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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第31話  タマラ・ビットと右京の怒り

 俺と左京は鹿の獲物を捕らえた後、次の獲物を発見する。


 ウサギによく似た獲物の群れは5~6匹ほどで固まっている。

 特徴的な大きな耳。柔らかそうな身体。大きな後ろ足。目の色だけは赤ではなく黒だった。

 それも地球のウサギに比べて2倍~3倍はある大きさだ。


 獲物を刺激しないよう注意しながら左京に尋ねる。



「あのモンスターは狩っても大丈夫なのか?」


 以前のイグ・ボアのこともあり、もしかしたら狩猟禁止のモンスターかと思い左京に聞いてみる。



「……大丈夫。タマラ・ビットは繁殖力が強くて年中発情してる種族だから、いっぱいいるよ」


「タマ・ラビット?」


「……ちがう。タマラ・ビット」


「なんだかややこしいな。まぁ、いいさ。見てろ。俺だって冒険者なんだ。ウサギくらい余裕で狩ってみせる」


「……がんばって」



 静に霧一振きりのひとふりを鞘から抜き、魔力を纏う。


 前回の蟹のときはすぐに魔力切れを起こしたからな。今回は集中して無駄遣いしないようにしないと。一度、大きく深呼吸してからを狙いを定める。

 今の俺にできることは魔力を纏い逃げられる前に速攻で致命傷を浴びせることくらいだ。


 左京のようにトリッキーな戦術も作戦もない。

 勝負は一瞬。




 意を決し一気に草影から飛び出て一歩進むごとにぐんぐん距離を縮めて接近する。

 突如迫りくる俺に気が付いたタマラ・ビットの群れは驚き一目散に逃げ出す。草むらに身を隠すように逃げるうちの一匹に的を絞り刀の間合いに捉えた。


 よし! イケる。


 音もなく振るわれる刀。

 手ごたえは……あった!



 そこには脇から背中にかけて刀傷を受けたタマラ・ビットが血を流して倒れていた。まだかろうじて息はあるようなので止めの一撃を差す。


 一言も鳴くことなく息をひきとったタマラ・ビットに手を合わせ感謝の祈りを捧げる。



「……やったね。初の獲物だ」


「ああ、けどやっぱり気持ちのいいもんじゃないな」


「……これも生きるためだよ。……でもその気持ちは忘れないようにしないとね」


「ああ」


「……このあとはどうする? 他のタマラ・ビットは巣穴に隠れちゃったから今日はもう出てこないと思う」


「う~ん。でかくても一羽だけじゃ足りないからせめて、あと二羽は捕まえたいんだけどなぁ」


「……ぼくの、変幻自在の(コンビニエンス)ブルーを使えば巣穴に水攻めすることは出来るけど、それだと多すぎるし何より僕はそんなことしたくない」


「だよなぁ~、ほかの獲物を探すか」



 初の狩りを成功させたものの思い悩む。


「俺も何かいい能力を早く考えないとなー。刀に頼った戦い方じゃこの先やっていけないだろうし」


「……シンさんが増強タイプなら良かったのにね。そしたら剣豪になれたかもしれないよ」


「別に俺は剣豪になりたいわけじゃないんだけどな」



 それから他の獲物を探し歩き周るが、パッタリと獣の姿が見えなくなり時間だけが過ぎていく。

 そうこうしているうちに陽もだいぶ暮れ、大きな三日月が昇ってきている。これ以上の遠出は危険と判断し右京のいる拠点に引き返すことにした。



 拠点に戻る頃にはすっかり陽も落ち辺りは月夜の明かりのみで暗くなっている。

 拠点まで戻ってくると右京が用意した焚火が勢いよく燃えており時にパチッと薪が爆ぜていた。

 そのそばで右京が膝を抱え顔を埋めるようにちょこんと座っている。



 その姿を見た左京は何かを察し、こっそり耳打ちしてくる。



「……姉さん。怒ってる」


「マジ? なんで?」


「……姉さんは寂しがり屋なんだ」



 おそるおそる左京が声を掛ける。



「……姉さん、今戻ったよ」


 左京の声を聞いた瞬間、ガバッと顔を上げ俺達を睨み付ける。



「おっっそーーーーーーーーい!! 一体どれだけ遠くまで狩りに行ってるのよ! もーーお腹ぺこぺこ!! 私が餓死したらどうすんのよ!?」


「……ごめん姉さん。なかなか獲物が見つからなくて遅くなったよ」


「はい、嘘!! あんたは狩り上手でしょうが! バレバレの嘘ついてんじゃないわよ! いつもならすぐ戻ってくるから二人で行かせたのに帰ってくるのが遅いのよっ!!」


 一方的に左京が責め立てられているので俺が弁明をする。



「右京、それは俺のせいだ。それに左京は嘘をついてない。左京はすぐに獲物を捕まえたけど俺が手こずったせいで遅くなった。スマン」


「ふんっ! 遅くなったからにはさぞ、立派な獲物を捕らえてきたんでしょうね。見せなさいよ」



 右京に言われ、先ほど狩った鹿のモンスターとタマラ・ビットを見せる。



「なによ? まさかこれだけって言うんじゃないでしょうね? これじゃグリフォンの餌で全部なくなっちゃうじゃない! 私たちの食べ物はどうすんのよ?」


「悪いが今日は持ってきた食糧で我慢してくれ。俺の食糧も少しあげるから」


「なによっ! まるで私が食い意地張ってるみたいじゃない。言っとくけど私はそんなに大喰らいじゃないから! なんて失礼なの!」


「そんなに怒るなよ。たかだか一食くらいのことでさ。まだ携帯食糧も沢山あるんだし、いいじゃないか」


「良くない!! 私が一人でどれだけ寂しい思いをして待ってたか分かってんの!?

 モンスターのうろつく危険な街の外でたった一人待たされる可憐な少女の気持ちがあんたに分かるって言うの!?」


 可憐な少女はこんなに騒ぎ立てないと思うけど。



「だから悪かったって言ってるだろ。それに一人じゃなくてグリフォンがいたじゃないか。三匹も」

 

「グリフォンはモンスターでしょうが!! あんた私のこと馬鹿にしてんの!?」


「……姉さん、落ち着いて」


「あんたは黙ってなさい! これだから男ってやつは@:!”「d・pq¥>k・・」



 キーキー五月蠅い右京を宥めるのに狩り以上に労力を費やしたが、一通り騒ぎ終わると疲れたのかようやく落ち着いてきた。

 そんなに一人で寂しかったのか。グリフォンもいたのに。


 狩ってきた獲物はグリフォンが喧嘩しないよう三等分に切り分け、餌として与えた。

 それをついばむように夢中で食べている。



 俺達はというと持ってきた携帯食糧とお茶のセットを用意し空腹を満たした。

 今回は料理する必要がなかったので腕前を披露することは出来なかったが、明日以降に料理する約束をしたところでようやく右京の怒りは収まった。



 夜は特にすることもないので4時間交代で見張りをたて寝ることにした。



 そうして夜は更けていく。

忍び寄る影に気付かないままに。



第32話は明日、18時に更新致します。

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