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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第37話  異変

 翌朝、目を覚ました俺達は別の場所に移動するためグリフォンに荷物を積み込む。

前日に採取した棘も三匹のグリフォンの鞍に手分けして乗せていく。棘は細くて軽いうえに丈夫なので持ち運びには苦労しなかった。



「……シンさん、昨日は見張り代わってもらってありがとうございました」


「いいさ。元はといえば俺の修行に付きあわせたせいだからな。このくらいさせてくれ。それより体調は大丈夫か?」


「……うん。もう平気」


「なら、良かった。今日も頼んだぜ」


「……うん」


「あんた達いつまで喋ってんのよ! さっさと移動するわよ!」


 朝からでかい声の右京は俺達を急かしてくる。あまり寝てないはずなのに元気なもんだ。

 これが若さか。



「ああ、今いくよ」


 今日も右京を先頭に拠点を移すためグリフォンに跨り空を飛ぶ。俺はこの数日間で少しずつだが確実に双子との仲間意識が芽生えていた。

 最初に会ったときはどうなるかと思ったが、根はいいコ達なのでこれならうまくやっていけそうだ。



 一時間ほど空の旅を満喫すると森の中に開けた場所を見つけ新たな拠点として着陸する。

四方は森に囲まれているが、その中でもひときわ大きな樹木の周りに空間があり拠点にするには好都合だった。



「今日はここから探索を始めましょう。二人とも準備ができ次第、出発するわよ」


 右京が指揮を執ることに最早、文句はなくそれ以上に冒険者として学ぶべきお手本として認めていた。

今回は川が近くにないので左京の探索機能を使うことが出来ず、森を歩いての探索となった。


しかし、朝から探索を始めもうすぐ昼になるというのにイグ・ボアの姿はおろかその痕跡も見つけることができなかった。



「おかしいわね。これだけ探したら足跡やマーキング・糞の一つでも発見できそうなものなのに全く見つからないわ。この近辺はイグ・ボアの縄張りじゃないのかしら?」


「……それはないよ。だってこの森にイグ・ボアを襲う天敵はいないんだから。この森全てが彼らの縄張りだよ」


「そうなのよね。けど実際見つからないじゃない。一体、どこに行っちゃったのかしら?」



 双子が不思議に思っているとき、俺はあるものを発見した。



「おい! 二人ともこっちに来てくれ!」


 呼ばれた二人は話しを切り上げると急いで俺の元へと駆け付けてくる。

視線の先には小屋ほどの大きさの黒い塊が森の中に不自然に鎮座していた。


 しかし、よくよく見てみると黒い塊はぞわぞわと小刻みに動いている。

その正体はモンスターの死体に群がる何百匹ものダンゴ虫のような虫の大群だった。


 更に異様なのはオルバートの森、特有の巨大さだった。

 虫の大きさはバスケットボールほどもあり黒褐色の甲殻。

 頭から生えた二本の触覚。

 腹部から覗く無数の手脚。


 どうやら死肉を貪っているようだ。



「ぎぃゃややあーーーああああぁぁぁーーー!!!」


 突如、後ろで悲鳴を上げた右京に俺は跳び上がるほど驚いた。



「なんだよ右京。いきなり叫ぶなんてビックリするだろ。どうしたんだよ?」


「どうしたじゃないわよ!! わたしは虫が大っ嫌いなの! それがあんなに、うじゃうじゃいっぱいいたら気持ち悪すぎて鳥肌が立つわ! なんてもん見せるのよ!!」


「森に来てるんだから虫くらいいるさ。それに昨日は平気そうだったじゃないか」


「一匹や二匹ならまだ耐えられるのよ! けど大群は無理!! 今すぐ焼き払ってしまいたいっ!!」


「物騒な事言うなよ。無闇に命を奪う気か? いくらなんでもそれは勝手だろう」



 体を強張らせ、ぶるぶる小刻みに震える右京は顔色も悪くなってきている。シャツの袖から露出している細い腕には鳥肌が総立ちしていた。ホントに虫が苦手なのだろう。


 しかし、これで一つ右京の弱点を知った。なにかあったときのために覚えておこう。



 震える右京は放っておいて左京はどうなのか見てみる。

 だが、左京はいたって平常運転で何食わぬ顔でつかつかと虫の山に近づいていく。

 そして間近で観察し、あろうことか、そのうちの一匹を両手で持ちあげた。



「ひいぃぃいいいぃぃぃ」


 後ろで右京の叫び声が聞こえるが面倒臭いので無視する。

食事を邪魔されたダンゴ虫のような虫は苛立っているのかキシキシと音を鳴らし、無数の脚をわさわさと動かしている。

 それを見た俺もさすがに少し気持ち悪かった。


特に露わになった腹部の小さな脚が小刻みに動く様が余計に精神を揺るがす。



 うわぁ……。

 今なら右京の気持ちも理解できる。


 しかし、当の左京は素手で触っているくらいなので全く気にならないのだろう。

 凄い奴だ。


まじまじと観察している左京は何かを確信したのか俺を見てくる。



「……こいつ、<土還つちがえし>だ」


「つちがえし? それがそいつの名前なのか?」


俺はなるべく虫を視界に入れないよう伏し目がちに左京に尋ねる。



「……うん。正式名称は< 天玉甲蟲てんぎょくこうちゅう >って言うモンスターなんだけど、別名<土還し>。その名の通り生き物の死骸や植物を土に還す働きをするからその名が付いたんだ」


「本来、土還しはどの森にもいるありふれた種族なんだけど一つの死体にここまで密集するのはすごく珍しいことだよ。なんてったって、地上のものすべてが餌なんだから。

普段は地面に潜ったり、岩の陰に隠れて生活してて人に危害を加えることはないよ」


「餌として食べたものを排泄し、それがやがて良質な土へと変わっていくんだ。森の掃除屋って言う人もいるんだよ。

 けど、なんでこんなに集まってるんだろう? それに大きさがまちまちだ。ほら、見て! あいつなんか人間くらい大きいよ。僕あんなに大きな個体は初めて見たよ! 凄いなぁ」



いつになく饒舌な左京。


 その手にはいまだに虫を抱えている。まるでぬいぐるみを持っているかのように。

モンスターの生態に詳しいのは素晴らしいことだが別の一面を垣間見た気がした。



「それでこいつらは一体、何の死体を食べてるんだ?」


「これを見て」



 そう言った左京は手に持っていた虫をもとに戻し前方に歩いていくと驚くべき行動をとった。

あろうことか虫の山に身体をねじ込み密集した虫を手で掻き分けていく。



「ぴぃぎゃああ:ああlsfぁぁぃいああーーー!!!」


 後ろで右京の声にならない断末魔が聞こえる。

 同感だった。


うわぁぁ……。



 右京と俺のことを気にもせず左京は虫をどかし終える。

 やがて、それまで黒褐色の虫の甲殻で覆われていた部分から白い骨が現れた。



 その姿はまさに、探していたイグ・ボアの死体だった。

 特徴的な4本の牙と大きな頭蓋から容易に想像することができた。



「……森に異変が起きてるよ」


左京は普段の眠そうな目とは違い、いつになく真剣な眼差しでそう告げた。



第39話は明日、18時に更新致します。

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