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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第72話  交信

「これから私は鋼鯨の動きを追いつつ、刺激しない距離を探って指示を出すわ。これまで以上に細心の注意を払わなければならなくなる為、私は完全に無防備になってしまう。だから私のことを外敵要因から守ってほしいの。熊八さん、お願いできるかしら?」


 命綱を船に固定し終えたビアンカは熊八にそうお願いしていた。



「ああ、任せておけ。船がひっくり返りでもしない限り誰もお前さんには指一本、触れさせねぇ」


 ドンと胸に手を当てシシシと笑う熊八は自信有り気にそう告げビアンカを安心させていた。確かに熊八ほどの実力の持ち主ならば、いかなるものでも触れることは容易ではないだろう。これほど頼れるボディーガードはそういない。



「ありがとう」


 先ほどまでの不安は消え去ったのか恐怖を払拭し覚悟を決めた表情をしている。ビアンカも命がけで任務を達成しようとしていた。そうだ、これはAランク任務。実力と実績を積んだ冒険者でも危険な任務を星無しの俺が経験出来る絶好のチャンスなのだ。

一見すると出会ったばかりの熊八にその身を委ねることは無謀な行為かもしれない。けれど、この短い付き合いの中で熊八という人間を観察し信頼に足る人物だと判断した故の結果なのだろう。


 そこでふとした疑問が浮かんできた。



「なぁ、何も甲板に出なくとも、さっきみたいに船内から能力を発動させれば安全なんじゃないか?」


 俺の疑問を投げかけてみると、ビアンカは首を左右に振り否定の素振りをする。



「私の能力とて万能じゃないの。障害物が多ければ多いほど音は届きにくくなるし情報も混濁し雑多になってしまう。さっきは細かい情報を捉えられずに近づきすぎてしまったけれど、今後は出産を終えるまで距離をとるわ。その為にはより精度の高い情報が必要になる。だから危険を冒してまで外に出てるのよ」


 なるほどな。無知な俺からしてみれば可笑しな行動をとっていると思える行動にも、ちゃんと理由があるようだ。



「そうなのか、すまん。邪魔したな」


 俺が納得したのを見て「いいのよ」と言い、船首の方向を向いたビアンカはポケットに忍ばせていた魔力ポーションを開栓し飲み始めた。

 ごくごくと一気に飲み終えると、ゆっくりと目を閉じ鋼鯨との交信を始める。




 

 ~ビアンカの能力【七音の旋律(マジック・ボイス)】~


 自らの声に魔力を付与することによって通常以上の音量、音域を表現することが出来る。その能力は7つに大別カテゴリーしてあり、その内訳は本人しか知り得ない。更に、人間の可聴領域である20Hz(ヘルツ)~20,000Hz(ヘルツ)以上の音を出すことも可能である。これによって、鋼鯨との交信が可能になっている。


 大別カテゴリーされた能力の一つに音ではなく聴覚に特化した能力も存在し、この力を発動させることによって本来、人間では捉えることができない20Hz(ヘルツ)~20,000Hz(ヘルツ)以外の音を聞くことが出来る。


 ただし、7つの能力を全て同時に発動すると魔力を激しく消費し5分ともたない弊害が生じたため普段は1つ~2つしか重複して使わない。状況に合わせ臨機応変に能力を使い分け発動、停止を繰り返している。


 能力ごとに名前を付けており、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シと区別している。




♢ ♢ ♢



「始めるわよ」


七音の旋律(マジック・ボイス)】  発動


 <増幅する歌声()>・<共鳴する歌声()>・<可聴突破>  使用


 大きく息を吸い込んだビアンカは荒れ狂う大海原に向け能力を発動した。



「 アアアアアアアアアアアアアアアアアアア 」


「 アアアアアアアアアアアアアアアアアアア 」


「 アアアアアアアアアアアアアアアアアアア 」



 瞬く間に薄いピンク色の膜が拡散していき、鋼鯨の動向を伺おうと意識を集中させている。その手はしっかりと船に掴まり固定。瞼は閉じ視覚からの余計な情報を遮断し、感じ取った僅かな異変も逃さないよう意識を鋭敏に研ぎ澄ませていた。


 何度か能力を発動させたビアンカは右手で鋼鯨のいる方向を差し示してくる。近づきすぎた場合は手を上げ距離を取るよう指示を出し、逆に離れた場合は腕を水平に伸ばす。

 右手のジェスチャーによって声を出さずとも船の指針を指し示すことによりソナーの役割に没頭することができたようだ。



「うっし、鋼鯨のことはビアンカに任せて俺たちは別の仕事に取り掛かるぞ」


「別の仕事って? 熊八はビアンカについてなくてもいいのかよ?」


「大丈夫だ。この船の上にいるかぎり手出しはさせねぇ。あいつらからな」


 熊八が顎で示した先には後ろから付いてきていた真っ黒の船がすぐそこまで近づいてきていた。この荒波の中、不用意に近づけば船同士が接触し破損する危険性があるためこの距離は近すぎる。荒波に舵を取られ寄ってきたことも考えられたが、これまで一定の距離で付いてくるだけの操舵能力があるだけにそれはないだろう。

 明らかに故意に近寄ってきているのだ。

 念のため、船長の指示により警告の旗と光を出したがそれを無視して尚も近づいてきている。



 その船は真っ黒に塗装された船体とマストまで漆黒に染められ、この暗雲の中では船内から漏れ出す光がなければ見失ってしまうかもしれない。そして、その船の甲板の上には髭を編み込み、頭にはバンダナを巻き薄汚れた格好をした男達が下卑た視線を向けながらこちらをニヤニヤと見ていた。

 ご丁寧にも手にはカットラスと呼ばれる指を守るよう加工が施された鍔と湾曲した刃を持ち、刀身に舌を這わせて威嚇してきている。

 その姿はまさに海賊であった。



「ようやく俺の出番だな」


 拳の骨をボキボキと鳴らしながら戦闘準備万端のジュードは濡れた金髪頭を掻き上げオールバックのように後ろに流していた。



「あいつら海賊だよな? お目当ての鋼鯨も見つけたうえに、この船に乗り込んで金目の物だけじゃなくビアンカも攫いに来るんじゃねーか? 見てみろよ、サルみてーに騒いでやがる。上等じゃねぇか。逆に乗り込んで沈めてやるよ」


 危険な笑みをたたえながら、こめかみに血管が浮き出ているジュードはやる気満々で体に赤い魔力を滲ませていた。

 これまで、これといった活躍をしていなかったジュードはやっと憂さ晴らしができると言わんばかりに迫ってくる海賊船を睨みつけている。

 まぁ、かくいう俺も食事を提供する手伝いをしたくらいで特に役立っている訳ではないが……。



「一人で大丈夫か? 俺は乗り込んできた奴を追っ払うことは出来るが、乗り込むことはできんぞ」


 ジュードの身を案ずる熊八の言葉は軽くあしらわれた。



「問題ねー。むしろ巻き込む心配がない分、派手に楽しめそうだぜ。奴等如き、俺一人で十分」


「そうかい。ならお手並み見せてもらおうか。こっちは心配すんな。ベンジャミンもいることだしな」


 ぐんぐん近づいてきた船は梯子を掛けようと先端に鉤爪の付いたロープをぶんぶん振り回している輩が数人。一斉に乗り込んで来られたら、いくら熊八やベンジャミンがいるとはいえ数で劣る俺たちは不利かもしれない。


 だが、そんな俺の思いは杞憂に終わることとなる。



 すでにジュードは10m以上もの距離がある船の間を大ジャンプし敵船に乗り込んで暴れまわっていた。

 獣のような剥き出しの本能を曝け出し、ジュードの孤独な闘いが始まった。


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