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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第85話  最後の火種

 ♢ ミーティア海域沖合  アラタ ♢


────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────


「そんなことが起きていたのか……。よく生きてたな、熊八」


 俺は船が戻ってくるまでの間に熊八と別れたあとの話しを聞いていた。



「ああ、今生きているのは偶然が重なり運が良かったからだ。一歩間違えば死んでいても可笑しくねぇ。まっ! こうして生きてるんだ! 結果良ければ全て良しってやつだな! ガッハッh! ……ィテテ」


 元気に笑ってはいるが怪我が治ったわけではないので時折、痛がっている。

 全身に負っている火傷も痛そうだったが何より左腕が重症であった。話しによると腹潜に噛み付かれてしまったそうで、今でこそ血は止まっているが赤黒く固まった血液が赤茶色の体毛をべっとりと纏めながら付着している。



「そんな心配そうな顔すんな。これくらい大丈夫だ。陸に戻ったら治癒師ギルドで診てもらうさ」


 よほど俺の顔が不安げだったのか、察した熊八がそう言ってくれる。



「それに、お前さんたちが来てくれなかったらこのまま漂流して助からなかったかもしれねぇ。来てくれてありがとよ! 俺はいい弟子をもったぜ」


「熊八……」


 いかん。一安心したせいか気が緩み、下を向いたら涙が零れてしまいそうだ。ここで泣いたら茶化されるに違いない。泣くもんか。



「ぁ、当たり前だろ!? 受けた恩は倍返しするのが俺流だからなっ! こ、これからも俺が助けてやるから覚悟しろよ!?」


 いかん。自分でも意味不明なことを言っている。これでは強がっているのがバレバレではないか……、恥ずかしい……。

 だが熊八は茶化すことなくうんうんと、頷いている。



「おう! 頼んだぜ! ガッハッハ!」


「……そ、そういえば熊八の能力は電気なんだな。全然、知らなかったよ」


 恥ずかしさのあまり、あからさまに話題を変えるが実際に興味があったので聞いてみる。



「ん? そういや言ってなかったか。俺は自然タイプでな。魔力を電気に変えることができるんだ」


「すごいな! まるで電気ウナギみたいだ。いや、電気熊だな!」


「お、おう。……まぁ、そういうことだな」


「元気になったら今度見せてくれよ」


「いいぞ。見せるのは構わねぇがお前さんも魔力を発現したんだ。自分のTYPEにあった能力をしっかり考えておくんだぞ」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 たしか俺のTYPEは【創造】だったよな。ハルシアに連れられて行った議会で貰った羊皮紙にそう書いてあったはずだ。

 けど、実は俺にピッタリな能力をすでに考えてあるんだよな。



「お前さんの能力は俺と違って自由に能力を発現できるからな。なるべくローリスク、ハイリターンの能力にするこったな」


「ああ、そうだな。熊八の服がボロボロなのは自分の能力のせいなんだろ? そこんとこも良く考えておくさ」


「いや、ここまでやるのは滅多にねぇんだがな。(まぁ、結果的に魔力切れでアレを使わずに済んだから良しとするか)」




 と、話しをしていると……。



「 おおぉーーい!! 」


 と、遠くから声が聞こえた。

 声の聞こえた方角に顔を向けると、グリフォンに乗っているジュードがこちらに大きく手を振りながら一隻の船を率いて近くまで来ていた。その甲板には日傘を差した笑顔のビアンカとベンジャミンの姿も見受けられる。



「待たせたな! さっさと怪我人を医者に診せて、目標を採取しようぜ!」


 急かすジュードは少しでも多く報酬が欲しいのか魚に食べ尽くされる前に急いで熊八をグリフォンに乗せようとしている。



「ィテテ! 体中傷だらけなんだ、優しくそっと乗せてくれ」


「おっと、スマン! けど、ちょっとだけ我慢してくれ。すぐ船医に診てもらうからよ」


 それを皮切りに幾羽ものグリフォンが船から飛び立つと空の壺を持って次々と胎盤の上に着陸してきた。騎士たちは前もって準備していたのか手際よく胎盤を採取して壺に入れると着々と船へ運んでいく。


 鋼鯨の涙の採取は騎士達に任せるとして、俺も騎士の操るグリフォンに乗せてもらい船へと戻った。 

 甲板に降り立つと漁夫や騎士達が拍手で熊八を迎え入れてくれた。



 ジュードが熊八の腕を肩に回し支えるように船内に運ぼうとしていると、行く手を阻むように騎士団長が前に出てくる。



『熊八殿、先ずは御無事で何より。私は紅龍騎士団、団長を務めているバロッソである。傷の手当てをする前にどうしても、お伺いしたいことが……』


 そう名乗った騎士団長のバロッソはボロボロの熊八を見て尚、道を塞ぎ問うている。

 見た瞬間に怪我をしていることは一目瞭然のはずだ。それでも確かめねばならぬ確固たる意志があるのか硬い表情のまま真っ直ぐに見ている。



「おらおら邪魔だぞ! 道を開けろ! こいつは死にかけてたんだ。話しならあとd……」


「ジュード、構わねぇさ」


 ジュードが熊八を労い、顎で道を開けるようバロッソを睨みつけるが熊八の言葉により押し黙る。



『我が紅龍騎士団の船は……、仲間たちの遺体はどこに……?』


 バロッソの声は必死に理性を保とうとしているが、僅かに震える声と揺れる瞳は受け入れたくない現実を見据え、耳が痛い内容でも聞かねばならぬことであった。

 それは長として逃げてはいけない責務であり針のむしろに立たされたかのような辛い立場。

 それまで祭りのように騒がしかった船上は冷や水を指したかのように静まり返る。



「……船はバラバラに砕けた。乗っていた遺体も海に放り出されちまった。スマねぇ」


 聞くまでもなく薄々分かってはいたことであったが、事実として聞き入れたバロッソの目は瞬きもせずに虚ろな目で一点だけを見つめていた。



『そう、か……。熊八殿が謝ることでは有りませぬ。むしろ、我らは救われた身。感謝の言葉しか……』


 重苦しい沈黙が漂っていたが、キッと表情を正し胸に右手を当てたバロッソは顔を上げハッキリとした声で叫んだ。



『栄誉ある死を遂げた仲間に女神様の寵愛を! 熊八殿に感謝を! 一同、敬礼!』


 これまで作業をしていた騎士達も手を止め姿勢を正し、全員が胸に手を当てるポーズをとっている。

 その姿はとても様になっており、悲しみを受け止めた騎士たちは故人を想い遠くを見つめていた。 



 

♢ ♢ ♢


 その夜。 


 鋼鯨の涙を回収し終えた俺たちはミーティア港に向け船を走らせていた。

 船医の診察によれば命に別状はなく、左腕の傷や全身の火傷も問題なく治るとのこと。ただし、左腕の噛み痕だけは残ってしまうが毛むくじゃらの熊八にすればさほど気にならないことだろう。



 手分けして採取した涙は合計で約500kgにもなった。つまり5千(プラ)。円ならば5億円もの大金だ。

 もっと早く回収することが出来ていればこの何倍も採取することが出来たはずだった。しかし魚や鳥たちが我先にと食い荒らした結果、これだけしか採取することが出来なかったのだ。

 

 この競争の激しさも採取することが難しい一つの要因となっている。むしろ、これだけ大量に獲得できたのは近年稀に見る幸運なことであった。



 さて、そうなると新たな問題が──。



「全員、揃ったな!」


 部屋の中央に置かれた机にバンッと音を立てて手を突き、そう息巻いたのはジュードであった。

 現在、簡易的に医務室として使用しているこの部屋で行われているのは報酬の分け前を決める相談。医療用ベッドから動けない熊八にも参加してもらうため各関係者がこの部屋に呼び集められた。



 メンバーは雇われた冒険者の熊八、俺、ジュード、その取り巻き2名、ビアンカ。

 執事のベンジャミン。

 船長。

 紅龍騎士団、団長のバロッソ。



 合計9人だけが部屋に入ることを許され、机を囲んでいる。



「……んで、取り分はどーするよ?」


 招集をかけたジュードが自然に進行役となり他に問いかけている。

 船内ではこれまでとは違う意味で重い空気が圧し掛かり、沈黙が支配する空間では口を開く者がいない。


 それもそのはずだ。

 なにせ、5千(プラ)もの大金なのだ。下手な発言は自分の首を絞めるだけ。



 そんな沈黙を破ったのはやはりこの人物であった。



「最初の取り決め通り、均等に分ければいいじゃねぇか」


 それはベッドに横になったままの熊八の提案。

 今回一番の功労者といってもいいその言葉には逆らい難い説得力がある。


 しかし、そう簡単に決まらないのが金の恐ろしさ。



「待って頂戴。最初の取り決めと言っても当初は熊八さんとジュード、そして私の3人で分けるはずよ。けれどここには9人もいる。まさか、9等分なんて可笑しなことは言わないわよね?」


 ビアンカの言葉にもどこか棘がある。彼女もまた、命を懸けてこの任務に臨んだのだ。多少、言葉がキツくなるもの無理はない。



「もちろんだ。アラタとジュードの仲間は人数に入れねぇ。ジュードも文句ねぇな?」


「ああ、いいぜ」


 腕を組んだまま頷くジュードとその取り巻き。俺に聞かないのは聞くまでもないと判断したからだろう。当然だが俺も異論はない。



「これで残りは6人だ。ベンジャミン。お前さんの報酬はどうなってるんだ?」


 熊八は背筋を伸ばして聞いているベンジャミンに問うと、瞑目しながら静かに答えてくれる。



「私がブラガ様から仰せ遣った仕事は船の護衛であり皆様のサポート。報酬は別で頂いておりますので御心配なく。そして、それは船長も同様です」


 船長はベンジャミンの言葉に口を挟むことなく軽く頷いた。

 ここまでは順調のように思える。



「あと4人。バロッソは何か言いたいことはあるか?」


 いつの間にか進行役が熊八に代わっているが取るに足らない問題なので誰も気にしていない様子。

 願わくばこのまま穏便に済めばいいが。

 金の問題はデリケートで厄介だ。慎重に進める必要がある。



 全員の視線が騎士団長のバロッソに注がれていた。

 歴史を感じさせる深い皺が刻まれ、もみあげと顎ヒゲが繋がったヒゲを撫でながら静かに告げる。



『私は4人で等分するのが最良かと』


 とんだ爆弾発言を投下した瞬間だった。 


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