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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第95話  【忍び寄る影、抗う歌声】 後編

♢ 【初音はつね交響楽団】 ホーム <Olivia(オリビア)・L・Bianca(ビアンカ)> ♢



 二度に渡ってブラガを吹き飛ばしたことで、私の能力がどのような特性か割れたはずだ。

 けれども奥の手は温存し、この場所ホームで戦っている限り私が負けることなどあり得ない。

 事が片付いたら憲兵を呼んでおしまい。とっても簡単な仕事だわ。



「どうしたの? これくらいでやられるわけないでしょ? かかってきなさい!」


 勢い余って飛ばし過ぎたのか、明かりの届かない客席奥の座席に激突した様子。

 こんなことになるなら劇場全ての明かりを点けておけばよかったと今更ながらに後悔したが、今夜ブラガが襲ってくるなど誰が想像し得ようか。


 それに、私にとって敵の姿が見えないということは何ら問題ではない。

 【七音の旋律(マジック・ボイス)】の能力を持ってすれば、どこに隠れようと闇に紛れようとも全くの無意味。声によって居場所は手に取る様に把握でき、この場所からの攻撃も容易い。

 もともと中・遠距離での戦闘を得意とする私にとって死角はない。



「……そっちがこないなら、こっちからいくわよ!」


 なかなか姿を現さないので実力差を感じて逃げだすことも考慮し、攻撃に打ってでる。

 ここで逃がしたら面倒ね。イカれた頭の奴ならば一人の時を狙ってまた襲ってくるかもしれない。それは何としても御免よ。



 と、次なる攻撃を仕掛けようとした時、動きがあった。


 それはまるで闇で塗りつぶしたかのような真っ黒な手の平サイズの蝙蝠こうもりが多数、飛来してくる姿だった。その数は軽く百を超えている。


 羽音もなく一直線に向かってくる蝙蝠こうもりの群れは闇に紛れながら凄まじい速さで突撃してくる。

 


「それがあんたの能力ってわけ。でも、残念だったわね!」


 浅く一呼吸したのち、瞬時に発声する。


増幅する歌声()>・<共鳴する歌声()>・<回折する歌声()>・<屈折する歌声(ファ)>・<可聴突破()>  使用



「 アアアアアアアアアアアアアアア 」


 5つもの能力を発動した声は音速で球体状に拡散していき全ての攻撃を弾き飛ばす。

 見えない音の障壁に激突した蝙蝠は次々と消し飛び、散っていく。


 絶対防御にして最高の攻撃。



「アーーーハッハッハ! どうやらあんたと私の能力は最悪の相性のようね! 大人しく観念なさい!」


 最初から飛ばし過ぎたかしら?

 けど、今の攻撃で分かったことが二つ。


 一つ目はあの蝙蝠は生き物ではなく無機物。

 間違いなくブラガの能力ね。その証拠に消えたあとに霧散していく魔力を感知できたわ。

 

 二つ目はブラガの位置。

 どうやら吹き飛ばした場所から右に移動しているようだけど、バレバレよ。大方、蝙蝠を囮に使って不意打ちでも喰らわせようって魂胆かしら? 

 私の言葉に反応しないのも自分の居場所がバレるのを防ぐためでしょうね。フフ……、浅はかねぇ。



「せっかくお越し頂いたけれど、私は売れっ子で時間がないの。そろそろ終わりにしましょうかしら?」


「…………」


 こちらが問いかけても相変わらず声を出すことはなく沈黙している。襲撃しにきたクセにどれだけ弱腰なのよ。

 


「いい? これが最後の忠告よ! 姿を現して投降しなさい! でないと本気で殺すわよ」


「…………」

 

 予想はしていたが何の反応もなく空しく響いた声が暗い劇場に反響していく。



「……そう。分かったわ。なら仕方ないわね」

 

 考えを改める時間を与えてやったのにも拘わらず、反省の意思は見られない。

 そのまま止めの一撃をお見舞いしようと大きく息を吸い込んだ、その瞬間。



 不意に視界が暗転した──。


 っ!? 何も見えない。どうやら蝋燭の炎を全て消したのね。

 明るい場所にいただけに闇に目が慣れるまでしばらく時間が掛かりそう。……ホント馬鹿ね。


増幅する歌声()>・<共鳴する歌声()>・<回折する歌声()>・<屈折する歌声(ファ)>・<可聴突破()>・<音響外傷()>  使用



「 アアアアアアアアアアアアアアア 」


 大きく吸い込んでいた息を声に出して一気に吐き出す。

 今度の攻撃は特別性。


 コンサートや人前では決して使わない禁断の能力<音響外傷()>を付与したのだ。

 <音響外傷()>は建物や無機物には無害な音だが生物が聞いた場合、絶大な効果を発揮する。それは超強力な音波によって引き起こされる聴覚障害。


 この音によって内耳に多大なダメージを与え、難聴・耳痛・耳閉塞感・幻聴・耳鳴りを引き起こし、やがてじわじわと症状は進行していき失聴に至る。

 更に、平衡感覚の消失や眩暈めまい・頭痛・精神不安定を永続的に併発しこれまで通りの日常は送れないだろう。


 以前、この能力を使った相手は症状の重さに耐え切れず、ほどなくして自殺したと聞いた。

 少し可愛そうだけど自ら招いた結果を悔いるといいわ──。

 

 

 勝利を確信したと思ったその時。思いもよらぬ出来事が起こった。



「ッ! ブラガがいない!? どこにいったの!?」


 この暗闇では目で捉えることは不可能だが、私には音がある。つい先ほども反響定位エコーロケーションによって場所を確認したばかりだ。


 もし、客席の扉を開けて出ていったのならば外の光が差し込み暗闇の中ではすぐに分かるためそれは無い。他の出入り口は舞台袖にもあるが、私の警戒網を掻い潜って通り抜けられるほどヌルい闘い方はしていない。第一、全く音がしなかった。


 どれだけ忍び足で歩いたとしても僅かな衣擦れの音や呼吸音は消せないため、私に拾えない音は無い。

 有り得ない!? 存在が消えた!? これもブラガの能力!? だとしたら……、マズイ!




 刹那。



「ぃッ!!!」


 左側の首筋に激痛が走った。

 後ろから噛み付かれたのだ。


 ブラガの右手で顎を持ち上げるように右を向かせられ、ブラガの左手によって左手首を掴まれている。白く長く伸びていた鋭利な二本の牙はいとも容易く首に突き刺さり、みるみる力が抜けていく。


 背中でブラガの存在を感じながらも、ジュルジュルと自らの血が吸われていく音が聞こえてくる。

 生命を脅かす絶体絶命の窮地である筈なのに脳内では不可思議な快楽の感情が芽生えていた。


 今なお首には激痛が走っているのだが、これまでの人生で感じたことのない快感(エクスタシー)を感じてしまう。

 

 やめてほしいのに、やめてほしくない。

 そんな奇妙な魅惑に憑りつかれていた。



「ヵハ……!! な、ぜ……?」


 まずい……、血を、吸われている……。それに、魔力も……。

 もはや、自力で立っていることも叶わないほど血と魔力を吸われてしまい腰が砕けたようにへたり込んでしまう。


 それでも噛み付いた口を離してはくれない。



 吸う。

 吸われる。

 吸い尽くされる。


 永遠とも感じられる一瞬のあいだに、快感と困惑と痛みが同時に押し寄せ頭が可笑しくなりそうだった。そのまま血を吸われ続け、魔力を吸われ続け、思考までもが吸われていく。

 そして、命までも──。



 ぐったりと床に倒れ込み、自分の力では動けなくなってしまうほど何もかも吸われてしまった。

 うつ伏せに伏していると私から見えるようにわざわざ前に歩いてしゃがみ込み、蠱惑的こわくてきな表情を向け優しく語りかけてくる。



『ん~~♬ と~っても、よかったよ♪ 心配しなくてもいい、君の歌声(フィナーレ)は僕の中で永遠に生き続ける♬』


 欲望を満たされたからなのか、満面の笑みで覗き込んで来る顔はとても機嫌が良さそうだった。



「……な、……ぜ?」


 最後の疑問を投げかけると、鼻歌を歌いながらも答えてくれる。



『ああ♪ ご褒美に教えてあげよう♬ 僕の能力はね“ 影 ”なんだ♪』


 能力が影だということには薄々、気付いていた。

 でなければ音での攻撃を得意とする私に対し、視界を奪うという愚行には出ないハズだから。

 つまりそれは、相手の視界を奪うのが目的ではなく自分の闘いやすい状況を作るのが目的だったということ。


 私が聞きたかったのは、どうやって私に気付かれずに後ろに周り込んだのかだ……。



『それと、君は増強タイプだね♪』


「ッ!?」


 何故、私のTYPEがバレたの……?

 戦いの中で見抜かれたのか? それとも、血を吸われたことで血液検査をしたとでもいうのだろうか?



『君の声は実に素晴らしいが、系統的には失敗している♪ その能力は自分の声を増幅させ反響音によって周囲を感知しているのだろう? おそらく、耳にも仕掛けがあるはずだ♬』


 図星だった。

 私の能力は自らの声を変化させるものではなく、より多くの人に聴いてもらえるよう遠くまで飛ばすことを目的としている。

 それだけ自分の声に自信があり、オペラ歌手としてのプライドが声質を変化させることを拒んだ結果だ。



『もし、君が増強タイプではなく干渉タイプであったなら、君の右に出る者はそうはいないはず♬ 実に惜しい才能だ♪』


 今更、そのようなことを言われてもどうしようもない。

 例え知っていたとしても、私は今の能力を選ぶことだろう。それが、たった一つ譲ることのできない私の矜持なのだから……。



『でも、心配はいらない♪ 僕が有効利用・・・・してあげるから♬』


 何を言っているのだろうか?

 だが朦朧とする意識下ではこれ以上、聞き出すことも出来ず重い瞼をゆっくりと眠りに落ちるように閉じていく。


 あぁ、これが……、し、死ぬって、ことなのね……。わ……私って……、ホント、ついてない……。



『おやすみビアンカ♪ これはもう要らないね♬』


 そう言って、目の前に落とされたのはかつてブラガの屋敷で渡された魔力符だった。

 魔力符に記憶されていた中央の点は静かに消え失せた。


 

ドーピング姫、堕つ。


これにて第二章、終了です。

第三章は順次、公開予定です。


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