第27話 生態調査とCランク
ニコルさんから新たな依頼を告げられる。
「晴れて一ツ星に昇格したシンにこの依頼を受けてもらいたいんだ」
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調査
【依頼内容】生態調査
イグ・ボアの健康状態及び生育状況の確認
イグ・ボアの一体につき棘1~2本の納品
【依者主】ミーティア議会 保護部 担当シュルト
第肆種絶滅危惧種に指定されているイグ・ボアの生態調査を依頼します。
ただし目標を捕獲、傷害、殺害することは厳禁です。
【納品期限】
20日以内
【場所】
オルバートの森
【報酬】
棘一本につき1G
【難易度ランク】
C
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ニコルさんから手渡された依頼書を見て思う。
「これって、あの時の……」
「そう! 僕たちがシンと出会った森だね。あれからどれだけ成長したか見せてよ。Cランクの任務をこなせるようになったら一人前の冒険者だね」
「もう2ヶ月前になるんですね。あのときニコルさんとギルさんに出会わなければ今、生きているかも怪しいです。本当にありがとうございました」
「いいんだよ! これも巡り合わせさ! それにお祝いはこの依頼を達成してからにしよう」
「でも、先日テロがあったばかりなのにこの任務でもいいんですか?」
「だからさ。いくらテロがあったとしても届けられる依頼はしっかりと果たす。
もちろん襲撃犯を捜索するチームも組まれているけれどそれは上級パーティーの仕事。その他は国力を示すためにも普段通りに依頼を受けるんだ。
僕たちはテロには屈しないしカバーするだけの人員の厚みもあるってことを他国にアピールするためにもね」
「そうなんですか。分かりました。この任務ギルさんはどうするんですか? 前回のように監督してくれるんでしょうか?」
「どうだろね? それはギル本人に聞いてみないと分からないな。まだ復興にも時間と人手はかかると思うし。
けど大丈夫。シン一人だけでは行かせないから。当日までにギルドのメンバーとパーティを組んでもらう」
「パーティですか……。ギルさん以外の人と行動するのは初めてです」
「おや? シンは人見知りするタイプなのかな?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが少し緊張します」
「大丈夫さ! 僕たちは同じギルドの仲間だ。困ったときには助け合っていく! 当然のことじゃないか」
「そうですね。俺は自分にできることを精一杯頑張ります」
「うんうん! その意気だ! 出発は明日の朝、準備を済ませてギルドに集合ね。最低でも6日は街を離れると思うからそのつもりでいてね」
「分かりました。これから用意します」
「よろしくね。もし、ギルに会ったらシンのことを伝えておくから心配しないでね」
ニコルさんから新たな依頼を任されたると遠征のため身支度を始める。
早速、陽が沈む前に街の雑貨屋や商店に立ち寄り、食糧や荷物の準備に取り掛かった。最低でも6日はかかる任務なので入念にチェックし依頼に備える。
準備の終わった俺は夕食を食べ、明日に備え今日は早めに就寝した。
翌日。
指輪の効果もあり後遺症もなくすっかり元気になりギルドで出発の時を待つ。
「おはよう、シン。早いね」
ギルドのロビーで誰よりも早く来ていた俺に声を掛けたのはニコルさんだった。
「おはようございます。待たせてはいけないと思い早めに出ました」
「うんうん。いい心がけだ。そろそろ他のメンバーも来ると思うから」
「そういえば、今回一緒に依頼を受けるメンバーって誰なんですか?」
「ん? それはだね、来てからのお楽しみさ」
ニコルさんと談笑しているとギルドの扉を開けこちらに向かってくる人物が二人。
「おはようございます! ニコル様! 本日は依頼のご指名ありがとうございます! ニコル様と一緒に任務を受けることができるなんてこの右京、光栄の至りです!」
入ってくるなりロビーに響き渡るようなデカい声で話してくるのは昨日会った生意気な赤毛の幼女。右京だった。その後ろに左京もついている。
確信に近い嫌な予感がする。
「やあ! 右京、左京。おはよう! 調子はどう? 今回の任務は少し遠出するけどよろしくね」
「いえ! ニコル様のお願いとあらば、どんな依頼でも受けますわ! ねっ、左京」
「……うん」
「助かるよ。でも何か勘違いしてないかい? 今回の任務に僕は同行しないよ。行くのはこのシンさ」
「えっ?」
そう言って俺の肩に手をおくニコルさん。
対する右京は、まるで最初からいなかったのように無視されてたが予想外の言葉を聞き、茫然としている。
「ですがニコル様、今回の生態調査の任務はCランクの一ツ星でなければ受注できないはずです。コイツは星無しだから許可されないはずでは?」
失礼にもコイツ呼ばわりされ、人差し指を向けてくる右京にムカつきつつもここは黙っていよう。
「シンは昨日、一ツ星にあがったから問題ないよ」
ニコルさんが笑顔でそう伝えたところでここぞとばかりに口を開く。
「どうも、一ツ星に昇級しましたシンです。昨日は失礼なことを言ってすいませんでした。 今回の共同任務、お互い頑張りましょう。先輩」
皮肉をこめた言葉にわなわなと怒りが湧き起こっている右京はその赤毛の髪に近いほど顔が赤くなってきている。
このくらいの文句は言ってもいいだろう。
「あんたが一ツ星!? 冗談じゃないわ! 議会の連中は一体何を考えているのかしら!?
こんな初心者に星を与えるなんて正気じゃない! こんな奴が街の外に出たら一日と保たずにおっ死ぬわ!
あんた、命が惜しくば今回の任務、辞退しなさい!!」
ビシッと人差し指を向けてくる右京。相変わらず口が悪い。
「ご忠告ありがとうございます。けれど今回の任務、辞退する気はないので嫌でしたら先輩が辞退したらどうですか?」
「はぁっ!? あんた何様っ!! 私はニコル様から直々に依頼を仰せつかったのよ! あんたが降りなさい!」
「生憎俺もニコルさんから任務を頼まれたから降りるつもりはない」
出会ってそうそう口喧嘩を始めると、どちらも引かずにギャーギャー罵り合う。見かねたニコルさんが仲裁に入る。
「はーい、二人ともそこまで。ストップ、ストップ! お互い言いたいこともあるかもしれないけど、依頼を頼んだのは僕なんだから不満があるなら僕に言ってくれ。
事実、今までパーティメンバーを知らせなかったのは僕なんだから。二人ともなにか言いたいことは?」
「………」
「………」
ニコルさんにそう言われ、押し黙る。顔では何か言いたげだが口に出すことはない。
静かになった二人にニコルさんは笑顔で言葉を続ける。
(なんだかんだこの二人は似たもの同士なんだよなぁ。同族嫌悪とでもいうか、痴話喧嘩というか)
「異論はないみたいだね。馴れ合えとは言わないけど、二人は同じギルドの仲間なんだから協力はするように。いい?」
「「はい」」
ハモる俺と右京。
「よし! ではこれよりCランク任務、イグ・ボアの生態調査を任命する。怪我のないよう気を付けてね」
「はい! 行ってきます!」
俺は元気よく答え受付で依頼の判を押してもらい依頼人に会いに行く。
まだ、ぶつぶつ小言を言っている右京も荷物を纏めはじめる。
ニコルさんはずっと黙って見ていた弟の左京の肩をちょんちょんと叩き俺と右京に聞こえないようこっそり耳打ちしている。
(あの二人はあの調子だから左京がうまくカバーしてあげて。一番年下だけどしっかりしてる左京にしか頼めないことだから。お願いね)
ニコルさんにウインクされた左京は少し照れたようにコクリと頷く。
よし、と頭を撫でられた左京は火照った顔でボーっとしている。
「何してんのよ、左京! 置いてくわよ!」
「……うん。今いく」
右京の後を追うようにギルドを出ていく左京。
静けさを取り戻したロビーに残ったニコルさんはひらひらと手を振って見送っている。
三人が見えなくなってからニコルは誰もいなくなったロビーでつぶやく。
「さ、あとは頼んだよ。こっちはこっちで調べとくから」
しかし、姿は見えないが返事が返ってきた。
「ああ。任せとけ」
第28話は明日、18時に更新致します。