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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第32話  夜襲

  交代で睡眠をとるために話し合いの末、右京→俺→左京の順番で見張りをたてることにした。

 俺は二人が眠る前に見張りの重要性を右京から聞いていた。


「いい? 最もモンスターが活発に活動する時間、それは夜よ。

 モンスターの多くは夜目が利くから暗闇でもほとんど昼間と同じように行動できるうえに、眠っている獲物がいれば狩りの成功率はグッとアップするからよ」


「凶暴で賢いモンスターほど夜型だわ。だから野営するときは必ず見張りをたてるのが基本なの。

 うっかり寝てしまったら二度と目覚めることが無いかもしれないんだから」


「脅かすようなこと言うなよ、そんなこと言われたら眠れなくなるだろ」


「だから見張りをたてるんじゃない。生き物である以上、ずっと起きてることは不可能なんだから。 いい? 仲間が眠っている間は絶対に警戒を怠らないこと。

 眠るほうも仲間を信頼してしっかり眠ること。分かった?」


「ああ、もし異変に気が付いたら叩き起こすから安心してくれ」


「それでいいわ。上級冒険者の人たちは眠っていても異変を察知できるみたいだけど私たちにはまだできないから仕方ないわね。

 それじゃ、最初は私が見張りを務めるから二人は寝てちょうだい。時間がきたら起こすわ」


「分かった。頼んだぞ。ん? そういえばグリフォンは大丈夫なのか? 三匹ともすでに眠ってるけど」


「この辺のモンスターでグリフォンを襲うような馬鹿はいないわ。人に躾けられてるとはいえグリフォンは強いのよ」


 へー、そうなんだ。見た目通りやるなグリフォン。



「それに私たち人間は夜目が利かないから焚火を絶やすわけにもいかないの。けれどその焚火のせいでモンスターを引き寄せてしまう矛盾。

 難しい問題だわ。その点、あなたはサルの獣人みたいだから私たちより夜目が利くから楽じゃない」


「いや、俺だってそこまで見えてるわけじゃないぞ。人間の頃と比べてもそこまで変わってるようには思えないし」


「人間の頃? あなた何言ってるの?」


 ……しまった。つい転生前のことを言っちまった。



「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


「?? 相変わらず変な人ね」


 ぐ……。ここは我慢だ。堪えるんだ俺。



「まぁいいわ。ほら、さっさと寝てちょうだい。時間がきたら交代するんだから」



 ふう、なんとか誤魔化せたか……。今後は気を付けないとな。


「………」



 そうして、俺と左京は眠りにつき右京は見張りをする。




 4時間後。


「……ぉきて、起きてよ。ちょっと起きなさい」


「ん? もう時間か?」


「そうよ。4時間たったから交代よ。しっかり目を覚まして」


 ついさっき眠ったつもりがあっという間に時間が過ぎていた。どうしてこう気持ちのいい時間はすぐに過ぎてしまうんだろうか。

 重い瞼をこすりながら大きく欠伸をする。



「今度は私が寝るから見張りは頼んだわよ。最初に言った通り油断はしちゃダメよ。もし、居眠りしたら私が殺すから」


「寝起きに怖い事言うなよ。おかげで目が覚めてきた」


「そう、それは良かった。それじゃ、おやすみ」


「ああ。おやすみ」




 俺は持ってきた携帯用の飲み水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばす。チロチロと火力の弱くなった焚火に乾いた薪をくべる。

 あたりは変わらず静かな夜だ。


 空を見上げれば地球のころには見たことがないほどの星が煌き、2つの三日月が煌々と辺りを照らす。

 こうして見れば月明かりだけでも十分、視界が確保できるのはこの身体のおかげなのだろうか?

 むしろ、暗闇に目を慣らせば焚火の光が邪魔に思えてくるかもしれない。



 しばらくすると胎児のように身体を丸めて静かに寝息をたてはじめる右京。

 その横では熟睡している左京。


 こうして寝顔だけを見れば幼くて可愛いのに。どうして昼間は別人のようになってしまうのか。

 謎だ。


 眠っていればあっという間だった4時間も、ただ起きているだけだと長く感じる。無駄に動いて物音をたてるわけにもいかないのでじっと座り、辺りを警戒する。

 少し離れた場所でグリフォンのいびきも聞こえてくる。



 夜が一番危険だなんて脅かしやがって。こんなに静かな夜なのに。

 風に揺れる草の音だって聞き取れるっつーの。



 ………。


 どれだけ時間が経っただろうか、俺はトイレに行きたくなり立ち上がる。固まった身体をストレッチしながらほぐし、首の骨をポキポキ鳴らす。

 拠点から少し離れた茂みで、且つ近すぎないところで用を足す。



 ふー、すっきりした。早く時間経たないかなー。また眠くなってきたぞ。

 これなら本か何か暇を潰せるものを持って来ればよかったな。



 トイレを済ませ拠点へと戻ろうとする。

 しかし、そこで異変に気が付いた。



 姿は見えないが、周りに何かいる。


 生ぬるい夜風が草を揺らす音とは別にザザザと草原を走っているものがいる。背は草むらに隠れるほどなので大きくはないが動きは素早い。

 

 しかも一匹じゃない。いつのまにか囲まれている!


 俺はすぐさま魔力を纏い刀を抜く。


「二人とも起きろ! 敵襲だ!」



 危険を知らせるために大声をあげた俺に向かって草むらから何かが跳び出してきた。

 その姿は犬のような獣で身体が黒い毛に覆われている。

 ハイエナのようなモンスターだった。



 飛び込んでくるモンスターを刀で受け止めるが飛び込んでくる勢いに押され後ろによろめく。

 月夜に照らされた鋭い牙が鈍く光っている。

 噛まれれば重症だろう。病原体を持っている可能性もある。噛まれるわけにはいかない。


 飛び込んできたハイエナを刀でいなすことは出来たが、俺の周りをぐるぐると取り囲むように群れで走っている。


「かかってこい、次は真っ二つにしてやる」



 今度は右側から跳びかかってきたハイエナに機敏に反応する。下から掬い上げるように刀を振り上げ顎から脳天まで両断した。



 ギャィンッ、とハイエナの痛がる断末魔を残し一匹目を撃退する。

 間髪入れずに後ろから跳びかかられ鋭い爪が背中を切り裂こうとしてくる。

 それでも魔力を纏っている俺の身体に傷をつけるまでは出来なかったようだ。


 背中に乗られるように襲ってくるハイエナの前脚を掴み、一本背負いの要領で前方に投げ飛ばす。転がるように着地すると、すぐさま距離を詰め地面に刀を突き刺すように止めを差した。


これで二匹目。



「どうしたっ! もう終わりか!」


 動きは素早いが強くは無いモンスターに強気になる。

 だが、仲間がやられていても尚、戦意は失っていないようで更に襲いかかってくる。

 今度は前方から二匹同時に跳びかかってきた。



「無駄無駄ぁ! 返り討ちにしてやるぜ」


 向かって右側のハイエナに上から下に振り下ろすように刀を振るい、前足と顔面を切断する。

 そして、返す刀で左のモンスターを切り伏せようとするが異変に気が付いた。



 一撃目のハイエナが自らが切られて尚、最後のあがきで刀にガッチリと噛み付いている。



「!? こいつ! 離せ!」


 急いで刀を引き抜こうとするが渾身の力で噛み付いているハイエナは離してくれそうにはなかった。足で引き離そうと手こずっているうちに左のハイエナが突撃し、尻餅をつくように倒される。


 ここぞとばかりに俺の首に噛み付こうと大きく口を開き迫ってくる。



やべぇ!!



 が、次の瞬間。

 襲いかかるモンスターが突如、火達磨に燃え上がった。


 あまりの熱さにのた打ち回るように暴れるハイエナはしばらく叫びながら暴れたあとに動かなくなった。


「なにやってんのよ全く。こんな雑魚モンスターごときに手こずってんじゃないわよ。だらしないわね」



 起き上がり声のする方向を見ると右京が歩いて近寄ってきていた。

 熟睡中に起こされたためかご機嫌斜めの様子。


 右京は右手を空へ掲げるとチチチと火花が散っていき突然、爆発したかのように炎が空中に現れた。

 その炎は渦のように回るとまるで意思をもっているかのように動き次々とハイエナを襲っていく。


 それは燃え盛る大蛇。いや、龍のようだった。



 もはや勝ち目がないと悟ったハイエナ達は各々、逃げて行った。

 焚火のある拠点では左京が水を操り、残っているモンスターを追っ払っていることろだ。

 グリフォンも騒ぎで目を覚まし、興奮しているのか鎖がこすれる音が聞こえてくる。



「助かったよ、右京。ありがとう」


「あんた、私が助けに来たからよかったものの一人だったら死んでたかもしれないのよ? だからあれほど気を付けろって言ったじゃない」


 口を開けばお説教が始まり嫌気が差す。



「分かってたさ。けどトイレに行ってる隙に狙われた。やつら俺が一人になるのをずっと待ってたんだ」


「単独行動するものから狙うのは当然のことじゃない。どうしてもトイレに行きたいなら私たちを起こせばいいのに」


「気持ちよさそうに眠っているところを起こすのは気が引けてな」


「それであんたは噛み殺されてもいいの?」


「いや、それは……」


「ここは街の外なのよ。一瞬の油断が一生の傷になることもある。これに懲りたら余計な遠慮はしないことね」


「ああ、今度からそうするよ」


「まぁ、私くらい強ければそんな心配もいらないんだけどね」



 この余計な一言がなければ素直に感謝できるんだけどなぁ。今回は助けてもらったから何も言わないでおくけど。



「そういやさっきの凄かったな。右京は自由に火を操れるんだな」


「そうよ。これが私の能力、【私だけの火遊び(ラブ・ファイア)】。この能力は姿をイメージすると使いやすいの。

 ちなみにさっきのはこれ。鳥枢沙摩明王うすさまみょうおう、通称【アグニ】。どんなものでも焼き尽くすことができるわ」


「双子そろって便利な能力だよな。俺も自然タイプがよかったな」


「何言ってんのよ。自然タイプは確かに数が少ないけど、あんたの創造はそれ以上に少ないんだから。ちゃんとした能力にしないと宝の持ち腐れよ」


「とは言ってもなぁ~」



 右京と話しをしているとモンスターを追い払った左京も合流した。



「……シンさん、大丈夫?」


「ああ、問題ない。少し転んだくらいだ」


「……そう、よかった。もうすぐ交代の時間だから見張り代わるよ」


「いいのか? まだ時間あるだろ?」


「……うん。この騒ぎで目が覚めちゃったから」


「分かった。ありがとな」



 左京に見張りを引き継ぎ、俺は再度眠りについた。

 襲撃はあったものの無事に一日目の夜が明け、グリフォンにハイエナの死体を餌として与える。

 その後、荷を纏めオルバートの森へと向かう。



目的地はもうすぐそこだ。



第33話は明日、18時に更新致します。

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