるつもりはなかったようだが……それでも、あの目を見てのんきな考えには至れなかった。



 むしろ、捕まったら全てが終わる!!



 そうして頑張った結果、更に危機的状況に陥ったわけではあるが……。


 ただ、だからといって諦める気はない。

 自分の本当の体ならばまだしも、借り物の肉体となれば絶対に傷付けられない。


 だから果竪は最後の力を振り絞り、シャンデリアに向けて懐に忍ばせていたロープを投げる。これは自分を追いかけてきた者の一神が、果竪に向かって放った物を奪い取ったものだ。


 ロープは見事にシャンデリアにひっかかる。いや、シャンデリアの上に居る青年がつかみ取ってくれた。


 ありがとうーー



 そのロープの先をしっかりと握りしめた果竪は心の中で礼を言う。



 だが、やはり体は限界に来ていた。



 落下スピードのついた体は、両腕だけでは支えきれなかった。

 スピードこそ殺せたが、それも全てではない。


 反動で体が浮き、手の中の縄が逃げていく。



 何とか、死ななきゃいいなーー



 生きていれば何とかなる。



 絶対に生きてやる、死なない。



 そして、頑張って体を治す。

 で、この体の持ち主には後で土下座しよう。



 果竪はそろそろ来るだろう衝撃に目を閉じた。



 ポスンーー



 そんな軽やかな音と共に、果竪は受け止められた。



「え?」

「何してんのさ」


 その声に、果竪は目を開ける。そして、自分を見下ろす美しい瞳と見つめ合う形となった。


「……筆頭書記官様?」

「それ以外の何に見える?相変わらず馬鹿だね。まあ」


 果竪は朱詩に抱えられながら、美しい白い繊手でもって頬をつねられた。


「イタッ!イダダダダダっ!」

「このお転婆馬鹿娘!怪我がまだ治りきっていないのに、何遊んでんだよ!」


 遊んでない。

 絶対に遊んでない。


 しかし、朱詩のお仕置きは容赦が無かった。


「しかも、お前、またこの体を傷付ける気だっただろう」

「……」

「ようやく目が覚めたと報されて部屋に行けば居ない。探してみれば、当の本神は追いかけっこの末にシャンデリアに居る。鬼ごっこ自体間違ってるけど、なんでシャンデリアになんか飛び乗ったの?あぁ?!」

「い、いや、そこしか逃げるとこが無くてーーそれに、向こうの世界だともっと凄い事してるっ!」

「黙れお転婆娘!このすっとこどっい!なんであっちのボクが切れないか不思議だよ!いや、呆れ返ってどころかもう切れてるね!」

「諦めてるよ」

「それもっと悪いだろう!この馬鹿娘!」


 ベシッと頭を叩かれた。今のでかなりの膿細胞が死滅した気がする。


「全く、心配したボクが馬鹿だった」

「え?心配してくれた」

「耳まで腐ったみたいだね」

「腐ってないよ!」


 言い返した果竪は、自分を抱きしめる腕の力が増したのに気づいた。カツンと澄んだ音の方を見れば、少し離れた所に明睡が立っていた。


「朱詩」

「これはどういう事さ?宰相閣下」

「……」

「いくら君の妹が陛下の正妃でも、やって良い事と悪い事があるんじゃない?いくら最下位の妾妃とはいえ、重症を負って治療中の相手を拉致しようだなんて」


 朱詩の揶揄する様な言葉に、明睡は顔色一つ変えなかった。流石は宰相ーーいや、もう明睡は宰相の顔をしていた。


「ならばお前も、陛下の臣下でありながら言いがかりで、この国の正妃様の評判に傷を付けようとしていると思うがな。お前の方が、やって良い事と悪い事をわきまえないでいる愚か者だ」

「ふぅ~ん……で、何?最下位の妾妃を寄越せって?」

「……」

「無理だよね?君は愛する妹にとっての兄である前に、この国の宰相閣下。陛下からの命令に背く事は出来ない。ふふ、ざ~んねん」


 まるで誘うような蕩ける甘い美声が果竪の耳を撫でる。


「陛下の命令は、最下位の妾妃の身柄をこのボクの預かりとする事。だよね?」

「……」

「そう、だから天下の宰相閣下でも最愛の妹姫様の、陛下のご寵妃様の願いは叶えてあげられないってわけ。まさか、握りつぶしたりはしないだろう?愛しい愛しい陛下の命令を」

「あまり調子に乗るな」

「それはお互い様だよ」


 そう言うと、朱詩は果竪を抱えたまま歩き出す。その前に、シャンデリアの上に居た青年が飛び降り、他に果竪を追いかけてきていた者達が立ちふさがる。朱詩は足を止めて溜息をついた。


「どいてよーー陛下に逆らう気?」

「……」

「ああ。一つ忘れてた」


 朱詩はクスリと笑う。


「ボクが居ないからって変なことはしない方が良いよ。そもそも、【徒花園】で暴れられたらーーだけどね」


 徒花園?


 これまた、なんか物騒というか、その名前で色々と分かってしまうというか……。まあ、最下位の妾妃の行き先なんてそんな所だろうが。


「その名で呼ぶな」

「それには同感だけど……もう元の名前なんて、あってないようなものだろう?【徒花園】は。ああ、陛下からそこの宮殿に一室用意したから速やかに連れて行くようにって言われてるんだ。だから、どけ」


 そう言うと、朱詩は再び歩き出し、今度こそ立ち止まらず空けられた道を歩いていったのだった。

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