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第24話 戻れない過去

 この世には数多の世界がある。

 それは重なり合っていれば離れ合っている。

 並列、並行、直立、直列。

 時間軸に沿って並んでいる場合もあれば、全く違う場合もある。


 多種多様な様々の世界。


 良く知られているのは、違う種族の住まう世界だ。

 主に良く移動するのはそれらの世界で、ある意味それらの世界は一つの大きな枠で囲われていた。



 だが、その枠の外にもやはり数多の世界は存在する。



 その中にあるのだろう。

 今居る世界と同じ様な世界、というものが。



 それは【鏡合わせの世界】と呼ばれる。



 全てが逆転している世界と言うのがある。それは、主に性別だったり左右対称だったり。



 だが、それとも違う。

 性別も同じ、左右も同じ。



 ただ、その世界とこの世界の違いは一つ。




 その世界で起きた事が向こうの世界では起こらず、逆に向こうの世界で起きなかった事がこの世界で起きた。


 すなわち、【もし、○○が起きなかった、起きた時の世界】がそれに当たる。



 彼女の来た世界とこの世界は、そんな関係だ。



 果竪が死なずに生き延びた世界ーー



 萩波は何度それを夢見た事か。



 助けたかった、守りたかった、失いたくなかった。



 萩波は、あの村を愛していた。

 母と二神逃げ延びた先にあった村。

 いや、死を覚悟した自分達を見つけ受け入れてくれた村。


 母が最後は幸せを感じて死ねたのは、あの村のおかげだ。



 そして萩波が子供らしい子供時代を過ごす事が出来たのも、あの村のおかげだった。


 あの村の大神達は萩波をただの子供として扱った。恐ろしく美しい美貌の少年とも、女性と見まがう男の娘としてでもなく。

 ただの子供として、彼らは萩波を愛し守り慈しんでくれた。


 大神達は等しく萩波にとって父や母代わりだった。

 体の弱い母を労り、彼らは自分達母子の生活を支えてくれた。


 萩波が良い事をすれば喜び褒め、悪い事をしたら本気で叱ってくれた。そして落ち込めば慰め、苦しい事があれば共に悩んでくれた。


 あの村は萩波にとってかけがえのない物を与えてくれた。


 あの村の子供達もそうだ。



 萩波の美貌に魅入られる事はあっても、彼らは萩波を仲間として扱ってくれた。共に野山を駆けまわり、読み書きを学び、夢を語り合った。

 年頃らしく、恋愛話に勤しんだこともあった。



 彼らと共に村の次代を担う事を誇りにすら思った。



 そんな中、最も敬愛したのが果竪の両親だった。果竪の母親と萩波の母親は馬が合い、まるで生来の大親友と言っても良いぐらいの仲の良さだった。

 そして果竪の父親は、萩波にとって第一の父親代わりだった。


 穏やかで優しく、物腰の柔らかい果竪の父親は萩波に様々な事を教えてくれた。



「君は美しすぎる。だからこそ、君は誰よりも強く賢くならないと駄目だ」



 でも、忘れてはいけない



 慈悲と慈愛の心を



 優しさを



 他者に優しく出来る勇気を



「萩波なら、きっと出来るよ」



 萩波の頭を撫で、まるで実の息子の様に可愛がってくれた果竪の父。萩波は彼を父と呼びたかった。その機会は訪れる筈だった。



 萩波にとって、ただ一神、異性として認識した特別な相手。



 母と自分が死を覚悟したその時、突然現れた少女。



 果竪は、萩波と彼の母親を、彼女が住む村の住神達と引き合わせてくれた。



 しゅうは、しゅうは、しゅうはーー



 小さな手を広げ、全力で萩波を慕った果竪。

 きっと最初の出会いから萩波は彼女を愛していたのだろう。



 いつか彼女を自分の花嫁にしたいと思っていた。まだ子供だけれど、自分も彼女も大神になったらきっと。



 当時、果竪を好きな村の子供達は何神か居た。しかし、萩波は負けるつもりなんてなかった。



 頑張った、頑張ったのだ。



 そんな中、大戦の戦火は村に少しずつ魔手を伸ばしてきている事に気づき、萩波は旅立った。



 村を守りたい。

 そこに住まう者達を守りたい。

 実の両親同然の果竪の両親を守りたい。

 自分を産み育ててくれた愛する母の墓所を守りたい。

 果竪を守りたい。




 全てを失った。



 戻った時には全てが遅かった。

 そこには、守りたいものは何一つ残されていなかった。



 墓所も破壊されていた。



 誰も生き残っていなかった。




 命をかけて守りたいと願ったものは何一つ、萩波の手には残らなかった。




 だが、【向こうの世界】ーーカジュの中に入った魂が居た世界では、果竪は生きている。



 そうーー萩波にとって、【向こうの世界】は【果竪が死なずに生き延びた世界】だった。萩波が求めて止まない、夢のような世界。


 きっと、薔薇色の様な世界なのだろう。



 もちろん、物事はそう単純にすむ話ではない。しかし、萩波の中のもう一神の自分がそう叫んで止まない。



 それこそ、自分が求めた世界だーーと。



 そんなもう一神の自分を、萩波は押さえ込む。



 大戦を駆け抜け、数多の戦をくぐり抜け。

 王となり国を建て、それを成長させて帝国にまで押し上げた。



 その中で様々な経験をしてきた萩波は、世界はそんなに単純ではない事を痛いほど理解していた。



 そもそも、【果竪の死】など、世界にとってはただの事象の一つにしか過ぎないのだ。


 事象、出来事ーー何とも味気ない言葉だ。


 所詮、世界にとって萩波の嘆きも悲しみも、彼にとって尊い全ても単なる運命の流れを生み出す構成物の一つでしかない。


 その事に気づいた時、萩波は酷い無気力に襲われた。


 どんなに運命を呪っても、どうにもならない。

 どんなに世界を憎んでも、何もならない。


 世界の滅びを願い、たとえ世界が滅んでも萩波の欲しいものは戻っては来ない。それどころか、世界が崩壊すれば、今萩波が手にしている大切な物まで失いかねない。


 萩波は確かに大切なものを沢山失った。


 だが、全てを失ったわけではない。


 いつか村に帰るまでの間に、萩波は多くの出会いと別れを経験した。そして出会いで得てきた仲間達は、村とは別に萩波にとってかけがえのない存在となった。

 彼らを連れて村に凱旋、いや、一時的に帰るだけでも良かった。

 村は彼らもまた受け入れてくれただろう。


 そして仲間達はちょっと戸惑いながら、素直になれなくてかわいげの無い事を言ったりしでかす者達も居るかも知れないが、それでも少しずつ慣れて、村神達と仲良く交流する姿が目に浮かぶようだった。


 萩波は村の話を仲間達にした。


 萩波にとって村は聖域だった。

 彼を守る箱庭であると同時に、彼が何としても守りたい場所だった。

 そこに住まう者達は、萩波にとっての家族そのものだった。


 大神達が萩波を呼ぶ


 子供達が萩波を誘う



 果竪の両親が



 萩波の母が



 果竪が



 萩波、ずっと待ってるからねーー



 萩波の瞳から涙が一筋流れた。


 萩波は間に合わなかった。

 その悲しみにくれる間もなかった。


 立ち止まれば追いつかれる。

 目を閉じ耳を塞げば、奪われるだけだ。


 泣いている暇があれば、萩波は立ち上がり少しでも進むしかなかった。


 彼には、彼が拾い生きる事を強いた仲間達が居る。彼らが自分を慕い生きる事を選択してくれた以上、彼らの命に萩波は責任があった。


 美し過ぎる美貌。

 溢れんばかりの色香。

 凄まじい神力と、数多の才能の数々。


 その能力は花開けば、それだけでとてつもない財産となり、その能力一つだけでも彼らを狙う者達は掃いて捨てる程居るだろう。


 美しさ故に全てを奪われ不幸になった彼らは、酷く歪み歪な存在となった。それは萩波だって似たようなものだ。


 だが、萩波は幸いだった。

 村が、村の者達が萩波を守ってくれたからだ。


 萩波は自分を慈しみ守り育ててくれた村の者達と同じ様に、彼らを守った。


 不幸しか呼び寄せない恐ろしいばかりの美貌と色香に振り回されるだけの彼らに、自衛の手段を学ばせた。彼らの押し込められた才能の数々を刺激し、花開かせる手助けをした。


 彼らは本当に優秀だった。

 程なく凄まじい勢いで彼らは能力を開花させ、自衛手段を獲得し、そしてより狡猾により冷酷に、より賢く強くなっていった。

 彼らは今でもたゆまぬ努力を続けている。萩波が拾ってからずっとそうだ。


 そして今では、彼らを狙う者達は彼らを拾った時とは比べものにならないぐらい多く居るが、それらを逆に利用し尽くす程となった。


 もう萩波の手が無くても、彼らは生きられるだろう。

 何者にも利用されず、何者にも自由を奪われず、彼らは彼ららしく生きていける。


 それでも、彼らは萩波を望んでいた。

 彼らが望む限り、萩波は彼らの傍に居ようと思っていた。



 萩波、私達は君の傍に居るよ



 君がもう必要ないと言うまで



 ううん、何よりも僕達が君の傍に居たいんだ



 幼い萩波と目を合わせ、そうやって萩波の小さな両手を取り笑いかけてくれた果竪の両親。村の大神達。


 彼らは萩波に沢山の幸福をくれた。



 それでも、萩波はいつも自分につきまとっていた不安があった。



 所詮萩波は外の神。

 本当の意味でこの村の住神にはなれない。



 だから、果竪を、村の住神である果竪を求めたのかもしれないーーそう考える事もあった。果竪を妻にすれば、萩波は本当の意味で村の住神に、より強く彼らとの絆を築けると。

 それは果竪にとってはとんでもなく失礼な話だ。

 だが、短い時間だったが果竪と一緒に居た時間、そして今も彼の中に渦巻くこの思いはそんなコンプレックスの結果によるものでないと萩波は確信していた。


 むしろ、もっとずっとずっと強い、重たすぎるーー恋着。それはもう妄執と言えるべき愛だった。



 きっと、萩波はもう誰も愛せないと思った。



 仲間達の事は大切だった。

 愛しいと思っていた。



 だが、果竪に対する気持ちとは当然違った。



 美しく若い萩波には、多くの男女問わず恋い慕ってきた。だが、萩波は誰にも恋する事が出来なかった。萩波のその部分は、果竪と共に死んでしまったのだから。




 そんなある日、萩波を心配した仲間達は、彼がまだ庇護し守るべき愛しい者達はとんでもない事をしでかした。



 その結果生まれた一つの命。



 【本物の果竪】の代わりに創られたその命は、【本物の果竪】の代わりに自分を支え、そして後に花嫁にーーそう、仲間達は望んでいたのだろう。



 だが、余りに幼い赤子として産まれてしまうというハプニングのせいで、当然ながらそんな赤子に異性に対する感情は抱けなかった。いや、きっとそれだけではないだろう。


 しかし、代わりにまるで実の娘の様な愛しさを抱いていく事となった。


 それでなくとも、その娘の瞳は、まるで萩波と果竪の瞳が混じり合ったかの様な菫色をしていた。まるで彼らの娘を思わせる色合いにーー本来であれば、子供の瞳の色が親の瞳の色が混じり合ったものが受け継がれるなんて普通はあり得ない。

 けれど、萩波はその瞳で見つめられる度に、もしかしたら産まれていたかもしれない彼女との娘を思った。



 妻として、未来の花嫁として見る事はもう出来なかった。



 可愛い可愛い娘。


 少なくとも、一番最初のカジュは萩波を父親の様に慕ってくれた。



 そうして多くのカジュが産まれ、萩波の前に現れた。中には、萩波に恋をしたと思える様な反応を見せたカジュも居たがーー。


 萩波は気づいていた。

 それは、恋に恋する少女の甘い一時的な憧れに過ぎない事を。


 中にはそれに気づき、いつしかその目を萩波から別の方向に向けるカジュ達も居た。萩波は何も言わなかった。ただ見守っていた。どのカジュも愛しかった。


 愛しい、娘だった。



 誰一神として身代りなんて居ない。

 全てが、この世でたった一神しか存在しないカジュだ。



 返してくれーー



 いつの時も、いつのカジュの時も萩波は心の中で叫んでいた。



 だが、それはその時のカジュだけではない。



 今まで失った全ての、愛しい娘達を返してくれ



 萩波は何度も何度も懇願した。叶うはずの無い願いを胸に抱いていた。そしてそんな弱い心だから、萩波はそれ以上の犠牲を食い止められなかった。


 ただ、萩波が止められなかったのは、ただ弱いだけではなかった。



 彼は知っている。


 【本物の果竪】の身代りとして創りだしたカジュ。



 けれど、いつしか今まで失ったカジュ達を取り戻したい、幸せにしたいという強い強い、もはや妄執とも言うべき願いの下に仲間達が立ち止まる事すら忘れ去ってしまっている事を。



 萩波だけが止められたのだ。

 萩波だけが、彼らを制止できたのだ。



 しかし、萩波はそれをしなかった。



 最後の最後、朱詩がその選択を口にするまで。



 萩波は自分の愚かさを嘲笑う。



 止められたのに止めなかった。

 そのせいで、多くのカジュ達が犠牲になった。



 それが分かっていても尚ーー萩波は、会いたかった。



 愛しい娘達に。



 彼女達は誰も果竪の代わりになんてなれやしない。けれど、果竪だって彼女達の代わりにはなれないのだ。



 取り戻したかった、誰よりも強く願った。

 その愚かな願いが、本来止められる筈の力を使う事を拒ませた。




 一番の罪神は、萩波だ。




 仲間達に許されない手段をとらせ、深い悲しみと苦しみを味わせ、そして対立させるといった結果を生み出した。



 萩波は気づいていた。



 彼らの願いは同じなのだ。

 だが、そこまでに至る手段が違う、正反対だ。



 しかし、それを口にした所で彼らは止まらないだろう。そう、止まらない、止めない。



 きっとどこまでも平行線のまま交わる事なく進む。



 萩波に出来る事は、中立の立場をとり続ける事だけだ。



 それが、止めなかった萩波が出来る事。

 そして、萩波が犯した最大の罪に対する償いだ。



 どちらが勝つかは萩波でも分からない。

 ただ、もし皇妃派が勝てば、萩波は今のカジュを娶らなくてはならないだろう。



 皇妃ーー明燐は、その事に酷く固執している。



 自分の様な最低な男の妻になるカジュが酷く哀れだった。あの娘には、あの娘を愛してくれる唯一がきっとどこかに存在する。


 まあ、もしそれが現れてもタダでは渡さないがーー。



 いや、今はいつか現れるかもしれない唯一よりも考えなければならない事がある。それは酷く差し迫った問題だ。



 別世界の果竪ーー



 本来はこの世界には存在しない、その果竪をどうやって向こうの世界に戻すかーー



 人間界や精霊界、仙界その他の世界に飛ぶのとは訳が違う。



 似ているけれど、全く違う次元の世界からの来訪者。



 本神の意図しない所で魂の入れ替わりが起き、自分達ではどうする事も出来ない。だが、それは萩波も同じだった。



 持てる知識と技術を総動員しても、カジュと果竪の魂を入れ替える事は出来なかった。二つの魂はリンクしている。いや、正確にはそれぞれ本来の体との繋がりはしっかりと残っている。けれど、それを辿っていっても、いつも迷子になってしまうのだ。


 確かに線は繋がっているのに、最後までその線を辿れない。


 果竪の方も今はカジュからの反応は無いという。



 今の所、これといった症状は果竪には現れていない。カジュの体にもだ。



 けれど、いつまでもこのままで居ていいわけがない。



 世界は異物を受け入れたがらない。

 だからこそ、飛び込んできた異物が違和感なくこの世界に溶け込める様な力が働いたのだろう。


 それは線への影響はなく、断ち切られる事も無かった。今の所は線も細くなってはいない。けれど、それもいつまでの事か。



 元の体への線は繋がりリンクは保たれている。しかし、時間が経つに連れてそれがどうなるか分からない。もし、時間の経過と共にリンクが切れたら。


 今は大丈夫でも、そうなったら。


 果竪は向こうの世界に戻れないし、カジュも戻っては来ない。



 そうなれば、果竪もカジュも互いに違う世界で生きて行かなければならないのだ。



 そればかりか、果竪は否応なしに、対立する皇妃派と筆頭書記官派に巻き込まれる。魂は違っても、その体はカジュのものだから。



 魂が違うーー



 それが分かった時、皇妃派がどうなるか。

 筆頭書記官派だって、真実を知る者達以外はどういう反応を示すか分からない。



 殺したりはしないだろう。

 だが、それこそ手段を問わずにカジュの魂を呼び戻そうとする筈だ。その為には、この世界ばかりか向こうの世界すらも混乱に陥らせても構わないといった行動に出るだろう。


 元々、狂い歪だった。

 それは萩波が拾い上げ、守り慈しんできても変わらなかった。

 それでも、普通に生活し、自分の幸せを探せるようになった者達も出て来た。


 彼らの生い立ち、境遇を考えればそれだけで十分だっただろう。



 そんな彼らが激しく執着する相手の魂が、自分達の手の届かない場所に旅立ったーーそんな事を彼らが許す筈が無い。


 果竪は殺されたりはしない、傷付けられる事も無いだろう。


 ただ、カジュの魂を取り戻し、再び魂の交換が行なわれるまで丁重に大事に扱われるだけだ。ただそこに自由は無い。


 今、輝くばかりの光を放つ向こうの世界の果竪を思う。


 カジュとは違った輝きを持つ彼女は、萩波の目から見ても眩しかった。



 もし、この世界の果竪が生きていれば同じ様になっただろうか?



 ーーいや、馬鹿な考えだ。



 それに、もしこの世界の果竪が生きていれば、自分はカジュ経ちには出会えなかっただろう。



 果竪に生きていて欲しかった。

 でも、カジュ達に出会えた事もかけがえのない幸せだった。


 どちらも、取り戻せるものならば取り戻したい。

 どちらかと引き替えになんてしたくない。


 例え、果竪があの時に死ななかったとしても、カジュ達に会いたい。娘の様に慈しみ、育て愛したい。


 果竪もカジュ達も居る。



 カジュ達はいつか好きな相手を見つけ、その相手と共に挨拶に来てーーそれは凄く悲しいし悔しい。仲間達の中には怒り狂う者達も出るだろう。それでも、きっと娘達が選んだ相手ならば、自分達の作り出す障害なんて最後には乗り越えてしまうだろう。



 それを、困った様に見守る果竪ーー



 ああ、なんて幸せな光景ーー



 それは決してあり得る筈のない光景だろうけれど、萩波はそれでも願ってしまう。



「……今は、とにかく向こうの世界と繋げる手段を探さなければ」



 萩波は幸せな光景をそっと胸にしまい、瞳を閉じる。そして次に瞳を見開いた時には、皇帝としての顔がそこにはあった。



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