第26話 双子
治癒師ギルドでソフィーさんと別れた後、GGGへと戻る。
「あれから4日も眠ってたなんて、まだ実感がわきませんよ」
「魔力が枯渇してたんだから無理ないさ。けれど時間はどんどん過ぎていくからね。僕もついこないだ100歳になったと思ったらもう20年経ってるから驚きだよ」
ニコルさん、若く見えても一世紀は生きてるんだよな……。エルフの寿命ってハンパないな。
「さぁ、久しぶりの我らがギルドだよ」
ニコルさんが重厚な木の扉を開けて中に招き入れてくれる。
そこはいつもと変わらない光景が広がっていた。
「やぁ、アイシャ! 調子はどう? 眠れるルーキーが帰ってきたよ」
書き物をしていたアイシャさんに声を掛けると髪をかき上げるように顔をあげた。
なんともセクシーだ。
「あら~目が覚めたのね~、今回は大変だったわね~」
アイシャさんは相変わらずの様子で話しかけてくれる。眉尻を下げ心配した顔も素敵だ。
この顔を見れるなら入院も悪くないかも。
「ご心配お掛けしました。依頼も途中で放り投げてしまって、すみませんでした」
「あの騒動の現場にいたんだから仕方ないわよ~、それに依頼はあの双子ちゃんが代わってくれたから問題ないわ~」
アイシャさんの指差す方向には二人の少年少女がテーブルの椅子に座っている。
見た目は小学生くらいだろうか。双子というだけあって顔がよく似ている。服装からして性別は違うようだ。
こちらの視線に気が付いたのか二人のうちの少女がハッとした表情をし、椅子から跳び上がって近づいてきた。
「おかえりなさいニコル様! 申し付け通りDランクの任務は全て完了致しました!」
「ただいま右京。ありがとう助かったよ、左京もありがとね」
少女の後ろからついてきた少年もニコルさんは労う。
「……いえ、仕事ですから」
「あんたはいつも暗いのよ! せっかくニコル様が褒めて下さってるのに! 滅相もないですわ! 私にかかればへっちゃらです!」
どうやら元気な少女が右京で、大人しい少年が左京のようだ。双子のはずなのに随分と性格が違うみたいだな。
髪も右京が赤毛で左京は藍色だ。
「そういえばシンは二人に会うのは初めてだったよね? この子たちはGGGのメンバーで双子なんだ。右京がお姉さんだよ。
今回、負傷したシンの代わりに依頼を受けもってもらったんだ」
「初めまして、新しくGGGに加入したオルバート・K・シンと言います。依頼を代わりに受けてもらったみたいで、ありがとうございました」
自己紹介をしたあと軽く頭を下げる。
しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。
「あんたが最近入ったっていう新人ね。ギルドの先輩たる私に挨拶も無しとはいい度胸じゃない。
それに今回の騒動、鎧ガザミ一匹に手こずってんじゃないわよ! あんた一人の行動でギルドの信用が落ちるってこと分かってんの!?
弱っちいなら出しゃばらないで引っ込んでなさいよ! この愚図!!」
気の強そうな目つきと口調、赤毛のショートヘアーにそばかすが特徴の人族の幼女はビシッと人差し指を俺に向けながら一気にまくし立てた。
「…………」
突然の罵詈雑言に言葉を失う。
思わずニコルさんの顔を見るが、やれやれという表情のニコルさんは力なく笑っていた。
左京という名前の少年はただ黙って見ているだけだった。
「いきなりなんなんだ君は? たしかに俺は任務をこなすことはできなかったけど、それはテロがあったからだろう?
それに鎧ガザミは2匹目だ。依頼を代わってもらったことには感謝してるけどその言い方はないんじゃないか? 君は俺より年下だよね?」
「何よっ! 文句あるってーの、後輩の癖に!! それに私はもう14歳よ!! 立派な大人のレディなんだからあんたこそ口に気をつけなさい!!」
「俺は20歳だよ」
ホントは28だけど。14歳ってことは地球なら中学生くらいか。小学生と言われても違和感ない幼さだな。
「たった6歳の差で威張ってんじゃないわよ! 星無しの癖に!!」
「年上に対する口の利き方もなってないな。君の親はそんなことも教えてくれないのか?」
「フンッ! 親のことは関係ない! 歳ばっかり無駄にとって全然弱いじゃない! あんたみたいなの私は認めないからっ!!」
「このガキャ……」
口喧嘩を始める俺と右京を見かねてニコルさんが仲裁に入る。
「まぁ、まぁ二人とも落ち着いて。右京、シンにも色々事情があるから今回は大目に見てあげて。ねっ?」
「はい! ニコル様!」
このマセ幼女め、人によってコロコロ態度変えやがって……。 ニコルさんがいくつか知ってんのかコイツ。歳の差100歳以上っておかしいだろ。
騒ぎ立てる右京は放っておいて、左京に挨拶をする。
左京は姉と同じ背丈で顔も似ているが、髪の色は藍色で前髪が伸び少し目にかかっている。
その瞳は眠たそうな目をしていた。
「こんにちは。君はお姉さんとは違って落ち着きがあるね。お姉さんはいつもこうなの?」
「……うるさい。僕に話しかけないで下さい……」
「えっ!? ごめん……」
なぜか弟の左京にも嫌われていた。
口の悪い姉よりも寡黙な弟の一言がより深く心を抉る。
「二人とも今回はありがとね。僕はこれからシンと話しがあるからまた今度ね」
ニコルさんの一声で双子は素直にその場を離れていった。
その途中、右京が振り返り俺にだけ分かるようにしかめっ面で舌をベーっと出し、挑発してきたがムカつくので無視した。
双子と別れ俺達は2階に移り、食事を摂りながら話しをするとニコルさんが謝ってきた。
「さっきはごめんね、まさか二人があんなに嫌うとは思わなかったよ」
「なんでこんなに嫌われたんですかね? 俺、何か失礼なことしましたか?」
「ん~、実はあの双子に親はいないんだ。物心ついたときから奴隷として安く売られて育ち、主人を転々としていたみたいなんだ。
それまでは酷い扱いを受けていたみたいで、たまたま僕が引き取ったんだけど、そのことで怒ってたんじゃないかな?」
「あぁ、そうなんですか。知らなかったとはいえ失言だったな……」
「それに双子なのに髪の色が違うのに気が付いた? 左京はもともと赤毛だったみたいなんだけど、前の主人が見分けがつかないって理由だけで左京の髪を藍色に永久的に変色させたんだ」
「ひどい話しですね。もとに戻せないんですか?」
「う~ん、元に戻す方法も探せばあると思うけど、左京自身が変えるつもりはないみたいだからね」
「そうですか。気にしてなければいいんですけど……」
「大丈夫だと思うよ。あの子達は強い。それに、根はいい子だからさっきのことも許してくれるよ。 ちなみに、二人は天才なんだよ」
天才?
ニコルさんの言葉に疑問は浮かんだが聞くまでもないと思い何も聞かなかった。
あの二人がいい子かどうかは怪しいが次に会ったら謝っておこうと思う。
あれ? 弟はともかく姉のほうはいきなり罵倒してきた気が……。
大分、話しがそれたのでニコルさんが本題に戻す。
「現在、シンは星無しなんだけど本日を以って一ツ星に昇格してもらう」
「えっ!? でも依頼は途中までしか達成してませんよ?」
「それなら大丈夫。一日目に達成した任務とテロの初期対応を総合的に判断した議会から昇格の通知が届いたんだ。
普段、鎧ガザミは一ツ星の冒険者じゃないと討伐許可は下りないんだけどシンは星無しにして2匹を討伐したからね。実力が認められたのさ」
「そうですか、わかりました。俺も早いとこ昇格したかったので丁度いいです。なにか手続きは必要なんですか?」
「議会に冒険者カードを持っていけばカードに自分の星を刻印してくれるからそれで終わり。簡単でしょ」
「了解です。今から更新に行ってきます」
「うん、更新が済んだらまた僕のところに来てほしいんだ。一ツ星の初任務をお願いしたいからね」
一旦、ニコルさんと別れ議会を目指す。
カードの更新は10分とかからず済ませることが出来、あっという間に一ツ星に昇格した。
これまでカードの裏面には16桁の数字しか印字されていなかったが、新たに星が一つ描かれていた。
これで難易度ランクCの依頼も受けることができるようになる。
更新後、言われた通りギルドに戻りニコルさんの元へと向かう。
「それでは、シンに一ツ星初任務を言い渡す。次は生体調査だ」
第27話は明日、18時に更新致します。