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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第41話  憤怒のギルフィード

  黒鬼との戦闘で俺と左京は瀕死の状態まで追い込まれた。

 最後の攻撃も虚しく弾かれ、蹂躙された後に止めの一撃が迫る。


 しかし、その攻撃が俺に当たることは無かった。



(なにが起きた?)



 黒鬼は困惑している。

 今しがた、目の前で瀕死だった俺に止めを差すべく振り上げた拳は当たることなく地面に突き刺さる。


 疑問の答えはすぐに分かった。


 風の通り抜けた先に今しがた森に吹き飛ばされた左京と俺を抱えた人が立っている。

 その人は振り返りもせず右京のところまで歩いていき、抱えている二人を地面に寝かせてくれた。



「すまない、遅くなった」


 血を流し過ぎた俺は意識が朦朧としながらも相手が誰であったかは分かっていた。



「どうして、ここに? ギルさん」


 レイハーネフ・L・ギルフィードがそこに立っていた。



「待て、先に治療する」


 そう言ったギルさんは片膝をついたまま腰に括り付けたポーチの中から1つの小瓶を取り出す。

 中には光り輝くまるで新緑の葉を陽の光で透かしたような鮮やかな翡翠色の液体が入っていた。とろみのある液体を双子の口にポタポタと2、3滴づつ落としていく。


 すると、さきほどまで青ざめていた顔色に赤みが差していき外傷もみるみる塞がっていく。



「……ん、んん」


 先に右京が目を覚まし、すぐに左京も起き上がった。



「よし、シンも口を開けろ」


 言われた通り口を開け、ギルさんが不思議な液体を点滴する。味はほのかに甘く優しい花の香りがする。

 それを嚥下すると今まで体感したことのないほどの幸福感に包まれた。


 さらに、みるみる傷が回復していき額の裂けた傷や折れた腕もいつのまにか治ってしまった。

 おまけに魔力も全快だ。

  

 不思議な液体のおかげですっかり元気になった。



「なんですかこれは? まるで奇跡だ」


万能魔力回復薬エリクシルだ。俺は奴らに用がある。ここにいろ」



 そう言ったギルさんは立ち上がると物凄い形相で黒鬼を睨んでいる。その顔は怒りに燃えており紅い魔力を纏う。


 黒鬼はギルさんが俺達を治療する間、じっと見ているだけで手を出すことはなかった。

 いや、正確には手を出せなかったのだ。


 背中を向けながらでもギルさんから発せられる魔力の気迫に圧倒されていたのだ。

 そしてそれ以上に、興味があった。




(奴は強い。俺と同等かそれ以上。りてぇ……)



「お前はガキどもの仲間なんだろ? そいつらを痛めつけたのは俺だ。なら俺が憎いだろう。いいぜ。ろう」


 黒鬼はギルさんを挑発し戦いを挑む。



「黙れ。お前らは鬼人族だな。今からお前の自由を奪ったあと身柄を議会に突き出す。そこのお前もだ」


 ギルさんは白い男に向け言い放つ。その言葉を聞いた鬼は嗤う。



「いいねぇ!! そうこなくっちゃ!! やれるもんならやってみろよ!! ひゃははははは!!!」


「むぅんっ!!」



 黒鬼が禍々しい魔力を纏う。

 それは先ほど、俺や左京と戦っていたとき以上に力強い。

 まるで不吉を撒き散らしているかのようなどす黒い魔力だった。




「 引くぞ 」


 ポツリと白い男が告げる。



「あ゛あ゛?」


 それを聞いた黒鬼は苛立ちを隠さず白い男に敵意を向ける。



「奴はGGGに所属する<憤怒のギルフィード>だ。お前ごときでは勝てん」


「いい加減にしろよ。俺はお前の指図は受けねぇ。せっかくの上玉が目の前にいるんだ。これ以上俺の邪魔するってんならお前から先に殺すぞ」



 一触即発のピンと張りつめた空気が森を覆い、見ていただけの俺は押し潰されそうな心苦しさを覚える。



「お前が死ぬのは構わんが、この任務が終わってからにしろ。お前にはまだ仕事が残っている」


「あ゛あ゛ー、もういい!!」



 黒鬼は苛立ちガシガシと頭を掻きむしる。

 そして魔力を纏わせたまま白い男に襲いかかった。



「死ねや、ゴルァアアア」



ズンゥッ……ン


 ずっしりとした重い音が森に鳴り響く。



「カハッ……」


 だが、攻撃を仕掛けたはずの黒鬼が身体をくの字に折り曲げ、えずく。

 白い男のボディブローが黒鬼を悶絶させたのだ。

 聞こえてきた音はとても人の身体から発せられた音とは思えないほどの衝撃音だった。


 そして、黒鬼はぐったりと項垂れ地面に倒れ込む。倒れ込む黒鬼をすかさず白い男は肩で担ぐ。



 それを見ていたギルさんが口を開いた。



「このまま逃げられると思っているのか?」


「ああ」



言葉少なく、戦闘の火蓋は切って落とされた。



 目にも留まらぬ速さで一気に駆けるギルさん。

 だが、その振りぬいた拳が鬼たちに届くことは無かった。


 たしかに目の前にいたはずの白い男が黒鬼を抱えたまま一瞬で別の場所に移動していた。



「それがお前の能力か」


「………」


 男は答えない。

 沈黙は肯定なのだろう。



「またいずれ会う」


 ギルさんを見て一言、言い放った白い男は何もなかったはずの空間に消えていった。

 だが、痕跡は残している。


 男が消えた空間には朱いヒビのような亀裂が入っていた。

 その亀裂はゆっくりと消えていき、すぐに何の変哲もない元の風景に戻った。



 ギルさんは魔力を霧散させると俺達のもとへと戻る。

 突然ギルさんが現れたことにより俺達の脅威は過ぎ去っていった。



第42話は明日、18時に更新致します。

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