第88話 預金
お待たせしました。
これからも更新を続けていこうと思いますので、よろしくお願いします。
ブラガとの換金を終え、屋敷を出る冒険者一行。
結果的に熊八とジュードは小切手を受け取りビアンカは換金せずに全ての涙を手に入れた。
ビアンカの取り分の涙は執事の手によって馬車に戻され、全ての荷物が積み込まれたのを確認したベンジャミンは俺達に声を掛けてきた。
「では皆様。私の役目はここまでとさせて頂きます。今回はご協力頂き、誠に有難う御座いました」
足を揃え礼儀正しくお辞儀をしたベンジャミンは最後まで気品が漂っている。
「おう! お前さんが同行してくれて俺達も助かったぜ! また、ブラガの依頼を受けるときはよろしくな!」
「ええ、こちらこそお待ちしております。ご健勝で」
熊八と締めの言葉を交わしたベンジャミンはそう言って見送ってくれた。
その後、荷馬車に揺られてブラガの屋敷を後にし小切手を換金できる議会前まで運んでもらうこととなった。その道中、先ほど気になったことを熊八に尋ねてみる。
「そういえば、なんでブラガはあんな簡単に引き下がったんだ? それまでは頑なに拒んでいたし金ならいくらでもあるだろうに……。まさか、ビアンカのファンとか?」
「さぁな。それはブラガに聞いてみなきゃ分からねぇさ。奴は気まぐれで生きてるタイプの人間だろうし、俺等には答えが見つけらんねぇ」
「そうか……。熊八でも分かんないか」
去り際に聞こえたブラガの嫌な笑い声がいまだに頭をよぎり、喉に魚の骨が引っ掛かったような不快感が拭えない。
と、俺と熊八の会話を聞いていたビアンカが口を開いた。
「何にせよいいじゃない。こうして結果的に涙を持ち帰ることが出来て、熊八さんも手に入れられる。当初の予定より大量に採取することができたんだからブラガも納得したんじゃないかしら?」
「そうかも知れねぇな! ガッハッハ!」
熊八はそれで納得しているようだが果たして、そうなのだろうか?
言いようのない不安感がこびり付いて離れないが俺にはどうすることも出来ないので仕方ない。
一人で考えていても解決案は浮かばないので言われた言葉で折り合いをつけることにした。
「おっ、議会が見えてきたぜ。これで当分の生活費は安心だ。最後はどうなるかと思ったが、終わってみれば大金が手に入るいい任務だったな!」
ジュードとその取り巻きが嬉しそうに騒いでいる。
まぁ、それも無理はない。なにせほんの一週間程度で大金持ちになったのだから。それ相応のリスクが伴っていたとしても、これだけ大成功を収めることが出来たのは大変幸運なことなのだろう。
議会に辿り着いた俺達は馬車を降り、各々の目的のために行動を始める。
「すぐに小切手を換金してくるからビアンカはここで待っててくれ。アラタもな」
そう言って、熊八とジュードは議会の中へと入り姿が見えなくなった。
流石に持ち合わせで100Pも持ち歩いているはずもなく、換金がてら貯金を下ろしてくるのだろう。
聞いたところ、議会は銀行と同じ役割も担っているようで同じ施設内でお金のやり取りも出来るようだった。
そうして待つこと十数分。
戻って来た熊八の手には膨らんだ大きめの巾着袋が握られており、それとは別に木箱を抱えている。あの巾着袋には少なくとも一千万円以上の大金が入っているので、そう考えると今回の任務の報酬がいかに高額だったのか思い知らされる。
「待たせたな! そんじゃあ、早速始めよう」
ビアンカは荷馬車に乗っているいくつもの壺の中から一つを持ち上げ、足元に置いた。その壺の中身は言わずとも鋼鯨の涙10kg分であり、100Pと交換する約束だ。
「これ一つで10kg丁度よ。当初の金額通り1kg10P。合計100Pと交換よ」
「おう。たった今、下ろしたばかりの100Pだ。確認してくれ」
熊八は手に持っていた巾着袋をそのまま手渡し中身を数え始めるビアンカ。
そうして確認が取れたのか顔を上げる。
「ええ、確かに100P頂きましたわ。どうぞ、これを」
笑顔のビアンカが持ち上げた壺を熊八が受け取り、売買成立となった。
こうしてやっとの思いで俺達は鋼鯨の涙を入手することが出来た。
議会から出てきたジュードも嬉しそうに笑顔を浮かべ、その手には二つの巾着袋と財布らしきものを握っていた。どうやら、取り巻きの報酬分と自分の分を下ろしてきたらしく必要な分だけを下ろしてきたようだ。
金があるだけ散財するようなイメージだったが、お金に関しては別なようでなかなか堅実である。意外な一面を垣間見た瞬間だった。
「それじゃあ、私はここで帰らせてもらうわ。熊八さん、貴方がいなければ任務は失敗していたどころか命も危なかった。一緒に依頼を受けることができて光栄でしたわ。また、会いましょう」
「おう! それはお互い様だから気にすんな! またな!」
相変わらず熊八にだけ労いの言葉をかけるビアンカだが出会ったころとは違う変化があった。
「それと、ジュードやその他の冒険者の方々も少しだけ役に立ったわ」
「俺達はついでかっ!? 最後までひねくれた奴だな」
ジュードが憤っているが、フフフと笑うビアンカはさらりと躱している。俺もついで扱いだが本当のことなので黙っていよう。
その後、荷馬車に乗り込んだビアンカは大量の荷物と共に自宅へと向かって帰っていった。
「俺達もここで帰るぜ。あんたには命を助けてもらった借りが出来ちまったからな。何か困ったことがあったらここに来てくれ。いつでも力になるぜ」
一枚の羊皮紙を渡して来たジュードはそれを熊八に託すと、「じゃあな」と言い取り巻きを連れて歩いて行った。
その内容に目を通すと、それはジュードの本拠地らしく街の外れに位置するとある建物を示していた。
「うっし! そんじゃあ、俺達もGGGへと帰るとするか!」
「ああ! ハルシアが待ってることだしな」
「おっと、いけねぇ。忘れる前にこれを渡しておく。今回のお前さんの報酬だ」
手渡してくれた木箱を受け取るとずっしりと重く、蓋を開けて中を見ると眩いばかりに黄金色に煌くいくつもの硬貨が輝いていた。
その一つを取り出し、まじまじと見つめる。太陽の光に照らすと黄金色をしながらもどこか乳白色な柔らかい光を反射し綺麗だった。
「もしかして、これって……、白金貨か!?」
「そうだ。見たことなかったか?」
驚く俺を見て熊八も驚いている。けれど、俺が驚いているのはそこじゃない。
「いや、確かに見るのは初めてだけど……、そうじゃなくて! これ一体、いくらあるんだよ!?」
木箱の中には目算で数えることが出来ないほど多くの白金貨で埋め尽くされている。
「いくらって、今回の報酬の半分の650Pだが?」
事も無げに告げた熊八は平然とそれほどの大金を渡してきたのだ。確かに熊八の取り分は1420P。つまり一億4200万円にもなる。そのうちビアンカから涙を購入するのに100P使ったので残り1320P。その半分ということで約650Pなのだろう。俺の計算が間違っていないのならば、6500万円にもなるということだ……。
「こんなに受け取れるわけないだろ!? 今回、俺はほとんど何もしてないんだから!!」
「何もしてなくはないだろ。騎士団に立ち向かい、俺を迎えに来てくれたじゃねぇか。もし、あそこでアラタが来てくれなかったら俺はここにいない。正当な対価だと思うぞ」
「それはそうだけど……、それを言うなら熊八がいなけりゃ俺も生きて帰れなかったんだから、やっぱり受け取れない!」
「ん~、とは言ってもなぁ」
困ったような渋い表情をしている熊八だが、これは俺の本心だ。
それにいきなりこんな大金を渡されてもどうすればいいか対処に困ってしまう。いや、正確には二度目なのか?
ともかく、働きに見合っていない対価を受け取るわけにはいかない。
一見して黙って受け取っていれば儲かる話だが、俺のプライドがそれを許してくれそうになかった。
「ならこうすればいい。お前さんがこの金を使ってもいいと思える日がくるまでこの金は議会に預けておいて手を付けない。この先どうしても金が必要になった時に使えばいいさ。まぁ、それでも50Pくらいは受け取ってもらわねぇと困るがな」
ふむ。それならアリ……か?
50Pくらいならば受け取ってもいいと思えるし、(それでも500万円だが)その他は一切手を付けない。
もちろんお金はあるにこしたことはないので、いざという時にも安心だ。
「分かった! そうするよ! ありがたく貰っておく! ありがとな、熊八!」
「ガッハッハ! いいってことよ! 俺もかなり稼げたしな」
そうして俺は熊八に付き添ってもらいながら新たに自分の口座を作り、640Pを預金した。
10Pはこれからいろいろと必要になるからそのままにしておくようにと助言されたので些か心配だったが言う通りにした。
こうして短い間だったが任務を共にした冒険者と別れ、俺達もGGGに戻るため帰路につく。




