第36話 恩は忘れない
「宗公様」
音も無く静かに部屋の片隅に現れた影に、宗公が顔を上げる。
「どうした?」
「【皇宮】より使者が参っております」
「ーーすぐに向かう」
その言葉を合図に、その場は一時解散となった。
「全く、あの叡州のクソ領主にも困ったものだわ」
会議の場を離れ、廊下を歩く姉に後ろを追う形となった秀公と凰希が苦笑した。
「姉貴、もう少しオブラートに包んだ言い方で」
「オブラート?」
璃姫は何かを考えた。考えて考えて考えまくっている。
弟は嫌な予感がした。
以前
「ちょっと秀公、前より少し太ったんじゃない?どうにかしないとボール一直線だわ」
「もう少しオブラートに包んだ言い方ないか?あと、太ってないから俺」
もう少し太りたくても太れないこの苦しみをどうしたら姉に分かって貰えるか?
だが、その前に自分に新たな苦しみが発生した。
「その我儘ボディーは厳しく調教する必要があるようね」
「姉貴?!」
しかもそれが、穏やかな一時の流れる定例会議直前で、幹州の上層部が揃っていたもんだから騒ぎになった。ある者は飲んでいたコーヒーを吹き出し、ある者は足の小指を机の脚にぶつけ、ある者は笑いを必死に堪えーーとにかく、色々と大変だった。
「秀公、いくら貴方が美しくても、我儘な体は問題よ。しっかりと厳しく調教しないと後が大変だわ」
やぁぁぁあめぇぇぇぇてぇぇぇぇぇっ!!
秀公は泣いて姉に縋り付き、当時まだ姉の婚約者だった凰希も必死になって姉を止めてくれた。
姉が口にする言葉を無理にオブラートに包ませない方が良いと思い知った瞬間だった。
「あの、叡州の」
「姉貴、それより今は小梅様の無事を祈ろう!」
「そうしましょう!」
凰希も賛成してくれた。ありがとう、愛しい神。
本来であれば、姉の前で姉から奪った姉の元婚約者と一緒に居るなんて八つ裂きにされてもおかしくはない。しかし、姉を思いなるべく離れていようとすれば。
「もっと堂々としていなさい」
と、逆に怒られる。
「後ろめたい事がないなら堂々としていないとつけいられるわよ」
いや、めっちゃ後ろめたい事で満載です。姉の婚約者を獲ったんです。むしろこれは何かの罰ですか?そな風に聞きたいぐらい、姉は自分の前で離れようとする弟とその恋神に怒った。
そうーーそんな風に不甲斐なくて心配ばかりさせるから、姉は。
「姉貴は」
「ん?」
「本当に、人間界に行って、その人間と結ばれたいのか?」
自分達の為にそうしようとしているのかもしれないと秀公は思った。
「イケメンなら」
姉の力強い言葉に、秀公は一瞬流されかけた。
がーー。
「嘘だ!姉貴、顔はあんまり重要視してないだろっ」
重要視していたら、そもそも姉はこうなってはいない。
「顔は大事よ。子供の顔面偏差値に関わってくるんだから!私に似たら、将来絶望的よっ」
少なくとも、めっちゃ兄は可愛がると思う。全力で可愛がると思う。そして自分達も可愛がると思う。そもそも、あの兄は妹が可愛くて仕方の無い兄だ。
冷静に振る舞っているが、妹をとてもとても大切にしている。弟の事も大切にしてくれているが、自分達が愛妾やら寵姫やらには強引にされ自由は奪われていた反面、衣食住には不自由しなかった事に比べて、殴る蹴るの暴行に過労死してもおかしくない重労働を課せられた奴隷に妹が堕とされた事に、そして暴力の限りを尽くされていたのに対して何も出来なかった事に酷い罪悪感を覚えている。
もちろん、妹をあんな変態の寵姫やら愛妾やら何やらになんてさせたくはないが、だからといって過労死寸前まで働かされ、なおかつストレス発散の道具として殴る蹴るの暴力を振るわれる奴隷になんてさせておきたくはなかった。
兄は今でも、妹を奴隷として扱った者達を恨んでいる。憎んでいるといっても良い。
美しい顔に優しい笑みを浮かべながら、兄は一神、また一神と、当時妹を奴隷として扱い、なおかつ逃げ続けている者達を探し出してはーー。
「秀公」
姉に呼ばれ、秀公はハッと我に返った。姉の顔がすぐ傍にある。
「大丈夫よ、秀公」
「姉貴」
「私に一欠片も似てない美しい甥っ子か姪っ子を作るからね」
「神の話を聞けぇぇぇぇぇっ」
姉はとても清々しい笑顔で言い切った。弟の心知らずだ。
そうして、弟を笑顔でおちょくる璃姫に凰希がどうやって止めたら良いかと頭を悩ませていると。
「ん?」
パタパタと向こうから走ってくる音が聞こえた。顔を上げた先に見えたのは。
「玻璃義姉様」
「璃姫!」
美しい水色の髪と瞳を持ち、優しげで清楚な顔立ちをした美しい佳神。
玻璃と言う名の彼女は、長い裾を蹴飛ばすように息を切らせながら璃姫達の所に駆けてきた。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながらも、ほんのりと染まった頬と濡れた様な瞳が何とも色っぽかった。
そんな彼女は、義姉と呼ばれた様に璃姫達の義姉である。
すなわち、彼女達の兄の妻である。
そう、領主夫神である、問題の。
あの叡州の領主が強奪しようとした、領主夫神その神がこの玻璃だった。
そしてその容姿は、確かにと唸らざるを得ない程に麗しかった。
幹州の【白百合の君】と呼ばれる麗しき美貌は、同時にとても色っぽい。
今も全身から匂い立つ様な、けれど決して下品ではない甘やかな色香が垂れ流しとなっている。
あの兄の隣に並んで遜色がないどころか、むしろ互いの魅力と美貌を引き立てあい更なる美しい光景を作りだていると言われる程お似合いだった。
そこに、秀公と凰希が並べばもう、そこは絶景、極楽浄土だ。
「璃姫、あのーーって、どうしたの璃姫?!そんな悟りを開いた僧侶の様な顔をして」
玻璃は心配した。
元々穏やかな気質で心優しく、周囲の空気に聡い彼女にとってそれは当然の事だった。
玻璃と夫の妹弟達との仲は良い。凰希との仲も良い。当然ながら、夫とは恋愛結婚だ。
玻璃を紹介した兄に
「所詮顔か」
と、ボソッと璃姫に呟かせたぐらい、玻璃は美しかった。
大戦時代は彼女を巡って争いどころか殺し合いが幾つも起きたぐらいだと言う。国が一つ崩壊したとも聞いた。
そんな玻璃を妻にすると宣言した兄は、妹の言葉に
「ち、ちがっ!璃姫、俺はお前が好きだ!お前の様な味のある顔はなかなか居ない。そう、それは長く噛む事で味が出てくる、まるで干涸らびすぎたスルメの様な味わいで」
秀公は姉が初めて兄に暴力を振るったのをその時見た。
兄は姉の華麗なる上官ビンタで綺麗に吹っ飛んだ。
なんと!!妹の遅すぎる反抗期?!と兄に激震が走ったようだが、あれは絶対に反抗期じゃない。
その日から一週間、璃姫は兄を傍に近寄らせなかった。
兄は泣き崩れ、秀公は慰めた。でも、大部分で兄のせいなので自業自得としか言えなかったのだが。
「大丈夫、元々こんな顔です」
「え?でも、もう少し顔に動きがあったと」
まるで貼り付けた様な顔に、玻璃が戸惑いの声を上げる。
「それよりどうしました?お部屋から勝手に出ては侍女達が心配しますよ?侍女の一神も連れていないようですし」
「それは姉貴もだよな」
意外に動きの素早い姉が歩けばたいてい侍女が置いて行かれる。まいているつもりはないのに、まかれてしまう。
一方姉は自分がいつも一神で侍女達が傍に居ないのは、自分なんかの世話をするより侍女達は義姉ーー玻璃の世話をしたいのだろうと勝手に誤解し勘違いしている。
そうじゃない、そうじゃないのだ。
確かに美しく気品に満ち貴婦神という言葉が具現化したかの様な麗しき義姉に仕えたいという者達は多い。そもそも、幹州での義姉の神気は高く、領主に仕える者達にも義姉はとても愛されていた。美しく優しく、常に周囲への気遣いを忘れず相手の心に寄り添い、相手の立場に立って物事を考え、更にはどんな立場の相手も理解しようと努力する義姉は、正しく領主夫神に相応しい。そしてそんな義姉を誇りに思う民達は多い。けれど、姉にーー璃姫に仕えたい者達だって居るのだ。
ただ姉の足が速すぎて追いつけないのだ。
そもそも、裾の長い服は動きにくいですと勝手に短くしてその太ももを晒している時点で、姉に仕えたい侍女達の仕事への情熱は激しく燃え上がった。
「いかにして、璃姫様にこの衣装を裾を切り取られる事なく着て頂くかが、私達に課せられた課題なのです!」
という、熱すぎる侍女の言葉が今も秀公の心に刻まれている。
「ありがとう、璃姫。いつも心配してくれて」
玻璃は素直に礼を言い、花のように美しい笑みを見せた。それは同性ですら思わず見惚れる笑みだった。
「……顔面偏差値の低さって辛いわ」
「いや、姉貴はそこまで低いわけじゃ」
平均はいってるから平均は。
「それで義姉様、何か御用ですか?それとも、兄に?」
「ああ、そうなの。でも、璃姫達にも聞きたくて」
「ーーでは、場所を移しましょう。ここでは落ち着いて話も出来ませんしーーそれに、聞きたいのはあの事でしょうしね」
璃姫の言葉に、秀公と凰希の視線が玻璃へと向けられる。
「ーーええ」
「では尚更です。それに、今そんな事態になっているのなら義姉様は余計に一神になるべきではありません。お忘れですか?昔、あの叡州の領主にどんな目に遭わされたか」
今も幹州の者達の脳裏には深く刻み込まれている、あの大事件。
例え誰が忘れても自分達は忘れない。
幹州に激しい屈辱をもたらした、あの事件において、玻璃は被害者だった。そしてもう少しで、あの憎き男の妾にされる所だったのだ。
一領主夫神ーーいや、例え平民だったとしても、好きでもない男に強引に妾にされそうになるなんてあってはならない事だ。
だが、その時自分達が出来た事は殆どなかった。
時間を稼ぐにしても、あっという間に向こうに打破されて奪われかけた。
自分達側に手の者を紛れ込ませ、自分の欲しい物を着実に引寄せたあの男はバカだけどバカではない。そもそも、領主として任命されているのだから、最低限度の能力は持ち合わせているだろう。そして領主としての最低限度の能力は、一般的には決して低くはない。むしろ高いぐらいだ。
何も出来ず、自分達の無力さを痛感する事しか出来なかったあの日。
「お~ま~え~は~!!腐れこの外道野郎がっ!」
ガラスを蹴破り、まるで物語のヒーローの様に登場し、吐き捨てる言葉は悪役すら恐れ戦く威圧感に満ちていた。
璃姫は密かに小梅を将来の手本にし、秀公はその強さに憧れを抱いた。
一撃一撃重たい拳を相手の腹に叩き込み、蹴り飛ばす足の切れは凄まじく。
「や、ちょっとそれやり過ぎ。ってか、明燐のバカ!明燐の大馬鹿娘っ!」
「止めないで朱詩!こういう腐れ外道は」
その時の小梅のハンドサインは秀逸だった。
親指を突き立て、それをぐっと下に向ける。
「だよね?」
「何が?!何が、だよね?!しかもいつの間にそんな汚い言葉をっ!ってか誰が教えたのさ!怒らないから言ってよっ」
「女は秘密を持ってこそ輝くのよ」
「アホか!アホだよお前っ」
「誰がアホよ!そもそも、さっさとあの腐れ外道野郎を仕留めなかったせいで、幹州が被害を被ってんのよ?!どうすんのよ!領主夫神が妾にされていたらっ!」
小梅はビシリと自分が叩きのめした叡秀の領主を指さした。
「そしたら私、絶対許さない!あいつの股間にぶらさがってるのを切り落としてやるんだからっ」
「恐っ!どこでそんな酷い言葉を覚えたの?!ってか年々言葉遣いが悪くなってるよね?!そんなんじゃ嫁のもらい手なんてないんだからね?!」
「大丈夫、朱詩よりも年下の私だからまだ時間的に余裕があるわ」
「おい」
「私より朱詩の方が心配よ。嫁のなり手があるかどうか」
「待て」
がしっと朱詩が小梅の頭を掴む。
「ちょっ!痛いわねこの暴力男っ!私のスクリューパンチが炸裂しても良いの?!」
「何がスクリューパンチだっ!やるならやってみろ!このボクの華麗な身のこなしで全部避けきってやるからっ!」
その後、新たな戦いが勃発し、色々と大変だったけれどーー
とにかく、小梅のおかげで玻璃は助かったのだ。
そしてーー
「ありがとうございます。けれど、あの男は執念深い。今後貴方様を逆恨みして何かを仕掛けてくるかもしれません」
そう言った兄ーー宗公に
「構わないわ。歩くサンドーーいえ、例え何が来ようとも退けてみせるから」
歩くサンドバックと言おうとした、絶対。
「それに、明燐ーー凪国王妃様も言っていたわ。男はのされても立ち向かってくるぐらいが丁度良いんだってーー殴りがいがあって」
なかなかにパワフルな王妃様ですねーーそういう視線を送れば、朱詩様が両手で顔を覆っていた気がする。いや、絶対に覆っていた。
「もうあいつバカだから!気にしないでいいから!小梅って書いてバカって読むからっ!」
「誰がバカよ!なら朱詩は朱詩って書いてアホって読むのよね?!分かった、これからアホって呼ぶからっ」
「誰がアホだ!いきなり叡州領主の所に特攻かけやがったバカ娘をわざわざ迎えに来てあげたボクになんたる仕打ちだっ!」
「そもそも朱詩が遅いのが悪いのよ!完全に出遅れて!そのせいで、あの領主が良いようにしていたじゃない!」
「ボクとしては、駆けつけた時に巨大な鋏をシャキシャキ鳴らしながら領主の胸に足を乗せて高笑いしていた君を見た時に感じたこの言いようのない感情をどうしたら良いか悩んでるんだけど」
「勝利の絶景と呼んで」
「ホラーだよ!完全にホラーだったよ!夢に出て来たらどうすんだよっ」
「別に巨大鋏はあの領主の私物だし、それ取り上げてボコボコにしただけです。まだ鋏は使ってません。使う可能性はあったけど朱詩が邪魔しましたからね」
「あほかぁ!使ったらホラーからスプラッターだよ!完全な大神指定光景だよっ!あの場に居た幹州の神達に強烈なトラウマを植え付けちゃってたらどうするつもりだったのさ!」
「トラウマは克服するものよ」
そう言い切った小梅に、朱詩が浮かべた笑みの方が璃姫達はトラウマになった。
そしてその小梅と朱詩のやりとりが良い感じで自分達の記憶を塗り替え
「確かにあの時は色々と恐い思いをしたけれど、その後の小梅様が鋏を両手に持って叡州領主の胸を踏んづけながら高笑いしている光景が暫く夢に出て来て」
「奇遇ですね、私もです」
俺もーーと、秀公も呟いた。その体が小さく小刻みに震えていたのを凰希は見逃さなかった。
「私、そのうち小梅様は更に大きく羽ばたき凪国を率いると思っていました」
璃姫の発言に、玻璃は頷いた。秀公はまだ震えている。きっと巨大鋏片手の姿を想像したのだろう。
「だからこそ、小梅様があの様なお体になったと聞いた時、私は信じられなかった」
そしてそんな仕打ちを、運命を与えたこの世界を、憎んだのだ。
「璃姫……」
玻璃が痛ましいのを堪える様な顔をした。
「あの時、私達は何も出来なかった。ただ義姉様を奪われていくのを見ている事しか出来なかった。そんな絶望と怒りの中、あの方は来て下さいました。あちこち傷だらけで……色々と辿り着くまでに危険な目に遭われたのでしょう。けれど、それに構わず、義姉様を助け、兄を助け、あの領主を倒して下さった。そうーー一番苦しい時に来て下さった小梅様を、私達幹州の民は決して忘れない」
例え誰が忘れようとも、誰が消し去ろうとしても、幹州だけは忘れない。
「絶対に、絶対に忘れない。そして小梅様が守って下さったものを守り通す」
叡州の領主を打ち倒した。
けれど、叡州の領主が完全な謹慎処分になる事はなかった。腐っても領主で、その代わりが居なかったからだ。その代わり、色々と自由は制限された。
「けれど義姉様も知っている筈です。あの男は国王陛下ーー今の皇帝陛下から色々と罰を命じられはしましたが、決してそれで黙っている様な男ではない事を」
義姉への接近禁止命令が下されたが、あの男が未だに姉を、玻璃の身を狙っている事を。
そして、小梅に復讐する機会を狙っている事を。
「あの時、あの男は幹州の奥深くまで自分の手の者達を紛れ込ませていました。あの後、周囲の者達の素性を洗い、また知っている者達でもその周辺の者達を調査させ、あらかた潰しました。でも、向こうだってバカではありません。手を変え品をかえ、手段を変えてその触手をのばそうとしている筈です。そうーー自分の望みを叶える為に」
璃姫は義姉を見つめた。
「そしてその一つーー小梅様への復讐を今果たそうとしています。そんな男なんですから、玻璃義姉様を手に入れようとする望みも叶えようとしている筈です」
「璃姫……」
「もしかしたらもう既に手の者達が入り込んでいるかも。そんな中、侍女を付けずに歩くのは危険過ぎます。それに、侍女が居たとしても防げるかどうか」
本当は兄にずっと傍についていて欲しいが、それは無理だ。ならば、どこか安全な場所に保護して貰うとしても、そんな場所が幹州のどこにあるか。
皇帝陛下か朱詩に泣きつけば手を打ってくれるかもしれないが、領地から領主夫神が長く離れていれば兄と敵対する者達がどんなイチャモンをつけてくるか分からない。兄に新しい領主夫神を娶れて言い出すか、側室や妾を持てと言うか。
いや、その前に叡州が色々と事を起こしそうだ。
恐れ多くも、小梅への復讐を危うく成し遂げかけたバカだ。
あのバカ一神で自滅してくれるのならまだしも、小梅に怪我の一つでも負わせてみろ。
絶対に、許さない。
璃姫の纏う空気が鋭さを増す。秀公はもう震えてはいなかった。そんな愛しい神に、凰希も決意を新たにする。
「……ごめんなさい、璃姫。私が浅慮だったわ」
「責めているわけではありません。ただ心配なのです、義姉様。貴方はとても美しい。けれど美しさは時として良からぬものまで引寄せてしまいます」
美しければ美しい程、強い光を放てば放つほど。
忍び寄る物は多くなる。
「分かっているわ。私のせいで……あの日、幹州は大きな被害を被ったわ。宗公様も酷い目に遭わされ、璃姫秘達も……私に出来る事は、少しでも早く、あの叡州領主の元に行き慈悲を請う事だった。もう、どにでもなれと捨て鉢の気持ちだったわ。だからこそ、小梅様には感謝してもしきれないの」
本当にもうどうにもならなくなった時に、その手を差し伸べてくれた少女。向けてくれた笑みと手の温かさを玻璃は今も忘れない。
何も出来ずただ奪われるがままだった自分は責められても仕方が無いのに、彼女は優しさをくれたのだ。
もう大丈夫ーーだから泣かないで
私が守るから
ただ守られるだけで、奪われるだけで、戦う力もなく泣くだけしか出来なかった玻璃。
守られる資格なんてどこにもなかったのに。
周囲に迷惑しかかけなかった玻璃を、彼女は。
だから玻璃は守りたい。
自分を守り、今の幸せをくれた神を。
自分の大切な者達を守ってくれた、神を。
その為なら、何だってする。




