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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第7話  教訓

 俺はベットに上半身を起こした状態で今までに起きた出来事を話し始める。



「俺はもといた世界で一度死に、この世界で蘇えりました」


「そして草原で目覚めたあと、この世界の情報を得るため付近を歩き周りましたが何も手掛かりを掴めず一晩過ごし、飢えから森に入り食糧を探しました」


「川で水分は摂れましたが、そこであの獣と出会い捕獲しようと試みましたが返り討ちにあってしまい、川に逃げ込みました。しかし追撃を受けた俺は瀕死の状態に。そこで助けて下さったお二人に出会い今に至るというわけです」


「以上です」


「……」


「……」


 一気に俺の近況を捲し立てると黙って聞いていた二人は驚きのあまり言葉に出来ないでいた。



「え~と、ちょっと待ってくれる? いまいち理解できないんだけど要するに君はどこか別の世界からこの世界にやってきた。そして二度目の死を迎えそうになったところで僕たちと出会ったってことであってる?」


「そうです」


「一度死んで生き返ったと?」


「はい」


「君がいた世界では死者が蘇えることはよくあるの?」


「ありえません」


「でも君は生き返った。しかも異世界で?」


「はい」


「そう、それは大変だったね……。って、信じられるかーーーーーい!!」


 ニコルさんの華麗なノリ突っ込みを受けてしまった。

 余談だがこの世界にも漫才師はいるのだろうか?

 とにかく俺は本当のことであると信じてもらえるよう丁寧に説明するしか方法はない。



「はい。こうなることは容易に想像できました。ですから今すぐ信じて頂かなくても構いません。逆の立場だとしても信じることは難しいと思います。ですがこれは嘘偽りなく、真実です」


 そこまで説明したところでニコルさんは自分だけが理解できていないのか確かめるようにギルさんに問いかけた。

 


「蘇えりだってよギル! そんなことあり得る!? どんな魔術を使っても死んだ者は蘇えさせることは絶対にできない! けれど目の前にいる彼は蘇えったと言う! しかも異世界から!」


「そんなことはどうでもいい」


「全然よくないよ! 大問題だよ!」


「それよりイグ・ボアを捕食目的で襲ったのは事実なんだな」


「はい」


 ギルさんからの返事をした瞬間、目の前が真っ白になった。


 あまりの突然の出来事と衝撃から自分の身になにが起きたのか理解するのに時間がかかった。

 そして、遅れてやってきた痛みと視界が一つの解を示している。


 右頬をギルさんに殴られたのだ。



 あまりの威力からベットを転げ落ち、それでも勢いが収まらず地面を三回、転がったところでようやく止まった。殴られた頬が猛烈に痛い。

 子イノシシの棘に刺さされた右手や母イノシシに潰されかけた胸部よりも断然痛かった。


 頬を押さえながら、のたうちまわっている俺にギルさんが近づいてくると無理やり胸ぐらを掴んで持ち上げられ凄まじい形相で睨みつけてきた。



「いいか、よく覚えとけ。イグ・ボアは【第肆種絶滅危惧種だいよんしゅぜつめつきぐしゅ】だ。どんな理由があろうとも一般人の捕獲、及び狩猟は禁止されている。たとえ、それが異世界から転生してきたものでもだ」


 あまりの剣幕と痛みから何も言葉を発することが出来ない俺に、更に捲し立ててくる。

 怒りのあまり額がくっ付きそうになっている。



「知りませんでしたじゃ通用しねぇ、知らなかったら死ぬ気で覚えろ。俺に殺されたくなかったらな。例外はなしだ。分かったな?」


「ひゃい」


 俺はギルさんのあまりの気迫に完全に委縮し怖くて怖くてたまらなかった。あの人の目は本気だ。

 もし、また同じようなことをすれば、そのときは間違いなく殺されるだろう。

 俺はこの日、二度とギルさんとの約束を破らないと心に誓った。


 情けない声の返事を聞いたギルさんは胸ぐらを離すと俺はドサッと音をたて尻餅をつき、へなへなとうなだれてしまう。



「ちょっと、ギルやりすぎだって! せっかく手当したのに新しい傷増やさないでよ! あ~あ、こんなに腫れちゃって。口開けて、……ん。歯は折れてないようだ」


 鞭のあとの飴はとびきり甘く感じる。

 違う意味で泣きそうだった。



「でもねギルが言ったことは本当に大切なことなんだ。イグ・ボアは乱獲によって急激に数を減らし今は僅かに残った個体をなんとか保護して個体数を保っている状態なんだ」


 そこまで説明すると再びベッドに座らせてもらい、ニコルさんも隣に腰掛ける。



「激減の原因はイグ・ボアの肉がとても美味しいことと成熟期間が長いうえに攻撃的な性格が原因とされている。それは君も知っているよね。でもイグ・ボアには《マザー・ボア》という別名があって深い愛情をもって子育てをするとても優しい種族なんだ。他のボア種では約一年で大人に成長する子育て期間がイグ・ボアの場合三年もかける。そこまで立派に成長した個体は病気や怪我がなければ五十年は生きる。これまでこの一帯の森に天敵はいなかったんだ。人族以外はね……」


 説明してくれたニコルさんの顔も神妙な面持ちだ。

 今度はギルさんが説明してくれる。



「そうして数を減らしたイグ・ボアはまず、狩猟期間内で許可を得たものが一定の数のみ捕獲できる【第伍種絶滅危惧種だいごしゅぜつめつきぐしゅ】に登録された。だが密猟が絶えず、一向に改善されないことから先日、議会で【第肆種絶滅危惧種】に引き上げられた。【第肆種絶滅危惧種】と言うのは、簡単に言えば私利私欲のために殺してはいけないという意味だ」


 今まで聞いたことの無い単語に疑問符が浮かぶが、それも丁寧に説明してくれるあたり人柄が窺える。

 相槌を打ちながら再びニコルさんが補足してくれる。



「そこで僕とギルのような調査チームが派遣され個体の保護・観察・調査・密猟者の取り締まりを行っていたというわけさ」


 つまり俺は密猟者と間違われたのか。

 いや、実際食べようとしたから違わないのか? でも禁猟種だと知っていれば殺そうとは思わなかった。でもさっきギルさんに言われたばかりだし……。



「そういえば、あの獣はあのあとどうなったんですか?」

 

 滝壺に落ちていった猪のその後が心配になり、俺自身は気を失っていたためその後を聞いてみる。



「心配するな。イグ・ボアは泳ぎは下手だが身体は頑丈だ。あのあと親子そろって岸にあがっていた」


「そうですか、よかった」


 自分のせいでイグ・ボアを殺してしまったのではないかと思っていたがそうではないようで一安心した。ここでの生活にはまだまだ学ぶべきことが多そうだ。


 そんな俺を見て何かを察したギルさんが口を開いた。



「いいか、無知は罪だ。なら学べ。命がけでな」


 そう言ったギルさんの口元は悪だくみを企んでいる子供のようにニヤリと笑っていた。



第8話は明日、18時に更新致します。

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