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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第81話  熊八 vs 腹潜 前編

 ♢ ミーティア海域沖合  熊八 ♢


────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────


 奴の横っ腹に挨拶代わりの一発を決めてやったのにも関わらず、まるでダメージを受けていないのか再度、船に向かって泳いできてやがる。

 ダメージは少なくとも狩りの邪魔をされたことに腹を立てているのか先ほどよりも濃い魔力を纏っている。



 奴がほんの少しその気になれば木造のガレオン船など木っ端微塵となるだろう。戦うにしても船の近くでは操舵に影響が出てしまう。多少、足場は悪くとも船から離れる必要があるな……。


 なら、こっちらから赴くしかねぇか!

 行くぜっ!!



  能力  発動


「 轟け、【 熊蜂くまんばち 】 」 


 俺は可視化できるほどの電気を魔力を糧として発動することができ、魔力が底を着かない限りいくらでも発電できる。

 それによって脳から全身の筋肉に送られる電気信号を通常の何倍にも早めることができ、極限まで素早く行動することが可能となった。


 更に電撃を攻撃の手段としても活用でき使いようによって用途は幅広い。

 しかし、この能力を発動すると帯電する電気の影響により『 ヴヴヴ 』という蜂が耳元で飛んでいるかのような音が常に発生してしまうのが玉にきずだ。


 隠密には向いてねぇし、音のせいですぐに居場所がバレちまう。けれど、短所をがあるならばそれ以上の長所で補えばいい。



 つまり、音が発生してしまうなら音より早く動けばいいだけのこと──。


 当初、生物としての垣根を超えるかのようなバカげた発想であったが長い鍛錬の末、俺は体得することに成功した。

 そうして熊八と蜂の語呂合わせで熊蜂くまんばちと命名し今日まで至る。


 


 魔力を纏った俺は、軽く甲板を蹴ると一瞬にして腹潜はらむぐりの頭上へと移動する。

 当然、奴は俺が頭上にいるとは気が付かず船に向かって一直線に泳いでいた。そこを狙う。



 腹潜はらむぐりの直上に至ったところで右手に魔力を集中させ雷の如く奴に向け放電すると、それは閃光のような稲光を発生させながら海面近くの奴に直撃した。



 バヂヂィィィッッンン


 その後、遅れてやってきた雷鳴が晴れ渡る空に鳴り響く。



 回避不可能ないかづちを受けた腹潜は背中からもろに電撃を浴びると身体を強張らせ、身をギュッと縮めるように不格好な姿を取った。

 瞬く間に高圧電流が身体中を駆け巡り、電気信号を受け取った筋肉が強制的に作用したようだ。




 うし! 利いてるな! 


 すぐに体の強張りを解いた腹潜は何が起きたのか理解出来ていないのか泳ぐことを止め、きょろきょろと視線を動かし辺りを警戒している。

 そして、俺の魔力と音を捉えたのかキッと頭上を睨みつけ目と目が合う。



 すかさず二発目を放つ。

 僅か数秒の間に再び激流を浴びた奴は身体を硬直させ小刻みに震えると、だらしなく口を開けていた。



 俺の電撃を二度も直撃したにも関わらず気絶させることもできねぇか……。

 普通の生物ならば一撃で片がつくんだがな。


 やはり相当タフで強い。しかも二発目は魔力を体に集中させ感電する前に防御しやがった。

 おそらく一発目よりダメージを与えられていないだろう。


 戦いが長引けばそれだけ対応され、ただでさえ低い勝ち目がゼロになっちまう。

 そうなる前に奴を叩く!!



 体の自由が戻った腹潜はちゃぽんと海面に潜ると海上からは姿が見えなくなってしまった。



「チッ」


 知ってかどうかは分からねぇが海面に電撃を打ち込んだ場合、電気は四方八方に拡散し威力はめっきり弱くなっちまう。距離が近けりゃダメージを与えることも出来るが、直撃しても平気な奴にとって誤差の範囲内だろうな。


 余計な攻撃は魔力の無駄だ。ならば触れるほどの超至近距離でありったけの電撃を喰らわせ続ければ流石の奴もいつかは黒焦げになるはず。

 


 問題はどうやって奴に近づくか……。


 泳ぎの達者な奴にしてみれば、地の利は向こうにあり肺活量も奴に軍配が上がる。悠長に泳いでいたら海に引きずり込まれ窒息死するか、体中を切り裂かれ凄惨な最後を遂げることだろう。


 水中には入れねぇ。なら……。



「ハッ!」


 しかし俺には打つ手がある。

 いや、この場合『 足 』といったほうがいいか。


 俺は魔力を用いて海面を凄まじい速さで蹴り、水上を走る。

 その様はバシリスクのように右足が海中に沈む前に左足を踏み込み、左足が沈む前に右足を出す。あとはこの繰り返しだ。ただそれだけで海に落ちることはない。文字通り、海面を走りぬく。


 超人的な速さと魔力が尽きぬ限り、水上歩行など容易い。まぁまぁ疲れるが、今は泣き言は言えねぇ。


 やはり勝負は短期決戦。長期戦は勝ちの目がない。



 願わくば奴の思慮がそこまで至ってなければいいが。全く、異生物を相手にするのは骨が折れるぜ。

 今のうちに出来るだけ遠くに逃げてくれよ。アラタ。



 パシャ、パシャと海面を走り続けるも、俺は奴の姿を捉えられないでいた。

 しかし奴とていつまでも海中にいられるわけではない。本来、陸上生物である腹潜は呼吸をするため海面から顔を出すはず。その時を狙って一気に電撃を叩き込む算段だ。



 それにしても遅い。電撃を浴びたせいでろくに呼吸を出来ずに潜水したはずなのに一向に現れる気配がない。


 まさかっ!! あいつっ……!!



 と、その時。

 騎士団の乗る船から爆発の黒煙と恐怖に怯える悲鳴が聞こえてきた。

 



 俺の杞憂は現実となってしまった。

 奴は俺と戦うことは後回しにし、何も知らない騎士団の船に襲い掛かったのだ。


 異変を察知し急いで紅白の騎士団の船へと走るが、すでに戦闘は始まっており幾羽ものグリフォンが船から飛び立ち空を旋回している。



 急いで海面を蹴り騎士団の船へと乗り込むと惨たらしい光景が広がっていた。

 懸命に戦ったのであろう、槍を構えたまま上半身と下半身が千切れている騎士団とその傍らで血だまりを作って死んでいるグリフォン。


 そんな死体がゴロゴロと甲板に転がっている。

 決して、油断をしていたわけでもなく訓練を積んだ騎士団でも腹潜はらむぐり相手では分が悪い。絶望を顔に浮かべながらも職務を全うしたのだ。


 

 俺が駆けつけるまでそれほど時間が経っていないにも関わらず、この有様なのだ。

 元凶の奴は船内に潜り込み暴れまわっているのか船内から爆発音と必死に戦う騎士団の声が漏れている。



「奴に手を出すな! 生きているものは今すぐグリフォンに乗って空へと逃げろ! これ以上、死ぬな!!」

 

 生き残った騎士団員は俺の指示に逆らう気は無かったのか、次々と空へと逃げていく。

 バラバラに惨殺された死体を見る限り奴は食べるために殺しているのではなく楽しむために殺している節が見受けられる。


 どうやら奴の舌は鋼鯨を食べたことにより肥えたのか、人間の味には興味が無いらしい。どうしようもない鬼畜が。

 こんな危険生物を野放しにしておくわけにはいかない。

 どれだけ犠牲が出ようともここで止めなけれれば。


 そんな時、船内から爆発と共に一匹の影が飛び出して来る。

 そいつは人間の千切れた手首を口に咥え、体中返り血を浴びて血だらけの腹潜だった。



 一体、何人もの人間を手に掛けたのか……。

 奴がそのつもりなら、こちらも容赦しない。最初は時間を稼げればいいと思っていたが、それではぬる過ぎる。あの日以来、使うことのなかった力を見せてやる。



 暴力には暴力を。



 俺に気が付いた奴は新しい玩具を見つけたとばかりに不吉な魔力を向けてくる。

 いいだろう。とことんやってやる。



 腹潜と俺との一騎打ちが始まった。



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