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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第49話  改名

 冒険者カードに登録されていた情報により驚愕の事実が判明した。どうやら生前の俺は億万長者らしい。


 しかし、それは鳳仙帝国での話しであってエーデルシュタイン王国では無一文とのこと。

 納得のいかない俺はハルシアを問い詰める。



「ちょっと、待ってくれ! なんで自分のお金を下ろせないんだ!? そんなの理不尽すぎるだろ!?」


「そう言われましてもこれが世界の常識ですし、なんとか納得していただかないと私も困ります」


 しょんぼりするハルシアの顔を見ると罪悪感が押し寄せてくる。これが金の魔力か。



「ああ、すまん。少し熱くなってしまった」


「いえ、いいんです。これだけのお金ですもの。因みになんですが、この金庫番号に書かれている<参>の文字が鳳仙帝国で預金をしているという意味になります。この文字は三大陸の順番と同じです。

 したがって、ヴァイス皇国なら<壱>。エーデルシュタイン王国なら<弐>と表記されます」


「ふむ、なんのことか分からんが分かった」


「あはは……」



 その後、俺は羊皮紙を大事に仕舞うと名前の変更のために再度、議会に戻り変更の手続きを行う。手続きの前にハルシアが最後の確認をとってくる。



「本当にいいんですか? 名前も住所もギルドも変えてしまったら、もとには戻せませんよ? お金だってなくなってしまうかもしれないんですよ?」


「いいさ、俺の気が変わらないうちにやってくれ」


「……分かりました。では仰る通りに手続きを行いますね」



 そうして、俺は【Cinstanceコンスタンス・A・Agataアガタ】としての全てを失い、新しく【アラタ】として再登録した。

 物惜しそうに最後まで躊躇していたハルシアには悪いが、もう決めたことだ。


 突如、身の丈に合わないお金を持つと身を滅ぼすと聞いたことがあるが、まさにその片鱗を垣間見た気がする。お金は人を狂わせるからな。用心しておこう。



 でも、やっぱり早まったかなぁ~。



「これで全ての手続きは終了しました。今更ですが、なぜ鳳仙帝国に帰ろうと思わなかったんですか? あれだけの条件が揃っていたのに……」


 まだ、後悔してるのか? もう手遅れだぞ。



「いいんだ。あの金や地位は俺が築いたものじゃないからな。俺は自分の目で見たものを信じ、自分の考えで人脈を作るんだ。後悔はしてない」


「そんな他人行儀な。もし、記憶が戻ったら死にたくなりますよ。きっと」



 そうか、ハルシアは俺が別の人間ということを知らないんだよな。

 あくまで俺は記憶喪失という体で話しを通してるから、そう思うのも無理ないか。



「それに、ハルシアや熊八にまだ恩返ししてないしな。俺はこの地で生きていくと決めたんだ」


「フフ、義理堅いんですね」


 ハルシアもようやく踏ん切りがついたのか、やれやれといった表情で力なく笑っていた。



「おう! 俺は義理人情に篤い男だぜ! 受けた恩は倍返しだ!」


「はいはい」


 ニカッと笑う俺と困ったような顔のハルシアは優しく笑いあい、柔らかな時間が流れる。



「さっ、結構時間も経ってしまったので急いで帰りましょう。熊八さんが待ってます」


「そうだな。ところであの食堂のある建物ってなんなんだ?」


「ご存じなかったですか? あれはギルド【GGG】の本部ですよ」





● ● ● ● ● ● ● ● ● ●




 朗らかに話しをしながらGGGの2階にある食堂に戻ってきた俺達。帰る間にハルシアから冒険者ギルドについて説明してもらった。

 つくづく、おかしな世界に飛ばされたと実感する。




「ただいま帰りました!」


 厨房で夕食の仕込みをしている熊八に向け、ハキハキとした声でハルシアは言う。

 その声に反応した熊八は真っ白なコックコートを着ており、頭には白いねじりハチマキを巻いている。

 下は変わらず花柄のハーフパンツでビーサンのままだ。


 洋風なのか和風なのか、コンセプトが分かりづらい恰好だな。その手にはギラリと輝く特大の出刃包丁を握っていた。



「おぅ! おけぇり! 何か分かったか?」


 熊八も笑顔で迎えてくれ、話しながら持っている出刃包丁でこれまたデカい魚の頭を胴体から切り離している。



「聞いてくださいよ! アラタさんたら凄い人だったんですよ! しかも、超おバカさんなんです!」


 おバカさんて、ハルシアよ。

 もう少し言い方ってもんがあるんじゃないのかい?


 そのまま興奮気味のハルシアは議会での出来事を一から熊八に説明した。それを熊八はうんうんと黙って聞いている。



「なんでぇ、俺等への恩なんて気にすることねぇのによぉ」


 すさまじいスピードで魚を卸しながら熊八が言い、みるみるうちに三枚に卸し身を切り分けていく。なんて鮮やかな手捌きだ。



「私は気持ちぶんだけでも、返してもらえたら嬉しいなっ!」


 悪戯っ子のような笑顔を向けながらハルシアは外出用の服からコックコートに着替え始める。

生着替えだ。

 もちろん、シャツは着ているが……。



 俺はハルシアの生着替えと熊八の華麗な仕事に見惚れながらも答える。



「一度決めたことは曲げねぇんだ。受けた恩は必ず返すからな」


「そうかい。なら俺がとやかく言うことはねぇな。そんで、これからお前さんはどうするんだ? 文無しなんだろ?」


 熊八は俺と会話しながらも一切、手を止めることはなく先ほどまで一匹の魚だったものの半身を刺身にして皿に盛りつけている。一体、いつの間に柵取りして皮を引いたんだ?

 切りつけの作業を見逃してしまうほどに作業が早い。



 というか、ここでは刺身が食べられているんだな。

 生魚は嫌う傾向にあると思ったが、それは俺の思い過ごしのようだった。

 まぁ、これだけ海が近ければ鮮度も抜群だろうし自然なことか。



 片や、轟々と燃え盛る竈では大鍋に魚の粗を入れ出汁を取っている。兜も割って入っており、骨から良質なスープがとれそうだ。


 と、思えばもう違う工程に入っている。なんて仕事量だ。まるで手が4本あるかのよう。



 俺は会話を忘れるほどに熊八の動きに見入っていた。そして決心する。



「そうなんだ。けど、これからどうするか、今決めたよ」


「おっ? なんだ?」


俺は真面目な顔に戻し、ハッキリと告げる。



「ここで雇ってくれ! あんたの技術に惚れた! 俺を弟子にしてくれ!」


 今まで滞ることのなかった熊八の動きがピタリと止まった。



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