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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第24話  治癒師ギルドにて

 鎧ガザミは困惑していた。


 自らを強烈に惹きつける血の匂い。

 普通の肉とは違い濃厚な香りを放つ極上の餌を目の前にし、今まさに息の根を止めんと振り下ろした鋏が止められた。


 止められただけでなく潰されている。

 痛みは無いがピクリとも動かない。


 突然目の前に現れた謎の獣人に最高の硬度だと誇る鋏を潰されたことに困惑する。

 そして、理解する。


 (こいつは危険だ)



 圧倒的強者。

 食物連鎖の上位に位置する存在。故に我は捕食対象。



 (逃げn……)


鎧ガザミの意識はそこで途絶えた。




 鎧ガザミの右の鋏を握りつぶしたギルさんは目にも留まらぬ速さで右の拳を振りぬく。



ッパァァンッ



 まるで風船が破裂したかのような乾いた破裂音。鎧ガザミの胴体は粉々に吹き飛び、脚を残して消え去った。



「よくやったシン。あとは任せろ」


 後で倒れている俺に振り向くことなく語りかける。

 その語気は怒りに満ち満ちており顔を見なくともその気迫は十二分に伝わってきた。


 追いかけてきたガザミたちは一瞬で粉々になった同種の体液が降り注ぎ、足を止める。



 (奴は危険だ)


 野生のシンプルな思考回路が警鐘を鳴らし、ギルさんとは反対方向に逃げだす。



 しかし、ギルさんは逃げようと向きを変えるガザミたちを次々と駆除していった。あとには原型を失った鎧ガザミの躯が残るのみ。



「兄ちゃん、助けが来てくれだぞ! 俺たち助かったんだ! しっかりしろ! ぉぃ、……」



 船乗りが話しかけてくる声も次第に遠ざかっていき、薄れゆく意識の中、ギルさんが来てくれたことに安堵していた。


 もう大丈夫だ……。



そこで俺の意識は途絶えた。







● ● ● ● ● ●




「………ん」


 ……ここは? どこだ?



「あ! 目が覚めたんだね! おはよう、シン! 具合はどうかな? 僕のこと分かる? 何か話せる? どこか痛むとこはある?」


 この声と質問の数はニコルさんだな。



「……ぁい!?」


 やべ、喉カラカラで声でねぇ。



 はっきり声が出なかったことに驚き、周りを見渡す。どうやらベッドに寝ているようだが知らない部屋だ。

 喉が渇いて声が出せなかったので右手で喉を指し、喉が渇いているジェスチャーをする。



「あ! 喉が渇いてるんだね! ごめんごめん、ちょっと待っててね。 すぐお水用意するから」


 ベッド脇に置かれていた水入りのポッドからグラスに水を入れてもらう。

 その間、上半身を起こそうと力を入れてみる。


 イテテテ、まだ治ってないみたいだな。



「あ! まだ起きないほうがいいよ!」


 多少、傷は痛むが動けない程ではないのでひきつった笑顔で平気だと伝える。

 ベッドに身体を起こし水の入ったグラスを受け取る。幸いなことに手は自由に動くので自分で飲むことが出来た。

 乾いた喉に水が染み渡る。


 美味い。水ってこんなに美味しかったっけ?


 貰った水を飲み干し一息つく。



「ふーー……。あ、あー。んっんーー。おはようございます、ニコルさん。あのあとどうなったんですか?」


「よかった! 外傷以外は問題なさそうだね。大丈夫、事態は収束したよ。

 詳しい話を聞きたいだろうけど先に先生に診てもらってからね! 僕は先生呼んでくるからちょっと待ってて」



 ニコルさんはそう言い残すと部屋を出て行った。


 俺がいる個室の部屋はギルドにある宿泊施設ではなく、病院のようなところだと思う。窓から見える外の景色と白を基調とした部屋の造りからそう判断した。

 外は海が見えるが港や砂浜などは見えず、穏やかな景色だ。



 水を飲みながら待っていると、ニコルさんと医者であろう白衣を着た女性のエルフが部屋に入ってきた。



「起きたか坊や。具合はどうかね?」


 女性のエルフは落ち着いた声で声色は低く、腰まで伸びたグリーンの髪が特徴的だった。

 モデルのようなスラッとした体型と整った顔立ちでニコルさんと同じく耳が尖っている。

 エルフ族は皆、容姿端麗だと噂に聞いていたがどうやら本当のようだ。二人が並んでいるとお似合いの美男美女だ。



「胸が少し痛みますが、大したことはありません」


「ほう、大したことはないと。 果たして君が眠っていた時間を知ったら同じことを言えるのかな?」


「どれだけ眠っていたんですか?」


「なぁに、ほんの4日さ」


「4日!? そんなに眠ってたんですか?」


「まぁまぁ、シン落ち着いて。君が眠っている間に起きたことはこれから説明するから順をおっていこうね」



 ニコルさんに宥められ、女医の診察を受ける。服もいつも来ているつなぎの作業着ではなく清潔なシャツとスラックスだった。

 服をめくりあげられ女医の細い指先で触診されたときはドキドキしたがヒンヤリしてて気持ちよかった。

 他にも脈を計ったり魔力を計ったりしているようだがよく分からなかったのでただ身を任せる。



「もう大丈夫だろう。胸の傷も数日すれば治る。魔力も安全域に達しているから今日は家に帰っていい」


「よかったね、シン! ギルドのみんなも心配してたから元気な姿を見せてあげなきゃね!」


「はい。それであのあとどうなったんですか? ギルさんが助けに来てくれたあとから記憶がないんですが……。

 そうだ! 片足の船乗りは助かったんですか!?」



「どうも、この坊やはせっかちなようだね。鎮静魔術でも刺そうか?」


「いいんだ、ソフィー。ありがとう。ここは僕に任せてくれ」


「そういえば紹介がまだだったね。この人は【Visserフィッセール・D・Sophieソフィー】。純血のエルフさ。

 この治癒師ギルド【FairyフェアリーApfelbaumアプフェルバウム】の長を務めている。僕とソフィーは昔からの付き合いで今もこうして世話になってるんだ。

 彼女の治癒は素晴らしいんだよ! 例えば60年前のドワーフとの戦いの時なんて……」



「ストップ、ストップ! あんたはいつも余計なことばかり話すからちっとも話しが前に進まないよ。あたしの話しは今、関係ないじゃないか。

 あたしはソフィー。名前で呼ぶのは構わないけど姓で呼ぶのは許さないから気をつけな。 死んでさえいなければなんでも直したげる。

 もちろんお金は頂くけど。よろしくね、坊や」


「オルバート・K・シンです。助けて頂きありがとうございます。」


「なぁに、貰うもんはしっかり貰ってるから、あたしはあたしの仕事をしただけさ」



 今回のこともきっとニコルさんやギルさんが用立ててくれたのだろう。借りばかり作ってしまい、いつまでたっても頭が上がらない。



「では4日前の出来事を説明していくけど少し長くなるから先にトイレに行きたかったら言ってね」


「大丈夫さニコル。この坊やは4日間眠ってたんだよ。ちゃんと対処してあるから催したらいつでもしていいんだよ」


「……大丈夫です。お願いします」




 ソフィーさんとの挨拶を済ませたあとニコルさんは備え付けの椅子に腰掛け、ゆっくりと語り始める。

 俺はただ静かに耳を傾けた。







「シン、面倒なことになった」



第25話は明日、18時に更新致します。

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