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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第86話  帰港

 これまで穏便に進んでいた話が、バロッソの過激な一言により混沌へと突き進むことになった。



「お前、ふざけんなよっ!? なんで報酬を4人で分けなきゃいけねーんだ!! 後を着いてきただけのお前達が何したってんだよ!?」


 いち早く反応したのはジュードであった。その顔はバロッソの言葉を容認できず、怒りが込み上げている。



「あら、初めて意見があったわね。私もジュードに賛成よ。ここまで命を懸けてやっとの想いで採取することに成功したのに、おいそれと渡せるわけないでしょ?」


 珍しくジュードと同意見のビアンカも自分の報酬を減らすことに難色を示し、真っ向から対立していた。

 だが反論されることは目に見えていたと言わんばかりに騎士団長のバロッソはずけずけと論を発していく。



『おや、お二人はもうお忘れですかな? 我が紅龍騎士団の所有するグリフォンがいなければ目標を採取することも、熊八殿を助けに行くことも出来なかったのですぞ? つまり私達がいなければ貴方達も任務に失敗し、熊八殿は今も海を漂っていたはずです』


 堂々と臆することなく述べたバロッソは当然の権利とばかりに主張し、一歩も引き下がる様子は感じられない。

 やはり、お金が絡むと人間関係が泥沼化するのはどの世界でも同じか……。



「待てよ、俺は確かに言ったよな? 陸まで騎士団を乗せる代わりにグリフォンを貸せと。そして、お前がそれを了承した上でグリフォンを借りたんだ。だから貸しなんてねーんだよ」


 確かにそれは俺や騎士団員達も聞いていたので間違いない。

 それすらも無かったことにしてしまう横暴な態度を取るのならば交渉は決裂し最悪の場合、戦闘に突入するやも知れぬ。

 皆の注目を集める視線がバロッソに向けられていた。

 


『むぅん……。確かにそう言いました。それは認めましょう。騎士に二言は在りませぬ』


「OK、それでいいんだよ。自分の立場をよく考えて話すんだな」


 言い包めたと得意げになっているジュードは僅かに気を緩めた。しかし、それで引き下がるような男ならばそもそもこんなことにはなっていないのだ。隙を見せたジュードにここぞとばかりにバロッソが攻め込む。



『しかし! しかしですぞ。契約によってグリフォンを貸したことはいいでしょう。ですが、実際に鋼鯨の涙を回収したのは我ら騎士団のみです。採取上の絶対的なルールとして所有権は採取した人間に与えられます。となれば、目標を回収した我ら騎士団に全ての所有権があるとは思いませぬか?』


「そ、それは……そうだけど。け、けど! そんなの認められるかっ!!」



 いとも簡単に反論されてしまったジュードは口ごもり勢いが失われてしまった。交渉術に劣るジュードの得意分野ではないことはこれまでの付き合いで理解しているので、任せておくのは最初から無理があったのだ。

 バロッソの言い分では涙の全所有権は騎士団にあると荒唐無稽な主張をしてきている。

 

 それだけに留まらず口早に捲し立て追い打ちをかけてきた。



『更に言わせてもらえればあれだけ大勢のグリフォンと迅速且つ、訓練された人員がいなければこれほど多くの涙を回収することは不可能だったはずです。貴方はそれすらもなかった事にするというのですかな? それは傲慢というものでしょう。ですが、我らだけの力で獲得に成功したというほど驕り高ぶるつもりは毛頭、在りませぬ。そのことを踏まえた上で報酬を4等分するということは至極、平和的解決だと思われますが如何でしょう?』


「ぐっ……。まぁ……、一理あるの……か?」


 こりゃダメだ。こいつ馬鹿だな。

 バロッソの口車にまんまと乗せられて、いいようにあしらわれているじゃないか。初めから期待していなかったが予想通りの結果に落ち着いたな。



 そもそもジュードは交渉の基本を分かっていない。


 交渉の上手な人間は予め断られる前提で無茶な要求を吹っ掛け、あえて反論させることで要求を下げ相手の意見を取り入れたように演技する。そのほうが相手を懐柔しやすいからだ。


 しかし、腹の中では笑っており本来の狙いである要求を妥協案として持ち出すことで相手に断りづらくさせ、優位に事を進めようとする。



 この場合、「全部持っていかれるのは許せないが4分の1くらいならばいいか」と錯覚させているのだ。

 そうして手の平で転がされていることに気が付かぬまま相手ジュードは妥協案を受け入れ、交渉を終えてしまう。


 

 俺は地球にいたころTVショッピングでこれに似た手法を見ていたので引っ掛かりはせず、断固として反対するつもりだ。

 


 それにしても騎士団長だけあって、こういった交渉の場に慣れているのか中々の曲者じゃないか。俺も気を引き締めて相手をしなければ損をするやもしれない。

 更に、こちらにはまだビアンカがいる。


 案の定、敗走したジュードに代わりビアンカが口を開いた。



「馬鹿ね。いい訳ないでしょ。ここは私に任せてアンタは黙ってなさい」


 いいぞビアンカ! 言ったれ! 言ったれ!



「バロッソ……、って言ったわよね? 悪いけどあなたの要求は受け入れられないわ。けど、そちらの言い分もあるし遺族への償いや船の費用もあるでしょうから分け前はあげるわ。そうね、10分の1くらいが丁度いいかしら」


 つまり50kg分、500プラ。円に換算すれば5千万円にもなる。

 ビアンカも勝負にでたな。



『ふぅむ……。それは困りますな。お察しの通り私たちも金が要るのです。せめて100kg分を頂かなければ引くことは出来ませぬ』


 やはり一筋縄ではいかないか。100kg分、1000プラ。つまり1億円。

 確かに4人で分けた場合より2500万円分、譲歩しているがまだまだこんなもんじゃないはずだ。



「ダメよ。情けを掛けても70kg」


『ならば、80』


「73」


『75』


「74」


『74.5』


 バロッソとビアンカの言い合いはついに小数点まで突入した。けれど、終わりが近づいている。



「いいわ。74.5kg。これ以上は絶対、譲らないし交渉も終わり。それでも文句があるっていうなら実力行使にでるわよ」


 ビアンカが認めたことにより、これ以上の交渉は不可能にさせた。損をして得をする道を選んだようでバロッソの逃げ道を絶つ。

 流石にこれには参ったようで「ふぅ」と息を吐いたバロッソはゆっくりと静かに頷いていた。



『いいでしょう。74.5kgで手を打つとしましょう。いやはや、思わぬ伏兵がいたものだ』


「ふふ、ビジネスですもの。お互い納得のいく有意義な時間でしたわ」



 ビアンカの活躍により報酬の分け方はこのようになった。


 熊八・・・・142kg、1420プラ。円に換算すると1億4200万円。

 ビアンカ・・142kg。同上。

 ジュード・・142kg。同上。

 バロッソ・・74.5kg、745P。7450万円。



 ちなみに、ジュードが予め証拠として持ち帰った分もビアンカによってきっちり等分され抜け駆けは許されなかった。

 皆には知らせていないが熊八だけ沖合で食べた分があるが、熊八も何食わぬ顔で通しているので俺も黙っておくことにした。


 せっかく一段落したのにわざわざ波風立てる様なことはしたくないし怪我をしている分、治療費として受け取っておこう。

 うん。そうしよう。



 結果、報酬の取り決めも何とか無事に終わり解散となった。

 あとは船長に任せてミーティアへと帰るだけだ。



 こうして長いようで短い任務が終わりを迎えようとしている。

 思い返せば、熊八の滅茶苦茶な行動により始まった今回の任務。



 星無しの俺がAランク任務を……、腹潜の出現を含めてSランク任務に引きあがった任務を成功することができたのは奇跡といっても可笑しくないだろう。もちろん書面上は俺ではなく熊八の依頼であるが、その内情を体験した俺にとっては掛け替えのない貴重な経験となった。


 当初、熊八が言っていた通り俺は大きく成長することができたはずだ。



 魔力を自発的に発動することを学習し、絶対的な力の差を目の当たりにし、自分に何が出来るのか知った。

 


 そうして、港を出てから一週間後。

 俺たちはミーティア港に帰ってきていた。



「ん~~~……。やっぱ地面はいいなぁ! ガッハッハ!!」


 港に寄港したガレオン船から降りて大きく伸びをしている熊八。

 あれから驚異的な治癒力で歩けるほどまで回復しており、今では普通に歩いている。



「全く今回の任務は超キツかったぜ。一度、死にかけたしよー。こんなことになるならもっと金もらっておけばよかったぜ」


 取り巻きを連れて降りてきたジュードは肩に手を置き腕を回しながら悪態をついていた。

 が、その表情はどこかやりきったような清々しい顔をしている。



「あら、今回の任務の立役者は私でしょ? もっと感謝の姿勢があってもいいものだけど」


 日傘を差し肌の露出を極限まで控えたビアンカは機嫌がいいのか日傘をクルクルと指で回しながら茶目っ気たっぷりに言い放っている。

 口には出来ないが、なかなか痛々しいぞ。



「そうだな! ビアンカがいなかったら成功してなかったはずだ。ありがとよ!」


「私こそ四ツ星(クアドラプル)の冒険者の実力を知ることができて勉強になりましたわ。今度、お店に伺いますね」


「おう! いつでもこいや! 美味いもん作って待ってるぜ! ジュードたちも来いよな!」


「まー、気が向いたらな」


 お互い出会ってから一週間ほどしか経っていないが、死地を乗り越え冒険者としての実力を認め合い、今では長年の友人のように親しくなっていた。 


 なんだかいいな……。こういうの。俺好きかも。

 今度は俺もあの輪に入れるよう力をつけてみせる。



 そうして、雑談を交え会話に華が咲いているとき輪に入ってくるものがいた。



『冒険者諸君。今回は本当に素晴らしい活躍を見せてくれたな。誰か一人でも欠けていたらこの結果には繋がっていなかったはずだ。これも日頃から女神様への祈りの賜物というものだ。よくやってくれた』


 それは紅龍騎士団団長のバロッソであった。

 なんか上から目線なのがムカつくし、俺はまだお前に刺された左肩の傷を許したわけじゃないからな。触ると痛むし。



「お前さんたちも仲間を失って辛いだろうが、異生物が相手じゃどうしようもねぇさ。帰ったら枢機卿に報告して今後の対策を取るんだろ?」


『うむ。その通り。我らの崇高な魂は肉体を失っても穢れを知らぬ。女神様の寵愛を賜っている信徒ならではのことだろう』


「そうか! よく分かんねぇが、元気でな!」


「うむ。熊八殿も女神様の寵愛があらんことを』


 絶妙に会話が成り立っていない気がするが、面倒くさいので触れないでおこう。

 熊八との会話を終えた騎士団たちは自分たちの報酬を持って、グリフォンを従えながら街の奥へと消えていった。



「では皆様。ブラガ様がお待ちですので、お疲れのところ申し訳ありませんが屋敷まで御同行お願い致します。そこで涙を換金致しますので」


 いつの間にか隣に立っていたベンジャミンが礼儀正しい立ち姿でそう告げた。



「まぁーーってましたーーー!! さっさと金に換えて酒が飲みたいぜ!!」


 まだ換金していないにも拘わらず騒ぎ始めたジュード達を放っておき、一行は依頼主であるブラガの屋敷へと向かう。

 船長や漁夫にも別れと感謝の挨拶を済ませ、馬に似た獣が牽く馬車に荷物と共に乗り屋敷を目指す。

 

 

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