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第30話 【海影】が長の決意

「耐えてどうなった!ボクが耐えて、ボク達が耐えて……耐えた結果があれかよっ!」

「耐えたから今も生きてるのよ、アノ子達は」

「あんな風に全てを奪われて?!その挙げ句に、呪いが発動して小梅を激しく憎んでいる男の領地に落ちたって言うのか?!あぁ?!」


 朱詩が茨戯の胸ぐらを掴む。

 茨戯よりも小柄な朱詩の暴挙は、何故か端から見れば酷く愛らしく可憐にしか映らない。


「しかも、カジュまで巻き込まれた。ああ、どうするのさ。カジュが、カジュがーー」

「朱詩、落ち着きなさい」

「駄目だろ?駄目だよ?カジュが外に行く。そんなの」

「それがアタシ達の最終目標でしょう?」


 茨戯は胸ぐらを掴む朱詩の手をやんわりと解くと、その両手を掴んで引寄せた。


「忘れたの?アンタが言ったんでしょう?」

「……なに、が?」

「アタシ達の役目は、あの子が自分の幸せを見つけられる様にする為に支える事だって」


 茨戯は朱詩を軽く揺さぶり、その耳元で囁いた。


「あの子を私達が幸せにするんじゃない。あの子が自分の意志で幸せを掴みたいと願った時に掴めるだけの力をつけさせる。そう、アンタが言ったんじゃない」


 幸せにしたい。

 カジュを幸せにしたい。

 あの子を幸せにする為ならば、あの子が幸せになる為ならば何でもする。


 そうやって突き進んできて、結局多くのカジュを喪った。


 傲慢だった。

 自分達には誰かを幸せにする力など最初から無かったのだ。


 それに気づかず愚かにも間違いを犯し続ける自分達。


 朱詩が言った。


「この子が自分の幸せを掴める様にするんだ」


 必要であれば、自分達の事すら捨てても良い。



 それは酷く苦しく辛い事だけれど。



「ボク達は間違ってたんだ。この子は自分で自分を幸せに出来る。幸せを掴む力がある。なのに、ボク達はカジュが何も出来ないのだと見くびっていた。それが最大の間違いだった。そしてボク達でないと幸せに出来ないと思って……そうやってボク達がこの子の傍に居る事がこの子の不幸になっていたんだ」

「朱詩、それは、でも、この子は」

「分かってる。でも、ならそんな心配なんて必要ないぐらいに強くすれば良いよね?」


 何者にも支配されず、何者にも恐れる事がないぐらいに。


 この子に最高の教育を。



 教育自体は今までに行なってきた。

 そして今までのカジュ達は全て、平均かそれ以下の能力しか花開かなかった。


 ならばやり方を変えれば良い。


 朱詩達は手にしたカジュの為に鬼になる事にした。




 ーー結局、そのカジュは今までのカジュ達よりも遙かに出来が悪かった。何をしても駄目だった。



 ならば徹底的に存在を薄くさせ、誰からも顧みられる事のない存在とさせてーー



「アタシ達の傍に居る事すら厭うぐらいになれば、少なくともアタシ達に関わる事であの子が危険になる事はないわ。アンタの言う通りだった」


 ただ、それでも捨て置かれた【最下位の妾妃】に興味を持ちちょっかいをかける者達は居た。だが、それでも自分達が原因によって晒される危険は驚くほど減った。


 自分達が彼女に優しくしなければ良いのだ。



 今までのカジュ達に申し訳なささえ覚えた。



 【皇宮】の奥深くで隠される様に育てられていたカジュ達の存在を知る者達は実は少なくはない。しかし、その容姿や素性を詳しく知る者達は逆にかなり少なかった。

 知ろうと動く度に潰され消されていたから。


 皇帝陛下達をたぶらかす【魔性の愛玩神形】と呼ばれてきた【カジュ】。


 だが、【魔性の愛玩神形】と言う名を知り疎む者達も、そう呼ばれる様になるまでに多くのカジュ達が居た事は知らない。


 【魔性の愛玩神形】が、一神ではなく、今まで産まれ死んでいった多くのカジュ達全てがそう呼ばれてきた事も。

 いや、実は最初にそう呼ばれた【最初に造られたカジュ】が死に、それから幾神ものカジュ達が【魔性の愛玩神形】と呼ばれたその裏で産まれ、生き、死んでいった事も。


 だから、疎む者達は自分達が疎むべき相手が何神も居た事も、同じ顔形をしているだけで実は別神である事も知らない。


 彼らはただ【魔性の愛玩神形】を憎んでいたから。


 とはいえ、そんな彼らの憎悪と呪いは成就した。

 【魔性の愛玩神形】が死んだからだ。


 そうーー今まではどれだけカジュが死んでも、【魔性の愛玩神形】は生きているとしてきた。それは疎むべき名だが、カジュにとっては一種の隠れ蓑でもあったからだ。


 けれど、最後のカジュが死んだ時、もう自分達は新しい犠牲者を造る事をやめた。もうカジュは産まれない。だから、それと同時に【魔性の愛玩神形】の存在も死なせたのだ。


 それは一種のけじめの様なものだった。


 その時はまさか、それ以降にカジュという存在が現れるとは思ってもみなかった。


 赤子のカジュを腕に呆然としても、もうどうしようもない。

 実は【魔性の愛玩神形】が生きていたとする事も出来るかもしれない。けれど、それではまた災難が降りかかる。


 それに自分達はもう、この子に自分達に関わる事で危険に晒したくはなかった。



 ならば全くの違う存在とするしかない。



 ある程度までなら隠せる。

 その間に教育をしたが駄目で。


 結局、温めていた別案である【最下位の妾妃】としてカジュを【後宮】に放り込んだのだ。



 果竪はーー向こうの世界からこちらの世界に飛ばされてきた果竪は以前、皇帝陛下が自分という存在に同情して妾妃にしたとか何とか言っていたがーーそれはまあ確かにそうだ。

 いくら最下位の妾妃ではあろうとも、素性が全く知れないのでは下手に興味を抱かせてしまう。


 だから、以前に皇帝陛下が大戦時代に世話になったとある貴族の末裔という事にしていた。ただ、貴族名鑑なんてものをつつかれるとまずいので、大戦時代に一族の大半が殺され貴族の位を失い現在は庶民という事にした。


 幸い、大戦時代に貴族の座から引きずり下ろされ、一族全てを殺された、または一存の大半を殺された者達はごまんと居た。


 それは真実ではないと騒ぐ様な者達が居ない、消滅も同然のもう名前だけが「あ、そういえば貴族、かなぁ?」的な所の末裔とした。


 幸いな事に、そういう者達は他にも数神【後宮】入りしていたし、そちらの娘達の方が余程他者の目を惹いた。


 そして皇帝陛下が正妃にだけしか目を向けず、また同情から迎えただけの【最下位の妾妃】に対するその扱いは、同情から仕方なく、恩を返す為に仕方なく、という気持ちが誰の目から見ても溢れていた。


 それは、カジュの様子を見る為に皇帝陛下が公式の場に出席させた【最下位の妾妃】を何気なく近づけ、言葉を向けても周囲が「ああ、同情からだわ。なんて素敵な皇帝陛下」と迷いなく思うぐらいの完璧な演技だった。


 だが、そのおかげでカジュの安全は確保された。


 時折、馬鹿な者達は居るが、それでも今までのカジュ達に比べれば格段に安全だった。



 【最下位の妾妃】として捨て置かれる。

 誰からも顧みられない【最下位の妾妃】。

 利用価値すらない【最下位の妾妃】。



 あの子を侮蔑し嘲笑するそれらは、あの子にとってはこれ以上ない安全保障だった。



 そしてそれは、順調に進んでいく筈だった。


 時々馬鹿な奴らが現れても。



 しかし、その馬鹿どもの一部が冗談ではすまされない事をしたのも事実だった。




 あの子には自分で幸せを掴みとれる力を付けて貰うーー




 その決意に、最初から筆頭書記官派の者達も賛同したわけではない。中には、皇妃派に考えが近い者達だって居た。


 だが、一神、また一神とその考えを筆頭書記官派に傾けていく中で、現在の皇妃派と呼ばれる者達は最後までその考えを変えなかった。


 彼女達には理解出来なかったのだ。


 なぜなら、幼く小さなカジュは守るべき存在であって、彼女が自分の力で何かを為す事など求めていないのだ。


 確かに幼子は守らなければならない。

 特に子の生まれにくい神々は、幼く小さな子ーー未成年者を庇護する気持ちが強い。まあ、美しければ即拉致監禁、権力者の妃や妾妃として強引に娶られるといった狂った時代は長く続き、その最高潮たる時期は暗黒大戦時代だが……それでも、ずっとずっと昔はそうで、また世界の流れはそれでもそれぞれの場所では子を守ろうとしてくれた大神達が居た。

 年長者達は年少者を守り、大切に慈しんだ。


 カジュは無邪気に自分達を慕った。

 小さな両手を広げて駆け寄り、ぎゅっとしがみついた。


 自分達を兄や姉、それこそ父母の様に慕う様は本当に愛おしいと思った。


 成長し、反抗期を迎えても、愛しかった。


 この子を守らなければ。


 このか弱く小さな子を守らなければ。


 茨戯にとってもカジュは守るべき対象だった。


 だから、茨戯もまた最初は理解出来なかった。


 幸せを掴む力?


 自ら幸せになろうとする?


 それでは、カジュが恐ろしい目や危険な目に遭うかもしれないではないかーー



 何かをやろうと動けば、必ず色々な物事にぶちあたる。


 茨戯はカジュを不用意に外と関わらせるのを忌避した。



 だが、皇妃派と呼ばれる者達は茨戯達以上だった。筆頭書記官派達とは比べものにならない程、彼女達は朱詩の考えを激しく拒否した。



「私達の持つ全ての力はカジュを幸せにする為の物ですわ!!」


 それ以外に価値など無いのだと明燐は血走った目で朱詩を睨み付けた。


 彼女達はカジュを守りたいのだ。

 自分達の手で大切に守り、そして幸せになれる様に全てを調節したい。



 まるで操り神形だと嘲笑う者達が居るだろう。



 ただ、茨戯は皇妃派達の気持ちも理解出来た。いや、朱詩だって理解している。



 今まで何度も死んでいったカジュ達を思えば、強固な檻の中で大切に大切に守りたいと願ったって不思議ではない。

 体の弱い子を風にも当てない様に育てるのよりも、もっともっと分厚い真綿に包んで。



 けれど、それでは駄目なのだともう一神の自分が叫んだ。



 そうやってきて、一度だって成功した事は無かった。

 むしろ自分達のせいで死なせた事もあった。

 いや、全部そうだ。



 それを口にしても、そう説得しても。




「貴方達の考えは分かった。でもーー私達には私達の譲れない思いがある」




 明燐は静かな声で宣言した。




「どちらかが折れない限り、私達がわかり合える事なんてないのですわ」



 どちらかが折れたらわかり合えてはいないだろう。



 結局、最後までわかり合えないまま今もずっと来てしまった。




 悩む事はあった。

 むしろ毎日の様に悩み続けている。


 それでも、茨戯は朱詩の側に立つ。



 茨戯はもう決めてしまった。



 何度も傷つき、それでも立ち上がる朱詩の後ろ姿を見ながら。



 同じように何度も傷つき、それでも立ち上がる皇妃ーー明燐の姿を見てきた者達が皇妃派に居続けるように。



「アタシはアタシの意志でアンタについてるの。アタシだけじゃないわ。修羅も元寵姫達も他のみんなも。アンタを大将として頂く奴等はみんなーーまあ、おかげでアンタにばかり負担を強いてはいるけど。でも、言ったでしょう?」


 茨戯は朱詩を諭すように言う。


「何があろうとも、アタシ達はアンタにつく。アンタの望みを叶えるからじゃないわよ?アンタの望みとたまたまアタシ達の望みが一緒だから。で、その望みを叶えるには、アンタの側が一番良いのよ」

「俺達もです、朱詩様」

「俺も、俺の望みの先を見たいです」


 玲珠と柳が力強く頷いた。


「カジュが幸せを自らつかみ取る。自らの力で、意志で、幸せになる。それが見たいの。だから、どんなに苦しくても辛くても悲しくても、歯を食い縛ってきたんでしょう?」



 愛しい子を突き放して平然としていられる親が居るだろうか?

 大切な愛する子を怒鳴りつけ罵声を浴びせ罵って平気な親が居るだろうか?



 もしかしたら、幾つもの世界のどこかには居るのか知れない。

 だが、自分達には無理だ。



 それでも、厳しくした。

 キツク当たった。

 泣かせたりもした。



 悩み苦しむあの子をそのままに立ち去った事だって何度も。



 けれど、それも全てはあの子の為だ。



 自分達のせいであの子が傷つくならば、自分達はあの子から離れなければならない。けれど、ただ突き放すのでは駄目だ。

 信頼おける者に託すとしても、あの子自身が強くならなければならない。


 必要とあらば、誰を利用しても、誰を犠牲にしてでも生き延びなければならないのだ。


 生きていて欲しかった。

 幸せになって欲しかった。


 自分達が傍に居られなくても、あの子が笑っていてくれるなら。

 その為ならば、何だってする。


 自分達を恨み憎み、それを生きる糧としてしぶとく生きてくれるならばそれは儲けものだ。



 シンデシマエ

 ニククテタマラナイ

 イナクナッテシマエ



 どんな呪詛だって引き受けよう。


 そもそも、自分達は許されない事をしたのだから。



 もうどこまでも堕ちきっている。

 ならば、全てが今更だ。


 けれどカジュは違う。


 せめてあの子だけは、呪いを受ける事もなくその存在すら誰にも顧みられない、そうする事で自由を得られるあの子だけは。



 いや、違う。


 あの子は呪われている。



 茨戯はカジュの胸に眠るそれを思い出す。



 だからこそ、あの子には強くなって貰わなければならない。



 その為に自分達すら喰らうと言うならば上等だ。



 強くなれ

 誰よりも強くなれ

 強く、狡猾に、柳のようにしなやかに



 それが、自分達の願いだ。



 明燐達、皇妃達の願いとは真逆の望み。



「あの子は私達が守るわ」



 何度も対立する中、明燐達は決してその思いを曲げなかった。



「貴方達があの子を放り出すと言うならば、私達が拾い上げる。あの子は守られなければならないの」



 それは傲慢だと言えば、お前達こそが傲慢だと返された。


 それでは何も解決しないと言えば、ただの独りよがりの戯れ言だと言われた。



「貴方達は自分達の責任から逃げているだけですわ!私達は許されぬ事をした。許されぬ禁忌によって、あの子は生み出された。その命に最後まで責任を持つべきですわっ」

「だからといって、全てから切り離して箱庭で囲い続けるって言うの?!それじゃあ何も変わらない!それに、ボク達が居なくなった時、あの子はどうするのさっ」

「神である私達に寿命などあってないようなものですわ。それに、私達が居なくなるならば後継者を育て上げれば良いだけの事。あの子を、傷付けず、最後まで守り切れる、後継者を!!」

「そうして巻き込むの?!関係ない者達までっ」

「最終的な判断は相手に任せますもの。その上でゴタゴタ言う様な輩には用はありませんわ」

「あの子を籠の鳥にし続けるの?あの子の全てを潰してまでっ」

「潰す?私達は守るだけですわ。そう、もう誰にもあの子は傷付けさせない。あの子も、他の者達も皆」




 平行線

 平行線

 平行線



 いつまで経っても、どんなに話そうとも。




 それでもーー朱詩は諦めなかった。

 向こうが、明燐が、彼女達が諦めないように。


 自分達もまた。



「苦しい?」

「……っ?!」



 だが、それでも苦しいのは変わりない。



 元は一つの目的に向かっていた自分達だ。

 あの暗黒大戦時代を、共に過ごしてきた仲間達だ。


 背中を預け、命を預け、信頼し友情を結んだ自分達。


 悲しい事も嬉しい事も辛い事も楽しい事も、沢山の苦楽を共にしてきた。



 辛くないわけがない。



「もうやめる?」



 そう聞けば、朱詩がどう答えるかなんて分かりきっている。



「分かってるわ。それでも辛くてやめたくなる時があるわよね?でもそれでもアンタは歩き続ける、前を向き、あの子の為に立ちはだかり続ける。あの子が今まで、泣いても劣等感に苛まれながらも自由を得てきたのはアンタのおかげよ」

「……」

「明燐達の手に渡っていればそうはならなかった。あの子はあっという間に神形にされていたでしょう」



 茨戯は朱詩を抱きしめた。


「いばーー」

「頑張ったわ、頑張ってる。アンタが頑張ってくれたから、カジュはカジュで居られるの。そして、まるで綱渡りの様な中でアンタが上手く動いてくれているから、明燐達と本気のつぶし合いが起こらないで済んでいる。もちろん、双方の派閥それぞれで上手く動いてくれている者達は他にも居るわ。でも、それでもアンタが、アンタが一番頑張ってる」

「……」

「頑張って頑張って頑張りすぎて……だから、少し休みなさいな。その間、アタシ達が動くから」


 茨戯の胸に顔を埋める形となった朱詩は、何も答えなかった。


「いくらアンタでも、少し休まないといざという時に動けない。アンタはアタシ達の大将。あの明燐と真っ向からやり合えるのはアンタぐらいよ。大丈夫ーー明睡はアタシが抑えるから」

「……明睡の方が上だよ」

「そうね。でも、カジュが絡んだ時の明燐はーー明睡を上回るわ」


 茨戯の言葉に、玲珠と柳は静かに同意した。



「元々あの兄妹は揃って恐ろしい程の策士家達。その上、明燐は【後宮】で常日頃から権謀術数を磨いているわ。たぶん、上層部の誰よりも経験値は上ね」

「やばい奴にやばい経験させてるよね」

「そもそも、上層部やそれに準ずる者達に所属する女性陣の大半が【自分の肉体は単なる道具】、【色仕掛けに適した最高の玩具】、【使える道具や玩具は使うべき】って、自分の体も処女も何もかも笑顔で利用し尽くせるだけの肝っ玉揃いだしね」


 というか、実際に諜報活動で多くの男達や女達とベッドを共にし、その行為すら楽しみまくった猛者達も居た。


 またまだ未経験ではあるが、かなりきわどい所まで行った者達も居るし、行って無くても



「いつでも準備万端ですわ」



 と、まるで獲物を狙う様な目つきで子羊達を見る者達も居る。


 穢れない乙女の演技もばっちりだと言っている時点で穢れてなくはないだろう。



 経験のない処女を相手にしたら、自分が骨の髄まで利用し尽くされて衰弱死していたーーなんていう敵達も現れーーいや、既に現れている。



 なんというか、絶倫なのだ。

 これは男女共通で、むしろ相手側が全てを吸い尽くされてしまう。



 もちろん、誰彼構わず襲うつもりはこちらにはない。しかし、こちらに危害を加えようとしたり、害意を持ち、なんらかの被害を負わせようとするならば。

 こちらの意思を無視して襲いかかってくる馬鹿が居るならば。


 自分達は容赦はしない。



「それに、明燐達の事もあるわ」

「……」

「今の所、小梅が発端になっていて、小梅も行方不明ーー言い方は悪いけれど、それが幸いしているわ。下手な行動をすれば小梅が危険になる。明燐達も小梅を危険な目に遭わせてまでという考えはないわ」

「ーー【徒花園】の襲撃は?」

「あれはあちらがある意味コントロールしていたもの。でも、今回は違う。予測していた者達は居たかもしれないけれど、まさか本当に相手の領地に飛ばされるとは思ってはいなかった筈よ」

「物事に、まさかやもしもは存在しない」

「というより、常にそれらを考えて動かなければならないのがアタシ達よ。で、明燐達はとりあえずこちらの邪魔はしないと思うわ。下手に邪魔すれば小梅の死に繋がるかもしれないんですもの。だから絶対に、その小梅を狙う馬鹿達をどうにかするまでは邪魔しない。問題はその後よ」

「……」

「馬鹿達がどうにかなれば、向こうはすぐにでも動く。それこそ、こちらに戻る前に拉致られるかもしれないわ。それを止めるには」



 アンタの力が必要なのよーー



 茨戯の言わんとしている事を正確に読み取り、朱詩は唇を噛み締めた。



 他の者達はまだしも、明燐を止められるのは自分ぐらいだろう。茨戯は明睡の動きを阻止するので精一杯だ。


 修羅だって百合亜を止めなければならないし、他の者達もそれぞれ抑える相手が居る。



「ーーそれでも、アンタに凄く負担をかけているのは分かってる。だから、アタシ達がアンタの盾になるわ」

「別にいらない」

「また可愛くない事言ってーーま、そこがアンタらしいんだけどね。それに、アタシ達は傲慢だからね。アタシ達のやりたいようにやるわ」

「……貧乏くじども」

「あら?見事な当たり籤だと思うけれど」

「……」


 朱詩だって完璧ではない。

 端から見れば完璧だと思われがちだが。


 迷い悩み立ち止まり、これで良いのかと後悔し恐れて震える事だってある。それでも、そうやってもう動けなくなりそうになった時に、茨戯は、この友神は、そして他の友神達は朱詩を甘やかしてくれる。彼が休む時間を作ってくれる。


 朱詩が、明燐達と真っ向から対峙し、立ち向かい続けられたのは、それを支えてくれる者達が居たからだ。


「……【皇宮】に戻るよ」

「ええ。ついでに栄養のあるものを食べて、お風呂に入ってゆっくり寝なさい。玲珠、柳、任せたわよ」

「御意」

「茨戯様もお気を付けて」


 茨戯は、この場にいた他の元寵姫達にも朱詩を任せると、朱詩が捕えた者達を引きずって姿を消した。


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