第42話 グリフォンの鎮魂歌
戦闘を終え俺達の元へと戻るギルさん。
「大丈夫か?」
わざわざ味方を無力化させておいて、奇襲することはないと踏んだであろうギルさんは魔力を霧散させた。
万能魔力回復薬によって目覚めていた双子もこの現状を飲み込めていないようだ。
「大丈夫です。二人は?」
双子も黙って首肯する。
「さっきの奴等なんだったんですか?」
「やつらは鬼人族といって鬼と人間のハーフみたいなもんだ。気性は荒く根っからの戦闘狂だ。
絶えず戦いの歴史に身を置いているため数は少ないが個々の戦闘力は高い。それだけに白い男の行動は不気味だ」
「白いほうも鬼なんですか?」
「ああ、額に生えた角を見ただろう。あれが鬼人族の特徴だ。【鬼神化】といって姿が変わると魔力やステータスが軒並みアップする厄介な連中だ」
左京と俺は自らの目でそれを見ていただけに、その力の恐ろしさを思い知らされた。
「話しを遮るようで悪いんだけど、私には何が何だかさっぱりなの。あいつら何? どうしてギルフィードさんがここにいるの? そもそも私のグリフォンになにがあったの?
私が気絶している間に何があったかちゃんと説明してくれる?」
右京が騒がしくなってきたので、俺と左京でこれまでのことを順を追って説明してあげた。
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「そうだったの。私たちヤバかったわね」
「ヤバイどころかギルさんが来てくれなかったら100%死んでた」
「……ありがとうございます。ギルフィードさん」
左京が頭を下げたので俺と右京も頭を下げる。
「今のお前たちに奴は荷が重かったな。冒険者の難易度ランクで言えば通常でBランク、変化後でAランクってとこか」
「そりゃ勝てんわ。だって俺Cランクだもん。二人もBランクだから無理だね」
「五月蠅いわね。この中で一番弱い奴に言われたくないわよ」
「なんだよ! 助けてもらってその言い草はないんじゃないか?」
「あーら、私が助けてもらったのは左京とギルフィードさんであって、あんたじゃないと思うけど」
「お前、よくそんなこと言えたもんだな。グリフォンから落ちる時、泣いてたくせに」
「ちょ、泣いてないわよ!? あんた適当なこと言ってんじゃないわよ!!」
「いーや、泣いてたね。俺、見たもん。この目でバッチリ」
「泣いてない!!」
元気になってから、また口喧嘩が始まった。
左京はそんな俺達を無視してギルさんに問う。
「そうだ、ギルフィードさん大変なんです。親離れしたイグ・ボアの個体が土還しに捕食されていたんです」
「ああ、知っている。俺は別の任務でこの森に入っていたんだが襲われているのはイグ・ボアだけじゃない。この森全ての生き物だ。それも生きたままでな」
「……そんなこと一度も聞いたことがない。森で何が起きているんでしょうか?」
「それはまだ分からんが、鬼人族が関係していることは間違いないだろう」
「……すみません、僕たちがいなければ鬼人族を捉えられたかもしれないのに」
「気にするな。黒鬼だけならともかく白鬼の力は未知数だ。実際に逃げられてしまったからな」
「……これからどうしますか?」
「街へ戻り、今回集めた情報を精査し対策をたてる。必要ならオルバートの森への進入禁止もあり得る」
「……分かりました」
その後、ギルさんの怒りの一声で俺達は静かになり、各々飛行の準備を始める。
「私のグリフォンは死んでしまったんだわ」
右京の乗ってきていたグリフォンの横たわる地面には血だまりができ残りの2匹のグリフォンがそばに寄り添っている。
「一体、なにが起きたのかしら……」
その亡骸を見たギルさんがあることに気が付く。
「右京。このグリフォンは飛行中に突然、悲鳴を上げて墜落したんだな?」
「はい。それまではなんともなかったのに、どこから攻撃されたかも分かりません」
「ここを見てみろ」
ギルさんが指し示す先には羽毛で覆われた体にぽっかりと空いた穴だった。
その周辺は時間が経ったため、赤黒く血が変色していた。
「この出血の量と突然死から推測するに心臓を抜き取られている」
「そんなまさか! 私たちは飛行中で上空にいたんですよ!? 狙撃ならともかく私に気付かれずに心臓を抜き取るなんてこと不可能です」
「奴なら可能だろう」
そこまで説明されて右京は気付く。
戦闘を離脱するために何もない空間に消えた白鬼の能力。
そういえばあの男の右手だけは赤く染まっていた。
「あれはグリフォンの血だったのね」
「そうだ。おそらく奴は領域、召還、創造タイプのどれかだろう。もしかしたら今この瞬間に奴の手が飛び出してくるかもしれない」
「えっ!? そんな卑怯な能力反則じゃない」
俺は双子の能力も十分、反則だと思ったがまた口論になると思い何も言わなかった。
「だが、奴から撤退していったんだ。すぐには戻ってはこないはずだ。しかし長居は無用。準備ができ次第、移動する。右京は俺と来い」
「はい」
右京はこれまで乗ってきたグリフォンの羽を一枚抜き取るとぐったりと横たわる頭を抱きかかえ嘴にキスをする。
そっと頭を戻し両手を組み祈りを捧げる。
「全能なるアミタユスよ、その法眼たる眼の元に華厳の魂が旅立ちました。どうか広き懐のもと慈悲を以って眠りたまえ」
祈りを捧げた後、近くの木の下に丁重に埋葬した。
グリフォンを埋める途中、右京は声を押し殺し静かに泣いている。
左京と俺も何も言わず、ただ手を動かす。
埋葬する最中、仲間のグリフォンが弔いの声を悲しげに啼く。
ただただ森に、グリフォンの声が響いた。
第43話は明日、18時に更新致します。