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第11話 筆頭書記官&医務室長との鬼ごっこ

 優雅だが、足早に小梅の部屋に駆けつけた朱詩は、目の前の光景に眩暈を起こした。だが、ここで深窓の令嬢の様に倒れているわけには行かなかった。


「何してんのさ」

「僕のせいじゃないよっ」


 修羅は自分にしがみつく最下位の妾妃を引き離しながら叫んだ。


「大根は白いだけじゃないもん!!世界最高のアイドルだもんっ」

「……修羅お前……お前が手加減をしないばかりにっ」

「ごめん朱詩、僕が全て悪かった!」

「世界のスーパーアイドルになんて事を言うのよ!!崇め奉り崇拝すべき存在なのにっ!!あ、でもとてもフレンドリーだから、それこそバルコニーからの挨拶も忘れずに」

「やっぱり頭だよね!」

「どう考えても頭しかないよ」

「話を聞いてよっ」


 朱詩と修羅は頷きあうと、ガシっと最下位の妾妃を捕獲した。


「私をおかしな神みたいな言わないで!!」

「実際おかしいだろっ」


 修羅は検査室を予約しようと思った。だが、それを止める救いの声が響く。


「でも医務室長様、その、過労とストレスが高まりすぎると神はいつもとは違う行動に走る事もあるみたいですし」

「めっちゃ清々しい顔して畑を耕してたけどな」

「そうだよ!めっちゃ清々しく踊ってたよ!!」

「それも辛い現実から逃れる為の逃避行動とか」


 小梅がやんわりと笑う。


「まあ、加速した原因として頭部への強烈な衝撃もあったかと」

「やっぱりお前のせいか修羅」

「そ、そんな……いやでも確かにそうだよ。医者でありながら、額から煙が上がるぐらいの衝撃を放っちゃったし」

「あんなのいつもの事よ」


 果竪は向こうの世界の基準で言った。だが、そんな事は修羅には分からなかった。


「い、いつも?!いつも僕やってた?!デコピン?!」

「……」


 朱詩が修羅を見る。


「ち、違うよ!!そんな記憶ないし、それに何回もやってたら妾妃の額が無事なわけがないでしょ?!絶対に穴が開いて、いや、頭蓋骨粉砕してるからっ」

「……それもそうだな」

「じゃあ過労とストレスですね。何でも最近は凄く頑張っていたと聞きますし」


 小梅は【徒花園】から出られない。けれど、色々と情報を得られる術は意外と持っていた。ただし、欲しい情報以外の情報も過分に得られてしまうのが難点ではあるが。


「……まあ、確かに頑張ってはいたね」


 修羅は、最下位の妾妃の最近の授業の様子について思い出す。試験も全て最高点で突破していた。修羅が良く知る落ちこぼれで無能で不出来な妾妃がそこまで到達するには、それこそ並大抵の努力ではなかっただろう。いや、並大抵ですら難しい。


 逆に言えば、それだけ頑張ってきたのだ。

 頑張って頑張って、そうして結果を出したのだ。


 それを考えれば、過労やストレスにならない方がおかしい。


「愛しい大根達の寝床作りが大変なわけないわ!!むしろ絶好調よ!!」


 しかし、そんな小梅の健気な気遣いなどこの変態には不要だ。朱詩と修羅は固く決意した。その間に、果竪はいそいそと自分が製作した大根グッズを取り出していく。


「……」

「……」


 こいつの懐はどうなっているんだろう?


 最下位の妾妃は懐から沢山の大根人形を取り出していく。大小様々だが、どれも縫った後が分からない程の完璧な代物だった。


 それらが小梅の部屋に飾られていく。

 飾られて。

 飾られーー。


 部屋が大根で埋め尽くされた。





「長」

「何よ」


 緊急の仕事から戻ってきたばかりの茨戯を出迎えたのは、茨戯の側近の一神ーー。彼は美しいが無表情の顔のまま、やはり感情の無い声で言う。


「何やら【徒花園】が騒がしい様ですが」

「【徒花園】が?」


 その報告に茨戯はその側近を率いて【徒花園】へと向かった。そして、来なければ良かったと心底後悔した。


「にょほほほほほほほ!」


 笑い方もおかしければ、走り方もおかしい。

 なのに、意外なほどに速い最下位の妾妃の後を朱詩と修羅が追いかけている。あの二神が共闘するなんて有事でもなければなかなか無い事だ。という事は、今は有事か?


「長、あれは」

「見なくていいわ」


 無表情の感情無し。

 見た目だけは立派に育ったこの美しい配下の中身は、実はかなり未熟だった。

 本来なら育つ筈の精神は歪められ、子供のまま体だけが大神になった。


 そんな部下にこんな教育の悪い物を見せるわけには行かないーーって、意外に速いな、アレ。


「お~ほほほほほほ!!この私に追いつく事なんて不可能よ!!」


「待て!!」

「止まれ!!力ずくで止めるよっ?!」


 修羅がメスを取り出し投げつけるが、最下位の妾妃はそれを全て避ける。その隙を突いて、朱詩が暗器の糸を放つが、最下位の妾妃はそれに石を投げつけて糸を絡ませる。実に上手い戦法である。


「いやいや、なんであんなに強いのよ」


 いくら中身が別世界の【本物の果竪】だと言っても、強すぎる。

 というか、もうこれって【徒花園】で保護しなくても十分大丈夫なぐらい強いのでは?


 そんな考えが浮かんだ茨戯だが、すぐに思い直す。


 向こうはーー明燐はそんなに甘い相手ではない。

 それに、明燐側に付いているのは明睡だけではないのだ。現在、凪帝国の上層部とそれに準ずる者達を中心に、【皇宮】内では見事な真っ二つの末に二つの派閥がいがみ合っていた。


 あの最下位の妾妃の処遇にまつわる件で。


 ーーいや、それを言うなら【現在】というのには語弊があるだろう。

 というのも、確かに現在最下位の妾妃の処遇が原因で二つの派閥が対立しているが、そもそもこの派閥自体が出来たのは、今回の件よりもずっとずっと前ーーそう、派閥そのものが出来たのは、今よりもずっとずっと昔の事だ。何度も何度も対立しいがみ合ってきた。ただし、いつもいつも全面に押し出していがみ合っていたわけではない。

 対立は浮き沈みで表面下する事もあれば、表面下していない時には水面下で対立し続けてきた。今回その対立が表面下したのは、たまたま浮き沈みの浮きの部分にぶちあたったーーというよりは、今回の件で色々と向こうの派閥の琴線に触れたからだろう。


 すなわち、最下位の妾妃の処遇で。


 いや、今までにもその件での対立はあった。だが、今回はとうとう向こうも堪忍袋の緒が切れたのだろう。むしろ耐えられなかったのかもしれない。



 そうーーこの、二大派閥が出来たのは、今よりずっと遙か昔の事。

 対立が表面下した事で、目に見えて分かれた派閥がくっきりと差異を持ったからこそより目に付くようになってしまった。


 普段はあやふやにーー表面下しなければ和やかに見える事すらあった、ある意味見せ掛けのそれ。けれど、それでも表面的にはかなり平和時間が続いていた。


 だが、今回の件で限界の臨界点を突破したのだろう。上層部とそれに準ずる者達が、それぞれにその立場を明確した事で、付き従う者達もまたそれぞれの派閥に属する立場を明確にし始めたのだ。


 その大きな流れを止める術を茨戯は知らない。


 皇帝が中立を貫いている事は幸いだがーー。


「やばいって事、分かってんのかしら?」


 思わず最下位の妾妃ーー果竪にキツイ視線を送ってしまう。けれど、それでも心のどこかで彼女が悪いわけではない、彼女もまた被害者なのだと告げる冷静な自分が居た。


 しかし、それでも派閥の表面下した対立は厄介な物だった。



 向こうは明燐と明睡を中心に集い、こちらは朱詩と自分を中心に集う。【後宮】が掌握されたのが痛い。【元寵姫達】はこちらが掌握したが、縁故関係が痛い。まあ、それで裏切る様な輩が出ればそれまでだがーー。


 茨戯は修羅を見る。

 修羅はこちら。けれど、百合亜は向こうに属してしまっている。

 それでも、修羅は自分の立ち位置を変えたりはしないだろう。どれだけ百合亜を愛そうとも、譲れない一線というものがあるのだから。


 ただ、どうしたって陣営が別れればショックを受けるし、苛立ったりもするだろう。そういう時は朱詩と殴り合えば良いのだが、何でか全力で最下位の妾妃と の追いかけっこに勤しんでいる。飽きっぽい修羅の事だからそろそろ飽きて投げ出しても良さそうだが、いつまで経っても諦めない。


「捕まえてごらんなさぁぁぁい」


 分かってる、絶対にあの最下位の妾妃は分かっていてやってる。修羅がそう言われるとどん引きするという事を。けれど、実際には修羅はどん引きするどころか「絶対に捕まえてやる!!」と決意を新たにした。


「あれ?おかしいなぁ」


 自分の予想と違った事に最下位の妾妃は首を傾げてはいるが、走るスピードは変わらない。というか、その体力も畑仕事で培ってしまったのだろうか?


 その後、とりあえず茨戯はどちらにも手を貸さずに見守っていた。一応、心配して最下位の妾妃を見守る涼雪と葵花、小梅に害が及ばない様にはしていたが。

 まあ、茨戯が気をつけなくても、最下位の妾妃も朱詩達もそこにだけは気をつけていた様だ。それにーー。


 一時間以上の鬼ごっこは、最下位の妾妃の勝利で終わった。


「ふっ、造作も無い事だわ」

「こ、この、馬鹿娘……」


 少し前ならあり得ない光景だった。

 まるで舞台でスポットライトを浴びた女優の様に胸を張る最下位の妾妃のすぐ傍で、修羅が座り込み、朱詩が四つん這いになっている。

 というか、たかだか一時間の追いかけっこであそこまで疲れるなんてーーと思った茨戯だが、すぐに頭を横に振った。


 確かに一時間。

 時間としてはそう長くはない。

 そもそも、朱詩も修羅もすぐに武官として働けるだけの身体技能の持ち主である。それも、武官の中でもとびっきり優秀な能力を持つ部類に入る。

 腕力も脚力も筋力も体力も、その他様々な面で多くの優秀な武官達に決してひけをとらないどころか、むしろ群を抜いてしまっていた。


 だと言うのにーーいや、現実を見ろ。


 茨戯は少々現実逃避する自分を厳しく律した。


 その鬼ごっこは一時間だが、全力での逃走劇だった。

 そもそも、最下位の妾妃の足の速さは尋常じゃないし、それを追いかけるだけでもまず大変だ。そこらの武官より余程速いのではないだろうか?

 その上、朱詩達が足止めに放つ攻撃を全てかわすかはじき返してしまっている。その幾つかは朱詩達に倍返しで返され、よけるのに余計に体力を使わされた。


 茨戯は、今までこれ程厳しく大変な鬼ごっこを見た事が無かった。

 王の影として長い時を生きてきた茨戯がそう思うのだ。きっと他の上層部だって同じ様に思うだろう。


「……やっぱり、違うのね」


 その体はあの娘のものでも、中の魂は違う。

 それだけでこれ程違うのかとすら思う。


 全身から溢れる活気も、みなぎる自信も全てが。


 茨戯には見えていた。


 あの体の中に入る魂の美しさを。

 あれは一朝一夕には決して得られないものだ。

 沢山の苦楽を、困難を、喜びを経験し、自分を磨き続けた者だけが得られる美しさ。たとえ、容姿は平凡でも磨かれた魂の美しさはその平凡な外見さえ凌駕してしまう。


 眩しいとすら思った。

 その輝きが。


 だが、その輝きはただギンギラな眩しさではない。同時に大地に生命を息吹かせる春の日差しの様な温かさを含んでいた。


 あれはもう一つの財産だ。


 【本物の果竪】の見た目は、こちらのあの娘とそう変わらないーーというよりうり二つだろう。だが、その磨かれた中身はあの体に入ってしまった魂だけが持つものである。


 見る者が見れば分かってしまう美しさだ。


 そうーーそれこそ、王妃に相応しい。



 ーーその時、茨戯の脳裏に裾を翻してこちらを振り返る少女の顔が蘇った。



「……長」


 配下の青年が茨戯を呼ぶ。

 少しだけ遠い過去に思いを馳せていた茨戯は、ふっと小さく笑った。


「……馬鹿ね」


 その道を選んだのは自分だ。

 違う道を選ぼうとした、もう一つの道を選びたいと叫ぶ明燐とは違う道を茨戯は選んだ。



『どうして、どうしてなのです?!』



 血を吐く様な叫びがその美しい唇から紡がれる。



『あの娘は、陛下の妃になる為に産まれてーー』



 それに妄執するこの帝国の皇妃を筆頭に、出来上がる派閥。彼らは元々、明燐と考えを同じにしていた。迷っていた者達も次第にどちらかの陣営に取り込まれていった。

 あの皇妃は絶対に退かない。

 同じ失敗は二度としない。


 そして、国と妹を分けて考えるあの宰相もーー。


 国に、いや、この国の皇帝を心酔し、心身共に忠誠を捧げる美しき宰相。彼が妹をとても大切にし、愛しているのは広く知れ渡っている。

 だから妹側に付くのは別におかしい事ではない。

 それこそ、国の行く末が関わらない事であれば尚更だ。


 そうーー国の行く末は関わらない、関わらせない。

 だからこそ、【後宮】は皇妃に掌握された。そして宰相はそれを許した。そうーー【後宮】は一つの権力の場であり、動き方によっては他国すら黙らせられる力すら生み出す。


 何せ、【後宮】には他国からの貢ぎ物達が居る。他国出身の、他国の看板を背負って来た妃達の後見は当然国だ。だからこそ、その妃達を掌握すれば、彼女達 は自分達が主と認めた相手ーー例え、本来であれば皇帝の寵愛を巡って戦うライバルたる皇妃であろうと協力する。いや、自ら全てを捧げる程に実際には心酔し ており、自分達の持てる力を使おうとしていた。


 もちろん、中にはただの傀儡として送られ操られるがままの者達も居た。

 だが、彼女達が狡猾な策略家として成長し、逆に祖国さえ自分達の都合の良い様に動かせるだけの力を持てばーーいや、もう持ち始めている。

 都合の良い様にと言うよりは、実際には双方の利害の一致ゆえに動いているというのが現状だが、それでなくても周辺国は凪帝国に借りがある。

 【後宮】に自国から妃を送りたくなかった王や上層部達も居るし、まあ後で回収するからと一時的に預けてきた国もあった。そこらは積極的に協力するだろう。


 また、他の水の列強十ヶ国と呼ばれる国々も、凪帝国にはとやかく言えないーーそれだけの借りを作っていた。その借りの一部を作らせるのに尽力した茨戯は溜息をついた。


 自国内の混乱はあるかもしれないが、そこだってきっとあの皇妃は考えている。彼女はそれ程に優秀だった。それこそ、皇妃に必要な物を全て兼ね揃えていると言っても良いだろう。


 皇帝の傍で皇帝を支えるのに相応しい、聡明な妃である。


 だが、明燐の場合はそれだけでは済まない。

 彼女は実に様々な恐ろしい部分を、これでもかと持っている。

 中でも厄介なのは、自分の望む物を得る為には手段を問わない所だ。誰だってそういう部分は持ち合わせてはいるが、明燐は特にそれが顕著だ。


 それは、彼女に心酔する妃達、ただの傀儡が大物に化けた妃達以外の者達に対する手腕から見ても分かる。


 そうーー【後宮】には明燐に心酔する妃達、ただの傀儡が大物に化け、その上で明燐に心酔し協力する妃達以外にも違う種類の妃達が存在する。


 それが、明燐に刃向かい愚かにも皇帝陛下の寵愛を巡ってライバル視する妃達や、小賢しく動き回って陛下の寵愛をかすめ取ろうとする妃達だ。


 明燐は少なくはないーーある一定数はどうしても存在するそんな妃達をも、上手に操作していた。彼女達自身は自分達が利用されているなんて、これっぽっちも気づいては居ないだろうが。


 敵すらも、敵対する者達すらも自分の力として利用してしまう。


 恐ろしいーーだが、よくよく考えてみれば、上層部全員がそうだった。

 ただ、中でも明燐が、実際に欲しい物を手に出来るだけの高い能力を他の上層部よりも一段高く持っているだけで。


 今まで、明燐の望みが叶えられなかったのは、一重にそれを上回る速さで朱詩が動いたからだろう。上層部の中で明燐に太刀打ち出来るとすれば、朱詩か自分か。

 一応、朱詩と茨戯と明燐の兄である明睡の三神で三卿と呼ばれ、王の三本刀と呼ばれている。それこそ実力は伯仲しているがーーだが、細かい部分まで見れば一番優秀なのは明睡である事は朱詩も茨戯も認めていた。


 実際、朱詩と茨戯は明睡と比べればあらゆる面で若干落ちる。

 そして明燐は、朱詩と茨戯に比べればあらゆる面で若干落ちるがーーあの娘の事に関してだけはこちらをアッと言わせる事が何度もあった。


 そうーーあの朱詩と互角に戦えるぐらいの能力を見せるのだ。


 だが、結果として明燐の策は朱詩に悉く潰されていっている。


 朱詩も馬鹿ではない。

 明燐の厄介さは身に染みて分かっているから、あの日より朱詩もまた自分の考えに賛同する者達を取り込み続け一大派閥を形成した。

 それは少しだけ明燐よりも速かった。

 だが、明燐は出遅れたにも関わらず、あっという間に全体の半分を手中に収めてしまった。


 明燐の派閥VS朱詩の派閥という図式。

 だが、実際には明燐、明睡の派閥VS朱詩、茨戯の派閥という図式だ。


 明燐を中心に集まった派閥。

 朱詩を中心に集まった派閥。


 その歴史は長くーー。

 それこそ派閥が出来て以来ずっと、二つの派閥の間で水面下での凄まじい攻防が繰り広げられてきた。


 有事の時は一旦争いも中断する。

 基本的に争いは有事以外の時だ。

 そうーー有事でないからこそ出来る事だが、それでも下手すれば大きな隙が出来る事は間違いない。

 ごく一部、王が中立の立場を取ると同時に、この【徒花園】もまた中立の立場を取っている。【徒花園】に仕える者達は王の直属として、中立を保つ王にならいどちらの陣営にも属さない。


 ただ、明燐が過去にヘマをして【徒花園】に立ち入り禁止になってしまっているから、どちらかと言うと出入りを許されている朱詩側の陣営と思われやすいがーー実際には、どちらの派閥にも門戸を開放している。


 とはいえ、現在最下位の妾妃の身柄は朱詩に預けられ、朱詩が後見役とされているから、結果的には朱詩側の陣営に重きが置かれているだろう。

 向こうの陣営からすれば不公平だと言う声が上がってもおかしくはない。

 ただ実際には、王に心酔する者達が多いから「王の決定には不満の声を上げない」。実際、王は最下位の妾妃が心安らかに、静かに暮らせる様にという意味も含めて【徒花園】に妾妃の身柄を移している。


 外は騒がしい。


 そう、外は余りにも最下位の妾妃にとっては過酷で苦しく辛い場所だ。


 本来であれば、最下位の妾妃は【徒花園】で暮らすはずだった。

 それが本来の流れに戻っただけである。


 小梅は外で幸せに暮らして欲しいと願っていたようだが、それは最下位の妾妃には無理な注文である。最下位の妾妃は彼女が彼女である限り、外で幸せになんて暮らせない。


 彼女が安全に生きていく為には、一生【皇宮】から出ずに居るしかないのだ。


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