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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第28話  荷物屋

 俺は右京・左京と共にギルドを出発し議会で依頼の内容について説明を受けたあと、街の外門へと向かう。


 初めてのCランク任務とあって前日から入念に準備を進めていたので準備は万全だ。

 長期の任務となるため食糧などの荷物は必然的に多くなり雑貨屋で揃えた荷物で鞄はパンパンで俺の背丈ほどにもなっている。


 ギルドを出たあと俺と右京は一定の距離をおき、その後ろを三歩半下がって左京が付いてきていた。



「ちょっと、あんた。それどういうつもりよ?」


 右京が突然俺の恰好を見て聞いてくる。



「どうもこうも、最低限の荷物だけど?」


 俺が背負っている鞄の中には携帯食料、衣服、地図、コンパス、寝袋、調理器具など旅に必要であろう荷物が詰まっている。腰のベルトには刀を。

 前日に依頼で稼いだお金を使い一人分の生活用品を買い占めていた。むしろ、これでも荷物を軽くするためにできるだけ少なくしたつもりだ。



「あんた馬鹿でしょ。やっぱり素人ね」


「はいはい、どうせ俺は素人ですよ。じゃあ、どういうことか説明してもらえるかな? 見たとこ君たちは全然荷物が無いようだけど」


「当たり前でしょ。そんな荷物背負ってたらいざって時に動けないし荷物が邪魔で戦えないでしょ」


「それはごもっとも。けど道中はどうするつもりなんだ?ここからオルバートの森まで2日はかかる。その間、食べ物は現地調達でもする気か?」


「そんなわけないでしょ、荷物は荷物持ちに持たせればいいのよ。あんなふうにね」



 右京が指差す方向には厩舎のような建物が建っており、中には馬のようなシルエットだが顔は猛禽類の鳥のような顔に鋭いくちばし、前脚は蹄ではなくがっしりとした鉤爪。下半身は猫科のような身体つきで上半身は鳥の羽のような茶色の羽毛に包まれている。その背中には大きな翼が生えた動物がいた。

 

 その姿はまさに童話に出てくるグリフォンだった。


 【荷物屋】と書かれた看板の下に多数のグリフォンが個別に鎖で繋がれている。



「このモンスターは遠征用に荷物を運んでもらうために躾けられたグリフォンよ。この子たちに私の荷物を運んでもらうの。

 経験豊富な冒険者はあらかじめ自分の荷物は荷物屋に預けておくのよ。

 裕福な冒険者は自分でグリフォンを飼っている人もいるけどあんたみたいな駆け出しにはレンタルしか選択肢はないわね。

 あぁ、それとも自分で運ぶんだっけ?」



 教えてくれるのはありがたいが素直じゃない。一言多いんだよ。この幼女は。



「ご忠告どーも。おれも一匹、借りてくるから少し待っててくれ」


「当たり前でしょ。荷物持ちがいなきゃ旅に出られるわけないんだから急いでよね。レディを待たせないで」




 どこがレディだよ。マセガキの間違いだろ。


 すでに予約をしていた右京と左京は自分たちのグリフォンを撫でたりスキンシップをとっていたりとそれぞれ準備をしている。

 荷物は身体に巻かれた鞍にしっかりと固定されているようだ。



 荷物屋の店内に入るとグリフォンの世話をしていた店の若旦那に声を掛ける。



「すみません、グリフォンをレンタルしたいんですが」


「いらっしゃい。予約はしてるかい?」


「してないんですが、大丈夫ですか?」


「ああ、問題ないぜ。旅はいつだって突然さ。グリフォンでいいんだっけ? 他にも優秀なのがいるぜ」


「いえ、グリフォンでお願いします」


 

 他にも種類がいるのか。

 どんなのがいるのか興味があるけど今は双子を待たせているから聞くのは今度にしよう。



「それと、グリフォンをレンタルするの初めてなんですが」


「はいよっ、レンタル料は一日3シルバ。もし、グリフォンが怪我をしたり、死亡したら別料金で30ゴルド支払ってもらう。移動中の餌や世話はお客さんに任せてるから頼んだぜ。

 しっかり世話してやらねーと言うこと聞かねーからな」


 双子たちもグリフォンを連れて行くから餌はそのとき聞けばいいか。



「分かりました。他になにかありますか?」


「一番大事なことは敬意をもって接すること。こいつらは道具じゃねー。俺たちを助けてくれるパートナーだ。グリフォンは誇り高い生き物で一度認められた相手は絶対に裏切らねぇ、100%信頼することだ」


「賢いんですね。肝に銘じます」


「OK、なら冒険者カードとレンタル期間を教えてくれ。料金は前払いだ。レンタル期間が過ぎた場合、遅延料金がかかるから気を付けてな」



 俺は余裕をもって12日間の契約を交わし3G6Sを支払った。これで手持ちのお金はほとんどなくなってしまった。

 一日3Sとはいえ結構するな。こりゃ、気合を入れて稼がないと破産してしまう。



「まいど! そんじゃ、この中から好きなグリフォンを選んでくれ。選んだらこの生肉を食べさせること。そうすりゃ言うこと聞いてくれる。もし、選べないなら俺がおすすめを選んでやろう」



 せっかくなので自分で選ぶことにし、グリフォンがずらりと並んだ獣舎の中を歩く。

 皆、俺の背丈をゆうに越す大きさで毛づくろいをしているもの、水を飲んでいるもの、眠そうにしているものなどよくよく見れば表情も豊かで個性がある。


 その中で、他の個体とは一回りも大きさが違うグリフォンが地面に座ってこちらを窺っている。


 俺が興味を示したことを感じ取ったグリフォンが立ち上がり真っ直ぐ目を見てくる。

 あの大きなくちばしで突かれたら痛いでは済まないだろうが、直感で目をそらしてはいけないと思いじっと見つめる。



「お前、いいな。かっこいいぜ。決めた。一緒に行こう」


 手に持っていた生肉をグリフォンに向け投げる。

 すると、上手に空中で肉を咥えたグリフォンは一気に丸飲みしてしまった。



「こいつでいいんだな。だが、気を付けろ。こいつは身体はでかくて体力もあるがプライドが高い。くれぐれも裏切るような真似はしてくれるなよ」


 荷物屋の忠告を聞き、獣舎から出されたグリフォンに鞍をつけ、荷物を乗せていく。



「このグリフォンの名前はなんていうんですか?」


「こいつの名前はバーナードだ。俺がつけてやったんだ。かっこいいだろ」


「よろしくな、バーナード」



 俺の言葉に反応したようにブルルと一鳴きしたバーナードは身体を震わせる。



「グリフォンは乗れる奴はすぐ乗れるし下手くそな奴はずっと乗れない。お客さんはどうだろうね。

進むときは足で挟むように軽く蹴る。優しくな。右に曲がりたければ右の手綱を引き、左に曲がりたければ左へ。止まりたいときは両手を引く。これだけだ、簡単だろ?」



 荷物屋の若旦那から乗り方のレクチャーを受けたあと獣舎を出ていく。

 手綱を引いて獣舎から出てきたバーナードを見た右京が驚きの声をあげた。



「ずいぶん大っきいわね、そのグリフォン。あんた食べられちゃうんじゃない」



 相変わらず一言多い右京は無視して進む。



「待たせたな。行こう」


 右京は遅れたくせに仕切ってんじゃないわよと悪態をつき、左京は黙ったまま頷いただけだった。



 街の門を出るところまでは手綱を引いてゆっくりと歩いて進む。いつぞや門番に止められた門をくぐり、街の外へと出る。


 ここからはモンスターが跋扈する地帯。油断は禁物だ。


 俺はあぶみに足をかけ颯爽とバーナードに乗り、手綱を握る。

 そして、ハッと掛け声を発し走らせる。



 ガアァァァと鳥と獣の声が混じり合ったような鳴き声を上げ走り出すバーナード。


 そのあまりの勢いに転げ落ちそうになったが必死にしがみつき振り落とされないよう手に力を込めた。

 みるみる周りの景色が流れていき、冷たい空気が顔を撫でる。

 轟轟と唸る風切音が耳を刺激してくる。



 ある程度スピードが出たところでバーナードは大きな対の翼を広げバサバサと羽ばたき最後に地面を蹴り上げるとふわりと空中へと浮かび上がった。

 そしてそのままぐんぐん大空へと飛んでいく。



空を駆け、地を滑る。



「うはは、はえーーー!」



 俺を先頭に双子が乗るグリフォンも後ろから併走してくる。

 双子はいつの間にかマントのようなものを飛ばされないようにしっかりと羽織り、ネックウォーマーや手袋、ゴーグルを装着していた。



 そんな装備あるなら教えてくれよ……さみぃ。


 寒さに耐えつつ徐々にスピードに慣れてくると体制を整えグリフォンを乗りこなす。

 どうやら俺はグリフォンに乗れる適性があったみたいだ。




目指すはオルバートの森へ。



第29話は明日、18時に投稿致します。

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