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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第80話  熊八の決断

 ♢ ミーティア海域沖合 熊八 ♢



 俺が初めて腹潜はらむぐりを見たのは3年前の任務中のときだった。

 当時、グスマン率いるGGGは大勢の実力者を伴い五ツ星(クインティプル)の冒険者だけが受けられる依頼、未踏地の開拓を行っていた。


 その目的は、未踏地の地図を作り希少品を持ち帰ること──。



 しかし、結果から先に言ってしまえば俺たちは失敗した。

 任務に失敗しただけでなく大勢の仲間の命を失い、団長であるグスマンを未踏地に置き去りし、ギルドは壊滅状態。

 それでもギルドが解散しなかったのはひとえにニコルの献身の賜物だろう。


 

 命からがら逃げ伸びた俺達に世間の目は冷たかった。


 

「 腰抜け 」

「 臆病者 」

「 金の無駄遣い 」

「 勘違いギルド 」

「 愚策(G)と偽善(G)と傲慢(G) 」


 etc..



 期待も大きかっただけに失望も大きかった。


 息巻いて出発した一団は現着するや否や強大な自然の力に大敗し、帰還後は対価に見合わない損害と僅かな報告書を残し、侮蔑と嘲笑の対象となった。

 それでも中には同情や擁護する者もいたがそれは少数派。



 この一件以来、すっかり自信と誇りを失ったメンバーは自責の念からギルドの脱退が後を絶たず仲間は減る一方。

 3年経った今でも当時を思い出すと胸が苦しくなる。



 『 憤怒、悲哀、自傷、献身、酩酊、暴力、欲情、逃避、欺瞞 』

 


 それぞれが心に闇を抱え、よすがとするがその傷跡は一生消えることはない。



 今となっては『 王国にGGGあり 』と、世界に名を轟かせていた頃が懐かしい。

 「ハ、ハ、ハ……」と乾いた自嘲の笑いさえも込み上げてくる。


 

 一度、地に落ちた信用は一朝一夕に取り戻せるものではなく時間を掛ける必要があった……。


 そのギルド失墜の原因ともなった一つがミーティア近海に現れたのだ。



【 腹潜はらむぐり 】


 と、俺たちは呼ぶことにした。

 おそらく三大陸で奴の生態を目撃し、記録したのは俺たちが最初なことだろう。


 奴との出会いは偶然の産物といってもいい。

 未踏地にて、たまたま目の前で息絶えた生物を調査しようと近付いた際に、今回と同じように宿主の腹を喰い破って体外へと出てきたのだ。


 幸い、その時はGGG最大勢力が揃っていたので事なきは得たが、今は違う。



 奴の実力を知るのは俺のみで、唯一望みのあったベンジャミンも実力差から戦闘を拒んだ。

 ジュードもビアンカもハッキリ言って、役に立たない。無理に戦闘に参加しても奴に喰われるのが目に見えている。


 アラタに至っては一考の価値もない。

 師弟の関係を鑑みなくとも、当然のことだが魔力を発現したばかりの素人が腹潜はらむぐりを相手に出来ることなど何もない。


 そう、何もないのだ。

 命を賭した無謀な特攻でも時間稼ぎにすらなり得ない。




 ……なら、俺一人でどうにかするしかあるめぇ。

 久々にアレを使わないといけねぇかもな……。



 相打ちで上等。

 時間稼ぎで良し。


 最悪は……、船団全滅でミーティアに上陸か……。



 だがっ! 

 何としてもっ!

 何としてもそれだけはさせねぇ!!


< 鳴神なるかみの熊八 >と、言わしめたこの剛腕! とくと味わえや!!



 と、その時。

 奴が動き出した。


 すかさず俺も臨戦態勢に移り、奴を迎え撃つ。



「ハッ!」


 全身を循環する魔力を毛先の隅々まで練り込み、どんな状況に陥ろうとも対処してみせる。

 出し惜しみはしねぇ。勝負は一瞬。


 全身全霊を以って奴を殺す──。




 大きく跳躍してきた腹潜はらむぐりは海面を片足で跳ねると海面に潜り込み、ぐんぐん泳いでくる。

 そのまま海面を跳ねると、船に乗り込みマストにくっつきやがった。


 この蜥蜴トカゲ野郎め。俺が駆除してやる。



 奴の姿と魔力に充てられたのか漁夫の一人が叫び声を上げ、我を失い動き出しやがった。

 動くものに反応した腹潜はらむぐりは漁夫に狙いを定め、大きく口を開けて襲い掛かる。



 しかし、好都合。

 獲物を狙う瞬間が一番、当てやすい。


 自分が捕食者と思い込んでいるその横っ腹に特大の一発をお見舞いしてやるぜ!!



 バヂィィッンン


 うしっ!

 クリティカルヒット!! 手応え十分!!


 けどよぉ……。

 なんだよこの感触。まるで岩盤のように重く固いのに程よく柔軟性がある。

 手応えで分かる。大してダメージを与えられてねぇ……。


 やっぱ、一筋縄じゃいかねぇか。予定通り俺の仕事は足止めだな。



「あれぐらいじゃ奴はビクともしねぇ。俺が時間を稼ぐ。今のうちに逃げるんだ。そして議会に……いや、GGG団長のニコルに報告するんだ」


 ニコルならば腹潜はらむぐりの危険性も身を以って知っているし対応も的確、且つ迅速に行えるはずだ。後は頼んだぜ。


 せめて、奴の片腕くらいは引き千切ってやるからよ。



 しかし、まいったぜ……。

 まさかこんなところで奴と出くわすとは夢にも思わなかった。


 こんなことになるならババァに聞いて準備しておけばよかったと悔やまれる。

 まぁ、今さら嘆いても遅いがな。



 おっと、早く行かねぇと奴が船ごと破壊しちまう。

 アラタが何か言いたげだが、スマンが聞いてやれる時間はねぇ。ハルシアにも宜しく伝えてくれや。


 再度、魔力を練り甲板を蹴る。

 水面近くを泳いでいる奴に不意打ちを喰らわせてやる!




  能力  発動 



「 轟け、【 熊蜂くまんばち 】 」



 その瞬間。

 晴れ渡る水平線に雷鳴が轟音を鳴らしながら瞬いた。



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