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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第二章  導かれる運命
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第47話  自らの証明

 食堂で熊八と別れた俺はハルシアに連れられ、議会を目指す。

 目的はこの冒険者カードなるものを使えば俺の登録時の情報を聞き出せるからだ。



「アラタさん、着きましたよ! ここがミーティア議会所です」


 議会所というものは先ほどの食堂から歩いてすぐの所にあった。

 ハルシアの前には周りの建物よりも大きく、目を引く重厚な建造物が鎮座している。


 この街の建物はせいぜい2階から3階建ての物が多いだけにこの大きさは目印にちょうどいいだろう。細工があしらわれた鉄性の重そうな扉を開け、中に入っていく。



 中に入ってみれば忙しなく動く人や獣人、魚人。エルフにドワーフ。衛兵の男たち。


 一見してなんの人種か分からないような人までたくさんの人たちがいた。

 受付の数も案内の札も多く、役場のように大勢の人間がスムーズに対応できるシステム化された造りになっている。


 さすが異世界。多種多様な生き物で溢れているな。

 俺は目にするもの全てが好奇心を刺激するこの場所をキョロキョロと見渡していると、



「こっちですよ」


 と、言い俺の手を引く。

 さっきも思っていたが、ハルシアは異性と手を繋ぐことに何の躊躇もないのだろうか?


 俺はある。

 細い指と柔らかな感触が手から伝わり、俺の心臓は踊りに踊っている。

 あぁ、このまま目的地が見つからなければいいのに……。



 手を引かれるがまま歩いていくと、とある受付の前で立ち止まる。そこで自然と手を離されてしまった。



「あっ……」


 俺は内心、ガッカリしながらも平静を装う。女性に対する免疫がないとは思われたくない。



「着きましたよ! ここで冒険者の照会を行ってください」


 その受付には<冒険者登録情報照会>並びに<冒険者登録情報変更>との文字が書いてある。

 文字は日本語ではないが、自称神様の細工によって今の俺はスラスラと読めてしまう。


 というか、これまで話していた言葉も日本語じゃない。

 けれど言葉の意味も理解できるし、自然に話すこともできる。便利なものだな。


 俺はさっそく冒険者カードを受付の初老の女性に渡し要件を伝える。



「こんにちは。このカードの情報を確認したいんだけど」


「畏まりました。……こちらのカードはまだ証明が済んでおりませんね。カードの証明を済ませたのちに再度、お預かりします」


 そう言って受付の女性はカードを返してくる。


 俺はなんのことか分からず、再度そのままカードを受付に渡してみた。

 初老の女性はサッとカードに目を通すと一瞬、顔を険しくさせたがすぐに営業スマイルに戻る。



「お客様、このカードはまだ証明が済んでおりません。証明済みでないものは情報を公開できない規則ですのでご了承下さい」


 一体なんのことを言っているのか理解できず困惑する。

 証明? なんだそれ? 地球でいう印鑑証明みたいなもんか?


 カードを持ったまま何もしない俺を不思議に思ったのか、ハルシアが助け船を出してくれる。



「アラタさん、証明っていうのは魔力でカードを纏うことですよ。ほら、こうやって」


 ハルシアは懐に手を入れ、俺が持っているものと同じデザインのカードを取り出すと力を込める。

 すると、どこからか現れた水色の霧や湯気のようなものがカードを覆うと、星が3つ書かれた絵柄が次第に薄くなり、代わりに文字が浮かび上がってきた。


 そこには【Mallモール・B・Harushiaハルシア】の文字と【GGG】と書かれている。

 その背景にうっすらと星が3つ刻まれていた。



「えっ!? なにこれ? どうなってんだ?」


 驚く俺をよそにハルシアも驚いている。



「なにって、魔力ですよ。 忘れちゃったんですか?」


 ああ、そういえば自称神様がそんなことを言っていたような。

忘れたどころかもともと知らないからなぁ。

 さて、どうするか。



「もしかして、魔力の使い方も思い出せないんですか? それは大変なことですよ。冒険者として生きるなら死活問題です」


 けれど、元の身体の持ち主が冒険者カードを持っていただけであって、俺自身が冒険者になりたいわけではないからなぁ。だが情報を引き出すためにも今はなんとか魔力とやらを発動させねば。

 困り果てている俺を察してくれたのかカードを持つ俺の右手をハルシアが両手で包む。



「っ!? ハルシア!? なにを……!?」


「じっとしてて下さい。応急処置として私の魔力でアラタさんの魔力を引き出しますから」



 すると、ハルシアの手から水色の霧のようなものが溢れ出て俺の右手を包む。

 包まれた右手は徐々に熱を持ち始め、まるで熱めの風呂にでも入っているかのようだった。



 時間にして僅かな時間だったが俺はこの温もりを忘れないだろう。

 何かを感じ取ったのかハルシアが手を離すと、それまで水色に染まっていたカードに変化が訪れる。


 俺の手を伝って少しづつ色が変わっていったのだ。

 始めは水色だったのものが緑色に変化し、やがては黄金色に変わる。


 どうやらこれが魔力の正体らしい。

 霧の色が変わると同時に今度はカードに文字が浮かび上がってきた。



 そこには【Cinstanceコンスタンス・A・Agataアガタ】と【大海水たいかいすい 水蛇みずち】と記されている。

 名前は分かるがもう一つは何だ?

 取り敢えず俺は自分の名前を読み上げて聞かせた。



「それがアラタさんの本来の名前なんですね。< アガタ >と< アラタ >。なんだか今の名前と似てません? それにホントに名前を変えちゃっていいんですか?」


 ハルシアが念を押すように聞いてくる。



「構わないさ。以前の俺と今の俺は違う。別人みたいなもんだ。今日から俺は【アラタ】として生きていく。そこに未練はない!

 ……ところでハルシア、これどうやって止めたらいいの?」


 魔力を引き出すことに成功したものの、溢れ出る魔力は煌々と光りながら迸る。俺は魔力の抑え方は知らない。それに心なしか疲れてくる。

 つーか、すげぇ疲れる。あきらかに魔力を放出してからだよな。



「魔力を止めるにはこう、グッと力を入れて、えいっ! と、念じれば止まりますよ」


 いかん。

 この娘は説明下手なタイプだ。何を言っているのかさっぱり分からない。

 具体的なことが何一つ伝わってこないじゃないか。


 物事を直感で感じ取り自分ではうまくできるけど人には教えることが出来ない。

 まるで、現役はスターでも監督になったらヘボになるスポーツ選手みたいだな。



「もっと具体的に頼む。なるべく早めにお願い」


「え~、う~ん。ならお腹に力を入れて引っ込めるような感じですかね? あれ? 違うかな?

 えへへ、分かんないです。 困っちゃいましたね」


 しっかりものだと思っていたハルシアに意外な盲点を見つけた。

 照れながら頭を掻く仕草は凄く可愛いけど、今はそれどころじゃない。


 取り合えず俺は言われた通りにお腹に力を入れてみる。



「こうか? フッ!」


 すると僅かだが、流れ出る魔力が遅くなった。



 おお!!

 勢いが衰えてきた!

 やればできるじゃないか!!


 俺はそのまま魔力を封じ込めることに集中し、額に汗しながらもなんとか元の状態に戻すことが出来た。



「ふぅ、危なかった。どっと疲れたけどうまくいったな」


「良かったですね! さ、証明も済んだことですし情報の確認をしてもらいましょう!」


 俺は文字の浮かびあがった冒険者カードを受付に渡す。



「ではカードをお預かり致します。照会には少々お時間を頂きますので、そちらの椅子に掛けてお待ちください。照会が終わりましたらこちらの番号でお呼び致します」


 そう言った受付の女性は<05>と書かれた番号札を渡してくる。

 俺は札を受け取り待つこと10分。



「番号札5番でお待ちのお客様~、どうぞこちらへ」


 アナウンスされた窓口に行き番号札を返す。



「では、こちらが登録されておりました内容となります」


 B4サイズの羊皮紙にインクで書かれた内容を見る。これで元の身体の詳しい情報が手に入りそうだ。

 俺がそのまま羊皮紙を持ち上げようとするとバシッと受付の女性が紙を押さえ妨げてくる。



「冒険者情報の照会でお会計が1シルバです」


 えっ? お会計? 1シルバ

 なにそれ? お金必要なの?

 聞いてないんだけど……。



 俺は聞きなれないシルバという単位に焦ったが、ポケットに入っていたコインを思い出した。この世界の通貨は知らないが、これでなんとかなるかもしれない。



「あぁ、1シルバね。 はいはい。これでいいかな?」


 そう言い、しれっと受付の机にコインを置いてみた。

 みるみる険しくなっていく女性の顔。

 あぁ、マズイ。このパターンはダメなやつだ。



「申し訳御座いません。こちらのコインはこの国の通貨ではありませんので使用することが出来ません。 王国で認可されているものでお願い致します」


 やっぱりか。くそ、当てずっぽうじゃダメだな。ならこのコインは何のコインなんだよ。



「アラタさん、お金持ってないんですか?」


 心配そうにハルシアが覗き込んでくる。

 うぅ、女性にお金の心配されるとは男として不甲斐ない。

 俺は黙って頷くしかなかった。



「なんだ、それなら私が代わりに支払いますよ。1シルバですよね」


 ハルシアは懐にしまってあったガマ口の財布を取りだし中から一枚の銀コインを取り出すと、受付に渡した。そのまま羊皮紙を受け取り俺に手渡してくれる。



「はい、どうぞ! これで身元が分かるからよかったですね!」


 にこやかに語りかけてくれる。なんて優しい娘なんだ。



「すまない、この借りは必ず返すからな」


「えへへ、楽しみに待ってますね」



俺はようやく本来の目的である内容に目を通すことができる。



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