第18話 一撃
剣術の修行に移り一ケ月が過ぎたころ、ある変化に気が付いた。
以前までギルさんは右手で木刀を持ち棒立ちにも関わらず一太刀も入れることができなかったが、今では片手ながら剣を構え足さばきも早くなっている。
この一ケ月で少しはギルさんの余裕をなくせているようだ。
だが、いまだに一撃を入れることができていない事実。
「今日こそ一太刀入れてみせます!」
「よし、来い」
日に日に俺が打ち込む剣戟は鋭さを増し、打ち返されるときも刀で防げるようになった。
右側から仕掛ける、防がれる。
ならば左から振り下ろす、これもダメ。
真正面から突くも、足さばきで横に躱される。
隙のできた額に打ち込まれる。しかし上体を反らし躱す。
身体を反転させ回し切りのように切り込むが、受けられる。
鍔迫り合いから弾き返され距離をとる。
ならば機動力を削ぐ為に足を狙う。軽く後ろに跳ばれ当たらない。
捨て身の肉を切らせて骨を断つ狙いも、肉を切られるばかりで意味がない。
「最初からそんな大振りで打ってきても当たらん。細かく攻め込みバランスを崩して隙を作るんだ」
「まだまだ浅い。もっとギリギリまで踏み込んで打ってこい」
「目線で次にどこを狙っているのかすぐに分かるぞ。実戦では命取りになる。 相手に悟られるな」
ギルさんの熱のこもった檄が飛ぶ。
直線的な攻撃ではいつまでたっても一太刀入れることができない。
ならば、奇策を突いてみる。
「どうした? もう終わりか?」
「まだまだこれからです!」
木刀を構え、砂浜につま先を這わせじりじりと距離を詰める。
「はっ!」
掛け声とともに額目掛けて打ち込む。
しかし、毎度の如く軽く受けられる。
後ろに下がったのを見計らい足を砂の地面に潜らせ蹴り上げる。
以前と同じように砂を巻き起こし目を潰す。
「またその手か。通用しないとまだ分からないか」
大きく息を吸い込むと迫りくる砂埃に向け、驚異的な肺活量で突風を起こす。
吹き返された砂は向きを変え、俺に向かって飛んできた。
が、そこにはもう俺はいない。
「ここだーーー!!!」
砂を巻きあげギルさんの注意を逸らしたあと、俺は上に跳んでいた。
そして、一瞬できた隙を突き力の限り木刀を振り下ろす。
大きな衝突音が響く。
ギルさんは右手に構えた木刀でしっかりと受けていた。
「前回よりはよくなっているな」
「まだですよ」
俺は木刀を打ち合わせたまま身体を反転させると黒い尻尾に巻きつけられた流木をギルさんの顔目掛けて突く。
「!!」
予想外の攻撃にギルさんは咄嗟に左手で流木を掴んでいた。
否。使わせたのだ。
木刀を弾き返され距離をとる。
砂を囮にして自らは姿を隠し、渾身の一撃を打つ。しかしそれもフェイクで本当の狙いは死角からの攻撃。
(流木は砂を巻きあげたときに拾ったか……。 左手を使わなければもらっていたな)
「くそっ! 絶対イケると思ったのに!」
悔しがっているとギルさんが近寄ってくる。
「今の一連の流れはなかなか良かったぞ。俺も左手を使わなければ防ぐことが出来なかっただろう」
「ホントですか!? やったーーー!!」
「一先ず、剣術の修行はここまでとする。だが基礎の魔力の鍛錬とイメージは怠るなよ。
明日からはいよいよ任務に移る。今日はゆっくり休め。明日ギルドで詳しい話しをする。以上だ」
「ありがとうございます! でも、まだ一太刀入れてないんですけどいいんですか?」
「剣術の修行を始めてから分かったんだが、今のお前では俺に一太刀入れるのは無理だ。いつまでやってもこれ以上の進歩は見込めないだろう。それなら実戦に移ったほうが早く成長できる」
「そうですか……」
ギルさんとの修行を始めてから約二ケ月で基礎修行を終えた。
これからは依頼をこなしながら実力をつけていくことになる。
俺にとって明日は記念すべき、初任務だ。
第19話は明日、18時に更新致します。