第20話 労働と発見
Dランクの依頼を全て受けギルドを出る。
歩きながら依頼書の束を上から順に目を通している。
「よし、では記念すべき初任務といくか。これくらいの依頼なら3日もあれば全部終わるだろう。もちろん失敗はなしだ。準備はいいか? シン」
「はい! こうなったら意地でも達成してみせます!」
「いい返事だ。ではアイシャに纏めてもらった通り期限の短い順に依頼をこなしていく。まずはこの依頼からだ」
ギルさんから羊皮紙を一枚手渡され、内容を確認する。
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緊急!!!
【依頼内容】荷運び
・本日9時に寄港する大型船舶への食糧の搬入
・10時の出発前に1ケ月分の食糧を商店から港に移動
【依頼主】商店の息子 アセリ
大変だ!!
荷車用のモンスターが足を怪我してしまい荷物が運べなくなってしまった。
出港までに荷物を間に合わせないと親父に殺される!!
誰でもいいから助けてくれ!!
【納品期限】
本日10時
【場所】
アセリ商店
【報酬】
間に合った場合1G
間に合わなかった場合2S
【難易度ランク】
D
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ギルさんは鞄にしまってある懐中時計を開き時刻を確認する。
現在の時刻は朝の8時。
「ギルさん、これあと2時間しか猶予ないんですけど……」
「なら急がないとな。依頼人に会いに行く。走るぞ遅れるな」
そう言うと鞄を背負いアセリ商店のある方角へと走り出した。
道案内はギルさんに任せ後ろを離されないようについていく。
ほどなくしてアセリ商店の前に着くと店の前は騒がしく皆が慌てて動いていた。その中で指示を出す青年に声を掛ける。
「ギルド【GGG】の者だが依頼を受けてきた。責任者と話がしたい」
ギルさんは判の押された依頼書を見せ問う。
「おお!! GGGの人たちか! 俺はここの責任者のアセリってもんだ! 急な依頼を受けてくれて感謝する!」
ハキハキとした口調で声が大きい青年はここの商店の跡取り息子らしい。
「早速で悪いが時間がない! 店の倉庫にある荷物を港まで運んでほしい! 間に合ったら報酬は弾むぜ! こっちだ!」
アセリについていくと店の裏手側に赤レンガでできた大きな建物が建っている。
その入り口には多数の木箱や樽、壺などが置かれている。目測でも60個以上はあるだろう。
すでに従業員らしき人物がせわしなく荷物を運んでいる。
「ここにある全ての荷物を港に届けてくれ! 木箱の中身は芋や野菜、肉などだから多少の揺れは大丈夫だが壺は割れやすい!
樽は丈夫だが酒や水が入っていてかなり重い! 中身を零さないよう気を付けて運んでくれ!」
「分かった。よし、シン初仕事だ。気合入れてけ」
「オッス!」
アセリから船舶が停泊する港を教えてもらうとちょうど商店から下り坂を一本道に進めばいいだけだった。
しかし、地球とは違い自動車など便利なものは無い。あってもせいぜい台車程度だ。
魔術を使い重量を軽くすることができれば楽な仕事だがもちろん俺には使えない。
地道だが人力で運ぶのが一番得策だ。
現在時刻は8時20分。
納品終了時刻まであと1時間40分。
初仕事が始まった。
「よし! まずはこの木箱を持っていくか!」
一番手前に置いてあった1m四方の木箱を持ち上げようと屈み、両手に力を込める。
「よっこいっしょ!! どおりゃあー!!」
実年齢28歳のリアルが出る。
木箱は持ち上がるが結構重い。体感で30kg以上はありそうだ。
商店側から台車を借りたので木箱を次々乗せていく。
とりあえず様子見で9個の木箱を乗せてみる。総重量は約270kg越え。
「乗せすぎたかな? けど9個だと安定感があって収まりがいいんだよな」
前方に移動し取っ手を持ち上げる。
「ギルさんお願いします!」
準備ができたため声掛けをするとギルさんは車輪止めをしているストッパーを外してくれる。
すると、緩やかな下り坂になっているため台車が自然と動き出す。
「お! 意外と軽い! しかも下り坂だから勝手に進む。こりゃいけるな!」
一歩づつ歩みを進めていく。
だが20mほど進んでみると台車は徐々にスピードを増し、足でしっかり踏ん張りブレーキをかけないと暴走してしまいそうだ。
最初は簡単だと思ったけど結構キツイぞ。少しでも力を抜いたら一気に持って行かれそうだ。
話すことを止め身体に力を込め台車を運ぶ。ギルさんはその近くを手ぶらでついてくるだけだった。
ようやく片道1kmほどの道のりを運び終えると港にいたアセリ商店の従業員に荷物を受け渡す。
空になった台車を牽き、商店へと戻る。
荷物が無いとはいえ今度は坂道を急いで登らなければならずだんだんと呼吸は荒くなってきていた。
一回目を往復し終わるとじんわりと額には汗が滲む。そこでアセリが声を掛けてきた。
「次はこれを頼む! すまんが急いでくれ!」
アセリに急かされ休む間もなく荷物を台車に乗せる。
荷物を乗せているところでギルさんが話しかけてきた。
「シン、手を動かしながら聞け。現在8時40分。一回の往復で約20分かかった。
残りの荷物は約50個。このままの速さだと出港までに間に合わん。そこでだ、荷物を倍にする」
それを聞いてピクリと一瞬、動きが止まったが手を止めている暇はない。
すぐに再開する。
一度に運ぶ量を9個から倍の18個にしていく。
木箱を2段に重ねすぐさま港を目指し出発する。総重量は540kg以上。
いや、これ無理じゃないか? いくら台車があっても人間一人じゃキツイ……。
「どうしたシン。急がないと間に合わないぞ 走れ走れ」
「はい!」
ギルさんが煽ってくる。口で応える前に行動で示す。18個もの荷物を乗せ、急いで前方に周り取っ手を持つ。
「お願いします!」
ギルさんがストッパーを外してくれると台車は先ほどよりも強い力で俺を押してくる。
負けじと踏ん張り再度、港へと向かう。
相変わらずギルさんはついてくるだけで手伝うことはしない。
ヤバイ。めちゃめちゃ重い。腕が痙攣してきたし足がパンパンだ。背中の筋肉も張っている。かなりキツイぞ……。
一回目は難なく箱べた坂道も今は苦痛でしかない。
それでも無事2回目を運び終えることができると汗だくになっていた。すぐさま荷物を降ろし走って商店へと戻る。
商店に戻った段階で時刻を告げる。
「2回目は35分掛かった。現在9時15分で残り時間45分。残る荷物は32個。
このままのペースで運んでもあと2往復しなきゃならないうえに時間も足りない。さあ、どうするシン?」
ギルさんの話しを聞きながら必死になって荷物を運ぶがどうしても間に合いそうにない。
身体と頭をフル回転させるが解決策が見当たらない。
「ギルさん……手伝ってくr「言っておくが俺に頼っても無駄だぞ」」
助けを求める言葉も言い終わる前に被せてきた。
「これはお前の依頼だ。俺の力に頼ろうとするな。いつもいつも俺がいるわけじゃない。この現状を自分の力で切り開くんだ」
でも、勝手に依頼を受けたのはあなたでしょうが!!
心の声を押し殺し、せっせと荷物を運ぶ。
木箱を運び終え40kgはあろうか樽を力の限り移動させる。
樽を台車に乗せるのも一苦労だ。しかし、刻一刻と時間は過ぎていく。
悪戦苦闘している俺を見かねたのかギルさんが助言をくれた。
「ならばヒントをやろう。修行を思い出せ」
「……修行?」
修行っていっても剣術と座学と魔力操作の基礎しかやってないのに……。
ん?そういえば俺、全然魔力使ってないな。ためしに使ってみるか。
そうして一度、樽を離し目を瞑って深呼吸をする。
魔力を感じたその日から毎日欠かさずイメージしてきた魔力。
今ではすんなり発動できる。
全身から漲るイメージを思い浮かべ目を開ける。
そして、身体を纏う黄金色の魔力を確認する。
よし、うまくできてる。
それを見たギルさんはニヤリと笑っていた。
だいぶ時間をロスしてしまったので急いで作業を再開させる。
魔力を纏ったまま樽を掴み勢いよく持ち上げた。
「よいっしょっとーーー!!」
すると思いもよらない事態がおきた。
つい先ほどまで動かすのもやっとだった樽が驚くほど軽く、力を入れ過ぎてすっぽ抜けてしまい空中に放り投げてしまった。
「うおおっ!!」
驚いた俺は慌てて樽をキャッチする。
「なんだこれ!? 樽が軽くなってる!?」
「軽くなったんじゃない。魔力を纏ったお前の力が強くなったんだ」
一部始終を見ていたギルさんが教えてくれた。
「さあ、解決策も見つかったことだし急げよ。時間を無駄にしたぞ」
「はい!!」
それからはあっという間だった。
あれほど苦労して運んでいた荷物が魔力を纏った後ではほとんど重さを感じないほどに軽くなり坂道も楽々進むことが出来る。
荷物を降ろす時も両手で慎重に行っていた作業も今では片手でひょいひょい運べる。
なんなら担いでだって運べそうだ。
結果。
30分で残りの荷物全てを運び終え、10分余裕をもって依頼を終えた。
第21話は明日、18時に更新致します。