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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第59話  感謝の朝食

 アナギンポを捕獲し、正式に弟子として認めてもらうことが出来た俺はギルドへの道を戻る。


 これまでの岩の隆起した危険な地帯を過ぎてしまえば、その後は白い砂浜の続く安全で綺麗なビーチ。その道中、熊八と雑談しながら進む。



「それにしても、俺のテストに”アナギンポ”を使うのは、ちょっと難易度が高かったんじゃないのか?」


 俺の前を竹籠を背負いながら大股で歩く熊八に問いかけると思わぬ答えが返ってくる。



「何言ってやがる。アナギンポの討伐ランクはD。ここら辺では仕留め易い獲物なんだぞ。その証拠に普段は穴の中に隠れて餌が通るのをじっと待ち伏せてる。自分で泳いで餌を獲れないからこそ生まれた生きるための知恵だな」


「そうなんだ……」


「それに、さっきお前さんはコイツに指を噛まれたろ? 血は出たかもしれないが食いちぎられることはなかった。力の強いやつなら噛み付いた瞬間、指は無くなってたぞ。そういう意味では今のお前さんにぴったりな獲物じゃないか」


 聞けば聞くほどそうだったかのように聞こえてしまい納得する。

 あれ? 俺、実は弱くね? この先、大丈夫かな?



「まぁ、それは魔力を使わない通常の状態でってことだがな」


 魔力。

 以前、ハルシアに引き出してもらったことがあったので、その存在こそ知っているが実はほとんど理解していない。



「その魔力ってやつがあれば、俺も強くなれるのか?」


 今後、自分で獲物を狩る為にも今以上に力を付けなければいけないと思い、魔力を習得するという次なる目標ができた。



「たりめぇよ。お前さんここに来る前は漁師フィッシャーだったんだろ? なら、魔力くらい使えないと仕事にならなかったんじゃないのか? 俺はてっきり、使えるもんだと思ってたがな」 


「それが溺れたせいか忘れちまったみたいなんだ。熊八、師匠として魔力の使い方を教えてくれよ?」


 もちろん忘れたわけではなく、もともと知らなかった訳だが。この際、溺れたせいにして知らないことがあったら何でも忘れたことにしてしまおう。溺死万能説だな。



「そりゃ、構わねぇけどよ。ん? なら冒険者カードの情報はどうやって引き出したんだ?」


「ああ、それはハルシアに協力してもらったんだ。その時、魔力についても教えてもらった」


「なるほどな。なら話しは早い」



 そう言って熊八は歩くのを止め笑顔で手招きしてくる。何故だろう、凄く嫌な予感がするのは。

 俺はこれから行われることに薄々、気付きながらも近づいていく。乗り越えなければ、これも生きていくためだ。



「ギルドに帰りながらも魔力を操る訓練を始める。魔力を使えないんじゃ話しになんねぇからな。とりあえず、気を失うんじゃねぇぞ」


 熊八は俺の両肩に手を置くと、その手から薄い黄色の湯気のようなものが立ち上る。それが引き金となり、全身が急激に熱くなってきた。

 やっぱりこれか。ハルシアの時と同じだな。手を離しても尚、立ち上る湯気は俺自身から発せられている。



「お前さんの魔力も俺と同じで黄色だな。さっ、なんとか止めてみな。でなきゃ、ぶっ倒れるぞ」


 分かってるよ。すでに経験積みだ。コツは知ってる。

 俺は以前、やってみせたようにお腹を引っ込める要領で魔力を操作する。すると、ゆっくりではあるが迸る湯気の勢いが衰えてきた。



「お? なんだ、うまいじゃねぇか。最初は誰でも手こずるんだがな。やっぱ、体が覚えてるもんなのかね」


「前に同じことをハルシアにやられたからな。その時、止める方法も聞いておいた。このくらいわけないさ」


 額に大粒の汗を滲ませながら強がってみた。ホントは結構キツいけど今まで良いとこなかったので、少しは出来るところを見せておきたかった。それか、熊八の言う通り体が覚えているということかもしれない。



「やるじゃねぇか。魔力の操作が上手い奴は料理も上手って言われてるからな。見込みあるぞ」


 初めて熊八に褒められた。やったぜ。俺はやれば出来る子だったのか。



「魔力を出したり引っ込めたりを繰り返していれば、いずれ意識しなくても使えるようになる。まずは息をするのと同じくらい身体に慣れさせるんだ」


 そうして俺は歩きながら魔力を操作し、ギルドを目指す。

 熊八のやつ、教えるのは得意じゃないとか言っといて、しっかり教えてくれるじゃないか。それともただ自覚がないのかな?



「それと、俺の弟子になるってことはうちのギルドに所属しなけりゃならん。それはいいのか? お前さんはもといたギルドがあったんだろ?」


 ギルドに関しては俺が転生する前のことだからな。それにギルドなら改名するときに白紙に戻してもらったから今更、戻れないし。



「ああ、問題ない。そういえば熊八たちが所属してるギルドってなんてギルドなんだ? これから俺も所属するからには知っておきたいんだけど」


「うちは【GGG】ってギルドだ。帰ったら団長に入団希望の挨拶しに行かねぇとな」



 そのまま歩いていくと、あっという間に時間は過ぎていき俺達はギルドに帰ってきた。

中に入ると受付のある一階のホールはすでにたくさんの人が出入りしており、賑わっている。

 俺達は素通りし二階の食堂に帰ってきた。


 そこで俺は今まで気付かなかったことに気が付く。

 大きな木製の扉の上に看板が掛かっている。おそらくこの食堂の名前だろう。看板には太い墨の文字でこう書かれている。



【 海熊亭 】


 あ、これ熊八のことだ。見た目、熊だし。海近いし。ビーサン履いてるし。間違いない。

 食堂内では何人か食事をしているが、片手で数えるほどしかいない。どうやら朝はお客さんは少ないようだった。

 


「お帰りなさいにゃ。今日は帰ってくるの遅かったにゃ」


 出迎えてくれたグレー猫の獣人はウェイターが着ている制服を着こなし清潔な見た目でその姿が良く似合っている。



「おう! けぇったぞ! 朝飯は食ったか?」


「まだにゃ。ご主人様がみんなで食べようって言うから我慢してるにゃ。もう、お腹ペコペコなのにゃ」


「ガッハッハッハ、そりゃ悪かったな! もう朝の時間も終わるから俺達も朝飯にしよう」



 俺達がアナギンポを獲っているあいだに時間は過ぎていき、もう8時をまわっていた。

出発したのがまだ薄暗い時間だったので随分、時間が経ってしまっていたようだ。



「あ! お帰りなさい! 朝ごはん出来てますよ!」


 俺達に気が付いたハルシアが厨房から出て来る。その後ろではコックコートを着た猫達が作業をしていた。



「おう! ハルシア、今日からお前の助手となる奴を紹介しよう」


 そう言って、俺の背中を押してくれる。と言うか俺はハルシアの助手なのか? まぁ、同じ師匠の弟子だからいいか。



「と言うことは、テストに合格したんですね! よかったですね! アラタさん!」


 満面の笑顔で手を握り合格を祝ってくれるハルシア。やっぱりいい子だ。



「ありがとう。右も左も分からないけど一生懸命頑張るんで、宜しくお願いします」


 そう言って頭を下げる。ハルシアは俺にとって姉弟子となるので礼儀を尽くさなくては。



「はい! こちらこそ宜しくお願いします! けど、そんな改まらなくても今まで通りでいいですよ」


「そう? ならそうさせてもらおうかな」


「ええ。けど、掃除・雑務はどんどん頼みますからそのつもりでいて下さいね!」


「任せてくれ! どんな仕事もこなしてみせるよ」


「フフ、頼もしいですね。私にとって初めての助手なので私も嬉しいです」


そんなことを言われたら俺も嬉しくなっちゃうよ。よ~し、頑張っちゃうぞ~。



「うし! これからの話しは朝飯を食べてからにするぞ。俺は腹が減った。ハルシア用意してくれ」


 熊八は獲物の入った籠を猫に渡すと近くの椅子にドカッと座る。



「分かりました! ちょうど朝の時間も終わりですし皆で食べましょう。今日はうまくいったので自信作ですよ!」



 その後、全てのお客さんが食事を済ませ出て行った後に全員分の食事を並べる。テーブルに並んだ料理の数々は朝ごはんとは思えないほどのボリュームであった。

 

 朝、市場で買ってきたトノサマダイを使った刺身と鯛めし。ざっくり混ぜ合わせると底についた焦げ目がいい具合に色づいており食欲を掻き立てる。混ぜるたびに白米と鯛の香りが立ち上り、鼻腔をくすぐる。



 色とりどりの野菜をふんだんに使用した鯛のカルパッチョ。ドレッシングは自家製か? 残った粗は余すとことなく粗汁にしていた。



 牡蠣に似た貝はパン粉にくるみ牡蠣フライにしており山盛りの千切りキャベツが器に盛ってある。傍らにはミニトマトとカットレモンを添えて。


 鯛めしがあるにもかかわらず、焦げ目のついたカリカリの食パンやクロワッサンが用意され牛乳も人数分、グラスに注がれている。



 更には、鳥の丸焼きのような大きな肉がテーブルの中央に置かれ、専用のナイフとフォークと受け皿が準備されていた。おそらく、食糧庫に置いてあったものを使ったのだろう。


 サラダとして鮮やかな緑色が映えるグリーンサラダ。ドレッシングはお好みで多数、用意されている。 



 他に、見るからにフワフワのオムレツ、一本一本が極太のソーセージ、溶けたチーズがのったハム。イセエビのような大きなエビを丸ごとボイルして殻を剥いたもの。


 デザートは熊八が買ってきていたマンゴー、葡萄、メロン、苺、パイナップル、オレンジなど贅沢なものが並ぶ。それを食べやすい大きさに切り分け、盛り付けられていた。



「すごい量だな。これホントに朝ごはんか? いくら11人いるとはいえ多すぎじゃないか?」


「今日はアラタさんの弟子入り祝いですから! これでも少ないくらいですよ?」


 マジか。気を遣わせちゃったかな? あれ? でも、俺が合格するかは分からないはずなのに……。おそらく、ハルシアの性格上ダメだった場合は励ますためだと言っていたことだろう。


 しかし、心配した通り好きなものを好きなだけ使った感じだな。熊八も大変だ。



「おお! うまそうじゃねぇか、早速、頂くとするか!」


 だが思っていたより気にしていない様子の熊八。

 各自、テーブルに着き祈りを捧げている。俺も手を合わせ感謝の気持ちを告げる。



「 いただきます 」



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