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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第17話  二人の贈り物

 新たな修行を開始するがなにが起きたのかも分からず、砂浜で腹を抱えてうずくまる。


 一体、なにが起きた?



 ずきずきと痛む腹部を押さえながらようやく現状を理解した。


 俺が打ち込んだ初撃はギルさんの木刀により弾かれると空を飛び、がら空きになった腹に打ち込まれたのだ。

 そのあまりの速さに二つの音が重なるように聞こえたのはそのためだった。



 5mほどの距離に落ちている木刀。

 しっかりと握っていたはずなのにギルさんによって容易く弾かれてしまった。

 今になって両手がジンジンと痺れてくる。



「あまりにも隙だらけだったんでな。一撃入れさせてもらった」


 嘘だろ? まったく見えなかった……。



「どれだけ切れ味、鋭い武器をもっていたとしても当たらなければ怖くない。モンスターだけが敵じゃない。

 敵に武器を奪われる可能性もある。不用意に武器を離すな」


ようやく痛みが引いてきたため口を開く。



「そんなこと言われても俺には何が起きたか理解するのもやっとなんですよ?」


「それだけお前が弱いってことだ。いいか、お前が俺の攻撃を防げなかったことが問題じゃない。

 この世界には簡単に防げる奴がごろごろいるってことが問題なんだ。自分のレベルが理解できたか?」



「……はい」


「よし、立て。もう一度だ」


 それから幾度となくギルさんに立ち向かっていくも攻撃は全て防がれ、逆に隙ができた場所を小突かれる立ち合いが続いた。

 踏み込んでは弾かれ打っては弾かれとても一撃なんて入れることができなかった。



「今日はここまでにしよう。 帰って飯だ」


 高かった陽も落ち足元が見えなくなった時点でギルさんが告げる。

 俺はというと全身アザだらけになり、もはや答える気力もないほどに打ちのめされていた。



 痛む身体を引きずりながらようやくギルドに到着し食堂にて夕食を摂る。

 口の中にも切り傷ができているのか一口食べるごとに食事が染みる。




「相当しごかれてるみたいだね」


 刺激の強い食事に苦戦しながら食べていると後ろから聞き覚えのある声がする。

 振り返るとそこにはニコルさんが立っていた。



「ニコルさん。こんばんは……」


「はい、こんばんは。どうしたの? 元気ないね。よっぽど修行がキツいのかな? 服もボロボロだし」


「いえ、確かに修行はキツいですけど強くなるために必要なことですから大丈夫です。 それより自分の非力さに嫌気がさしてます。初めはデカい口を叩いたくせに、今じゃ見る影もないです」



「ははは! よっぽど参ってるみたいだね! でも、そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな? シンは実戦経験も剣術も習ったことはないんでしょ?

 それに相手がギルじゃ、自分が弱く感じるのも無理ないさ」



「そうですか、ありがとうございます……」


 ニコルさん優しい……。



「で、ギルから見てシンはどうなの?」


「まだまだだな。今のままじゃ狩りに出ても生きて帰ってこれんだろう」


 それを聞いた俺は肩を落とす。



「だが一度も自分から辞めたいと言わなかったことは認めてやる」


「だってさ! よかったねシン! ギルが人のこと褒めるなんて珍しいんだよ!」


「褒めてねーよ。認めるといっただけだ」


「それを褒めてるっていうんだよ。そうだ! シンに渡しておくものがあったんだ」



 ニコルさんはそう言うと、小さな巾着袋を懐から取り出し指を入れると何かを取りだして手渡してくれる。



「はいこれ、あげる。今のシンには必要なものだと思うよ」


それは指輪だった。



「俺、男性から指輪を貰うの初めてです」


 女性からもないけど今は黙っておこう。



「そう? この世界じゃ普通だよ? その指輪は僕がまじないをかけながら作ったんだ。名前は【紺碧の指輪】。指輪をはめてるだけで回復効果があるんだよ」



 表面は装飾のない簡素な指輪でリングの内側には模様のような文字が記されている。どこかで見たような気もするが思い出せなかった。

 指輪に光を当てると、ところどころ海水のような青緑色をしていた。



「いいんですか? 本当に頂いちゃって?」


「いいの、いいの! 僕としても一日でも早く二人が修行を終えてくれると助かるし。できれば寝る時も指輪は外さないでね。身体から離すと効果がないから」


「分かりました! ありがとう御座います! 大事に使います!」



 さっそく貰った指輪を左手の人指し指に嵌めてみる。

 俺がこの指輪の効果を知ることになるのは翌朝になってからだった。





 翌朝。

 目が覚めるとまず、体の異変に気が付いた。昨日作ったばかりのアザが綺麗に消え、疲れが吹き飛び体が軽くなっていることに驚いた。


「この指輪、ハンパねぇ」



 ギルさんから刀を。ニコルさんから指輪を。

 二人には頭が上がらない。



 準備を済ませたあとにギルさんと合流し、昨日と同じように剣術の修行に励む。

 全快の俺は気合十分でギルさんに迫る。

 昨日と比べて木刀が弾かれることも少なくなったが、いまだに一太刀入れることができないままだ。



「どうしたシン。今日もアザだらけになりたいのか? 少しは成長したところを見せてみろ」


「くそっ! ハッ!!」



 烈火のごとく木刀を打ち込むがその全てを防がれてしまう。

 どうしても一撃入れることができない俺はある奇策を思いつく。



 向かい合う両者。

 じりじりと摺り足をすると指先が砂に埋もれていく。



「はああっ!!」


 声を張り上げると共に潜り込ませた足で砂をギルさんに向け巻き上げた。



「!!!」


「必殺! 目くらまし!! ふははは、もらったーーーー!」


巻き上げた砂越しに頭を狙い踏み込む。




「汚い手だが地形を利用するのは正解だ。だが……」



 迫る砂埃を前にして冷静に対処する。

 一瞬で大きく息を吸い込み大きく膨らんだ胸部。



刹那。


 台風の如き烈風がギルさんの口から吹き出され舞いあがった砂は向きを変え俺に襲いかかり、視界を奪われる。

 そんなのありかよ!?



 砂の飛礫が身体を包むと同時に突風に煽られ体制を崩してしまう。

と、同時に頭にゴッと、鈍い音と衝撃が走った。

 ギルさんによってこの日、何度目か分からないノックダウンを浴びる。



「狙いはよかったが、爪が甘い。余計な浅知恵は火傷の元だ。 だから相手に利用される。覚えておけ」



 打たれた頭から裂傷を起こし傷の手当をするため一時、稽古を中断する。



「ギルさん、さっきの風って魔力を使ったんですか?」


持ってきた荷物から塗り薬タイプの回復薬を渡しながら教えてくれる。



「さっきのは単なる肺活量だ。魔力は使ってない」


 あれだけの風を起こしておきながらいつも通りとは。

 この男、やはり化け物。



 傷の手当を終えた後、この日も陽が暮れるまで修行を続けた。

 今の俺の一日のサイクルはこのようになっている。



 ギルドにて起床。

 朝食。身支度を整え海へ行き剣術の修行。

 昼食。魔力操作の修行、剣術再開。

 夕食。風呂、雑務を済ませ日中のイメージトレーニング。就寝。




 こうして、ギルさんに一太刀を入れることができないまま一ケ月が経過した。



第18話は明日、18時に更新致します。

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