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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第57話  狩り

 俺は腐敗臭を放つ肉片を受け取り、最後のテストである”アナギンポ”なる獲物を狙う。

熊八は俺がいかにして獲物を捕らえるか見極めるために、獲り方をレクチャーしてはくれない。



 まず初めに少し怖かったが、恐る恐る穴に指を入れてみた。

 しかし、穴は深く指の長さでは何にも触れられず全く届きそうにない。ならばと落ちている手頃な流木を拾い、ゆっくりと中に差し込んでみる。


 すると穴の途中で何かに当たる感触があり、引き抜いて深さを確認すると約30センチほど奥に潜んでいるようだった。 


 とりあえず、俺は今考えられることを一つ一つ試していくことにした。


周りに張り付いている海藻や貝類の高さから潮が満ちた時の潮位が分かる。そこから判断するに今、俺達がいる場所も潮が満ちて来ればいずれ海に沈むだろう。ぐずぐずしている時間はない。


 今は潮が引いている為、中に水は入っていないが満潮時なら穴も水没するはずだ。

と言うことで、穴に海水を入れてみる。


 海辺に生息している生き物ならば、エラ呼吸の可能性も高く海水が入ってくれば満潮と勘違いして穴から出てくるかもしれないと思ったからだ。

しかし、俺の思惑とは裏腹に待っていても一向に出てくる気配はない。



 ……ダメか。なら次の手だ。


 次は中に海藻や詰まらない程度の大きさの石ころを入れてみた。

 もし、この穴を巣穴にしているなら異物が入ってきた場合、穴の外に出そうとするはずだ。でなければ、自らが出ることもできないし餌を獲ることも出来ないからだ。


 暫し、待ってみる。



 が、結果は失敗だった。

 いくら待っても中から石ころが出てくる様子は無く、変化は起きない。



 ……ダメか。なら次の手だ。


 俺は別の穴の近くにもう一度、餌を置いてみる。  

すると、すぐさま先ほどのアナギンポが飛び出てきて餌を咥えて穴に隠れてしまった。



 どうやらこの獲物は食事の時以外は穴から出てこない様子だが、分かったことが一つ。

 こいつは相当、食い意地が張っている食いしん坊だ。


 俺が近くで見ていても気にすることなく穴から出てきて餌をかっさらっていく。

こいつの性格は警戒心が薄く食欲旺盛。だが、それは固い岩盤に身を守られているからこそなのだろう。


 自分が捕食されるような大きな獲物は穴に入ることが出来ず、手出しできない。逆に餌となるものは巣穴に入る小さなサイズ。

 待ち伏せの一手で厳しい野生を生き抜いているのだ。


うまく考えてやがる。



 だが、人間の知性を甘く見るなよ。俺とお前の知恵比べだ。どっちが賢いか見せてやる。



 次なる手は釣りだ。

 だが、釣りといっても餌はあっても糸や釣り針はない。もし、釣り道具が揃っているなら釣り上げることは簡単だったろう。

 しかし、熊八は今回それを用意していない。


つまり、釣り用具がなくても餌さえあれば捕まえられるということだ。

 


 俺は人差し指を肉に埋めるように刺し込み巣穴の近くで待機する。

 いくら奴が素早かろうが、餌に釣られて俺の指に噛み付いた時に指先を鉤状に引っ掛けて捕まえてやる。


 フフフ。さぁ、こい。


 俺の指も噛み付かれるだろうが、そこは仕方ない。甘んじて受け入れようではないか。

やがて穴の暗い闇の中からチラチラと蠢くものが見える。


 バカめ。餌に釣られて、のこのこ出て来おったな。

 噛み付いた時がお前の最後だ。



 そして、次の瞬間。

 奴が巣穴から飛び出してきた。

 


 来たっ! ここだっ! つーか、痛ってぇぇぇぇ!! 


 アナギンポは人差し指に嵌め込まれた肉に噛み付くとすぐさま穴に逃げようとする。思っていた以上に噛む力が強く一瞬怯んだが、タダで餌をやる訳にはいかない。


おらぁぁ!



 俺は指を曲げ、口に引っ掛け穴から引っ張りだすように思いっきり引いた。


良し! 手応えあり!



 しかし、あろうことか奴は餌を離すどころか全く噛む力を緩める気配がない。なんて食い意地だ。それよりもコイツの力に驚く。


 巣穴から顔を出した奴は鰻のような姿をしており、鋭い牙で肉片越しに俺の指に噛み付いている。噛み付かれている指先は赤い血が滲み、ズキズキと痛む。


 痛む指先を我慢し空いている左手で奴の身体を掴んむが、濡れた体はぬるぬると滑り思うように掴むことが出来ない。



 今、俺は立ち上がり右手に奴が噛み付いた状態で胴体は巣穴に隠れている。捕まえてしまえば俺の勝ちだと思っていたが、甘かった。


どういう訳か、ピンと伸びた奴の体は引っ張っても凄まじい力で抵抗し巣穴から出てこない。それどころか巣穴に引っ張られる。


 左手で掴もうにも滑る粘膜のせいでしっかり掴むことが出来ず、指先だけで繋がっているようなものだ。更に、奴は身体をくねらせ回転を始めた。



イタタタタ! なんて噛む力だ! 巻き込まれて指先が千切れそうだ!


 そこでようやく掴むとっかかりを見つけた。

 顔の左右の脇にエラらしき窪みがあり、そこに左指を差し込みしっかり固定し回転を止める。そのまま奥へと歩きながら引っ張り出す。


ずりゅずりゅと、ゆっくりではあるが徐々にその姿が地上に出てくる。



おいおい、どんだけ長いんだよ……。


 すでに2mは引っ張りだしたが、まだ胴体は巣穴に隠れており今なお引っ張られる力も強い。一体、どれだけ長い身体なんだ。


だが、長いようで短かった決着はついた。



 じりじりと引っ張り出した身体はある境をきっかけに急に力が弱まり、一気に引き抜くことができた。

そのまま力任せに引いていくと、ついに全身が姿を現す。


 その長さは全長6mほどもあり、全身が茶色い。ここまで長いと蛇のようにも見える。胴体の太さは一番太いところではバットほどの太さでどうやってあの巣穴に入っていたのか不思議なほどだった。

 おそらく、この太い部分が抜けたおかげで最後は簡単に引っ張ることが出来たのだろう。



 いまだに噛み付いて離さない指先からは血が垂れ落ちている。じたばたと体をくねらせ抵抗してくるので余計に痛む。

 


このっ!!


 俺はアナギンポの頭を足で踏んづけて固定し無理やり、指を引き抜いた。そのせいか指の皮が裂け赤く染まっている。

 その途端、枷が外れたのを察知したアナギンポは逃げ出そうと暴れまわるが、そうはさせるか。傷を負ってようやく引っ張り出したのに逃がすかよ。



 左手は何が何でも離さずに、空いた右手で近くに落ちている拳ほどの岩を持ちあげアナギンポの頭に打ち付けた。

一度で仕留めるつもりだったが、命の危険を感じ取った奴は最後の抵抗で暴れまわり、なかなかうまくいかない。


 こいつ! 大人しくしろ! オラァ!



 そして打ち付けること4発目にして、ようやく動きが止まった。

 いつのまにか肩で息をし、汗だくになっていた俺は動かなくなったアナギンポを見て波のように押し寄せる罪悪感に打ちひしがれていた。



俺が……、俺が殺した……。



 今までも地球でたくさんの命を奪ってきたが、そのどれとも違う奇妙な体験だった。

 



そうして、俺のガイアでの初の狩りが幕を閉じた。



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